奴隷の主は持て余す   作:ameiro nishiki

8 / 10
持つべきものはお金だよね

 作戦会議も終え、あとは実行に移すのみとなった僕達は、それぞれ怪しまれないように一般人の姿へと変装し、さっそく奴隷売買が行われる建物へと向かった。

 

 当然ながら皆武器も持っていない。……あ、いや、ミルトさんだけナイフを隠し持ってるね。僕にはお見通しである。

 勝手なことをしてくれるよ。バレても助けないからね。

 

 さて、既に日は沈んで辺りは暗い。魔導具によって道は照らされているものの、少し路地に入ればその光も届かない。

 

 そんな路地の中で賑わいを見せる建物が一軒。目的地である建物の前では、昼間には見られなかった小規模の人だかりが出来ていた。

 奴隷商人達とはまた違った雰囲気から察するに、ここを利用しようとしている客だろう。

 

 うんうん、会議中にミルトさんから聞いた情報通りだ。

 

 今回の作戦はいたってシンプル。まず僕とミルトさん、そして衛兵を代表して隊長さんが一般客として侵入。

 犯行現場を現認し、なおかつ物的証拠を押さえるのが第一の目的だ。本当に件の事件の犯人がコイツ等なのかを確認しないことには下手に動けないからね。

 

 第二に、残りの衛兵は万が一取り逃がした商人及び客をとっ捕まえるため、建物の周りをグルリと包囲。これは一応の保険。

 

 第三に、捕らわれている奴隷達を何やかんや上手く丸め込みつつ、かつ自然に引き取れるように説得する。

 

 以上が本作戦の全容である。うん、凄くシンプルで分かりやすい。

 正体がバレないように3人揃ってザ・貴族な変装もしたし、よほどのバカをしない限りは大丈夫だろう。僕の仮面は……まぁ、指摘されたらその時に考えればいっか。

 

 「ふぅむ……知らぬ顔ばかり。今外に居る客はアレットの住人ではありませんな」

 

 「奴等は取引場所をコロコロ変える。常連客には次にここで商売をするぞという文を前もって送り付け、それを目当てに客はわざわざ足を運ぶんだ」

 

 「詳しいですなミルト嬢」

 

 「奴等を何年追っていたと思ってる。甘く見られては困るな。

 ところで、君のことはなんと呼べばいい?」

 

 「おおっ、そういえば護衛の件ばかりで自己紹介もまだでしたな。私はガイナ・クアド。お察しの通り衛兵達の隊長を任されております」

 

 へー、ガイナって名前だったんだ。今までヴォイドとして話す機会は多くあったけど、初めて知った。

 

 「そうか。ではガイナ殿、君の実力は如何ほどか?」

 

 「剣聖ヴォルグ様がご息女、ミルト嬢には到底及びませんとも。隊長とはいえ所詮は衛兵ですからな」

 

 「謙遜は必要ない。どの程度やれるのかを聞いている」

 

 「ふむ……単独で中型の魔獣に勝てる程と言ったところでしょうか」

 

 「ほう? ならば冒険者で言えばゴールド級か。足運びから他の衛兵とは違うと思っていたが、やはりそれなりにやるらしい」

 

 「勝てるとは言え快勝とは程遠いものですがな」

 

 ふぅん? 確かウェインのミスリル級より1つ下がゴールド級だったかな。そこにどれだけの差があるのかはともかく、やるなぁガイナさん。

 それにしても、ガイナさんの口ぶりから察するに、獣にも階級的なのがあるのかも。知らないまま狩りまくってたけど、あの中に凄い化け物も混じってたりしたのかな。

 

 ……ま、いいや。僕にとっちゃ獣は魔魂を届けてくれる幸運の運び人みたいなものだし。どれが何型とか正直興味ないや。

 

 「ヴォイド殿はどうなんだ? 見た限り足運びも一般的だし、纏う雰囲気や宿す魔力もそこらの住人と大差無いように思うが……いざという時に戦えるのか?」

 

 そりゃ武術も剣術も習ってないんだから足運びとかその辺は一般人と変わんないよ僕は。魔力特化だし。

 魔力に関しては単純に押さえ込んでるだけだ。他の人は無意識に体中へ巡らせてるけど、僕の場合は魔力量が桁違い過ぎておいそれと表に出すわけにはいかないからね。

 

 具体的には、魔力が濃過ぎる弊害で周りの人がそれに当てられて体調不良になっちゃうのだ。そんな事態を防ぐ為にも僕は普段から常に魔力操作を行っている。

 

 ……さて、これについてミルトさんにはどう説明したものか。ヴォイドへの信頼を崩さないためにも、実は魔力以外はからっきしでさ〜、なんて馬鹿正直には答えられないし。うーむ。

