スキル「コンティニュー」を持った、TS提督が艦これ世界で無双してみた 作:木村スバル
この際だから言っておく。脇方には異世界への殿中をバラしてしまった。
海が見渡せる司令室に、二人の男が立っている。
私は海を見ていた。脇方は、私の顔を見ていた。
「次元の歪みの向こう側は、中世ヨーロッパ風の世界だった。明らかに、この世界とは趣が違った」
「それで?」
「結論から言うと、一人の姫が殺されたと聞いた」
「誰が殺した?」
「私が」
脇方は右手を上げた。手には南部式自動拳銃を持っていた。
私は、両手を上げた。
「お前は馬鹿者だ。なんのために一体こんなことをしたのだ?」
「さて、何のことだろうか?」
奴は憤怒していた。
「誰がお前にそんなことを吹き込んだのだ?」
気でも狂った者を見るように、脇方は俺をにらみつけた。
「強いて言うのなら、おのれの意志で」
「作者、とは何者だ?」
「あの、牢屋にぶち込んでおいた、スーツ姿の男だ」
「それくらいはわかっている。拷問で吐かせたが、奇妙な言葉ばかりつぶやいている。お前は、なにをのらりくらりと言い逃れようとしているんだ?」
「俺は、戦争の火付け役になった。この戦争の。苦しみが増える。嬉しくはないが、私がそうしたかったのだ」
「なぜ?」
彼は憤りに声を荒げた。
「この世界を愛さない、作者を憎んでいたから」
「作者、とはお前のことか?」
「違う。私とは根幹を違う者。どうやって、作るのか。聞いてみればわかる。彼らは、何もかも知らず、何もかもを知った気でいる」
私は、彼の顔を見つめて言った。
「作者とは、この世界を創りたもうた、諸悪の根源」
「あの男が神とでも言うつもりか?」
「その通りだ。神とはいえ、人の姿をしている。殺すことができる」
「その神と戦争をしようと?」
「脇方よ、国を売れ。一銭五厘で売り渡せ。脇方よ、艦を愛せ。死ぬまで俺と共にいろ」
彼は銃を下ろした。
「……はぁ、お前の考えていることがわからん」
「わからなくて結構。だが、艦娘が死ぬのはやるせない」
それにしても、戦争のなんと醜いこと。
「南部大拳は美しい。だが、そんなもので、私は殺されたくない。戦争は老婆の顔をしているな」
「同意だ。はぁ……。また戦争か」
「わかっているが、肩を落とすことばかりでもないだろう、脇方中尉」
「お前の気が知れん」
「冗談交じりに一つだけ。ああ……なんと言ったらいいだろうか。脇方、バラすなよ。私は国粋主義者を信じていない」
「はっ、馬鹿者が! この国体の中でそんなことを言う馬鹿がいるか!!」
私は見にくく歪んだ顔をさらした。
脇方は、うつむいて悲しそうにつぶやいた。
「だがわかっている、高橋。ただ、なぜだろうか。誰かが呼ぶのだ。そして、こうも思う。玉砕かと」
「お前ならそう言うだろうな……」
「残念だが俺は、大本営に出行だ。お前のケツの尻拭いをせねば」
「で、誰が誰を殺したって?」
と高橋。
「……さあな」
としらばっくれる脇方。
真相は霧の中。
高橋圭一は一級戦争犯罪者である。
そして、なぜそのような悪道に走ったかは、この物語に描かれている。
この戦争史を紐解くと、見えてくるのは、高橋圭一という提督の異常なる立ち位置である。
この男は、愛国の徒ではなかった。
彼を愛した艦娘は多かったが、また憎しみを込めて見つめる目もあったことは間違いではない。
◆◆◆
作者とはなにか。
その作品に対して、作者の位置づけとは、創作者という意味合いだけではない。
キャラクターの生みの親という、存在は確かに存在する。
キャラは上位存在であるあなたを、知っているようで知り及びもしないのだ。
これから言うことは、私の詭弁である。
そして、この言い逃れの出来ない自縄自縛の罪から、逃れようとしているのも私である。
この形哲学的問題は、あなたがキャラクターを真に愛しているかが、問われるのではないことは、はじめに言っておく。
これは、キャラクター本人が、どう感じ、どう思っているかということ。
彼らが、三次元の作り手の存在を知った時、どう感じるか。
作者という人物が存在し、それが悪であると知ったとき、我々の世界の憤怒はすさまじかった。
それぞれの作者に対して、コミュニケーションを取ろうと取り計らったキャラたちも、多くいたのは確かである。
彼らは聞きたがった。
「貴方は誰、どうして私を作ったの?」
という、質問をではない。
「あなたは、どこの領に所属し、爵位はお持ちですか?」
あなたはどう答えるだろうか。
彼らの憎悪は、いかばかりであろうか。
不思議だったのは、なぜ作者が異世界に来られるようになったかである。
それは、私に端を発したわけではないと思われる。
私が一番にこの異世界にやって来たわけではないということだ。
そして、この世界につながった次元の扉が、同時多発的に開き始めたのは確かである。
あるものは、ひりついたような違和感を肌で感じ取っていた。
