「大変長らくお待たせいたしました。これより我が奴隷商会による競売を執り行わさせていただきます」
「おお、ようやくか。待ちくたびれたぞ」
「まぁまぁ。良い食事で腹も膨れたことですし穏便に。ところで貴方は何匹ほど購入予定で?」
「息子の玩具が壊れてしまってな。それの代用品として3匹は確保しておきたい。そういう君は?」
「私は雌を2匹ほど。こちらも所有していた物が使い物にならなくなってしまいましてな。
代わりの処理道具を調達しに来たのです」
「ふっ、お若いことだ」
「それでは皆様方! どうぞ前へお集まりください!」
ミルトさんが潜入してから約30分程かな。見知ったハゲ頭の人物が出てきて、ついにオークションが行われるようだ。丁寧な口調から察するに、流石に客の前でオラつくことはないらしい。
客達がステージの方へ歩み寄るのを確認した僕達も、それに習うように後を追う。
ステージ上に何やら布を被せられた物が運び込まれ、やがてその布が取っ払われると……現れたのは檻に入れられた男性の魔人が1人。
真っ赤な髪に切れ長の瞳。顔半分は魔人特有の赤い痣で覆われており、額の中心からは立派な角。分かっちゃいたけど見事に目は死んでるね。
「何度見ても惨いの一言に尽きますな」
隣で憤るガイナさんを尻目に、僕は僕で魔力を使って魔人の身体を少しばかり覗き見てみた。
(うわぁ。ホントに魔力回路がズタズタだ)
かつて読んだ本の情報に偽り無し。赤毛の魔人の体を巡る魔力回路は、とても言葉では言い表せない程に破壊されていた。
確か、壊れた回路から漏れ出た魔力の影響を受けて、肌に赤い痣が出来てしまうんだっけ? 痣付近の回路は特に損傷具合が酷いから、たぶん合ってる筈。
角はどうだったかな? あんまり読み込んだ訳じゃないから分かんないや。
「さぁまずは1人目から! 歳は21、なかなかに容姿も整った珍しい赤毛の魔人です!」
「あらぁん、可愛いじゃな〜い。私のコレクションにピッタリだわぁ」
(おぇ……)
野太い声を震わせ、体をくねらせるケバいオッサンに、ついつい吐き気を催してしまった。たぶんそういう趣味の人だ。目を合わせないでおこう。
「お目が高い! さぁさまずは300万メアからスタートです!」
(300!? 最低でそれなの!?)
ば、馬鹿らしい……。なんという無駄遣いなんだろう。此処に集まってる僕達を除いた全員が常連だとしたら、毎回そんな値段の奴隷をポンポンと買ってるのかな。
そんなお金があるなら僕に寄付してくれたっていいんだよ?
「350!」
「350万が出ました!」
「380!」
「よ、400!」
「400! 現在400万が最高です!」
ふぅん? オークションなんて初めてだから勝手が分かんなかったけど、なるほど。基本的にはより高い金額を言っていけばいいのか。いいね、分かりやすい。
「じれったいわねぇん。600よ!」
「そちらのマダムから600が出ました!」
「あらやだマダムだなんてお上手ねぇん。貴方も可愛がってあげようかしら?」
「ぃ、いえ、結構です。さ、さぁ皆さん! 600以上はありませんか!」
さっきのケバいオッサンが600を提示した途端、他の客から声が上がることは無くなった。
かわいそうに。これからあの魔人はオッサンの玩具にされてしまうのだろう。同情するよ、うんうん。
……ま、今回はそうならない訳だけど。
「650」
「おぉーっと! ここで650万が出ました!」
手を挙げて、静かに、且つよく声が通るように鋭い一言を発した。目的はあくまでも時間稼ぎ。ここで大きく金額を釣り上げては意味が無い。
それに、あのオッサンは男性魔人に随分とご執心の様子。この程度の金額であれば――。
「くっ……700よ!」
ほら、食い付いた。
「720」
「750!」
「780」
「っ……は、850!」
焦った様子でオッサンが一気に金額を上げた。どうだと言わんばかりにニヤけながら僕の方を見てきてるけど、残念。
最終的にはタダで貰う予定なのだから、どれだけ金額が上がろうと知ったこっちゃないのである。
「900」
「〜〜〜〜っ!!!?」
「900! 900万が出ました! さぁマダム、どうされますか?」
「ここまでコケにされて引き下がれるものですか……!」
いや別にコケにはしてないけども。
「1000万!!!」
「「おぉ……!」」
大台に乗った瞬間、会場内がザワついた。オッサンもオッサンでかなり無理してるだろうね。してやったりな表情の奥に、貯蓄の心配をしてる顔が目に見えるよ。