 

 「はっはっはっ! それこそ杞憂ですぞミルト嬢。ヴォイド様は以前、アレットで問題行動を起こしていた余所者のミスリル級冒険者を軽く懲らしめておいででしたからな。

 一般の者と雰囲気が変わらぬのは、アレットの皆と交流しやすくする為にわざと崩しておられるのです」

 

 違うよ。これが自然体だよ。というか僕がいつミスリル級の冒険者と一戦交えたのさ。記憶に無いよ。

 ……って、もしかしたらククルゥの時と同じく僕が忘れてるだけかもね。どっちにしろ忘れるくらいだからどうでもいいことなんだろう、うん。

 

 「ミスリル級を……つまり、ヴォイド殿は私と同等、或いはそれ以上の実力者。まるで力を感じさせないのも実力あってのこと、か。

 無礼を許してくれ。強者である君を侮辱するつもりはなかったのだ」

 

 「気にするな。むしろ上手く隠せていることを知って安心したほどだ。君が謝ることではない」

 

 とにもかくにもガイナさんが上手いこと解釈してくれたことで追求は免れた。よくやったぞ。

 

 「しかし、ヴォイド殿ほどの存在と知り合いのナナカっていったい……」

 

 「ナナカ? もしや、ナナカ・ロートのことですかな?」

 

 「知っているのか?」

 

 「ええ、一応」

 

 いや一応じゃないよ。え、なんで? 人畜無害な一般人で影も幸も薄い僕を、どうしてガイナさんが認識してるの?

 しまったな、どこかで目をつけられるようなことをしてしまっただろうか。面倒なことにならないといいけど。

 

 「彼の兄、ウェイン・ロートが吹聴しているのを聞いたことがある程度ですが。何でも、力も魔力も無く、グズでノロマで根性も無い。ロート家の恥晒しと」

 

 うぅわぁ。本人の居ないところで好き勝手言っちゃってまぁ。そこまでして自分の方が優れていると誇示したいかね。理解に苦しむよ。ドン引きです。

 

 そうして人知れず口元を引くつかせていると、不意に隣から熱いくらいの怒気を感じてギョッとした。

 ミルトさんが目に見えて怒っている。髪の毛にまで魔力を巡らせてユラユラと揺れている様は、まるで怒り狂う獣が如し。怖っ。

 

 「み、ミルト嬢……?」

 

 「ナナカは私の恩人でもある。こうして君達の助力を得られたのも全てナナカのおかげだ。

 確かに何の力も持っていないようだったが、彼が私を助けてくれた事実は変わらない。

 その彼をグズだと? ノロマだと? 根性なしだと? 恥晒しだと? ……ウェイン・ロート。その名覚えたぞ」

 

 女性は怒らせると怖い。誰かがそんなことを言っていた。その言葉は正しかったと今身を持って痛感してる。

 眼光だけで人を殺しそうな勢いだ。でもまぁ、なんかウェインへ矛先が向いてるみたいだから僕も便乗しようと思う。

 

 「ナナカは大切な繋がりであり友人だ。これまで彼に助けられたことも少なくはない。そういう意味では私にとっても恩人だろう。

 その彼をそうまで悪く言われては……非常に不愉快だな。また一つ、奴へ対処する理由が増えた」

 

 「ヴォイド殿、その時は私も同行させてくれ。エルミナス家の剣術を嫌というほどその身に刻み込んでやる」

 

 「もちろんだとも。奴のハリボテのプライドをズタズタにしてくれたまえ」

 

 そうして僕達はどちらともなく固い握手を交した。意図せずウェイン絶対裁くチームの結成である。

 

 でも、ミルトさんはどうしてここまで怒ってるんだろう? 僕、ヴォイドを紹介しただけなのに。

 

 「は、ははは……ウェインの運も尽きたか。

 まぁ、奴の行動は目に余る。これを機に更生してくれることを願うばかりだ」

 

 え? いやチャンスがあれば獣の餌にでもするけど? あれはもう更生とかどうとか言えるレベルじゃないもん。

 よく言うだろ? バカは死ななきゃ治らないってさ。

 

 「ん? ……どうやら、取引が始まるみたいだ」

 

 僕達が馬鹿やってる間に、建物の扉が開いて客達が次々に中へと入っていく。

 3人で顔を見合わせ頷き、素知らぬ顔で歩き出す。このまますんなり中に入れれば最高だけど……ま、現実はそう甘くはなくて。

 

 「おい待て。お前等見ない顔だな」

 

 奴等の取引に参加するのが常連客ばかりなら、当然見知らぬ僕等は怪しさ満点。止められて当然である。

 

