レッドサンブラッククロス戯典 vol.12' パナマ侵攻03巻 プレビュー版   作:南条匡

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REDSUN BLACKCROSS “Apocypha” vol 12’
HELL’ S GATE STORIES --Third Stage
Operation 〈Redemotion〉

We've waited 26 years. We've reached our limit.
If the story won't continue, we'll just write it ourselves.

A derivative work based on the novel 〈REDSUN BLACKCROSS〉
Written by DAISUKE SATO

This fanfiction was
written by TADASHI NANJYO


前書き+注意書き+プロローグ

注意

この作品には、第一稿作成後の編集、及び第三者視点からのアイデア出しに、Gemini、ChatGPTの生成AIを使用しています。

プロット、各種設定の作成、第一稿執筆は全て作者本人の手によるものであり、この部分には生成AIを用いていないことを言明いたします。

生成AIの存在を絶対に認めないという方、AIの介在するものを作品としては認めないという方は、読まないことを推奨いたします。

 

この作品を、RSBCに代表される全ての世界を紡いでいただいた故佐藤大輔氏

大サトー学会様との縁をつないでくれた故森井俊之氏

様々な支援・応援をいただいている大サトー学会関係者

カリブに沈む太陽の感想で、自分をネットに復帰させる決意をくれた上原綾瀬氏、かがやこうすけ氏

 

そしてパナマ侵攻2巻から26年を経た今も続巻を待ち続けている自分を含む全ての佐藤大輔ファンに捧ぐ

 

――この偽典が、かぎりなく真にちかづけていることを願って

 

 

目次

 

 プロローグ 停戦二六年後

 

 第一部 「宴の支度」

  外套と短剣

  旧友との再会

  パナマ軍団

  北米戦線

  本国での戦い

  第二次臨時汎米会議閉幕

  ゼロデイ・前日

 

 第二部 「彼等は来た」

  風雲危急

  総統介入

  バルボア沖海戦防空戦

  フォン・ニミッツの憂鬱

  戦争愛好者(ウ ォー・モンガー)

  バルボア沖海戦

  尊敬と別離

  騎士道的精神

 

 第三部 「回天の顎」

  機動部隊

  巨竜たちの咆哮

 

 エピローグ 誰がための忠誠なりや(Semper fidelis)

 

 次編予告

 

 

プロローグ 停戦二六年後

一九七九年一二月二三日

ニカラグア カレロ島

 

 北緯一一度付近、熱帯特有の粘りつくような大気が、冷徹に輝く朝日に焼かれ、白く霞んでいる。

 

 湖から吹き付ける風は、式典を飾る無数の極楽鳥花の芳香と、重油の混じった匂いを運んでいた。

 

 サンフアン川の河口を埋め尽くすように、真新しい巨大な係留施設が連なり、その先には太平洋へと続く、鏡のように滑らかな水面が伸びている。

 

 ニカラグア大運河。第三次世界大戦という未曾有の戦争を経て、人類が再び手にした、あまりに巨大な富の回廊であった。

 

 かつて一九世紀の夢想家たちが描き、幾度となく自然の猛威と政治的打算によって葬り去られた幻の航路は、大戦の殺戮と、それに続く冷戦の論理によって、ついに現実のものとしてそこに横たわっていた。

 

 

 特設された巨大な雛壇の上では、ニカラグア大統領、ダニエル・ホセ・オルテガ・サアベドラが、褐色の拳を空に突き上げていた。糊の効いた礼服に、熱帯の日差しが容赦なく降り注いでいる。

 

「……かくて、我がニカラグアには、あのパナマをも凌駕する大運河が穿たれたのであります! この偉業をもたらした神の加護と、日本、英国、合衆国を始めとする太平洋条約機構に深甚なる敬意を。この水路は、もはや一国の私物ではない。人類共通の財産である!」

 

 最新鋭の音響機材によって増幅された大統領の声が、風に乗って会場を震わせる。

 

「これは世界にとっての夜明けなのです。我が国は東西の融和を象徴し、大欧州統合条約機構の非武装船に対しても、その門戸を広く開放することを、ここに宣言する!」

 

 万雷の拍手。PACTO加盟国の高官たち、そして招待されたGETTOの外交官たちまでもが、儀礼的な笑みを浮かべて手を叩いている。その光景は、一見すれば平和の祭典そのものであった。

