スキル「コンティニュー」を持った、TS提督が艦これ世界で無双してみた   作:木村スバル

3 / 16
2、いざは常、常はいざなり

私は、茶の間に座っていた。

通された茶の間は、六畳の床の間で、掛け軸に「常在戦場」と、達筆で書いてある。

赤城は、横に正座していた。

長い髪から、いい匂いがする。

黒髪は、濡羽色に白の道着にかかっていて、戦争の罪の色をしていた。

何がそう見せたのかはわからない。

それは、うっすら混じる、オイルの匂いであったか……、彼女の闘志の秘められた、並々ならぬ目線であっただろうか。

しばらく待っていると、横に男がやってきた。

がっしりした体型の小男である。海軍の軍服を身にまとっており、目はぎょろりとして鋭い。

軍服は着古されており、私と同じく第二種軍装であった。

 

「提督殿。脇方少尉です。本日から、提督付きになるよう、命じられて参りました」

 

敬礼を解くと、男はにこり、と笑った。

こんな男なら、部下にふさわしい、と私は感じた。脇方はすぐさま、精悍な表情を浮かべると、笑顔を消し去った。

 

「すまん、茶を」

 

と、私はあぐらをかいて、赤城に命じた。

 

「あっ、失礼をいたします……! 今すぐに」

 

赤城が、秘書艦という立場で、茶を取りに行こうとするのを、私は見送った。

脇方と二人だけで、面と向かって話をしたかったのだ。この男がどんな男であるか、確かめたかったのである。

脇方が、私の目を見ながら言う。

 

「それで、明日の海戦はどのようにいたしますか」

「旗艦は?」

「編成はすでに決まっております。旗艦は扶桑です。それを指揮するのが、提督殿の役目です」

「そうか……。扶桑を見に行きたい」

「構いません。今すぐにでも」

「お茶をお持ちいたしました」

 

赤城が、走りながらやって来た。なぜ、茶がこぼれないのか、不思議なくらい上体が安定しているのが、面白かった。

置かれた茶を、二人ですする。

 

「船があるのか」

「そうです」

 

艦これの世界は、艦娘同士が戦い合う戦場の世界である。

だが、私の頭の中では、艦娘は実際の艦艇に繋がって戦うのだ。

水槽に艦娘が搭載され、巨大な二百メートルはあろうかという艦の機関部に繋がれ、船を動かすのだ。

いわゆる、FSSで言うところの、AF《オートマチック・フラワーズ》である。

私は、現実世界では三文文士をしていた。

いわゆる、ワナビーというやつだ。

もしこれが、私の考えた艦これの世界であるならば、もしかしたらと私は思ったのだった。

転生モノなど数あれ、私すら書いたことがあるのだ。日本人の適応力を舐めないでいただきたい。

この茶の間からは庭しか見えない。石垣の向こうには、港が見えるのだろう。

石庭のように、熊手で砂利石に線が引いていて、松の木が質素に枝を張っていた。

見上げる太陽は、黄色く、それが目に焼き付いた。

空は高く、非常時ではないことを告げている。

銃後の平和である。

飛行機の音は聞こえるが、平和である。

松葉の木陰にある、積石が、陽光に照らされて私の目に写った。

こうして、茶を飲めることの平静を、私はこの情景とともに知った。

茶を半分残して、私は立ち上がった。

 

「よし、見に行きましょう」

 

と、脇方が言った。

石造りの玄関から、通りに出ると、そこはもう既に港であった。

遠く、佐世保港に、戦艦が浮いているのが見える。

他にもちらほらと、軽巡洋艦や駆逐艦が浮いている。

巨大なクレーンが、蜃気楼のように、ゆるやかに動いている。

私は双眼鏡が欲しくなった。

子供のような、まるで戦時下には似つかわしくない気分だった。

好奇心にかられて、私は脇方の後を着いて行った。

工廠に入ると、そこには美しい空母が鎮座していた。

空母・扶桑は、もはや出港するだけという準備を整えられており、いまかいまかとそれを待っている最中であった。

 

「空母なのか、戦艦と聞いていたが」

「最近、改修を受け、空母となった、扶桑です」

 

赤い船底や、鋼鉄で出来た船体はどこをとってもピカピカだ。

私は、この美しい船を傷つけたくない、という思いを抱いた。

 

(ああ、戦争になってほしくない……)

 

私は、そう思ったが、決して口に出すことはしなかった。

 

「それで、艦娘は?」

 

淡々とした、事務的な言葉が私の口をついた。

 

「心臓部にいます。今は、試運転中かと」

 

脇方が面白そうに言った。

 

「行こう」

 

私は歩みを進めた。

船の中は、赤城、脇方、私の三人が横に並んで歩いても、十分なぐらいの広さがあった。

エレベータを昇り、広い船内の中心部に近づくと、そこには丸い円柱が立っていた。

水槽である。

その中に、少女が入っていた。

黒い髪は、水にたゆたうように、黒く立ち上り、精緻な人形細工のように見えた。

背中にはたくさんの配線が繋がっている。

実際、その白い肌に、装着品を身につけたその姿は、床の間に飾りたいくらい、一個の芸術品としての、価値を持っていた。

私は、その硝子の水槽に手を添わせた。

少し目を近づける。

 

「扶桑だ」

 

私が声を上げると、水槽の中の水は、呼応するかのように薄い赤色に色が変わった。

 

「……提督?」

 

彼女は、意識を取り戻した。

それは、艦娘だった。

まごうことない、艦娘だった。

美しさと、戦争の色があった。

衣服をはりつかせて、自ら上がってきた彼女は、官能的な美を持っていた。

黒い髪をかきあげる姿が、強い酒をがぶ飲みした時のような、酩酊の気配をさせていた。

横の脇方は、目をカピカピさせていた。

下を見ると、怒張がみなぎっていたので、私は呆れた。

私はというと、この船を動かせるのだという、使命感と期待に燃えていた。

 

「一度帰りましょう」

 

と、脇方がシラフを装って言った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。