スキル「コンティニュー」を持った、TS提督が艦これ世界で無双してみた 作:木村スバル
私は、茶の間に座っていた。
通された茶の間は、六畳の床の間で、掛け軸に「常在戦場」と、達筆で書いてある。
赤城は、横に正座していた。
長い髪から、いい匂いがする。
黒髪は、濡羽色に白の道着にかかっていて、戦争の罪の色をしていた。
何がそう見せたのかはわからない。
それは、うっすら混じる、オイルの匂いであったか……、彼女の闘志の秘められた、並々ならぬ目線であっただろうか。
しばらく待っていると、横に男がやってきた。
がっしりした体型の小男である。海軍の軍服を身にまとっており、目はぎょろりとして鋭い。
軍服は着古されており、私と同じく第二種軍装であった。
「提督殿。脇方少尉です。本日から、提督付きになるよう、命じられて参りました」
敬礼を解くと、男はにこり、と笑った。
こんな男なら、部下にふさわしい、と私は感じた。脇方はすぐさま、精悍な表情を浮かべると、笑顔を消し去った。
「すまん、茶を」
と、私はあぐらをかいて、赤城に命じた。
「あっ、失礼をいたします……! 今すぐに」
赤城が、秘書艦という立場で、茶を取りに行こうとするのを、私は見送った。
脇方と二人だけで、面と向かって話をしたかったのだ。この男がどんな男であるか、確かめたかったのである。
脇方が、私の目を見ながら言う。
「それで、明日の海戦はどのようにいたしますか」
「旗艦は?」
「編成はすでに決まっております。旗艦は扶桑です。それを指揮するのが、提督殿の役目です」
「そうか……。扶桑を見に行きたい」
「構いません。今すぐにでも」
「お茶をお持ちいたしました」
赤城が、走りながらやって来た。なぜ、茶がこぼれないのか、不思議なくらい上体が安定しているのが、面白かった。
置かれた茶を、二人ですする。
「船があるのか」
「そうです」
艦これの世界は、艦娘同士が戦い合う戦場の世界である。
だが、私の頭の中では、艦娘は実際の艦艇に繋がって戦うのだ。
水槽に艦娘が搭載され、巨大な二百メートルはあろうかという艦の機関部に繋がれ、船を動かすのだ。
いわゆる、FSSで言うところの、AF《オートマチック・フラワーズ》である。
私は、現実世界では三文文士をしていた。
いわゆる、ワナビーというやつだ。
もしこれが、私の考えた艦これの世界であるならば、もしかしたらと私は思ったのだった。
転生モノなど数あれ、私すら書いたことがあるのだ。日本人の適応力を舐めないでいただきたい。
この茶の間からは庭しか見えない。石垣の向こうには、港が見えるのだろう。
石庭のように、熊手で砂利石に線が引いていて、松の木が質素に枝を張っていた。
見上げる太陽は、黄色く、それが目に焼き付いた。
空は高く、非常時ではないことを告げている。
銃後の平和である。
飛行機の音は聞こえるが、平和である。
松葉の木陰にある、積石が、陽光に照らされて私の目に写った。
こうして、茶を飲めることの平静を、私はこの情景とともに知った。
茶を半分残して、私は立ち上がった。
「よし、見に行きましょう」
と、脇方が言った。
石造りの玄関から、通りに出ると、そこはもう既に港であった。
遠く、佐世保港に、戦艦が浮いているのが見える。
他にもちらほらと、軽巡洋艦や駆逐艦が浮いている。
巨大なクレーンが、蜃気楼のように、ゆるやかに動いている。
私は双眼鏡が欲しくなった。
子供のような、まるで戦時下には似つかわしくない気分だった。
好奇心にかられて、私は脇方の後を着いて行った。
工廠に入ると、そこには美しい空母が鎮座していた。
空母・扶桑は、もはや出港するだけという準備を整えられており、いまかいまかとそれを待っている最中であった。
「空母なのか、戦艦と聞いていたが」
「最近、改修を受け、空母となった、扶桑です」
赤い船底や、鋼鉄で出来た船体はどこをとってもピカピカだ。
私は、この美しい船を傷つけたくない、という思いを抱いた。
(ああ、戦争になってほしくない……)
私は、そう思ったが、決して口に出すことはしなかった。
「それで、艦娘は?」
淡々とした、事務的な言葉が私の口をついた。
「心臓部にいます。今は、試運転中かと」
脇方が面白そうに言った。
「行こう」
私は歩みを進めた。
船の中は、赤城、脇方、私の三人が横に並んで歩いても、十分なぐらいの広さがあった。
エレベータを昇り、広い船内の中心部に近づくと、そこには丸い円柱が立っていた。
水槽である。
その中に、少女が入っていた。
黒い髪は、水にたゆたうように、黒く立ち上り、精緻な人形細工のように見えた。
背中にはたくさんの配線が繋がっている。
実際、その白い肌に、装着品を身につけたその姿は、床の間に飾りたいくらい、一個の芸術品としての、価値を持っていた。
私は、その硝子の水槽に手を添わせた。
少し目を近づける。
「扶桑だ」
私が声を上げると、水槽の中の水は、呼応するかのように薄い赤色に色が変わった。
「……提督?」
彼女は、意識を取り戻した。
それは、艦娘だった。
まごうことない、艦娘だった。
美しさと、戦争の色があった。
衣服をはりつかせて、自ら上がってきた彼女は、官能的な美を持っていた。
黒い髪をかきあげる姿が、強い酒をがぶ飲みした時のような、酩酊の気配をさせていた。
横の脇方は、目をカピカピさせていた。
下を見ると、怒張がみなぎっていたので、私は呆れた。
私はというと、この船を動かせるのだという、使命感と期待に燃えていた。
「一度帰りましょう」
と、脇方がシラフを装って言った。