奴隷の主は持て余す   作:ameiro nishiki

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クズは死んでも治らない

 本来の姿に戻ったおかげで特に騒がれることも無く、僕は目的地である二ポーン食堂に辿り着いた。

 もともとナナカ・ロートを知っている人からは何度か声を掛けられたけど、それは許容範囲内。僕にだって表の知り合いはいるのだ。

 

 さてそんなことよりも。

 

 「流石人気店……」

 

 到着したのは良しとして、食堂の前にズラリと並んでいる行列に目眩がした。ご飯時はとっくに過ぎているのにこれって、ピーク時はとんでもないことになってそう。

 

 困ったな。どう考えても今並んでしまったら余裕で1時間は越えそうだ。これだけの行列が出来るってことは、二ポーン食堂の料理がそれだけ信頼されてるって事の証。

 つまり僕が考えていたようなゲテモノ料理が出されないことは確かだろう。それが分かってしまっただけに残念。

 

 (しょうがないかー。諦めてテキトーにそこら辺の出店でお腹を満たそう)

 

 「おら邪魔だ、どけ」

 

 「ちょっと! 何するのよ!?」

 

 (おやおや?)

 

 後ろ髪を引かれながらもその場を去ろうとしたその時、二ポーン食堂の前から何やら騒ぎ声が。

 視線を戻してみると、行列の最前列に割り込み、他の客と言い争いをしている連中の姿が確認できた。

 

 なんてこった。そこまでするほどに美味しいのか。恐るべし二ポーン食堂。

 

 「ああ? うるせぇよ女。こっちはバカみてぇな距離を散々歩かされて腹ぺこなんだ」

 

 「おとなしくしとけ。死にたかないだろ?」

 

 「ふざけないで! あんた達の事情なんて知ったことじゃないわ! みんな並んでるんだから、あんた達も守りなさいよ!」

 

 「ハッ、お前等の事情なんざ知ったことじゃないね」

 

 「アレットでこんな事してタダで済むとでも思ってるの!?」

 

 わー、よくやるよ。白昼堂々マナー違反をしてるハゲ頭の男達も大概だけど、そんな強面連中に一歩も退かずに食って掛かる赤毛の女性の勇ましさったらないね。

 

 いい時間潰しになりそうだし、成り行きを見守ってみよう。どんな結末になるのか楽しみだ。これで両手に串焼きとお酒があれば完璧だったのに。

 

 「どう済まないってんだ? もしかして嬢ちゃんが俺達を叩きのめすとでも? 立場ってもんを弁えろよ」

 

 「まぁでも、嬢ちゃんが体で払ってくれるってんなら列に並んでやってもいいぜ。な?」

 

 「おぉそりゃいい! 移動続きで溜まっちまってるからな。悪い話じゃねーだろ?」

 

 わー、最低だー。これで実は女性が隠れた実力者だった! 的な展開ならあの人達がボコボコにされて終わりなんだろうけど、悲しいかな女性はどこにでも居る一般人だ。

 それとなく測ってみたところ人なら誰もが宿している魔力も平均以下の量。足運びから見ても素人丸出し。正しくか弱い存在だね。

 

 対してハゲの方はと言えば、こちらも魔力総量で言えば大したものじゃない。でも明らかな体格差と人数不利。女性の分が悪いのは火を見るより明らかだ。

 

 「サイテー、心底クズねあんた達。

 何度も言うけど、アレットで騒ぎを起こせば困るのはあんた達よ。下手に私達に手を出せばヴォイド様が黙ってないんだから!」

 

 そうそう、その通り。…………ん?

 

 「ヴォイド? 誰だそりゃ」

 

 「さぁ?」

 

 「ヴォイド様を知りもしないでアレットに来たの? はっ、バッカじゃない?

