スキル「コンティニュー」を持った、TS提督が艦これ世界で無双してみた   作:木村スバル

6 / 16
5、次元の歪み攻略作戦

脇方は考えていた。

朝、芋を食べる時、塩を振って食べるのはいいが、無性にそれでは物足りない。

大の男である。少食な方であるが、芋を二本胃に入れても、やはり腹にたまらない。

味噌汁は、麩、わかめ。

『贅沢は敵だ!』の張り紙を、艦娘たちがびりびりに剥がしていたのを、咎めるのも咎めかねたが、少し叱りつけて見送った。

 

「はーい」

 

と、しぶしぶ、彼女らは頭を垂れていたが、結局のところ、前線に送る兵糧の米や魚が羨ましいといえば、闇市に出るしかない。

芋は甘いため、砂糖の必要性はさほど感じないが……。

羊羹が無性に物欲しくなって、一本大和から譲り受けるものの、戸棚に入れておいて、ちまちまと食べる。

 

「古鷹、茶にしよう」

「脇方少尉、いただいた羊羹を開けましょう! 周りがざらめなのが、私は好きだなあ」

「俺は梅が好きだ」

「どちらも美味しいですものね。私、お茶を淹れてきます!」

 

茶の間で、古鷹の後ろ姿を見送ると、噂の提督が入ってきた。

 

「脇方。お前、変な顔だな」

「高橋大尉、何をまじまじと見ていらっしゃるのです。私の顔に変なものがついていますか」

「いや、そうではない。そうではないのだが……、なんというか、こうも、平和だと拍子抜けしてな。お前の顔ぐらいしか、見るものがないのだ」

「そうですか、それは結構で」

 

高橋は、平和が嫌いなのだろうか。脇方は戦勝を、報告書でしか知り及びはしなかったが、それでもこの男が、戦争に身をおいているのが、苦痛ではない男なのだ、ということぐらいのことは、彼にはわかった。

 

「大尉殿は、平和はお嫌いですか?」

「それなのだが、戦況が聞きたい。俺は全く知らされていない」

 

その事実に違和感を覚えはすれども、そんなものだろうか、と脇方は思う。

 

「南洋諸島は、全てアメリカに取られています。北海はサハリン以北が、ソビエトに。大陸に、日本領はあるにはありますが、停戦協定を結んでいて……」

 

と、脇方はちゃぶ台の上の書付に、ペンで地図を書きながら言った。

 

「この前破った艦隊は、どこの所属だ? 日本艦艇のように見えたが……」

「それは……」

 

それが、現在頭を悩ませている問題なのだ、と脇方は説明した。

 

「次元の歪みというのがあって……、実は謎の一個艦隊と交戦状態になっているのです」

「次元の歪み?」

「私達の住んでいる世界と、別の世界に繋がっている扉です」

「その交戦というのは、アメリカが関わっていないだろうか」

 

脇方は驚いた。

 

「そうです。あえてお話はしませんでしたが、アメリカの手引があったと、聞き及んでいます」

「そうか」

 

高橋は、指を鳴らした。

 

「私なら、その内戦を期にアメリカに打って出る」

「ははは、ご冗談を」

「まぁ、大尉の身ではその夢も叶わんか」

「そうです。我々は、ただ使われる兵隊に過ぎません」

「悲しいな」

「まぁ、そうおっしゃらないでください」

 

脇方は、脇方なりの美学を持っていたが、この平和の中で時折上がる戦禍の話題が、彼の頭痛の種であった。

高橋の考えていることは、どこか天才的なひらめきであったが、さらなる戦争を呼ぶような気がする。そして、この男はそれに身を置きたがっている。

それが、無性に癇に障った。

ただこの時の話し合いは、まだ出会って間もない二人の、日常的な会話に過ぎなかった。

腹心の上官と部下というより、お互いの腹のさぐりあいでしかなかったのだが……。

二人とも、どこか腹に据えかねるものを抱えていた。

 