 だが、熱狂の渦巻く最前列から少し離れた天幕の下。冷えたシャンパンのグラスを傾ける三人の将校たちの眼には、まったく別の風景が映っていた。

 

 

 ニカラグア大運河の歴史は意外にも古く、その元を辿れば十九世紀始めのナポレオン三世の書簡に、ニカラグア運河計画の名称が記されている。また、日清戦争開戦直前の一八九一年、日本を訪れた合衆国海軍アジア艦隊の〈アライアンス〉号艦長、ヘンリー・C・テイラー中佐の行った演説、「ニカラグア運河建設の必要性」で、合衆国が、大西洋と太平洋の両洋を結ぶ運河の建設を計画している事実が明らかになった。後にこの計画はパナマ運河建造へ移行することになるが、ニカラグアに、運河建設に適性のある用地がある事実は一九世紀末には認識されていた。

 

 パナマに運河を建設していたフランスの失敗と、その後を引き継いだ合衆国の弛まざる努力の結果として、パナマ運河は、一九一四年に一応の完成を見た。さらに、第二次世界大戦勃発直前の三九年から四七年にかけた行われた拡張工事によって第三閘門が浚渫し、〈大和〉級戦艦、〈大鳳〉級空母などの大型軍艦や、戦後の一〇万トン級油槽船も通行できるようになった。

 

 そして第三次世界大戦の結果、太平洋のほぼ全てと中米以南の大西洋の制海権を確保した日英米枢軸にとって、パナマ運河は、キューバ島のグアンタナモ基地と並んで、大西洋への兵力移動を担う最重要軍事拠点となっていた。

 

 こうした事情から、パナマ運河は、第三次世界大戦終結後も太平洋条約機構 (大戦後、日英米枢軸軍がさらに多くの国との相互軍事同盟へと発展したもの)の聖域となる。

 

 だがその代償として、パナマは大戦以前のような太平洋と大西洋をつなぐ重要交易路の地位から降りざるをえず、それは、世界貿易という面から見て、下手な戦争以上の損失となっていた。

 

 ニカラグア大運河は、その意味において新たな希望の架け橋だった。

 

 第三次世界大戦終結後より建設が開始されたニカラグア大運河は、キプロス島危機、大陸内戦、そして越南紛争などの東西衝突を経た結果、融和の象徴として、GETTOに属する国の船も通行を受け入れるべく計画された。

 

 第三次世界大戦真っただ中の第二次臨時汎米会議において、枢軸側は当時のソモサ政権に対し、大規模な軍事援助と共にニカラグア大運河の建設を提案した。ソモサ大統領はこの提案に飛びついた。むしろ飛びつかない理由がない。自国は苦労することなく、パナマ運河を越える大運河を作ってくれるのだ。

 

 臨時汎米会議直後に起こった内戦の結果、ソモサは失脚したが、枢軸側とドイツ、双方の支援を受けたサンディニスタ民族解放戦線は、新秩序の枠組みの中で驚くべき柔軟性を見せ、結果として、PACTOの忠実な、そして中米最強の盾となったのである。

 

 

「『夜明け』か。詩的な表現だ。だが、夜明け前が一番暗いということを、あの大統領閣下はご存知ないらしい」 大英帝国空軍中佐、ジョン・キリアン・ヒューストン・ブラナーは皮肉な笑みを浮かべて呟いた。

 英国安全保障調整局所属。四五歳。人生の何事かを滲ませる灰色の瞳は、第二次大戦中に瓦礫の降り注ぐロンドンで培われたものだ。

 

「演出過剰ですね、中佐。あるいは、彼も理解した上で踊っている道化かもしれません」

 答えたのは、日本帝国海軍大尉、浅香尚美。この場にいる者として異例な三〇の歳になったばかりだが、それはPACTOにおける日本国の立場を示している。

 彼女は、白い第二種軍装を完璧に着こなし、感情を排した能面のような美貌で壇上を見つめていた。白手袋の指先が、グラスの脚を優雅に、しかし隙なく包み込んでいる

「道化は、観客が何を求めているかを本能で理解します。彼が演じているのは独立の英雄であり、我々が求めているのは管理しやすい管理人です。利害は一致しています」

 