 言ってみればヴォイド様はアレットのトップ! あの方が治めてるこの街で余所者が粗相をすれば、あんた達みたいな小物は一発でブタ箱行きよ」

 

 え〜、僕っていつからアレットを治める立場になったんだろ。何も聞かされてないし、そもそも既にトップは居るでしょ。

 

 「言わせとけばこのアマ……!」

 

 「な、なによっ、触らないで!」

 

 威勢良く吠えた勇気は見事と思うけど、ヴォイドの名前を出してもハゲ達は一切怯んだ様子なく女性の腕を掴んだ。

 そりゃそうだよ。僕を知らない人にそんな啖呵切ったところで効果なんて望めるわけないじゃないか。

 

 あと嘘もいただけないな。さっきも言った通り僕はアレットのトップではないし、悪人をいちいち懲らしめる正義の味方でもないのだ。

 僕の夢を叶える糧にならないのなら、どこで何が起きようが知ったことじゃない。そう、僕は基本的に揉め事には関わらない主義である。

 

 だからまぁ、こういった場面に遭遇してしまった場合、僕に出来ることはただ一つ。

 

 (おっ、女性の平手打ちが入った。いったそ〜)

 

 傍観者に徹する。これに限るよね。

 普通なら助けを呼ぶべきだろう。でもそれをしてハゲ達に睨まれたらそれこそ面倒くさい。黙らせる労力すら面倒くさい。

 

 何度でも言うが、僕の利にならないのなら……この世で起きる全ての出来事はどうでもいいことだ。

 

 「調子に乗ってんじゃ──!」

 

 「そこまでだ!」

 

 今にもハゲが女性を殴りつけようとしたその時、大通りに凛とした声が響き渡る。

 ハゲと女性の間に割って入った一人の男性。一目見ただけで分かる上等な鎧、身の丈ほどもある長剣を背負い、僕と同じ白い髪を靡かせている。首から下げられているのは冒険者の証であるプレート。

 

 良いタイミングで救世主が来たもんだ。そんでもって、そいつが見知った顔だったからついつい嫌そうな顔をしてしまった。

 

 「か弱い女性を寄ってたかって嬲ろうとは言語道断! そこに直れ悪党共!」

 

 「ウェイン様だわ!」

 

 「きゃーっ! ウェイン様ー!」

 

 そのウェイン様とやらが現れた途端、周りがにわかに騒がしくなった。主に女性達の黄色い声が凄まじい。

 あっという間に場の雰囲気を支配したもんだからハゲ達は完全にアウェー状態だ。

 

 「何だテメェ!」

 

 「私はウェイン・ロート。このアレットで冒険者をしている者だ。貴様等こそ何者だ」

 

 「ああ? 冒険者だぁ? ケッ、ギルドの庇護下でちまちま稼ぐことしかできねぇ小物が偉そうによぉ」

 

 「ほう? この私が小物に見えると?」

 

 言いつつ、ウェイン様がこれみよがしにプレートをチラチラと見せつけた。皆まで言わせるなと言わんばかりの行動に、僕の機嫌も急降下である。

 

 相変わらずの目立ちたがり屋。周りからの評価が気持ちいい〜! 感が丸出しだよ。あーやだやだ。

 

 「ちょ、マズイぜ。ありゃミスリル級の冒険者だ……!」

 

 「そうとも! 私はアレットで唯一のミスリル級冒険者! そこいらの底辺組と同じにしないでもらいたいものだな!」

 

 自分は上げて周りは落とす。典型的なタイプではあるけど、実際に実力自体はあるから周りも口を出せない。一応は飾りじゃないんだよねあのプレート。

 

 「さて、そんな私を相手にまだくだらない争いを続けるつもりかな? 続けるのならそちらが大怪我をするのは間違いないが……返答を聞こうか」

 

 「……チッ、おい行くぞ」

 

 「お、おう」

 

 「ふん、それでいい。底辺は底辺らしく退くのがお似合いだ」

 

 特に一悶着も起きず、ハゲ達は群衆を押し退けながら人混みの中へと消えて行った。去り際に恨みがましくウェインを睨みつけていたし、これは相当に因縁をつけられそう。知らんけど。