「羊羹とお茶をお持ちいたしました!」

「古鷹、横に座れ」

「はぁ」

「ずいぶんと手にかけているのだな」

 

と、高橋が口を挟む。

 

「手にかけているとは、言い方が悪い」

「はーん」

 

古鷹はじっとしていた。二人の顔が怖かったのではなく、ただこの空気感がいたたまれず。

白い軍服姿で、顔を突き合わす男二人は、さらに戦争の話を続けた。

羊羹はつまみだ。戦争を語るのに、酒はいらない。

戦争の話はシラフで話すものだ。戦争が兵隊を狂わすのだ。

宵越しの酒はこの矛盾を解決するのに手近だったが、それはいらなかった。

絶望の色は、その人殺しの話をもり立てた。

未だ銃後の平和が続くこの佐世保鎮守府では、その話をしているのはこの二人ぐらいだった。

古鷹は、次第に雲行きの怪しくなる、その会話に耳を傾けていたが、怯えと恐怖が入り交じるドッグファイトのような会話に、顔色を青ざめさせ、その具体例が固まるに従って、高橋という大尉の大物振りに、背筋が寒くなるのだった。

 

「次元の扉の向こうには、何がある?」

「わかりません、入っていったものがいないので」

「それならば、使節団を出そう」

「何があるとお考えで?」

「わからん、だがそれだけの価値があるものと見ている。大本営からの、次の戦の通達は、まだ先だろう。そちらから先に調べたい」

「それでは、大本営に電信を送りましょう」

「指揮は私が取る」

「提督がですか?」

 

と、古鷹が困惑気味に言う。

高橋は立ち上がった。

そして、古鷹を見下ろした。

 

「編成は選ばせてもらう」

 

◆◆◆

 

次の日、私は縁側に腰を掛けていた。

横で、雪風がばたばたと足を振っている。

ういやつよのう。

雪風が折り紙で作っているのは、やっこさんである。

 

「ふんふんふんーん」

 

私はといえば、雪風に借りた双眼鏡で空を見上げていた。

九九式艦上爆撃機が、赤い丸が大きく描かれた白い腹を見せながら、青く澄み渡った空を往くのを、見送った。

そういえば、ここに来てから、雨が降っているのを見たことがない。

なんにせよ、海戦にとって雨が降らないというのはいいことだ。高波の中進むことは無理に等しいし、航空機だって飛ぶことはままならないのだから。

ところで、あの九九式艦上爆撃機は、佐世保から出て、どこへ行くのだろう。

誰が指揮しているのだろうか。

私の預かり知らないところでなにかが起こっている。

明日の出港は、軽巡洋艦四隻、駆逐艦二隻で行われる予定だった。

私は雪風に乗って、なんとしてでも生き延びるのが使命である。

敵戦力は未定。

そして、歪みの向こう側になにがあるかもわからない。

わからないことだらけだから、わからないをわからないなりに解決しようということで、この編成になった。

つまり、できるだけ足の速い艦隊で、調査をし、終わったら即帰るということだ。

その価値があると見込んだのは、私はその扉を知っているということに他ならない。

歪みはどこへ繋がっているのか、それはおそらく、異世界であろう。

俺は昨日、鎮守府の中でとある男と出会った。

彼は、サラリーマン姿をしていた。

そして、胡乱げに目蓋をしばたかせて、つぶやく。

 

「ここは、どこだ……? 俺は……、誰だっけ……。ここは、なんでこんなに……、艦娘がたくさん……」

 

ははーん。

これかはなにかある、と踏んだ私は、「こいつを牢屋に入れておけ」と、脇方に命じた。

それ以来、あの男とは会っていないが。

次元の歪み攻略作戦は、実行された。

 

 

明朝〇六三〇、佐世保港を出港した艦隊は、対馬海峡沖で、時空の歪みと対峙した。

それは、巨大な門だった。

誰が建造したのかもわからない。

そして、陽炎のように、存在が揺れている。

私が手を触れると、それは大きな音を立てて、開門した。

まるで、誰か、開ける者を待っていたかのように――。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。