しぶころ用作品です。

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鯉心

今年ももう終わりかという頃。

私はようやく実家に戻れていた。

今年の初めに持病が悪化して入院をしていたのだが、何とか年内に戻れて一安心だ。

少し埃っぽい室内を軽く換気しながら、私は家の裏手を見に来た。

裏手には池があり鯉が居るのだが、1年も離れていたのだから鯉の状態など分かりきってる話だ。

しかし、予想に反して鯉は生きていた。

多少傷つき痩せたように見えたが、元気にヒレをひらひらと揺らして泳いでいたのだ。

私を認識したのか、水面に近づき口をパクパクとさせていた。

その姿がどうにも愛おしく思えた。

 

「1年も見ていなかったというのに、私がわかるのか?」

 

つい声を掛けてしまったが、鯉に人間の言葉が分かるわけもない。

だが、鯉は私に顔を向けて何か喋りかけているように見えた。

気のせいだと言われればその通りだろうが、私は鯉が私に話しかけていると信じてみたくなった。

 

「そうか。この一年ずいぶんと苦労したんだな。

 私もこの一年死ぬかと思いながらも頑張ってここに戻ってきたよ」

 

すると、鯉が急にくるりと私に背を向けて池の底の方に戻っていった。

そろそろ身体が冷えてきた頃だったので、換気もそろそろ済んだ頃だろうと鯉に倣い家に向かうことにした。

その後は軽く私室を掃除し、他のところは明日で良いか思いながら眠ることとしたのだが。

ふと。不思議な夢を見た。

赤い錦を身にまとった妙齢の女性が私の枕元に座っている夢だ。

女性は私の額を撫でながら此方を優し気なまなざしで見下ろしてきている。

そんな夢だった。

私は不思議に思いながらも朝食を済ませ、家の掃除を始めた。

そして、布団を干している時だった。

なんとなく視線を感じると思い視線の主を探すことにしたのだ。

敷地外からの視線はありえない。

敷地を囲うように生け垣が敷かれているし、なんなら近くには家屋すらほとんどないのだ。

そもそも、私は昨日帰って来たばかりで数少ない近所の人は未だにその報を知らないだろう。

つまり、私の帰還を知ってる人ということだが心当たりがない。

いや。一匹だけ私が帰って来たのを知っている存在が居るがありえないだろう。

まさかと思いながらも私は鯉を見に行くことにした。

 

「何やら視線を感じるんだが、何か知ってるか?」

 

鯉を見つけて話しかけてみるが、当然答えが返ってくることはない。

当たり前だ。なにせ、鯉なのだから。

しかし、またしても鯉は私に対してなにやら語り掛けてきた。

 

「すまないな。私は鯉の言葉は分からないんだ」

 

「だが、お前とも長い付き合いだ。

 なんとなく私が返ってきたのを喜んでくれてるんだろうなというのは分かるよ」

 

不審な行動をしていたからだろうか。

いつの間にか視線は感じなくなっていた。

まあ、当然だろう。

自分の飼っている鯉に語り掛けるような姿だ。

例えストーカーだとしても100年の恋が冷めるというものだ。

そんなことがありながらも、何とかその日のうちに掃除を終わらせることができた。

やはり、住む場所というのは綺麗な方が住み心地が良い。

 

「それにしても、あの鯉ともかれこれ20年の付き合いか。

 随分と長く一緒に居たものだな」

 

晩酌をしながら、ふと独り言ちる。

そうだ。あの鯉は私が小さい頃から両親が世話をしており、いまだに存命なのだ。

鯉の寿命というのはよくわからないが、20年も生きればもう年だろうに。

 

「鯉が生きている間は、寂しい思いをしなくてすみそうだな」

 

この生活がどれほど続くかわからないが、あの鯉もそう長くはないだろう。

そんなこと思いながらこれからのことに思いを馳せる。

今日もまた、不思議な夢を見たのだった。


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