スキル「コンティニュー」を持った、TS提督が艦これ世界で無双してみた 作:木村スバル
次の朝、私は旗艦扶桑に乗船して、出港した。
艦隊は、空母である、扶桑・山城二隻、軽巡洋艦三隻、重巡洋艦一隻の小さな艦隊だった。
この作戦は双号作戦と名づけられた。
敵は、未だ不明。
ただ、この時思わざるを得なかったのは――ああ、新空母を動かせることの、喜び……!
進水のときの、滑り出すような、船体の波をかき分けて往く、美しさといったら……!
滑らかな肌のような、鋼鉄を叩いて出来た、空母扶桑のバルジは、本当にあの掻き抱いた、つややかな胸のようだった。
敵はいまだ見えず、いまだ教えられることもなく、いまだ対馬近海にいるだろうという情報だけは与えられていた。
艦隊は、輪形陣で進んでいた。
私と言えば艦橋で、九四式水上偵察機が輪を描きながら海上を行ったり来たりするのを、双眼鏡で覗き込んでいた。
その時、海上に何かが光った。
敵艦隊だった。
深海棲艦ではなかった。
どうやら、それは日本艦艇であるようだった。
私は不思議に思ったが、艦は留まることなく進んでいく。
扶桑の木工甲板に乗った零式艦上戦闘機が飛び立ち、上空の敵航空戦力と交戦するも、敵機はここまで飛んでくることはなかった。
航空戦力が脆弱であるのだろう。空母が見当たらない。
重巡・愛宕の主砲が、爆音を上げた。
敵駆逐艦の土手っ腹にめり込んだ弾は、見事炸裂した。
次第に浸水し、傾いていく一隻の艦は、旗艦ではなかったが、一つの花が散ったような驚きを覚えた。
零戦から、投下される魚雷が、海底に潜り込んで、敵戦艦をかすめる。
扶桑・山城、合わせて百あまりの戦闘機が空をかけるのだから、空戦は圧巻だ。
敵の機銃を悠々と避けながら、爆撃を落としていく零戦の練度は上々だった。
諸兄、戦争は好きかね?
私は、この時はじめて、胸の踊る戦争を知った。
パソコンのモニタで見るのとは違う、血湧き肉躍る戦いがそこにはあった。
諸兄、戦争は生き物だ。
人と人、艦と艦との間に生まれるのは、憎しみばかりである。
私は、あの艦隊は私と同じ様に、提督が動かしているのだと知った時、この戦争の何たるかを知ったような気がした。
船の艦橋に双眼鏡を向けると、そいつは慌てたようにして、ライフジャケットを着ている最中だった。
そんなことしている場合か?
空母から飛び立っていく、零式艦上戦闘機は、美しかった。
美しいという形容しか出来ないような、曲線美と機能美を兼ね備えていた。
それを、五十余機と飛ばす扶桑は、わずか鼻高々に見えた。
なぜ、人を殺す兵器が美しいのかはわからない。
ただ、扶桑にしても、零にしても、それは人の頭脳を結集して造られた兵器である。
人を殺すために、造られた兵器である。
なぜ、それが悪ではないのか。
悪以外のなにものではないのではないだろうか。
なぜ、人は人を殺すのか。
それはおそらく、人はただ自分のことだけを考えて動く生き物であるからだろう。
人のために死にたいなどという人間がいるならば、それはもう人ではない。
なんと形容したらいいだろうか。
善人を善人たらしめるのが、真の善意というものであるのなら、私はその対極にあった。
その戦いは、恐ろしくもあり、美しくもあり、悲しくもあり、また嬉々とした戦いであった。
上出来だ。と私は思った。
……むしろ、出来すぎている。
ああ、帰ったらなんと言われるだろうか……。もしかしかたら、昇進などが待っているかもしれない! などと考えると、死亡フラグのような気がしたので、私はだまった。
敵は、計五隻が轟沈。一隻が中破で去っていった。
この編成上、夜戦に持ち込むことは得策ではないことのように思われたし、私は帰投することにした。夕刻も差し迫った、折り重なる雲間から差し込む夕陽が、私達の門出を祝う。
