怪人赤マントの殺人   作:卯月絢華

6 / 7
解決編です


第5話

 現在時刻、午後8時54分。――大方9時である。

 

 当然だけど、「にじいろハウス」は管理棟以外の灯りが点いていない状態だった。

 

「本当に、瀬川鳴海はここにいるんですか?」

 

 天堂刑事の質問に答えたのは、善太郎くんだった。

 

「ああ、もちろんだ。職員はまだこの中にいるはずだからな」

 

 善太郎くんの言葉を信じて、天堂刑事はインターホンを押した。

 

「すみません、兵庫県警捜査一課の天堂亮介です。先ほどは聞き込み調査にご協力いただきありがとうございました。――それで、木下奈々子さんに改めて話を伺いたいと思って戻ってきたんです」

 

 天堂刑事の話に、園長と思しき人物が答えていく。

 

「木下さんですか。彼女なら、まだこちらにいらっしゃいますが……いかがされますでしょうか?」

 

「それじゃあ、応接室まで通してください。それと、刑事じゃない関係者が3人ほどいらっしゃいますが……彼らも中に入れてよろしいでしょうか?」

 

「それはちょっと困りますね……」

 

「しかし、1人は『探偵』と名乗っていました。それでも、中に入れさせないつもりなんでしょうか?」

 

「わ、分かりました……中に入ってください」

 

 園長と思しき女性は、そうやって答えた。つまり、天堂刑事以外の一般人である私と善太郎くん、そして達也くんも「にじいろハウス」の中へと通されることになった。

 

 

 応接室は、想像している以上にチープに感じた。いわゆる「安普請(やすぶしん)」である。

 

 そして、態度が大きそうな太めの女性と、その太めな女性と比較すると明らかに華奢な女性が応接室の中へ入ってきた。

 

「――私が、『にじいろハウス』の園長、藍沢真耶です。まあ、刑事さんには説明しなくても分かると思いますが」

 

「私が、木下奈々子です。『にじいろハウス』ではスクールスタッフとして働いています。まあ、先生みたいなモノだと思えば良いでしょう」

 

 そして、こちら側も名前を名乗っていく。

「俺は神船善太郎だ。普段はWebエンジニアとして働いているが、今回の連続殺人事件に際して仕方なく探偵役を務めている」

 

「俺は沢城達也だ。オカルト系動画配信者で、『怪人赤マント』を追っていくうちにそこの小説家の知り合いである善太郎と意気投合した」

 

「私は……廣瀬彩香です。一応、『卯月絢華』というペンネームで小説を執筆しております」

 

「プログラマーに、ユーチューバーに、小説家……あなたたちって、職業も性別もバラバラなんですね。でも、追っている事件は同じ。そういうことって、あるんですね」

 

 藍沢真耶がそう言ったところで、先陣を切って話したのは善太郎くんだった。

 

「ああ、そうだ。まあ、色々あって探偵役は俺が務めることになってしまったが。――それはともかく、木下奈々子に質問がある。お前、10月31日に何していたんだ?」

 

「何をしていたって言われても……私は、ハロウィンパーティーの準備で『国民的鬼退治の漫画に登場する鬼にされた少女』のコスプレのために準備をしていましたが……それがどうしたんでしょうか?」

 

「やはり、そうか。――『国民的鬼退治の漫画』に登場する鬼は、どちらかといえば吸血鬼に近い。人の血肉を喰らい、太陽を嫌うからな。もちろん、主人公の妹である『鬼にされた少女』もそうだ」

 

「それぐらい、私でも知っています。何せ『国民的漫画』ですからね」

 

 しかし、善太郎くんの話は意外な方向へと向かった。

 

「それで、『鬼にされた少女』は鬼の力によってその体型を自由自在に変えられる。ほら、彼女は昼間に主人公が背負う箱の中で小さくなって寝ている一方、主人公がピンチになると身体を大きくさせて本物の鬼に近くなるからな。ただ、本物の鬼に近くなった際に、危うく人の血肉を喰らうところだったが」

 

「だから、あなたは何が言いたいんですか?」

 