ま、そんなのどうでもいいけど。
「1020」
「あがっ……!? あ、ぁ、貴方ね! この私を誰だと――!」
「知ったことではない。貴方がどこの誰であろうと、今この場ではタダの客だ。勝負はフェアにいこうじゃないか。そうだろう? マダム」
「ぐっ……こ、このクソガキがぁ……!」
怖い怖い。口調も声音も崩れてるよオッサン。
「1020万! これより上はありませんか!?」
「……いいわ。こうなったらトコトンやってやろうじゃないの。1050!」
「1080」
「せ、1100!」
「1200」
「キィィィィィィィッ!!!」
ははは、このオッサンおもしろー。
あれからしばらく。
「そこまで! この商品はそちらのマダムが1500万メアで落札!」
「ひー……! ひー……!」
なんのなんのと競り合いを続けた結果、最終的にオッサンが魔人を落札。あんまり長引かせても周りの客から良い顔をされないだろうと判断して、キリのいいところで決着とした。
オッサンは汗ダラダラで化粧も崩れて酷いことになってる。たぶん予算ギリギリか空っぽまで追い込まれてるね、あれ。
「いやはや残念でしたねお客様。なかなかに粘っておられたのに」
「なに、ほんの小手調べだ。次を頼もうか」
(こりゃホントに上客だな。顔色一つ変えやがらねぇ。へへへ、今回は荒稼ぎできそうだぜ)
いやぁ、それにしても、買う気が無いのに値段を釣り上げて参加者を弄ぶのって意外と楽しいもんだねぇ。
相手が悪人だから遠慮する必要も無いし、日頃の鬱憤を晴らすのにも最適だ。時々こうやって参加してみるのもアリかもしれない。
しかもその結果に奴隷という名の働き手も合法的に貰えるなんて、控えめに言って最高では?
「さて次の商品は、こちらの元獣人の魔人! まだ子供ですが、成長すればとびきりの美女になるでしょう!」
「ほぉ〜、これはまた腰が疼く娘が来おった。何としても手に入れねばのぅ。フンフン!」
次に運び込まれてきたのは黒髪の魔人。元々は普通の獣人でも、今では立派な角が生えてしまっている。
ハゲが言ってた通りまだまだ子供なのに、運命ってのは残酷だねぇ。
それはそうと、そんな年端も行かない少女に目の色変えて分かりやすく鼻息を荒くしている貴族風の爺さんが1人。たぶん次に最後まで粘るのはこの人だろうね。いい年こいて腰まで振っちゃってまぁ……変態しか居ないのかな。
「ヴォイド様。次は私に任せてはくれませぬか?」
「ん? 君が?」
「少しはお役に立たねば、隊長として名折れですからな。なに、先程のヴォイド様のやり方で察しましたのでご安心を。
時間稼ぎの為にも少しずつ。良きところで引く、ですな?」
「……フッ。流石だな隊長殿」
「ありがたき御言葉」
ちょっと楽しくはあったけど、代わってくれるならそれに越したことはない。おかげで僕はのんびりとワインでも楽しみながら待てる。
よし、あとは任せたよガイナ隊長!
で、その後も取っ替え引っ替え魔人が運び込まれて、その都度ガイナさんが絶妙な駆け引きをしてくれたおかげもあり、時間稼ぎという役目は十分達成できたと言っていいだろう。
問題は、毎回の如く引き延ばす僕等に対する客からの心象が非常に悪いこと。彼等からすれば、本来もう少し安く買えたであろう商品の価格をガイナさんが引き上げるもんだから、たまったもんではないだろうね。
ある意味では問題行動。でも、ハゲ達は商品が想定よりも高値で売れてくれてるから、むしろ僕等に「もっとやれ」と言わんばかりのサムズアップまでしてくる始末だ。
これで仮に客達から因縁をつけられて荒事になったとしても、奴隷商人側が対処してくれるに違いない。そうしてほしい、面倒くさいから。
「次で10人目か。まだやれそうか? ガイナ殿」
「もちろんです。年甲斐もなく少し楽しくなってきたところでして……あぁいやっ、オークションがですぞ!?」
「ははは、分かっているとも」
良くも悪くもガイナさんは真っ直ぐな人だ。間違っても奴隷に手を出すことはしないだろう。
ま、そうなったとしても自己責任だし、僕には関係ないことだけど。面倒事に巻き込まないでいてくれるなら好きなだけどうぞってね。
「チッ。新参者が」
「くぅぅ……予算オーバー。もう一匹は諦めるしかないか」
「あいつ等さえ居なければ……!」
それにしても見事なまでに敵対視されてる。だけど残念。君達は商品を得るどころか最終的にブタ箱行きだよ。悲しいね。
「さぁ次にご紹介しますは本日の目玉商品! これを買わなきゃ損ってものですよ皆様方!」