 

 さて、突発イベントも終わってしまったことだし、当初の予定通りどこかお腹を満たせる店にでも──。

 

 「おい」

 

 行こうとしたところで(くだん)のウェインご本人に捕まってしまった。これだけの人混みの中から僕を見つけるって、本当に目敏いよね。

 

 「お前、初めから見ていただろう。何故あの女性を助けなかった」

 

 「何故も何も僕はひ弱な一市民。出て行ったところで返り討ちは目に見えてるでしょ」

 

 「ふん、やられるのが怖くて傍観者に徹するか。我が()ながら愚かしいことだ。お前の行動一つで私の評価が下がる可能性もある。分を弁えることだな」

 

 「その分を弁えた結果だけど?」

 

 「結果的にお前が殺されたとしても、身を呈して女性を守ろうとした、流石はウェイン様の弟だ。素晴らしい兄を持つが故の英雄的行動!

 分かるだろう? 命を捨ててでも兄の株を上げるのがお前の役目だ。分を弁えろとはそういうことだ」

 

 めちゃくちゃなこと言ってらぁ。

 

 とまぁこんなキチガイ発言してる男が誰なのかって話だけど、名前はウェイン・ロート。お察しの通り僕の兄である。

 兄弟仲は控えめに言ってもすんごく悪いね。兄は無能な僕をロート家の恥晒しだと言って暇があればボロカスに扱き下ろし、僕は僕で何かと突っ掛かって来るウェインが鬱陶しくて仕方ない。

 

 僕からして見ればコイツの方がロート家の恥晒しなんだけど、生憎と本物のバカは自分に都合の良い考え方しか出来ないものだ。

 ま、僕が無能って信じて疑わない様は見てて面白い所ではあるから、鬱陶しくても僕の力は秘密にしてるんだよね。

 

 「それはそれは、配慮に欠けてしまい申し訳ありませんお兄様」

 

 「……ふざけているのか?」

 

 「とんでもない。偉大な兄に対して敬意を払っただけだよ」

 

 「ふんっ、まぁいい。次はもっと上手く立ち回る事だな」

 

 最後まで汚物を見るような目つきで僕を睨み付け、ウェインは先ほどハゲ達と激しい言い争いをしていた女性の元へ戻っていった。

 

 「無事だったかな? レディ」

 

 「……一応お礼は言っておくわ」

 

 「なに、気にすることはない。弱者を助けるのが私の役目だからな。怖い目にあってしまったことだし、しばらくは私が一緒に居てあげ──」

 

 「触らないでくれる?」

 

 お、これはまた面白い展開になってきた。

 助けた女性をお持ち帰りしようとするのはウェインの悪い癖だ。今回もそれを遺憾なく発揮し、徐に女性の手を取ろうとした瞬間、バチンと叩かれて失敗に終わった。

 

 「ウェイン・ロート。あんたの事は知ってるし、あんたがどういうつもりで私を助けたのかも大体分かってる。

 助けてくれてありがとう。でもこれ以上の進展は無いから消えてちょうだい」

 

 「……好戦的だな。私が何かしただろうか?」

 

 「どうかしら。少なくとも私に言えるのは、私はウェイン派ではなくヴォイド様派ってだけよ」

 

 凄いなあの子。どうやら僕と同じでウェインを嫌ってるみたいだけど、ド素人の身でミスリル級冒険者相手にあそこまで啖呵を切れるって相当に肝が座ってるな〜。

 

 これまた見逃せない展開なので、とりあえず僕は近くの出店で飲み物を購入して傍観者に徹することにした。

 

 「なるほど。君もまたヴォイドに付け込まれ洗脳されてしまった口か。なんと嘆かわしい。

 あのような怪しげな仮面を被り、出処不明の魔魂を大量に持ち込んで私腹を肥やしている輩に入れ込むのは感心しないな」

 