私は
そして、扶桑の元へと向かった。
彼女は、筒状の水槽の中に、以前と同じ様に浮いていたが、艦と動かしていることもあり、コミュニケーションは取れない状況であった。
それでもよかった。愛しい艦娘の顔が見たかった。
私は、その前で立ち尽くして、硝子を優しく撫でた。
扶桑は薄く笑ったように思えた。
◆◆◆
夕方から夜に差し掛かる、薄曇りの太陽が、佐世保港に帰り着くまでに、すっかり夜の帳に隠れてしまう頃――。
私は、艦を下りた。
妖精さんたちが、喜んでくるくると周りながら、扶桑のメンテナンスをすると言って、飛んでいった。
男は死んだのだろうか。
あの、艦隊に乗っていた、提督の男だ。
男は、私ではなかっただろうか。
顔は見えなかった。
奴は、ライフジャケットを着ていたが、そんな余裕があるのならば、もっと戦場を把握すべきではないか。
私は、無性に奴を殺したかった。
それは、多分……、私があの男であったかもしれないという、杞憂をはらんだ憂鬱であった。
なぜそんなことを考えるのかは、わからない。
いつも、そんな無駄なことを考えては、思慮に浸る。
むしろ、思慮と名付けることすらもおこがましいような、自慰である。
「辞めにしなければな……」
「何がですか? 提督」
と、大淀が微笑みながら、走ってやって来た。
連合艦隊の旗艦も務めたことのある彼女は、実に優秀な軽巡洋艦である。
メガネを掛けた彼女の顔は、嬉しそうに上気していた。
「いや、人に感情移入しすぎる癖があって……、それを辞めにしなければと……」
「それは、敵のことですか?」
「いや、違う。いいんだ、気にするな」
「提督、お手柄です! 皆さん、びっくりしてお話を聞きたがっています」
「そうか、なら行こう」
茶の間に帰ってくると、脇方が早速やって来た。
「提督、進級です。お見事です」
「そんなにすぐにか」
「マシな提督がいません。あなたが上官でよかった」
「少し、一人にしてくれないか。自室に戻る」
私は、部屋の中にある椅子に腰掛けて、くるりと一回転をした。
足を組み直すと思想にふけった。
「ふむ」
あの、愛宕の主砲の爆音はとても良かった。
あの、胸高鳴る、敵の鉄鋼甲板を叩き割るような、轟音。
沈んでいく船のと、黒ぐろとした重油に塗れて沈んでいく様ときたら!
今でも目を閉じると、瞼の裏に焼き付いているのは、燃えさかり煙を上げて沈んでいく敵艦の姿だ。
「提督♪ 今かまいませんか?」
「愛宕か、入れ」
「失礼しまーっす」
金髪の美少女が、ぺこりと礼をして、目を輝かせる。
「あのね、あのね、提督! 愛宕、提督みたいな強い人始めて見ました!」
「そうか」
嬉しくなかったわけではないが、私は照れる他なかった。
私は、制帽のつばに手をやった。
「それで、本題は?」
ただ、愛宕が、何を思って私のところに来たのか、聞きたかったのだ。
「提督、戦勝祝いをしませんか♪ 皆で、集まって」
「そうか、それならばいい。先に行っていてよろしい」
「わかりましたー♪」
私は椅子から立ち上がった。
「しょうがない。戦勝ムードというのも、嫌いではないが……、胸に来るな」
私はベランダへ出た。
下を見ると愛宕が、広い鎮守府の敷地内の、こうこうとした明かりに照らされて、手を振っているのが、見えた。
「はぁ……、無邪気、だな」
「提督、長門型戦艦一番艦、長門だが」
「……うむ」
緊張感が走る。戦艦は嫌いだった。デカい。艤装もだが、身体がデカい。
「何を緊張することがありましょうか」
「いや、すまん。艦を平等に扱うと心には決めているのだが、なかなかでな。以後気をつける」
「私に威圧を感じますか?」
「……若干」
「そうでありますか、失礼をば」
静かな時が流れる。
「では、先に参ります」