すすき野では、シロエがこの雰囲気に緊張感を持った顔つきで、あたりを見渡した。
空は、鳶が飛んでいたが、どこか薄茶けて白かった。
街の中、どこかで爆音を聞いた。ここが非戦闘地域でなければ、彼は眉をしかめなかっただろう。
ログ・ホライズンのにゃん太は、
「どこかでまたなにかが起こりましたニャ?」
と、緊迫感があるのかないのかわからない、落ち着き払った態度だった。
「はぁ……、また何かがドンパチやってるようだぜ」
直継が腰を下ろした。
シロエのギルド、ログ・ホライズンは、この戦争に加担するつもりはなかった。
だが、このすすき野が戦争に巻き込まれるとするならば、身を挺することもいとわないと、シロエは思うのだった。
異世界戦争は、オホーツク海で火の手が上がった。
艦これ世界では『作者は刻々とこの世界を侵略しようしているのだ』というプロパガンダが打たれた。悲惨だ。
この大戦ではひとりひとりが犠牲者であった。
皆が心に持った傷を、持て余しながら生きている。
開戦はすさまじい侵略の早さで、それぞれの心に根ざそうとしていた。
転生者が、一人、作者であったとバレて、殺された。
余談だが、その転生者の口から、「地球」という星の存在が明らかになる。
それを聞いた、皆の反応は様々であった。
「地球をぶち壊せば?」
これが、一番過激派の意見だ。
極論ではあるが、それは正当な右翼的意見であるというのが、艦これ世界における世論である。
狂っていると言わざるを得ない。冷静になって考えてみれば、ここまで過激化した世論を、食い止めるすべはない。
佐世保からも、艦隊がいくつか出た。
「総力戦になるだろう」
と、脇方は言って、東京へ去った。
いくつかの重なり合った世界が、お互いの存在を知った。
それは、多元宇宙理論で説明がつく。詳しくは調べてくれたら良い。要は、日本ひとつとっても、さまざまな宇宙が存在しているということだ。
いかにも、日本を舞台にした異世界は多かった。
歪み。
空虚。
そのむこう側。
石垣島近海にも、一つ、時空の歪みが存在していた。それはこともあろうことに三次元へと繋がっていた。それを発端として、戦争がはじまるのだが、それはまだ先送りにしておくとしよう。
「はてさて、脇方がいなくなった。次の戦争のお題目はなんだろうな、長門」
「ずいぶんと嬉しそうだ。わけがわからん」
「わかるだろう」
「お題目なら、作者を見つけ次第やっつけろ、だ」
「その通り、その通り」
私は拍手をした。
「はぁ……」
「聞いた話によると、そのお題目に対する反戦活動家が、かなりいる。それから、作者に反旗を翻す者、わずかだが、譲歩し、宥和を図ろうとしているもの。全く無関心というものは、案外少ない。大体は、そのように世論は成り立っている」
「大本営からの発表は?」
「対馬海峡沖に現れた、謎の艦を攻撃せよ、だ」
調べるにしたがってわかったことなのだが、次元の歪みというものは、特定の場所と特定の場所を結ぶものではないらしい。
便利な通行手段というわけではないのだ。
対馬海峡沖に現れた、一隻の艦、それは自衛隊のイージス艦であるらしかった。
残念ながら、現代における自衛隊の、イージス艦の知識は薄い。
電子戦に強いらしいが、そこらへんは、アナクロなこちらには全く関係ないだろう。
だが、レーダーと対潜システムが厄介だ。
聞きかじった知識によると、戦闘システムは複雑怪奇にモジュール化され、超高性能化しており……。よくわからん。でもこれだけはわかる。どうせ、倒せっこない。
「大本営は大和を使えとのお達しです」
「どうせ、他の提督がバカバカ破られまくってるせいだろうな……」
「どういたしますか?」
「仕方ない、大和を使う。戦艦は嫌いだが」
「よろしいので?」
呆れたように、長門が言う。
「大和の装甲の厚さ四一〇ミリが貫き通せぬことを願おう」
私は一つの大きな疑問を、内密にしていた。
それは、提督としてやって来る人物は、皆地球人ではないのか? ということ。
それでなくとも、今現在。誰が、地球人で、誰が異世界の住人であるのかに皆怯えていた。
地球人狩りが横行している。
あの、ライフジャケットを慌てて着ていた、敵艦隊の提督。
あいつは、妙に生々しい顔をしていなかっただろうか?
三次元の住人と、二次元の住人の違いは、得てして明瞭である。
それは、例えば、妙に生々しい顔つき、動作。それから、話し方。行動。
よく考えればわかることに、現実世界で立ち話はあまりしないものであるが、二次元では頻繁に行われる。
私は、立ち話が嫌いなため、茶の間にいつも座っていたくなる。
佐世保に、今なぜ私はいないのであろう。
あの赤城がいた、脇方がいた、佐世保に……。
大本営は生き馬の目を抜く場所だと言う。
そんなところに出ていった、脇方の身が案じられるが、私は明日に備えて、今日の日は寝ることにした。