 ミルトさんとガイナさんは目に見えて動揺していた。どうやらこの展開は想定していなかったらしい。ふっ、まだまだ甘いね。

 

 「とある筋からの情報で、今夜ここで良い商売があると聞いた。最近大きな買い物をしてしまい人手が足りない状態なんだ。できれば利用させていただきたい」

 

 「情報だぁ? ちっ、誰かが漏らしやがったか。……まぁいい。

 いいか? ここは上客ばかりの特別な場所だ。大した金も持ってねぇような奴ははなからお断りなんだよ。全部忘れて帰んな」

 

 「要約すれば、金があれば問題ないと?」

 

 「そういうこった」

 

 「ならば私達ほどの上客はそう居ないだろう」

 

 「あ? 何言って――……い゙ぃっ!!?」

 

 僕が見張りらしき男に提示したのはカード型の魔導具。そう、ロアルの店で使用したあれだ。

 カードに表示された僕の貯金額を見た途端、男は数歩後退る。震える指で僕を指差し、零れたのは疑いの言葉。

 

 「ぎ、偽造じゃ、ねぇだろうな……?」

 

 「君も商人の端くれならば、これが本物かどうかは簡単に見分けがつくだろう? さて、どうする? これでも私を貧乏人として突っぱねるか、はたまた新たな上客として受け入れるか。君が決めたまえ」

 

 これだけの金額を個人が所有している事自体、この世界では珍しいことだ。貴族ですら多くて総資産20億。

 対する僕は約60億の貯蓄である。僕が男の立場なら、絶対に逃さないね。絞れるだけ絞って、今後も良い関係を築く事に全力を尽くす。

 

 さぁ、返答を聞こうか。

 

 「……参加する以上は、1匹は必ず買え。これが絶対条件だ」

 

 「1匹と言わず多く買おう。これが私の答えだ」

 

 「いいだろう。通れ」

 

 ふふ。まぁ、どうせタダなんだから全員いただくけどね。どうか恨まないでほしいな。だって悪いのは、君達なんだから。

 

 

 

 無事許可も得て侵入成功。奴隷商人に案内される形で僕達が通されたのは地下深くに作られた大広間だ。先に通された客達も勢揃いである。

 奴等にも客をもてなす精神はあるみたいで、高級とは言わないまでも料理も用意されていた。どうやら時間までここで歓談でも楽しんでくれということらしい。

 

 「むぅ……下衆共が用意した食事など口にしたくはないですな」

 

 「気持ちは分かるが食べなければ怪しまれる。ここまで来ておいて台無しになるのだけは避けたいのだ。

 それに見ろガイナ殿。ヴォイド殿はそれを見越してごく自然に食事をしているぞ」

 

 「おおっ、流石はヴォイド様……!」

 

 いやいや、実質タダだから食べてるだけだよ。奴等が用意した食事にしては結構美味しいし。それにちゃんと魔力で毒が入ってないことは確認済み。じゃあ食べなきゃ損だよね。

 

 「ふむ、おそらくオークション形式か。好都合だな」

 

 「と言いますと?」

 

 「私達の目的は奴隷達の解放、奴隷商人及び客の確保。そして物的証拠を抑える事だ。

 目的の2つはこの場で完結できるが、物的証拠に関しては誰かが探さなければならない。2手に別れ、一方は捜索、一方はオークションで時間稼ぎをする」

 

 「入り口での対応といい、聡明だなヴォイド殿。私もそれがいいと思う」

 

 「では誰が残るかですが……」

 

 「この中ではミルト殿が一番小柄で潜入向きだろう。よってこの場には私とガイナ殿が残ろう」

 

 「し、しかしミルト嬢にもしものことがあれば」

 

 「君はもう少し彼女を信用すべきだ。籠の中の鳥で居続けるほどお姫様ではないよ。そうだろう?」

 

 「もちろんだ」

 

 「ちなみに潜入経験は?」

 

 「無い。だが護衛役の衛兵を軽く撒く程度には身軽なつもりだ。それくらい訳ないさ」

 

 「決まりだな」

 

 「あの、できれば、衛兵は撒かないでもらいたいのですが……」

 

 「それは聞けない相談だ」

 

 大変だねガイナさん。でも諦めた方がいいと思うよ。たぶんこの娘は自分で答えを出さないと気が済まないタイプだからさ。

 

 「さて、私が潜入するのはいいとして、まずどこから探りを入れるべきか。タイムリミットはオークションが終わるまで……あまり時間はかけられないな」

 

 「焦る必要は無い。時間を稼ぐだけならどうとでもなる」

 

 「頼もしいなヴォイド殿。ではどこからとは言わず、しらみ潰しに探すとしよう」

 

