怪人赤マントの殺人   作:卯月絢華

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エピローグ

「――なるほど。『怪人赤マント』の正体は猟奇殺人犯として指名手配されていた瀬川鳴海という女性だったんですね。そして、彼女の手によって作り出された遺体を見てしまったことによって……卯月先生は事件に巻き込まれてしまったと」

 

 翌日。講談社の担当者である森下博継(もりしたひろつぐ)との打ち合わせで、私が「怪人赤マントを捕まえた」と話したことによって仕事の話を棚に上げて事件の話をすることになった。

 

 私は話す。

 

「そうなんですよ。私が追っていた『怪人赤マント』は、かつて神戸を震撼させた『皮剥ぎ魔』である瀬川鳴海だったんです」

 

「でも、結果として未解決だった瀬川鳴海の事件まで解決したことになりますし、ウィンウィンだと思いますけどね?」

 

「まあ、森下くんがそう言うなら、そうなんでしょうね。――まあ、私としては二度と事件になんか巻き込まれたくないと思っていますが……」

 

「それはそうでしょう。ライバル会社の『偉大なラブコメ推理漫画』じゃあるまい」

 

「いや、あなたのところにも『金田一少年の事件簿』っていう偉大な推理漫画があるじゃないですか。作家さんが宗教トラブルを起こしたのはさておき」

 

「そ、そうですね……。まあ、それはともかくゲラPDFは読ませてもらいましたよ? いい感じですね、今回の原稿も」

 

「ああ、若干『怪人赤マント』の事件に引きずられてしまいましたが……私としては、良い経験になったと思います。この経験を元に、創作活動を続けていければ良いと考えていますし」

 

「そうですか。――卯月先生、次の新作もお待ちしておりますよ? 僕は、あなたのマネージャーなんですから」

 

 そう言って、私は森下博継との打ち合わせを終えた。――ダイナブックには、相変わらず自分の醜い顔が映っていた。

 

 それにしても、あの事件……かなり厄介なモノだったな。私はそう思っていた。あれから、善太郎くんは「もう探偵は懲り懲りだ」って言ってたし、達也くんも「正直『怪人赤マント』の正体について動画を掲載するのを躊躇するレベルだ」と言っていた。それぐらい、あの事件は気持ち悪いモノだった。姉を殺されているというバックボーンがあるにせよ、宮代刑事が怒りに震えるのも分かる。

 

 そういえば、宮代刑事ってあれからどうしているんだろうか? 私は気になった。多分、一連の事件の調書に追われててそれどころじゃないんだろうけど……。

 

 そう思っていると、私のスマホに着信が入ってきた。着信元は、兵庫県警だった。

 

「もしもし、私は廣瀬彩香という者ですが……どうされましたか?」

 

「私ですよ、私。捜査一課の宮代仁美ですよ」

 

 都合の良いところに、宮代刑事から電話がかかってきた。――私は話す。

 

「宮代さん、どうして私に電話を?」

 

「事件に対する事情聴取ですよ。本来なら、ウチの署まで来てもらいたいんですけど……多分、忙しいと思って電話での事情聴取にしたんです。ほら、廣瀬さんって小説家じゃないですか」

 

「確かに、私の職業は小説家ですけど……良いんですか? 電話での事情聴取」

 

「良いんですよ。――それじゃあ、早速……」

 

 そう言って、私は宮代刑事から事情聴取を受けることになった。当然だけど、事件について彼女には事細かく説明した。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「それじゃあ、私はこれで失礼します。――廣瀬さん、小説の方……がんばってくださいね? 陰ながら応援していますから」

 

「分かりました。――失礼します」

 

 そう言って、宮代刑事からの事情聴取は終わった。――なんか、疲れたな……。

 

 とはいえ、私に疲れている暇はないので、再び原稿を書き始めた。次はどんな原稿を書いてやろうか。そんなことを考えていると、今度はスマホが短く鳴った。――何なんだ。

 

 通知欄には動画投稿サイトの更新通知が入っていた。どうやら、達也くんの動画チャンネルに新しい動画が配信されたらしい。スマホの小さな画面じゃなくて大きな画面で見たいから、私はダイナブックで動画投稿サイトを開き、件の動画を再生した。

 

「――皆さん、神戸を血の海に変えた『怪人赤マント』が逮捕されたニュースはすでに見ていると思われますが、『怪人赤マント』の正体はかつて神戸を震撼させた『皮剥ぎ魔』こと瀬川鳴海という女性でした。彼女は身分を偽り『木下奈々子』としてポートアイランドに身を潜めていて、4人の子供と1人の大人を赤いマントという名の血で染めました。まあ、逮捕の瞬間は俺も訳あって立ち会っていましたが、その過程で俺はある人物と知り合いました。――善太郎、来てくれ」

 

 達也くんがそう言うと、横から善太郎くんが入ってきた。――ゲスト出演って、マジだったのかよ。

 

「ああ、俺が今回の事件の解決に一役買った神船善太郎だ。まあ、俺のことを『探偵』として見ている視聴者が多いかもしれないが、俺はそんな大それた人物じゃない。普段の俺は、Webエンジニアとして働いているだけの一般人だからな。まあ、達也も一般人といえば一般人だが」

 

「そういうわけで、俺は探偵である神船善太郎から今回の事件について色々と話を伺いたいと思っています。まずは――」

 

 なんだ、善太郎くん……自分が「探偵」という自覚を持ってんじゃん。まあ、あの状況下で探偵役を務められるのは、善太郎くんか達也くんしかいなかったし。

 

 それから、私は動画を最後まで見終わったが……達也くんが言ってたことは、私がこの目で見たモノとほとんど同じだった。――少し、脚色はしてあったけど。

 

 動画の再生を終わった時点で、私は善太郎くんのスマホにメッセージを送信した。

 

 ――善くん、動画……見させてもらったわよ?

 

 ――まさか、ホントに達也くんの動画にゲスト出演するなんて思ってもなかったからさ。それも、「探偵」として。あれだけ「探偵」って言われるの嫌ってた割には、まんざらでもないじゃん。

 

 そこまでメッセージを送ると、善太郎くんから即座に返信が送られてきた。

 

 ――ああ、俺が「探偵」だと言われることはまんざらでもなかった。ただ、恥ずかしかっただけでな。

 

 ――それはともかく、俺は二度と探偵なんてやあないからな。あんなモノ、やるだけ損だ。

 

 ――それと、ヤクルト1000……ありがとな。見覚えのないアマゾンの荷物からヤクルト1000が出てきたときは「お前は相変わらず冗談を真に受けるタイプだ」と思ったけどな。まあ、ありがたく飲ませてもらうぜ。

 

 ――それじゃあな。

 

 善太郎くん、私がアマゾンでヤクルト1000を買ったこと……気づいてたんだな。配送先、善太郎くんの家にしてたし。

 

 そして、私も……ちゃっかりアマゾンで買ったヤクルト1000を飲んだ。(了)

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