 しびれを切らした木下奈々子に対して、善太郎くんは彼女を突き放すような言葉を発した。

 

「お前は、『にじいろハウス』に通っている生徒たちの血肉を喰らった……というよりも、殺人の過程で返り血を浴びた。要するに、『怪人赤マントの噂』の如く、生徒たちの背中をナイフで刺して血で赤く染めたんだ。――赤マントのようにな」

 

「くっ……」

 

 善太郎くんの言葉は効いている。彼がやっていることは、京極夏彦の小説で中禅寺秋彦が犯人に対して憑き物落としをやるときのそれである。

 

 話は続いた。

 

「まず、山本玲央の件から説明しないとな。お前は、『にじいろハウス』でサッカーの練習をしていた山本玲央を呼び出して、『赤いマントは欲しいか?』と質問した。しかし、入園して間もない彼にとって、木下奈々子は『知らない人』でしかないから……恐らく、無視したのだろう。無視されて怒りに震えたお前は、皮剥ぎ用のナイフで彼の背中を刺し、殺害した」

 

「確かに、私が山本玲央くんを殺害したのは事実です。せっかく勇者の証である『赤いマント』を付けてあげようと思ったのに、どういうわけか、彼は私のことを無視した。その時、私の中で黒い衝動が芽生えて――気づいたら、彼を殺害していたんです」

 

「そうか。――次に、高城阿澄の件だな。お前は、高城阿澄がハロウィンパーティーにあたって『国民的鬼退治の漫画に登場する鬼にされた少女のコスプレをしたい』と言い出したことを思い出した。そこで、彼女は『鬼にされた少女』のような赤い髪を再現したかったが、良いカツラがないことに気づき、頭を抱えていた。そこに目を付けたお前は、『赤い髪のカツラは用意できないけど、マントなら用意できるかもしれない』と高城阿澄に伝えた。そして、その結果……惨劇は起こった。高城阿澄が素直に『赤いマントが欲しい』と答えた瞬間、お前は彼女の背中をナイフで突き刺し、殺害した。――お前がやっていることは、『国民的鬼退治の漫画』に登場する鬼よりも惨いことをやっていることになる」

 

 善太郎くんは、そう言って冷酷な口調で木下奈々子に詰め寄った。当然だけど、彼女は善太郎くんに気圧されている。

 

「…………」

 

「次に、そこの小説家の友人が目撃した笹貫海馬の件だ。お前は、笹貫海馬と一緒に『にじいろハウス』からほど近い場所にある市民公園で野球の練習に付き合っていた。しかし、お前が笹貫海馬に野球の練習を持ち出したのは彼を殺害するためだった。そこで口実として利用したのが『赤いマント』だった。結果、彼は『赤いマントが欲しい!』と言って……お前に殺害された」

 

 こうなると、善太郎くんの話は止まらない。

 

「次は、そこの小説家が遺体を発見したという坂下杏の件だ。お前は彼女から『動物園に行きたい』と言われた。恐らく、理化学研究所の近くにある動物園のことだろう。その動物園が『にじいろハウス』から少し距離があるということで、お前にとって事件を起こすには好都合だった。そして、お前は彼女の背中を刺した。多分、車内で『赤いマントがあったらどうする?』という問いに対して、彼女は『欲しい』と答えたのだろう」

 

 当然だけど、木下奈々子は善太郎くんの証言を否定する。

 

「こんなの……デタラメです。私が子供たちに対して危害を加えるようなことをする訳ありません」

 

 しかし、彼女の否定文は私が想定していた闖入者(ちんにゅうしゃ)によって逆に否定されることになる。

 

「――やはり、あなたが『怪人赤マント』だったんですね、木下奈々子……いや、瀬川鳴海さん」

 

「誰なの? あなた」

 

 応接室の入口にいたのは、紛れもなく宮代刑事だった。――彼女は話す。

 

「私、亮ちゃん……いや、天堂刑事が作成していた調書を見たことがあるんですけど、そこに見覚えのある顔写真があったんです。その調書には『木下奈々子』って書かれていたんですけど、どう見ても『彼女は偽名を使っている』って思っていたんです。だから、私が秘密裏で天堂刑事の調書を調べた結果……胸の鼓動が高鳴りましたよ」