 うん、怪しい仮面ってのは否定しない。というか仮面付けてる人なんて大体怪しいからね。

 でも僕はその怪しさを実績で払拭してる。魔魂もそうだけど、人当たりよく振る舞うのは怪しさを誤魔化す為でもあるのだ。そんな努力が報われて今では持ち上げられっぱなしさ。

 

 (……努力? うわっ、そうか。これも努力に入っちゃうんだ。やだねぇホントに。もっと肩肘張らずにダラけてもいいかもしれないな〜)

 

 努力が嫌過ぎてせっかく築き上げたヴォイドととしての立場を崩したくなった。でも我慢、我慢だ僕。

 

 「洗脳? 仮面? ハッ、あんたがそれを言うの?」

 

 「どういう意味かな?」

 

 「甘い仮面を貼っ付けた裏には真っ黒な私利私欲まみれ。力と立場に甘えて他者を貶め、自分を肯定する人だけを取り込んで崇めさせる。そんな奴がどの口でヴォイド様を語ってんのかしらって意味よ。

 女性全員があんたが思ってるみたいにチョロいとは思わないことね」

 

 おぉう、その言葉僕にも刺さるんですけど。少なくとも力と立場に甘えて私利私欲まみれなのは僕も同じだ。

 そういうところは兄弟で似通ってるのかも。……うわ気持ち悪い。

 

 「……なるほど、随分と重症らしい。では聞くが、ヴォイドは違うと? 裏では何をしているかも分からない奴ではないか」

 

 「そうね、私もヴォイド様が普段何をしているのかなんて知らない。でも、あの方はアレットの皆に対していつも真摯的に向き合っているわ。

 誰が相手だろうと毅然に振る舞うその姿勢、身分や職業なんて関係なく平等に接する慈悲深さ。どっちもあんたには無いものだわ。

 女性に良い格好したいだけのあんたと一緒にしないでちょうだい」

 

 わー、持ち上げ過ぎぃ。あの子、冗談抜きで心の底からヴォイドに心酔してるっぽい。

 今言ったこと全部が僕の演技だよって教えたら失神しちゃうんじゃなかろうか。物事を円滑に進める為に当たり障りなく過ごしてきただけなのにさ。

 

 それはそうとウェインの額に青筋が浮かんでる。あれはかなり頭に来てるね。ここでカッとなって剣を抜くのもそれはそれで面白い展開だけど、さてどうするのかな?

 

 「ふ、ふふ……よく分かったよ。どうやら君には何を言っても無駄らしい。だが少し、態度を改める必要があるのではないかな?」

 

 ウェインの目つきが怪しくなった。あれは所謂、悪人御用達のネッチョリ視線(僕命名)。あんな目をする奴がこの後どんな行動に出るかは大体分かる。

 あの子も藪を突き過ぎたね。引き際を弁えなきゃいつまで経っても半人前さ。……ま、僕もそんなの知らないけど。

 

 (不穏な空気を感じ取って皆もざわつき始めた。一騒動起こるなこりゃ。いやぁ良い暇潰し──……ハッ!!?)

 

 その時、なんとなしに二ポーン食堂前に立て掛けられていたボードに目を奪われた。

 そこには本日の定食と書かれたメニュー表が貼り付けられていたが、問題はそこじゃない。

 

 その下に更にこう続いていた。

 

 『本日限定! カップルでのご来店で食後のデザート無料!!』

 

 なんてことだ。隠れ甘党な僕の前にデザート無料だなどと、そんな甘美な言葉を掲げる意味を理解しているのか?

 しかも本日限りかつカップル限定とはやってくれる! 今日を逃せば無料ではなくなるし、そもそも恋人居ない奴は来んじゃねぇという潔さ。

 

 その言葉、僕への挑戦と受け取った!

