スキル「コンティニュー」を持った、TS提督が艦これ世界で無双してみた   作:木村スバル

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10、左遷と言う名の栄転。また、栄転という名の別れ

「提督、昇進おめでとうございますー! 呉に栄転ですっ」

「はぁ~……?」

「のんべんだらりとしていますね、提督!」

 

那珂だった。佐世保鎮守府のアイドル那珂ちゃん。その割には、使ってやる機会がなくて、目立たない。

銃後の方が活躍している気がするので、まあいいだろう……。彼女が戦時歌謡を歌うと元気が出る。まあ、牧歌的なホゲ歌だが。

 

「ということはあれか、また別の艦娘と会わなければならないということか」

「脇方大尉が、はやく大本営まで昇進しろとのご通達です!」

「通達? 電信か?」

「いえ、電報です」

「ダイホンエイ/マチビトクルマデオソシ」

「…………」

「九九式艦爆を飛ばしていたのは奴か?」

「脇方大尉にも、色々お考えがあるようですっ!」

「お考え……、昇進……あと、俺が少佐に?」

「そうです! 那珂ちゃんの予想では、脇方大尉に出世を追いつかれたのを根に持っていたでしょう、提督!」

「うぐぐ、問答無用。帰れ!」

「はっ、承知いたしましたーっ!」

 

私は、司令室の椅子でぐるりと回った。

昇進、呉、呉、呉、新しい艦娘、お別れ、お別れ……。

私の脳内メーカーはくだらない文言を吐き出していたが、この愛着のある佐世保鎮守府で、なにを隠すことがあろう。

私は咳をした。

この鎮守府ともお別れか……。

 

送別会を開こうといい出したのは、加賀だったであろうか。

加賀はあまり重用してやれなかった。

そのことを根に持ってか、仲が悪かったのである。

 

「提督が……、やっと、いなくなるかと思うと……、泣けてきます……」

「加賀さん、それは、嬉し泣きというやつです……?」

 

艦娘のなかで、私を持ち上げるものと、残忍だと嫌煙する者、二者に分かれていたのは確かだ。

おいおい泣く加賀を横目に、なぐさめる赤城。私の送別会は粛々と行われた。

料亭の二階を貸し切り、脇にいるのは赤城、加賀、扶桑、雪風である。

ただ私を含め、五名だけの送別会であった。

私は、一献赤城に注いでやると、今まで秘書艦だったことに礼を言った。

 

「赤城、いままでありがとう。よくやってくれた」

「提督、私は……悲しいです……。こんなにいい提督が、また来てくださるとは思えません」

「提督、悪いお話が広まっているのをご存知ですか?」

 

と扶桑が言った。

 

「知っている。私が、この鎮守府を去るとき、一体何人の艦娘が喜んで、泣くかという話だろう」

「それで、皆さん賭けているのですが……加賀さんは十五人以下と」

「私は賭けませんでした」

 

と赤城が厳かに酒を飲み干す。

雪風に、膳の上の桃色の淡雪を一つくれてやり、

 

「わーい! ありがとうございます、しれえ!」

 

と、無邪気に喜ぶのを、横目で見やる。

呉にはなにがあるかと言うと、私のこの異世界での――母が暮らしているということを、思い浮かべる。

だから、私はこの佐世保鎮守の戦争の行方を知らないまま、遠方に行ってしまうのだ。

今になってその実感が加賀の涙から湧いてくるのだった。

 

「なに、すぐに帰って来る。私の故郷は、ここなのだから」

 

◆◆◆

 

「なあ、提督行ってしまうん?」

 

龍驤の赤いウィンドブレーカーが風に揺れた。

埠頭で、私は振り返った。

それは、愛液の残り香だった。薄っすらと香る彼女の股の間の匂いだった。

 

「悲しいかな、これ戦争なのよね」

「わけわからへん。どういう意味なん、それ」

 

私は龍驤の背中を押してやった。

 

「ほら、もう帰りなさい。皆が待っているから」

 

総勢、五十六名揃っての永訣だった。

皆、さよならと手を振った。

 

「さようなら、さようなら。提督、お元気で!」

 

誰からともなく声がした。

それから、黄色い声を上げて、俺が輸送船に乗るのを全員がそろって送別した。

赤城が泣き崩れる姿が見えた。

私はそれを、軍帽を脱いで見送った。

 

呉鎮守府に着いてから、すぐに初めて会う大淀から呼び出しを食らった。

艦娘の紹介かな? などと呑気なことを考えていると、顔に出たのだろうか。

 

「なにかお心に楽しい話などおありですか?」

 

と聞かれる。

 

「いや、ない。それで? 本題は?」

「捕虜の男がいるのです。高橋少佐殿にご指示を仰げとの命令です」

「見よう」

 

地下壕に下りていくと、男はかんぬきのかかった、独房に入れられていた。

サラリーマン姿の男で、平々凡々な顔つきをしていた。

尋問を受けたのか、顔が赤く腫れ上がっている。

 

「ロックと名乗っています。スパイかもしれません」

「……僕は違う」

 

その言葉に、私はしばし考えた。

 

「高橋少佐だ。おいお前、出してやる」

「本当か?」

「大淀、一度部屋に戻る。こいつはスパイではない。少ししてから、私の部屋に呼べ」

「は、はい! 承知いたしました!」

 

大淀はなにを考えているのかわからない様子だったが、一度部屋に戻ってから、私は落ち着いて彼女に指示を出した。

 

「山崎十二年をグラスと氷にいれてもってこい。私の分はいい」

「ウイスキーの山崎ですね? わかりました、提督」

 

加えて、やって来た男は見るからにボロボロだった。

深くソファに腰掛けた私を見て、彼はまた、机の上のグラスを見た。

白熱電灯の明かりに、反射して紫檀のテーブルが光る。

 

「どうぞ」

「……いただきます」

 

グラスの中のロックアイスが音を立てて鳴った。男は飲み干してから、少し苦しそうに喘いだかと思うと

 

「山崎十二年……」

 

と、酒気を帯びた声で言った。

私は、罠にかかった野ウサギを見るような目つきで彼を見た。

本当なら拍手でもしてやりたい気分だった。誰に対して? 私にだ。

 

「……僕は、ロアナプラというところから来た。ロックという名前の日本人です」

 

私は先を促した。

 

「ロアナプラと言えば、タイだな」

「そこで運び屋をやってる」

「それで?」

「ギャングがのさばってる地域で……アメリカとロシアが睨み合ってる……。僕はどちらにも顔が利く。……僕を遣ってくれませんか?」

「つまり、君をスパイとして雇え、と?」

「そうです」

「つまらん話だ。お前を殺せば、そのアメ公と露助の連中は、お前が本物のスパイだったと騒ぎ出すだろう。一石二鳥とはこのことだ。大淀」

 

と、私は右手を上げた。

大淀が、手から主砲の三連装砲を放つ。

手に持ったグラスが割れ、水滴を散らすようにして落ちて赤い絨毯を濡らし、男の枕元に転がった。血の色とウイスキーの赤が、混じって寂念の色をしていた。

 

「ありがとう……、無念はないよ。ウイスキーをどうも……少佐さん」

「やはりスパイだった。後始末をしておけ」

「……はい」

 

血が流れたあと、高橋は吐き捨てた。

「見てくれが悪いな……本当に」

それは、同情ですらなかった。

庇護ですらあったのだった。

 

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