 

「仁美さん……じゃなかった。宮代刑事、いつの間に僕の調書を見ていたんですか!?」

 

「いつの間にも何も、あなたのレッツノートは常に開きっぱなしじゃないですか。私ですら、席から離れる時は閉じているのに」

 

「そ、そうだったのか……」

 

「警察の人間なんだから、セキュリティぐらいはキチンとしてくださいよ? じゃないと、私が減俸(げんぽう)処分を受けちゃいますから」

 

「わ、分かりました……」

 

 天堂刑事との茶番劇はともかく、宮代刑事の話は続いた。

 

「それで、『木下奈々子』というありきたりな偽名を使っていたあなたは、天堂刑事があとちょっとのところで捕り逃がした『瀬川鳴海』という殺人鬼だと判明しました。ほら、2年前に神戸を震撼させた『皮剥ぎ魔』の事件。私、あの事件の時に……大事な人を亡くしてるんですよ」

 

 宮代刑事は、「皮剥ぎ魔」についてしんしんと語り始めた。

 

「あれは忘れもしない2年前のクリスマスイブ。私には『宮代雪江(みやしろゆきえ)』という姉がいました。姉は私よりも病弱で、雪のように白い肌をしていたんです。それで、姉は『いつか私も仁美みたいに色々な場所へ出かけられるようになりたい』って言って、元町の高級アパレル店に入ったんです。でも、それが悪夢の始まりでした。その高級アパレル店には瀬川鳴海というバイヤーがいたんですけど、姉があなたからおすすめの服を選んでいる間に姿を消してしまった。最初は試着室かトイレにいるんじゃないかって思っていましたけど、どこにもいない。じゃあ、どこにいたのかというと――あなたが秘密裏に持っていた工房の中でした。そして、姉はあなたから皮を剥ぎ取られた状態でタッセルにくくりつけられて放置されていました。その時のあなたの底知れない暗黒のような黒い目は、今でも忘れません」

 

 皮剥ぎ魔は、白い歯をちらつかせながら話す。

 

「ああ、あなたがあの時の妹でしたか。その節は、姉がお世話になりました。姉の雪のように白い肌は、私にとって最高の素材でした。もちろん、剥ぎ取った皮は服飾品として加工して、翌年のパリコレにも出展しましたよ? 当然、周りからの反響は大きかったですが」

 

 こいつ、狂ってる……。私は皮剥ぎ魔――瀬川鳴海の話を聞いてそう思った。

 

 瀬川鳴海の話を聞いていたのか、宮代刑事は怒りに震えていた。

 

「あなたが姉をあんな目に遭わせなかったら、私は今でも幸せな生活を送っていたんですよ! 私は幼い頃に父親を病気で亡くし、母親も父親の後を追うように自ら首を括った! だから、私に残された家族は姉しかいなかったんですよ! こんな私から姉まで奪うなんて、あなたが許せなかった! だから、私は刑事になったんです!」

 

 宮代刑事が刑事になったのには、そういう理由もあったのか。まあ、あの時私に話してくれた「仮面ライダーに憧れていた話」はあながち間違ってもいないんだろうけど。それは、彼女の男勝りな性格からも明らかである。

 

 そして、天堂刑事の話は再開した。

 

「――そういえば、瀬川さん……あなた、逮捕しようとした時に僕の前から逃げましたね? どうして逃げたんですか? もしかして、僕が警察の人間だとバレたからなんでしょうか?」

 

 天堂刑事の話に対して、瀬川鳴海は答えていく。

 

「あの時、あなたは私のことを『男』だと侮辱しましたね? 私はこういう見た目ですが、生物学上ではれっきとした女性です。ほら、胸も膨らんでいますし」

 

 そう言って、瀬川鳴海は自分の胸を天堂刑事に押しつけた。――状況が状況なら一種のご褒美だが、今はそういう状況ではない。

 

「まさか、僕があなたを見た目と名前で『男性』だと勘違いしたから……逃げたんですか?」

 

