スキル「コンティニュー」を持った、TS提督が艦これ世界で無双してみた 作:木村スバル
脇方は考えていた。
朝、芋を食べる時、塩を振って食べるのはいいが、無性にそれでは物足りない。
大の男である。少食な方であるが、芋を二本胃に入れても、やはり腹にたまらない。
味噌汁は、麩、わかめ。
『贅沢は敵だ!』の張り紙を、艦娘たちがびりびりに剥がしていたのを、咎めるのも咎めかねたが、少し叱りつけて見送った。
「はーい」
と、しぶしぶ、彼女らは頭を垂れていたが、結局のところ、前線に送る兵糧の米や魚が羨ましいといえば、闇市に出るしかない。
芋は甘いため、砂糖の必要性はさほど感じないが……。
羊羹が無性に物欲しくなって、一本大和から譲り受けるものの、戸棚に入れておいて、ちまちまと食べる。
「古鷹、茶にしよう」
「脇方少尉、いただいた羊羹を開けましょう! 周りがざらめなのが、私は好きだなあ」
「俺は梅が好きだ」
「どちらも美味しいですものね。私、お茶を淹れてきます!」
茶の間で、古鷹の後ろ姿を見送ると、噂の提督が入ってきた。
「脇方。お前、変な顔だな」
「高橋大尉、何をまじまじと見ていらっしゃるのです。私の顔に変なものがついていますか」
「いや、そうではない。そうではないのだが……、なんというか、こうも、平和だと拍子抜けしてな。お前の顔ぐらいしか、見るものがないのだ」
「そうですか、それは結構で」
高橋は、平和が嫌いなのだろうか。脇方は戦勝を、報告書でしか知り及びはしなかったが、それでもこの男が、戦争に身をおいているのが、苦痛ではない男なのだ、ということぐらいのことは、彼にはわかった。
「大尉殿は、平和はお嫌いですか?」
「それなのだが、戦況が聞きたい。俺は全く知らされていない」
その事実に違和感を覚えはすれども、そんなものだろうか、と脇方は思う。
「南洋諸島は、全てアメリカに取られています。北海はサハリン以北が、ソビエトに。大陸に、日本領はあるにはありますが、停戦協定を結んでいて……」
と、脇方はちゃぶ台の上の書付に、ペンで地図を書きながら言った。
「この前破った艦隊は、どこの所属だ? 日本艦艇のように見えたが……」
「それは……」
それが、現在頭を悩ませている問題なのだ、と脇方は説明した。
「次元の歪みというのがあって……、実は謎の一個艦隊と交戦状態になっているのです」
「次元の歪み?」
「私達の住んでいる世界と、別の世界に繋がっている扉です」
「その交戦というのは、アメリカが関わっていないだろうか」
脇方は驚いた。
「そうです。あえてお話はしませんでしたが、アメリカの手引があったと、聞き及んでいます」
「そうか」
高橋は、指を鳴らした。
「私なら、その内戦を期にアメリカに打って出る」
「ははは、ご冗談を」
「まぁ、大尉の身ではその夢も叶わんか」
「そうです。我々は、ただ使われる兵隊に過ぎません」
「悲しいな」
「まぁ、そうおっしゃらないでください」
脇方は、脇方なりの美学を持っていたが、この平和の中で時折上がる戦禍の話題が、彼の頭痛の種であった。
高橋の考えていることは、どこか天才的なひらめきであったが、さらなる戦争を呼ぶような気がする。そして、この男はそれに身を置きたがっている。
それが、無性に癇に障った。
ただこの時の話し合いは、まだ出会って間もない二人の、日常的な会話に過ぎなかった。
腹心の上官と部下というより、お互いの腹のさぐりあいでしかなかったのだが……。
二人とも、どこか腹に据えかねるものを抱えていた。
「羊羹とお茶をお持ちいたしました!」
「古鷹、横に座れ」
「はぁ」
「ずいぶんと手にかけているのだな」
