スキル「コンティニュー」を持った、TS提督が艦これ世界で無双してみた 作:木村スバル
私の名前は、アンネッタ・ド・グラッツィアーニ姫。
この、エレガンテ領で姫をしています。
エレガンテは辺境領地。ですが、王族の権威を表すために、グラッツィアーニ家に与えられた、寒冷の大地です。
といっても、春から夏にかけては、氷も溶け、霜も降りず、比較的湿度のある空気が、新緑の木々を揺らします。
白樺の森は、誰かがかくれんぼをしているみたいに見え、子供たちはフキの葉っぱでお面をつくります。
城は、大きな塀の東にそびえ立ち、教会が城下町の中央に立っています。
ゴーンゴーンと街の隅々まで響き渡る鐘の音が、正午を伝える、昼下がりのことでした。
遅めの朝食を済ませた私は、足元を温めるペチカが、いまだ欠かせない城の中で、本を読みながら過ごしていました。
ノックの音が聞こえます。
「どなたかしら」
「ロレンツォ・カストラカーニが参りました。アンネッタ姫。お久しゅうございます」
それは、黒髪の青年でした。
青い瞳が、涙袋に虹彩を反射して見え、鼻はすらりとして高く、どこをとっても澄み切った面持ち。肌は白く、傷一つありません。
私の婚約者、ロレンツォです。
彼は私に歩み寄ると、そっと手のひらにキスをしました。
ふんわりと流れ落ちる、私の金髪を、彼は憂いを帯びた顔で、手繰り寄せます。
婚姻の儀は、三ヶ月先に迫っていました。
白の月の三十六日。それが、盛大な結婚パーティの日。
きっと盛大な、パーティになる、と私達は思っていました。
盛大な夜の街を駆け抜ける、オーロラの夜に。
「ロレンツォ様、ところで昨日不思議なことがございましたの」
私は恋人にここ最近の憂鬱をすべて話すことにしました。
次元の壁というモノがあります。
様々な呼び名がございますが――例えば、煉獄への門、捻くれ者の歪み、異邦者の通り道
。私共、グラッツィアーニ家は、代々その扉を守護している、貴族なのです。
その扉は、私共しか知りませんし、代々秘宝として、守ってきたのが、この扉の鍵なのです。
鍵、というのは私のことです。
そして、この扉を開けられるのは私しかございません。
その扉が昨日、音を立てて開きかけたのです。
私は必死で閉じようといたしました。
「それで、無事は保証されたのかい?」
「ただ、わずかに不安が残ります。私の扉はまだ開いたままですわ」
「君の扉とは、君の心の扉かい?」
「そうです。それが、閉まらないのです。このようなことは始めてで……」
彼は優しげに、私の体を抱きしめると言いました。
「心配しないで、アンネッタ。僕は、君を永遠に守り続ける。そう誓おう」
グラッツィアーニ家では、毎年転生者を召喚します。
それは魔術の研究のため、また世界更新の儀のため。世界の更新とは、この世界を守っている聖女との、誓いの更新のことです。
その祈りにより、この世界は守られているのです。
聖女の祈りは絶対です。
そして、汚されてはならないもの。
この世界の平和と安寧を守護する、永遠の誓い。
それは、この世界の第三の鍵でもあるのです。
第二王子の彼は、私を娶るとき、エレガンテに来ても良いとおっしゃった。
そして、グラッツィアーニ家に籍を入れてもいいと。
並大抵の熱意ではありません。
ですから、お父様は、彼を大層気に入っていらっしゃったのです。
剣の腕にも優れ、文学にも精通し、文武両道の殿方。
そして、私を愛してくださる方。
しばらく、扉のことも忘れ、私達は一時の語り合いをしました。
「あの、サバラウという剣術使いは、すごく強かったけど、私は一撃で斬り倒した」
「さすがですわ……ロレンツォ様。なんてお強いのでしょう。なんて、素敵なのでしょう」
この人にかかれば、どんな敵だって、へっちゃら。
話はロレンツォ様の弟君の話に移ります。
「そうして、昨日の夜は、晩餐会があった。元服の儀を迎えた僕の弟が、前に立って演説を。ちょっとしたものだった。なかなか様になっていて、兄としては誇らしかった」
そして、話が盛り上がると、私達二人は、どちらからともなく、ヒースの森に出かけようと提案をしたのです。
「そうだ、森林まで出かけよう。サンドイッチを持って」
使用人にバスケットに入れた、サンドイッチと紅茶の入った水筒を作らせました。
そして、二人は連れ立って外に出ました。
その折、御者のジムが、馬を連れてうやうやしく私達に頭を垂れます。
そこは、開けた低木が生い茂る、郊外の森でした。
二人は開けた明るい木漏れ日の差す、木の下で食事を取ろうと話し合いました。
あたりを見渡していると、遠く山並みに向かう街道に、人が一人立っているのを見つけました。
一見して、旅人のようでもありました。
不審に思ったロレンツォが、腰に手をやりましたが、短剣は奇しくも屋敷に置いて来ていました。
ここらへんは魔物も表れないし、私の表れても魔法で対処できるような、低レベルの魔物だったからです。
その男は走り寄ると、帯刀していた反りの入った剣を抜き、すさまじい早さで私に斬りかかりました。
痛み。
声を上げる間もなく、私は崩れ落ちました。
ああ、血が流れていきます。
私の温かな血が。それは、鍵の開く音とともに、ぱきりと生命を閉じました。
高橋圭一はこう言って去っていきました。
「私は、作者である」
と。
ロレンツォは、意味がわからず、それを反芻した後、声を殺して泣きました。
そして、その男「作者」を、城の者総出で探し出し、敵討ちをする決心をしました。
そして、わかったことが、一つだけ、ございます。
「作者とは――悪、そのもの」