「その通りです。そして、逃げるにあたって、私は『瀬川鳴海』という名前を捨て、『木下奈々子』という名前でこのポートアイランドに潜んでいました。――まあ、結果としてそこの3人のせいで私の目論みはご破算になってしまいましたが」

 

 そこの3人。――多分、私と善太郎くんと達也くんのことなんだろう。私はそう思った。

 

 そんなことを思いつつ、善太郎くんは話す。

 

「これは俺の推測でしかないんだが、飯田桃子は多分お前が『瀬川鳴海』だということ知っていたんだろうな。そして、お前は『怪人赤マント』による事件が多発する中で弱みを握っている飯田桃子を始末しようとした。その結果、お前はポートアイランドの埠頭にある廃コンテナ群に彼女を呼び出し、ナイフで背中を刺して殺害した。――奇しくも、そこは事件現場はお前が天堂刑事から逃げた場所だった」

 

 善太郎くんの話を聞いて、瀬川鳴海は膝から崩れ落ちるように倒れた。

 

「くっ……。確かに、私は飯田さんから弱みを握られていました。多分、私の顔を見て『指名手配犯』だということに気づいたんでしょう。だからこそ、私は彼女を始末したかったんです。私は『怪人赤マントの事件』を利用して彼女を埠頭に呼び出し、背中をナイフで刺しました。ついでに彼女の皮も剥ぎ取ろうとかと考えましたが、そんなことをしたら警察の人間に私という存在がバレてしまう。だから、敢えて刺殺体の状態で埠頭に放置したんです」

 

 瀬川鳴海の話に対して、天堂刑事は質問をぶつけた。

 

「つまり、あの刺殺体は僕をおびき寄せるための罠だったんですね?」

 

「やっぱり、バレてしまいましたか。その通りです。あの刺殺体は、警察に『怪人赤マントは私だ』ということを見せしめるためのモノだったんです」

 

「そうですか。――あなたは、どこまでも僕のことを愚弄するんですね。そんなに愚弄して何が楽しいんですか?」

 

 瀬川鳴海がそう言った瞬間、私の肌に……冷たい感触を覚えた。まさか。

 

「そうねぇ……こうやって、色々な人間の肌に触れて、生きたまま剥ぎ取ることかしら!」

 

「おい、瀬川鳴海……やめろ!」

 

 善太郎くんに言われて、初めて私が命の危機に晒されていることに気づいた。私は、瀬川鳴海から頬をまさぐられて、その舌で舐められた。――キモッ。

 

「探偵さん、どうする? 私、あなたの大事な人を人質に取っちゃったけどさ」

 

 私の目の前には、数々の命を奪ってきた銀色のナイフが見える。多分、瀬川鳴海はこのナイフを使って人間の皮を剥ぎ取っていたのだろう。

 

 そういうピンチな状況にある私を横目に、善太郎くんは話す。

 

「ああ、俺はソイツを見殺しにする訳にはいかねぇ。ただ、俺が置かれている状況は最悪だ。なんせ、少しでも俺が動いたらソイツの頬に傷が付く状態だからだ。だから、残念だが……俺にはどうしようもねぇ」

 

 善太郎くん、諦めないでよ。私、こんな変態に殺されたくないのに。

 

 当然だけど、瀬川鳴海には善太郎くんの思考が見えていた。

 

「あら、分かってるじゃないの? そうよ、ちょっとでもあなたが動いたら……大事な人の頬に傷が付いて、顔の皮を剥ぎ取っちゃうんだから」

 

「どうやら、そのようだな。――ただ、俺に気を取られていて、もう一人の存在に気がつかない可能性だってあるけどな」

 

 善太郎くんがそう言った瞬間、瀬川鳴海の頬から乾いた音がした。

 

 ――パチン!

