時計が進む条件
1:■■■の■■
今更ながら作者はプロムン世界の設定について詳しくありません。
黒いゴライアスの巨体が、
倒れた木々を巻き込みながら地面を削り、ダンジョンの壁にぶつかってようやく止まる。
その巨体を包むように土煙が立ち上がりその体を隠す。
しばらくして、土埃が無くなるとそこには膝をついた巨体があった。
「……グ、ォ……」
赤い光を発生させながら低く唸る。
そんなゴライアスの頭の中は疑問と困惑で埋め尽くされていた。
なぜ自分は膝をついている?
なぜ自分は体を震わせている?
なぜ自分は恐れている?
その答えに辿り着いた瞬間、ゴライアスの思考はわずかに止まった。
あり得ない。
自分は“強者”だ。
ただ圧し、潰し、蹂躙し、ねじ伏せる存在。
母によって創られた
恐れなど、弱者の中にしか存在しないはずだった。
それでも。
視界の先に“それ”が立っている限り、この震えは止まらない。止まってくれない。
「――あなたは役割に従って戦ってきたんだね」
突如ゴライアスの耳に声が、落ちる。
静かに、しかし深く暖かい光のような声が響く。
「母によって圧倒的な強者として産まれ、彼ら彼女らを殺し尽くすためだけに」
巨体が、ゆっくりと立ち上がる。
その動きにはわずかな“揺らぎ”があった。
「……グ、ォォオオオッ!!」
咆哮が大気を震わせた瞬間、ゴライアスの巨体がバネのように、弾けるように動いた。
地面が砕ける。
踏み込んだ一歩で大地が陥没し、土砂が爆ぜる。
「でも、それじゃあ君の意思はどうなるの?」
振り上げた拳が、空気を引き裂きながら唸りを上げる。
怪物もそれを受け止めるように爪を振り上げる。
衝突。
轟音が、森を裂いた。
巨体と巨体。
純粋な質量同士の激突。
地面が陥没し、空気が押し潰される。
「君は母の意思に従ったままで良いの?」
それでも。
押しているのは怪物だった。
「――ッ!?」
黒いゴライアスの足が、止まる。
いや、止められた。
腕を振り上げる。
叩きつける。
何度も何度も連続で放たれる暴力の嵐。
あり得ない。
力で負けるなど。
「自分よりも強い強者と対峙してまでその意志を守る義理はあるのかな?」
そんなはずがない。
そんなはずはないのに。
そう思いたかった。
「ほら、試しに言ってみなさい」
怪物の細い首が、嘲笑うかのように傾く。
その単眼が、わずかに細められた。
次の瞬間。
ゴライアスは地面へと倒れ込んでいた。
「私は分かっているわ。あなたが恐怖していることに」
爪が、巨体に触れ押さえつける。
骨が軋む音が僅かに響く。
「死を恐れていることに」
赤い光が、激しく乱れる。
「母によって生み出された他の同胞のように塵になってしまうことに」
体を持ち上げようと手を着くが押さえつけられているため立ち上がれない。
「……母だとしても他人の意思をそんなに気にする必要はないよ」
声が、すぐ傍で囁く。
やわらかく、温かい声、微睡みの中で淡く微笑む。
「あなたもすでに理解しているのでしょう?」
……………ああ、そうだ。
「ふふっ、それじゃあもっと簡単な道を歩もう?」
その言葉が、深く脳に沈む。否定が消え、受け入れる準備が整う。
楽な道へと、声が示すその
「さぁ。あなたの力を示して。あなた自身の意思を顕して」
するとゴライアスの姿が溶け始めた。
その体表が、その筋肉が、その骨が、その魔力が混ざり合い紐解くように。
そうして溶け切ったその体は新たな体を構築し始める。
より強固な皮膚へと、目の前の怪物よりも遥かに強い強者として。
そうして出来上がった体は常に流動し、固定された輪郭を持たない。
硬質な外殻のように見えながら、次の瞬間には液体のように揺らぎ、さらにその奥では無数の層が折り重なり、形を変え続ける。
それはもはや生物の枠を逸脱し、概念そのものが揺らいでいるかのようだった。
その者の名は【己の意思を顕さんとすゴライアス】
それは、この場にいるどんなものよりも上の存在。
確固たる強者の新たに定義された名前であった。
いったい「
【己の意思を顕さんとすゴライアス】
母によって産まれたその意思は自己を確立し自身の考えを顕すために生まれ変わった。
強者という
だが一つだけ注意して欲しい。
たとえその意思が顕されたとしてもそれがまかり通るかは別の問題であるということを。