と、高橋が口を挟む。
「手にかけているとは、言い方が悪い」
「はーん」
古鷹はじっとしていた。二人の顔が怖かったのではなく、ただこの空気感がいたたまれず。
白い軍服姿で、顔を突き合わす男二人は、さらに戦争の話を続けた。
羊羹はつまみだ。戦争を語るのに、酒はいらない。
戦争の話はシラフで話すものだ。戦争が兵隊を狂わすのだ。
宵越しの酒はこの矛盾を解決するのに手近だったが、それはいらなかった。
絶望の色は、その人殺しの話をもり立てた。
未だ銃後の平和が続くこの佐世保鎮守府では、その話をしているのはこの二人ぐらいだった。
古鷹は、次第に雲行きの怪しくなる、その会話に耳を傾けていたが、怯えと恐怖が入り交じるドッグファイトのような会話に、顔色を青ざめさせ、その具体例が固まるに従って、高橋という大尉の大物振りに、背筋が寒くなるのだった。
「次元の扉の向こうには、何がある?」
「わかりません、入っていったものがいないので」
「それならば、使節団を出そう」
「何があるとお考えで?」
「わからん、だがそれだけの価値があるものと見ている。大本営からの、次の戦の通達は、まだ先だろう。そちらから先に調べたい」
「それでは、大本営に電信を送りましょう」
「指揮は私が取る」
「提督がですか?」
と、古鷹が困惑気味に言う。
高橋は立ち上がった。
そして、古鷹を見下ろした。
「編成は選ばせてもらう」
◆◆◆
次の日、私は縁側に腰を掛けていた。
横で、雪風がばたばたと足を振っている。
ういやつよのう。
雪風が折り紙で作っているのは、やっこさんである。
「ふんふんふんーん」
私はといえば、雪風に借りた双眼鏡で空を見上げていた。
九九式艦上爆撃機が、赤い丸が大きく描かれた白い腹を見せながら、青く澄み渡った空を往くのを、見送った。
そういえば、ここに来てから、雨が降っているのを見たことがない。
なんにせよ、海戦にとって雨が降らないというのはいいことだ。高波の中進むことは無理に等しいし、航空機だって飛ぶことはままならないのだから。
ところで、あの九九式艦上爆撃機は、佐世保から出て、どこへ行くのだろう。
誰が指揮しているのだろうか。
私の預かり知らないところでなにかが起こっている。
明日の出港は、軽巡洋艦四隻、駆逐艦二隻で行われる予定だった。
私は雪風に乗って、なんとしてでも生き延びるのが使命である。
敵戦力は未定。
そして、歪みの向こう側になにがあるかもわからない。
わからないことだらけだから、わからないをわからないなりに解決しようということで、この編成になった。
つまり、できるだけ足の速い艦隊で、調査をし、終わったら即帰るということだ。
その価値があると見込んだのは、私はその扉を知っているということに他ならない。
歪みはどこへ繋がっているのか、それはおそらく、異世界であろう。
俺は昨日、鎮守府の中でとある男と出会った。
彼は、サラリーマン姿をしていた。
そして、胡乱げに目蓋をしばたかせて、つぶやく。
「ここは、どこだ……? 俺は……、誰だっけ……。ここは、なんでこんなに……、艦娘がたくさん……」
ははーん。
これかはなにかある、と踏んだ私は、「こいつを牢屋に入れておけ」と、脇方に命じた。
それ以来、あの男とは会っていないが。
次元の歪み攻略作戦は、実行された。
明朝〇六三〇、佐世保港を出港した艦隊は、対馬海峡沖で、時空の歪みと対峙した。
それは、巨大な門だった。
誰が建造したのかもわからない。
そして、陽炎のように、存在が揺れている。
私が手を触れると、それは大きな音を立てて、開門した。
まるで、誰か、開ける者を待っていたかのように――。