 

「ああ、失礼。手が滑っただけだ」

 

 気がつくと、私の目の前には達也くんがいた。達也くんは、瀬川鳴海から銀色のナイフを取り上げて――応接室のテーブルに突き刺した。

 

「あ、あなた……なんてことするの!? 私の大事なナイフは、皮を剥ぎ取るためのモノであって、テーブルに突き刺すためのモノなんかじゃないわ!」

 

「すまない。俺、こう見えて中高と柔道部だったんだ。俺の親が『格闘技ぐらい身につけておけ』ってうるさかったからな」

 

 そう言って、達也くんは瀬川鳴海につかみかかり――そのまま彼女を背負い投げで投げ飛ばした。

 

「ク……クソッ! どうして、私がこんな華奢な男に投げ飛ばされなきゃいけないのよ!」

 

「華奢で悪かったな。これでも、柔道は黒帯、四段の持ち主だ。だから、お前のような人間なんかは本気で投げ飛ばしたら死んでしまう可能性がある。だから、これでも手は抜いたつもりだ」

 

 達也くんがそう言ったところで、瀬川鳴海は狐につままれたような顔をしていた。マヌケだ。

 

「彩香、大丈夫か?」

 

 達也くんは、瀬川鳴海という変態から解放された私に駆け寄った。

 

「私なら、大丈夫だけど……どうして?」

 

「お前、頬に傷が付いている。今、藍沢園長に言って絆創膏を用意してもらうように頼むから、少し待っていてくれ」

 

 どうやら、私は瀬川鳴海から命を狙われる過程で少し傷を負ってしまったようだ。その証拠に、頬に触れるとごく微量の血液が手に付着してしまった。もちろん、私の血液なのは分かっていたのだけれど。

 

 それから、しばらくして藍沢真耶は絆創膏(ばんそうこう)を持ってきてくれた。

 

「これ、絆創膏だから」

 

「ありがとうございます。――彩香、少し待ってろ」

 

 そう言って、達也くんは私の頬に絆創膏を貼ってくれた。少し痛いけど、これぐらいの傷なんて……我慢してやるさ。

 

 そして、瀬川鳴海という存在は――警察の手によって逮捕された。もちろん、逮捕したのはあの時彼女を捕り逃がした天堂刑事だった。

 

「木下奈々子……いや、瀬川鳴海。あなたを殺人の容疑で逮捕します」

 

「そうですか。まあ、当然ですよね。私なんて、逮捕されて当然の人間ですから」

 

「確かに、あなたがやってきたことは『皮剥ぎ魔』としても『怪人赤マント』としても凶悪ですね。恐らく、裁判でも極刑が下されると思います。でも、そういう判断を下すのは我々警察ではなく裁判官の仕事です。それだけは、弁えておいてください」

 

「分かりました。それじゃあ、私はこれで……」

 

 そう言って、天堂刑事から手錠をかけられた瀬川鳴海は応接室から去って行った。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 刑事たちに連れられて瀬川鳴海が去って行ったことにより、応接室には私と善太郎くん、そして達也くんだけが残された。

 

「事件、解決したけど……これで良かったのかしら? 私、正直言って分からないわ」

 

「ああ、多分……これで良かったんだと思う。結果として、『怪人赤マント』の正体は『瀬川鳴海』という殺人鬼だったしな」

 

 善太郎くんがそう言ったところで、達也くんも話す。

 

「確かに、お前の言う通りだな。まあ、結果として俺は『怪人赤マント』の一部始終をこの目で見届けた訳だし、後日動画のほうは配信していこうと思う。――まあ、お前にもゲスト出演してもらう可能性はあるが」

 

「そうだな。俺、実際にこの目で達也と話してみて、意外と良い奴だって思ったしな」

 

「善太郎くんと達也くん、すっかり打ち解けたわね。私、なんか嬉しいわ」

 

「それはどうも。――だが、俺から彩香を奪うような真似はするなよ? 善太郎」

 

「べ、別に俺は彩香に対して好意を抱いてねーし」

 

「いや、お前が彩香に好意を抱いているのは顔から見ても明らかだ」

 

 これはマズい。私は思わず2人の間に割って入った。

 

「あの……お取り込み中のところ失礼するけど、私、別にあなたたちに対して恋愛的な感情は抱いてないわよ?」

 

「えっ?」

「はぁ?」

 

「だから、私はあくまでもあなたたちのことを『友人』として見ていて、『恋人』としては見てないの」

 

