スキル「コンティニュー」を持った、TS提督が艦これ世界で無双してみた 作:木村スバル
「提督、昇進おめでとうございますー! 呉に栄転ですっ」
「はぁ~……?」
「のんべんだらりとしていますね、提督!」
那珂だった。佐世保鎮守府のアイドル那珂ちゃん。その割には、使ってやる機会がなくて、目立たない。
銃後の方が活躍している気がするので、まあいいだろう……。彼女が戦時歌謡を歌うと元気が出る。まあ、牧歌的なホゲ歌だが。
「ということはあれか、また別の艦娘と会わなければならないということか」
「脇方大尉が、はやく大本営まで昇進しろとのご通達です!」
「通達? 電信か?」
「いえ、電報です」
「ダイホンエイ/マチビトクルマデオソシ」
「…………」
「九九式艦爆を飛ばしていたのは奴か?」
「脇方大尉にも、色々お考えがあるようですっ!」
「お考え……、昇進……あと、俺が少佐に?」
「そうです! 那珂ちゃんの予想では、脇方大尉に出世を追いつかれたのを根に持っていたでしょう、提督!」
「うぐぐ、問答無用。帰れ!」
「はっ、承知いたしましたーっ!」
私は、司令室の椅子でぐるりと回った。
昇進、呉、呉、呉、新しい艦娘、お別れ、お別れ……。
私の脳内メーカーはくだらない文言を吐き出していたが、この愛着のある佐世保鎮守府で、なにを隠すことがあろう。
私は咳をした。
この鎮守府ともお別れか……。
送別会を開こうといい出したのは、加賀だったであろうか。
加賀はあまり重用してやれなかった。
そのことを根に持ってか、仲が悪かったのである。
「提督が……、やっと、いなくなるかと思うと……、泣けてきます……」
「加賀さん、それは、嬉し泣きというやつです……?」
艦娘のなかで、私を持ち上げるものと、残忍だと嫌煙する者、二者に分かれていたのは確かだ。
おいおい泣く加賀を横目に、なぐさめる赤城。私の送別会は粛々と行われた。
料亭の二階を貸し切り、脇にいるのは赤城、加賀、扶桑、雪風である。
ただ私を含め、五名だけの送別会であった。
私は、一献赤城に注いでやると、今まで秘書艦だったことに礼を言った。
「赤城、いままでありがとう。よくやってくれた」
「提督、私は……悲しいです……。こんなにいい提督が、また来てくださるとは思えません」
「提督、悪いお話が広まっているのをご存知ですか?」
と扶桑が言った。
「知っている。私が、この鎮守府を去るとき、一体何人の艦娘が喜んで、泣くかという話だろう」
「それで、皆さん賭けているのですが……加賀さんは十五人以下と」
「私は賭けませんでした」
と赤城が厳かに酒を飲み干す。
雪風に、膳の上の桃色の淡雪を一つくれてやり、
「わーい! ありがとうございます、しれえ!」
と、無邪気に喜ぶのを、横目で見やる。
呉にはなにがあるかと言うと、私のこの異世界での――母が暮らしているということを、思い浮かべる。
だから、私はこの佐世保鎮守の戦争の行方を知らないまま、遠方に行ってしまうのだ。
今になってその実感が加賀の涙から湧いてくるのだった。
「なに、すぐに帰って来る。私の故郷は、ここなのだから」
◆◆◆
「なあ、提督行ってしまうん?」
龍驤の赤いウィンドブレーカーが風に揺れた。
埠頭で、私は振り返った。
それは、愛液の残り香だった。薄っすらと香る彼女の股の間の匂いだった。
「悲しいかな、これ戦争なのよね」
「わけわからへん。どういう意味なん、それ」
私は龍驤の背中を押してやった。
「ほら、もう帰りなさい。皆が待っているから」
総勢、五十六名揃っての永訣だった。
皆、さよならと手を振った。
「さようなら、さようなら。提督、お元気で!」
誰からともなく声がした。
それから、黄色い声を上げて、俺が輸送船に乗るのを全員がそろって送別した。
赤城が泣き崩れる姿が見えた。
私はそれを、軍帽を脱いで見送った。
呉鎮守府に着いてから、すぐに初めて会う大淀から呼び出しを食らった。
艦娘の紹介かな? などと呑気なことを考えていると、顔に出たのだろうか。
「なにかお心に楽しい話などおありですか?」
と聞かれる。
「いや、ない。それで? 本題は?」
「捕虜の男がいるのです。高橋少佐殿にご指示を仰げとの命令です」
「見よう」
地下壕に下りていくと、男はかんぬきのかかった、独房に入れられていた。
サラリーマン姿の男で、平々凡々な顔つきをしていた。
尋問を受けたのか、顔が赤く腫れ上がっている。
「ロックと名乗っています。スパイかもしれません」
「……僕は違う」
その言葉に、私はしばし考えた。
「高橋少佐だ。おいお前、出してやる」
「本当か?」
「大淀、一度部屋に戻る。こいつはスパイではない。少ししてから、私の部屋に呼べ」
「は、はい! 承知いたしました!」
大淀はなにを考えているのかわからない様子だったが、一度部屋に戻ってから、私は落ち着いて彼女に指示を出した。
「山崎十二年をグラスと氷にいれてもってこい。私の分はいい」
「ウイスキーの山崎ですね? わかりました、提督」
加えて、やって来た男は見るからにボロボロだった。
深くソファに腰掛けた私を見て、彼はまた、机の上のグラスを見た。
白熱電灯の明かりに、反射して紫檀のテーブルが光る。
「どうぞ」
「……いただきます」
グラスの中のロックアイスが音を立てて鳴った。男は飲み干してから、少し苦しそうに喘いだかと思うと
「山崎十二年……」
と、酒気を帯びた声で言った。
私は、罠にかかった野ウサギを見るような目つきで彼を見た。
本当なら拍手でもしてやりたい気分だった。誰に対して? 私にだ。
「……僕は、ロアナプラというところから来た。ロックという名前の日本人です」
私は先を促した。
「ロアナプラと言えば、タイだな」
「そこで運び屋をやってる」
「それで?」
「ギャングがのさばってる地域で……アメリカとロシアが睨み合ってる……。僕はどちらにも顔が利く。……僕を遣ってくれませんか?」
「つまり、君をスパイとして雇え、と?」
「そうです」
「つまらん話だ。お前を殺せば、そのアメ公と露助の連中は、お前が本物のスパイだったと騒ぎ出すだろう。一石二鳥とはこのことだ。大淀」
と、私は右手を上げた。
大淀が、手から主砲の三連装砲を放つ。
手に持ったグラスが割れ、水滴を散らすようにして落ちて赤い絨毯を濡らし、男の枕元に転がった。血の色とウイスキーの赤が、混じって寂念の色をしていた。
「ありがとう……、無念はないよ。ウイスキーをどうも……少佐さん」
「やはりスパイだった。後始末をしておけ」
「……はい」
血が流れたあと、高橋は吐き捨てた。
「見てくれが悪いな……本当に」
それは、同情ですらなかった。
庇護ですらあったのだった。