 

 となればプラン変更だ。このまま傍観者で居ては目標達成など夢のまた夢。と言うより1人では意味が無い。

 カップル、つまり女性が必要だ。この場で二ポーン食堂のデザートにありつく為に利用するべき人材は……うん、1人しか居ないよね。

 

 標的はウェインと言い争っている女性に決定。

 即座に魔力を漲らせ、僕の周りにだけ認識阻害の魔力壁を構築。これで周りから僕の存在が認識されることはなくなった。

 

 そして素早くヴォイドの姿へと変わり、認識阻害を解除。

 僕がこの場に現れることで騒がれるのは重々承知。しかしそのリスクを負ってでも達成すべき目標がある。

 

 珍しい料理を提供してくれるらしい二ポーン食堂。そこのデザートとなれば甘党として黙ってはいられない。何より無料! タダ! 素晴らしい! お金を使わず楽しめるなんて見逃す方がバカだ!

 

 「な、なによ」

 

 「仮にも私はミスリル級の冒険者だ。先程の発言は私の評判を貶める行為に該当すると判断し、その身柄を拘束させてもらおう。

 なに、証拠が無くともギルドも私の言葉なら信じてくれることだろう」

 

 「はぁ!? ふざけないでよ!」

 

 「選択を誤ったのは君の方だ。今まで通りの生活は送れなくなるだろうが、悪く思わないでくれ」

 

 「ひっ」

 

 ウェインが女性へ手を伸ばした。ここだ!

 

 「何をしている、冒険者ウェイン・ロート」

 

 いかにも「私、不愉快です」っぽい声音で話し掛けてあげれば、ウェインはギョッとした様子で僕の方を見た。

 対して女性の方は、怒りやら恐怖やらで歪んでいた表情から一変。パッと花を咲かせたような表情を浮かべる。

 

 「ヴォイド様!」

 

 「ちっ……面倒なのが」

 

 ふふ、良い表情だウェイン。正直ヴォイドを目の敵にしていたことは前から知ってたし、あることないこと吹聴しまくってるのも把握済み。

 日頃好き勝手にやってるのを見逃してあげてるんだから、今日は僕がデザートにありつく為の噛ませ犬として活躍してくれたまえ。

 

 「感心しないな。本来なら他冒険者の手本となるべき者が、白昼堂々言いがかりで女性を連れ去ろうとは」

 

 「言いがかり? おかしなことを言う。この女は私を貶める発言をしたのだ。相応の罰を受けて然るべきだろう」

 

 「貴方こそおかしなことを言うのだな。その女性が口にしたのは貴方への正当な評価だ。実際、裏では随分とヤンチャをしているそうじゃないか。

 弄ばれたと嘆く女性も少なくない。中には娼館へ売られた女性も居るとか居ないとか。それを私が把握していないとでも?」

 

 「な、何故それを……!」

 

 うわ、当てずっぽうで言ったのにマジでそんなことやってるの? ロート家の恥どころじゃないんですけど。

 

 「それを承知でその女性をギルドへ連れて行くなら好きにしたまえ。だが、当然私も同行し証言をさせてもらう。もちろん裏の悪事も洗いざらい提供する。

 さて、その上でギルドは貴方と私、どちらの証言を信じるのだろうな?」

 

 言っちゃあなんだけども、アレットの冒険者ギルドともズブズブの関係だから、仮にどちらの証言も偽りだったとしても十中八九僕が勝つ。

 信用ってのは大事なんだよ? 残念だねお兄ちゃん。

 

 「これで終わったと思うなよ寄生虫め」

 

 「その言葉、そっくりそのままお返ししよう」

 

 ウェインも考えなしのバカではない。腐ってもミスリル級の冒険者ではあるから、引き際も弁えているようだ。

 直ぐに女性から離れてウェインは人混みの中へと消えて行った。

 

 「やれやれ、一時はどうなることかと思ったが流石はヴォイド様だ」

 

 「道を開けろ! ここで騒ぎが起きていると……ってヴォイド様!?」

 

 「遅いぜ衛兵の兄ちゃん。とっくにヴォイド様が解決してくれた後だ」

 