「いや、着いて行こう。場所がわからん」
「はい」
私は長門と肩を並べた。
途中、行き交う艦娘が、私とともに歩みを共にし、次第に大所帯になっていった。
わいわいがやがやと、駆逐艦が滑らかな速度で走り回り、軽巡がその脇を楽しそうに小走りに、重巡がその大きな身体を持て余しながら歩き、戦艦が肩で風を切りながら闊歩した。
「ここには、何人の艦娘がいるのだ?」
と、私は長門に聞いた。
「現在、五十六名が、使用可能です」
「今は、戦争の話をしているのではない。皆、よく飲み食うだろう」
「失礼をば。もちろんです」
「いい。行こう」
私達は、歩みを進めた。この五十六名で、負ける気はしないという気がしていた。
何が敵であろうともけっして。
「提督ー! お待ちしていましたー!」
と大淀が言う。
見渡す限りの女所帯。
遠くから男が一人やって来た。誰かは決まっている。
脇方が隣に立って言った。
「戦勝祝いです。たはは……、私は弱いのです。こういうムードに。提督はご自由にお過ごしください。では」
脇に連れた艦娘は、古鷹であった。
「なんだか、あの二人最近意味深に仲いいんだよなぁーっ、って提督!?」
「そうか」
としか、答えなかった。私は加古の言葉に呆れながらも、無視を決めこんだ。
別になにがあろうとも、突っ込んで詮索するようなことではないだろう。
「提督、乾杯の音頭を」
と、大淀が言う。
「えー、しょうがないなぁ……」
段上に連れられて上がる。
(えーっと、……なんて言おう)
「僭越ながら、乾杯の音頭を取らせていただきます。高橋と申します! この度は、快勝誠に我がことながらおめでたく感じております。佐世保鎮守府の栄光と発展をお祈りいたしまして、乾杯の音頭といたします。皆さん、ご唱和お願いいたします」
私は手を上げた。手には、ビールグラスを持っていた。
「それでは、これからの戦勝を願って乾杯!」
「「「「乾杯!」」」
大きな声が、会場に響き渡った。
皆、飲んでいる飲料はそれぞれだが、酒を飲めない駆逐艦もあれ、飲みたくない軽巡洋艦もあれ、飲んだくれている戦艦もあれば、泥酔している空母たちがいる。
ただ祝賀会は楽しかった。
食べ物は、非常時であるからか、石垣餅や羊羹であった。
甘いもので飲めないこともないが、女子供ではないのだから……。
私はこの国の国難を思う。あまりに、芋だけでは悲しすぎる。
私は、一人暗い顔をしている、鳥海のもとへ足を運んだ。彼女は大淀と話をしていた。
「酔っていないみたいだな? どうした、寂しいか?」
「違うのです。戦勝おめでとうございます」
それだけ言うと、鳥海は狂酔の瞳を、グラスを落とした。
「何を思って、こんな戦勝祝いなどしなければならないのでしょう。怒られるのはわかっていますが、私は……もう、戦いたくない」
脇方が隣を通り過ぎたが、私は声を沈めて見送った。
「二度と言うな、そのようなことは」
喉から出た声だった。
「提督……っ! 提督なら、きっとわかってくださるものかと!」
「わかっているが、戦時下だ。口に出してはならない。君の身を危険にさらさないためにも」
「わかっていますが……、しかし……」
「二度と言うなと言ったはずだ」
うつむいた鳥海から少し距離をおくと、脇方が近づいてきた。
「あの艦娘は昔からああなのです」
脇方が苦笑気味に言った。
「メンテナンスを受けさせろ。もしものことがあってはならん」
「わかりました。妖精さんを呼びましょう」
「すまない」
「いえいえ、かまいません! 上官殿!」
それから、しばらく脇方と二人で話をした。
艦娘のこと。
戦時下のこと。
祝賀会のこと。
「あの長門という艦は、素晴らしい艦です。私も一度乗ってみたい」
「……ふむ、そうか」
二人とも酔いが回っていたので、脇方は子供のようで、私は寡黙だった。