 うん、頼もしいって思わなくてもいいよ。僕は単純に出来るだけ料理を腹に詰めたいだけだから。そんなソッコーで証拠回収してきたら料理が勿体無いじゃないか。

 

 「では早速行ってくる。こっちは頼んだぞ」

 

 「お、お気を付けてミルト嬢。もし見つかるような事があれば直ぐに――」

 

 「そんなヘマはしない。ではな」

 

 何とも頼もしいセリフを吐いてミルトさんが素早く部屋から出て行った。誰にも気付かれた様子はないから、たぶん大丈夫だとは思うけど……うーん不安。

 外で張り込みしてる所をアッサリ僕に見つかる程度にはドジっ娘属性もあるからね。最悪見つかった時の対応も考えておかないと。あぁ面倒くさい。

 

 「ん、これ美味いな」

 

 「ヴォイド様、食事をしに来たわけでは……」

 

 「これもまた演技だ。溶け込めガイナ殿」

 

 「は、はぁ……では私も……むっ! 思いのほか美味っ!」

 

 本当にね。あくどい事をしてる連中にしては料理が美味い。まぁ、稼いでるからこその羽振りの良さかな。

 奴隷商人って儲かるんだなぁ。僕もやってみようか…………いや、よく考えなくても色々と面倒臭そうだから無しだね。あくまでも楽して稼ぐのが僕の信条である。そこを譲る気は無い。

 

 

 そうして来たるべき時を待ちつつ、僕とガイナさんはあくまでも一般客として食事を楽しむのだった。

 

 余談だけど、途中からガイナさんの遠慮が無くなってバクバク食べてたね。普段どれだけ質素な食事をしてるんだろう。

 

 

 

 

 

 

 ――……。

 

 

 

 

 

 

 (ここは……食糧庫か)

 

 重要な役目を任され、オークション会場を後にした私は文字通りしらみ潰しに部屋という部屋を調べて回っていた。

 

 5つほど部屋を調査し終え、現在は食糧庫らしき場所に辿り着き、その量……と言うよりかは種類の多さに驚かされた。

 

 (これは西大陸にしか出回っていないフルーツ。こっちは北国のブランド肉。どれもこれもここでは手に入らない品ばかりだ)

 

 それだけあちこちを転々としてきた証だろう。そして、そこで犠牲になってきた人達は数知れず、か……クズ共め。

 

 「……ぁ……け」

 

 (誰か来る!)

 

 扉越しに聞こえてきた話し声に、私は即座に身を翻して天井に張り付いた。ナイフ1本あればこれくらいは容易い。

 ジッと息を潜めていると、やがて扉が開いて2人組の男が入ってきた。ナナカと張り込んでいた時に見た奴等だ。

 

 「にしても今日の客入りは上々じゃねぇか。こりゃまたガッポリ稼げそうだぜ」

 

 「あぁ。それに聞いた話によれば今日は上客が居るってさ。新顔だが貴族も目玉(めんたま)飛び出るくらいの大金持った奴だって話だ」

 

 「そりゃあいい! そんならじゃんじゃん飯作ってもてなしてやらねぇとな。財布の紐を緩められるだけ緩めさせて根こそぎふんだくってやるぜ」

 

 「はっはー、悪い奴」

 

 「お前が言うなっての」

 

 大金……そういえば、ここの見張りがヴォイド殿のカード型魔導具を見た途端に驚愕していたな。上客とは十中八九ヴォイド殿のことだろう。

 

 「それだけの上客なら、そろそろあの上玉(・・)売っぱらっちまってもいいんじゃないか?」

 

 「へっ、バカが。どうせアレットにゃ1週間ほど滞在すんだ。商品は小出しにして、ギリギリで一番良い物を高値で売り出すんだよ。

 焦ったバカ共はよく考えもせず買ってくれるだろうぜ。たとえどれだけ値段を釣り上げようがな。ったく金持ちのボンボン共は騙されやすくて助かるぜ」

 

 反吐が出るとはこの事だな。奴隷はもちろん客すらコイツ等にとっては金ヅルでしかないというわけか。

 

 「ほら、さっさと食料持ってくぞ。バカ共のご機嫌取りしねぇとな」

 

 「はいよ」

 

 食料でいっぱいの木箱を持ち上げて2人は出て行った。完全に気配が消えるのを待ってから降り立てば、沸々と湧いてくる確かな怒り。

 

 ここで激昂するのは簡単だ。だがそれをしてはお膳立てをしてくれたナナカやヴォイド殿に申し訳が立たない。

 

 「すぅ……はぁ……」

 

 深呼吸を繰り返し気を落ち着かせる。スッと怒りが治まっていくのを感じて、私は部屋を後にした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。