 どうやら誰かが衛兵に知らせてくれたらしい。ふぅ、危ない危ない。もう少し助けるのが遅れていたらデザートにありつけなかった。

 いやいや、まだ作戦は終わってないのだ。最後まで油断しちゃダメだぞ。

 

 「間一髪だったな、お嬢さん」

 

 「は、はいっ! あの、ヴォイド様、本当にありがとうございます!」

 

 さっきまでの強気な態度はどこへやら。女性は目をキラキラと輝かせながらしきりに頭を下げてきた。

 

 「気にすることはない。私としてもあの男には頭を悩まされていたところだ。これで少しは懲りただろう」

 

 「……どうでしょう。勘違い男ほど面倒な存在はいませんし」

 

 うわ、キラキラしてたのに目からハイライトが消えた。よっぽど嫌いなんだなウェインのこと。奇遇だね、僕も大嫌いさ。

 

 「さて、問題は解決したが……新たな問題に直面してしまったな」

 

 「問題、ですか?」

 

 「ああ。二ポーン食堂とやらの存在を聞いて私も興味が湧いてね。どんなものを出してくれるのかと楽しみにして来てみたのだが……この行列だ。

 生憎とあまり時間をかけるわけにもいかない。残念だが今回は諦めることにしよう」

 

 まぁ諦めませんけど。さぁ僕に出来ることはやった。あとは君次第だよ!

 

 「で、でしたら! 私と一緒にどうでしょうか!? 助けてもらいましたし、ぜひご馳走させてください!」

 

 食い付いたっ!! しかもデザートだけでなくランチまで無料で食べれるおまけ付き! 分かってるねお嬢さん!

 

 よし、これでお嬢さん側はオッケー。あとは周りへの心象だ。

 

 「本当にいいのか? 私と一緒では落ち着いて食事も出来ないだろう?」

 

 「とんでもない! むしろぜひ! というかお願いします! です!」

 

 随分と興奮気味だな。熱心なヴォイド崇拝者みたいでちょっと怖いけど……まぁ僕に害を及ぼす程じゃないし、いっか。

 

 「……そうか。ではお言葉に甘えさせてもらおう。

 しかしタダというのは流石に気が引ける。代わりと言ってはなんだが一つアドバイスを君に贈ろう」

 

 「はぁ〜……! ヴォイド様が私にアドバイスを! な、なんて光栄なのかしらっ!」

 

 ちょっとこの子の反応怖い……いやいや、我慢我慢。全てはデザートのため。

 

 「好き嫌いをハッキリ伝える君の性格は美徳でもあり悪徳だ。誰彼構わず噛み付くのは獣とさして変わらない。

 まして満足に力も持っていない身でそれをすれば、トラブルに巻き込んでくれと言っているようなものだ。

 いつでも私が助けてやれる訳ではないからな。次からは控えなさい」

 

 「ひ、ひゃい! 肝に銘じまひゅ!」

 

 「ん、これで取引成立だ。では少しばかり君の隣を借りることとしよう」

 

 「もちろんです!」

 

 よし、完璧だ。

 助けたことに加えてこの子は僕の信奉者。更に謙虚さをアピールしつつ、相手の誘いに完全には甘えずあくまでも対等に事を進める。

 

 するとどうだ。不思議なことに周りは僕達の行動に何の疑問も抱いていない。やっている事は(てい)のいい割り込みなのにね。

 

 (ハゲに絡まれた挙句ウェイン(バカ)に助けられた時は最悪な1日だと思ったけど、まさかヴォイド様が私を助けてくれるなんて……! しかも食事まで一緒に! あのヴォイド様と私が2人きりで食事! 私死ぬのかしら!?

 今日の不幸が吹き飛ぶどころかお釣りが来るレベルじゃない! あ~どうしよっ、こんなに近くにヴォイド様が! 感謝するわよハゲバカトリオ!)

 

 女性の百面相が止まらないんですけど。何この子、怖ぁ。さっさと食事済ませてお別れしよう、うん。

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