「管理人、か。だが、この物件には瑕疵がある」

 ブラナーは顎で運河の彼方、雲に覆われた山脈をしゃくった。 「地質調査報告書によれば、あの火山群は『有史以来、活動の兆候なし』だったな。一体、どこの誰がそんな神話を捏造したのやら」

 

「捏造ではありません、中佐。あれは再解釈です」

 統合軍令本部情報局から派遣された浅香は眉一つ動かさずに即答した 。 「過去五〇〇年の沈黙は事実。今後五〇〇年の沈黙は統計的推論。そして、その推論を確実な保証という公文書に変換するためのコストが一〇〇〇億円。……安い買い物です」

 

「違いない。パナマ沖にドイツの潜水艦が何隻いるかわからない以上、我々に必要なのは、地質学的な正しさよりも兵站上の動脈だ。たとえそれが、活火山の枕元を通るものだとしてもな」

 

「だが、これからは別の問題が浮上する」

 合衆国陸軍国防情報局、トマス・ラッグルス・ピンチョン・ジュニア中佐。四二歳。低く、どこか紫煙のような質感の声。

 無造作な髪と、どこか焦点の合わない瞳。その風貌は軍人というより、象牙の塔に籠る偏屈な学者のようだった。彼は空になったグラスをテーブルに置くと、まるでチェス盤を眺めるように会場を見渡した。

 

「ソモサを放り出し、サンディニスタに平和の守護者の面を被らせ、GETTOの商船を受け入れる。これからは、このカレロ島やマナグアこそが、世界の諜報員たちの天国となるだろう。パナマのような、軍が直接管理する味気ない要塞とは違って、ここは欲望と欺瞞が交差する極上の交易所になるからな」

 

「諜報員たちの天国、ですか」 浅香は、その言葉を反芻するように呟いた。越南紛争の泥沼を経て、ようやく訪れたデタント――一時的な雪解け。

 

 GETTO所属の商船が、このニカラグアを通過して自由の海へと流れ込む。それは一見、平和への第一歩に見える。だが、自由な交易は、自由な諜報工作の活動を意味している。

 

「これからこの都市に、どれだけの『外交官』が流れ込むか。ドイツ人、日本人、アメリカ人、そして英国人。誰もが笑顔で握手し、テーブルの下で互いの急所を探り合う。良き作家の言葉を借りれば、『被害妄想だけが、物事のすべてが関連していることを知る唯一の手段』という状況が生まれるわけだ」

 

「重力の虹か」 ブラナーが帽子を脱ぎ、額の汗を拭いながら笑った。「君のその名前、まさかペンネームじゃないだろうな?」

 

「偶然の一致だよ。彼の作品は嫌いじゃない」 ピンチョンは肩をすくめた。「ニカラグア大運河は未来の扉を開いた。だが、その向こうにあるのが黄金郷か、あるいは奈落か……。我々の仕事は、その扉を通るものに平和の資格があるかを調べる。あるいは密かな覗き窓を作るか。それだけだよ」

 

 

 大統領が演説を終え、会場は再び万雷の拍手に包まれた。同時に、運河の開通を祝う祝砲が、カリブ海の空を切り裂いた。腹に響く轟音。それは平和の祝祭であると同時に、次なる戦争への号砲のようにも聞こえた。

 

 浅香は、その音の中に、歴史が軋みを立てて動き出す音を聞いていた。この運河を流れるのは、単なる海水ではない。国家の意図、欲望、そして新たな闘争の火種だ。

 彼女は静かに、広大な水面に目を向けた。ただ目前に広がる蒼い水路だけが、冷徹な真実を映し出していた。

 

 贖罪。このニカラグア運河は、パナマの代償よね。つまりニカラグアは生贄羊として祭壇に捧げられた。罪を犯したのは誰だろう。かつてのドイツ、それとも私達?

 

 浅香は、白い手袋をはめた手で帽子を正した。彼女の脳裏には、すでに膨大な報告書の草案が浮かんでいた。ニカラグア大運河開通に伴う、対GETTO防諜網の再構築について。それは、北米のものよりもさらに複雑で、陰湿で、致命的な遊戯になるだろう。

「これから、忙しくなりますね」

 浅香の独白は、祝典の喧騒の中に消える。

 

 中米の熱帯の空の下、平和の象徴という皮を被った新たなる遊戯の幕が、静かに上がろうとしていた。




次回更新は2026/01/01予定です。
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