「そ、そうなの……」

「そうなんだ……」

 

「だから、善くん、達也くん、これからも……私のこと、友達として見てくれるかしら?」

 

 結果的に、私が止めに入ったことによって2人との関係は有耶無耶で終わってしまった。

 

「わ、分かった……」

「お、おう……」

 

 2人とも、私の発言に対してなんだか突拍子もない表情を浮かべていたけど……多分、それで良かったんだと思う。どうせ、私は結婚なんて1ミリも考えてないし。1ミリで命運を分けた三笘薫じゃあるまい。

 

 

 外に出てカーキ色のGショックを見ると、時計の針はすでに日付変更線をまたいで午前1時前を指していた。――あの、私……電車で来てるんだけど。

 

「はぁ、終電なんてないわね……」

 

 私がそう言ったところで、達也くんは言う。

 

「お前、芦屋だったな。――送ろうか?」

 

「達也くん、良いの?」

 

「ああ、良いぜ? どうせ、善太郎はバイクだろ?」

 

「俺がバイクで来ているってよく分かったな」

 

「当然だ。今時あんな『アキラ』みたいにバイクを停めるヤツなんていないだろう。まあ、あのシーンでバイクを停めたのは『アキラ』じゃなくて『金田』だけどな」

 

「そうだな。――それはともかく、バイクの2人乗りは道交法違反だからな。俺はもう帰るぜ」

 

 そう言って、善太郎はバイクにまたがり「にじいろハウス」から去って行った。そして、私と達也くんだけが残された。

 

「それじゃあ、俺も……帰るぞ。もちろん、お前を乗せてな」

 

 そう言って、私は達也くんの日産GTRに乗った。

 

 帰り道。私は達也くんとぎこちない話をしていた。

 

「それにしても、お前はどうして善太郎と付き合うようになったんだ?」

 

「そ、そんなこと言われても……ただ、小学生の時からの腐れ縁って言うしかないけどさ」

 

「そうか。――しかし、お前にそういうボーイフレンドがいるとは考えていなかったな。俺とお前はあくまでも大学のミス研での付き合いだが、お前にとって善太郎は小学生の時からの腐れ縁。だから、俺よりも付き合いが長いことになる。まあ、俺は善太郎からお前を奪う気はないが」

 

「達也くん、嫉妬してんの?」

 

「いや、嫉妬はしていない。ただ、ちょっと羨ましいって思っただけだ」

 

「そ、そうなのね……」

 

 日産GTRのカーナビからは、ドゥ・アズ・インフィニティの曲が流れている。達也くんの好きなロックバンドである。

 

 そして、カーナビのハードディスクに積まれているアルバムはいわゆる「第1期」と呼ばれる時代のモノで、『ディープフォレスト』というドゥアズ屈指の名盤の曲が流れていた。そして、よりによってぎこちない話のタイミングでカーナビからは女性目線の激しい恋愛ソングである『恋妃』が流れていた。車も、もうちょっと空気というモノを読んでもらえないか。

 

 そんなことを思っているうちに、日産GTRはあっという間に芦屋へとたどり着いた。

 

「深夜なら、国道2号線でも早いな。――お前のアパート、確か芦屋川沿いだったな」

 

「そうよ。芦屋川沿いの『レモンハイツ』ってアパートだから」

 

「えーっと、芦屋川を登っていって……ここか。着いたぞ」

 

「今日は色々とゴメンね。達也くん、明日も仕事があるのに」

 

「ああ、良いんだ。俺、意外と夜行性だし」

 

「そうなのね。――まあ、無理のない程度に頑張って」

 

「ああ、分かっている。お前も、早く寝ろよ」

 

「分かったわ。それじゃ、おやすみ」

 

 そう言って、私は達也くんと別れた。

 

 

 自分の部屋に入って、私はとりあえずシャワーを浴びた。そして、部屋着に着替えるなりそのままベッドに倒れ込んだ。相当疲れていたから仕方ないだろう。当然だけど、その後の記憶なんてある訳がない。夢すら見た覚えがないからだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。