内心でほくそ笑んでいると、ハゲが今日一番の声量で盛り上げる。
運び込まれてきた檻。被されていた布が取り払われると、現れたのはエルフの少女だった。
淡く緑がかった金髪や容姿は、魔人に堕ちる前はきっと息を呑むほど美しいものだったに違いない。
雑に切られたらしき髪、痩せた体、半ばで切られた両耳、顔のほぼ全てを覆う赤い痣、太い角。これまでの奴隷とは比べ物にならないほど死んだ目。
格が違った。もちろん悪い意味で。
「おおぉぉ! まさかのエルフ! こんな物まで仕入れていたとは!」
「ぐっ、予算が残ってさえいれば……!」
「見るに耐えん姿じゃが、飯を食わせば涎ものの肉体に育つじゃろうて。むほほ、こりゃまた腰が疼くのぅ!」
「またかよ爺さん。あんた守備範囲広くねーか?」
「ババァ以外なら皆平等に食う。それが儂じゃて」
「エルフか。長命種であれば息子の玩具としても長持ちするかもしれないな」
「おっと、今回は私も参加しますからね。そう簡単にはお譲りしませんぞ?」
「望むところだとも」
客達の盛り上がりも最高潮だ。
「どいつもこいつも……クズ共めが……!」
「抑えろ隊長殿。今はまだその時ではない」
今にも飛び出していきそうなガイナさんを何とか宥めた。けど、いつ爆発してもおかしくないほどこめかみに青筋を浮かべている。
これはそう長く保たないどころか、途中でブチ切れて斬りかかる可能性も捨てきれないね。
それに目玉商品と言ったからには、最悪あの娘で終わりかもしれない。そろそろミルトさんの成果を知りたいところなんだけど、さて?
(あれ? ミルトさんの魔力が膨れ上がって――)
進捗はどうかな? と魔力を展開してミルトさんの動向を確認してみると、何やら彼女の魔力が爆発的なまでに増大し、猛スピードで僕達の方に近付いてきている。
何か地響きまでするんだけど。これはどっちだろう? ドジっ娘属性でやらかしたのか、はたまた目的の物を見つけたのか。
まぁ、どちらにせよこの後に待ち構えている展開は変わらない筈だ。
「フッ」
「ヴォイド様?」
「いや、時間切れだ隊長殿。もう少しばかり楽しんでみたかったがな」
僕がそう伝えた次の瞬間、大広間に設置されていた屋内テラス側の壁が文字通り爆ぜた。
盛大に飛び散る瓦礫やら何やらが客達に降り注ぎ、この場は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図。
僕の方に飛んできたものはガイナさんが率先して防いでくれた。褒めて遣わす。
「な、なんだ!? おいどうした!?」
「ぁ……ひ……」
飛んできたのは瓦礫だけではなく、奴隷商人の仲間らしき男も一緒だ。ゴロゴロと床を転がってきた男は、吐血しながらピクピクと痙攣している。
背中側の服が盛大に弾け飛んでいるのを見るに、たぶん正面からエゲツない威力の打撃でも食らったのかな。
その犯人は……うん、男に残っている魔力痕跡はミルトさんの物。間違いなく彼女の仕業だろうね。
「あぁまったく。ここまで私を不快にさせたのは貴様等が初めてだ」
ふと、頭上から声が響いた。見上げると、空いた大穴付近で仁王立ちしているミルトさんの姿。
端から見ても分かるほど激怒した様子だ。整った顔は憤怒のそれになっており、およそ少女がしていいものではなかった。こわーい。
「な、何だテメェは!」
「滑稽だな。貴様等如きに名乗るとでも思うのか?」
「お、おいどうする……?」
「ふぅむ……これはちとマズいかもしれんのぅ」
「逃げるが勝ちよねん。おっ先ぃ!」
「あっ! テメェこらオッサン!」
流石は悪党。瞬時にマズい状況だと察知して客達が次々に大広間から逃げ出し始めた。
「ヴォイド様」
「任せる」
「承知しました」
見るからにやる気満々なガイナさんの視線を受けて、僕は短くそう答えた。直ぐに逃げ出した客達を追い掛けて外へと出て行く彼の背中を見送り、僕は僕で先程の衝撃により吹っ飛んできた一冊の本を、足元から拾い上げた。
(奴隷商人のススメ? へぇ、こんな本まで出てるんだ。どれどれ)
今ハゲ達の意識はミルトさんに注がれてるし、彼女に任せてればこっちに被害が及ぶこともない……よね?
奥からバタバタと近付いてくる気配は、たぶん奴隷商人の仲間だろうし、相手をするのも面倒だ。ここは剣聖の娘さんを頼りにさせてもらおう。
僕は読書だ。一番の理由はもちろん面倒くさいからだけど、奴隷についての知識が0に近い状態では誤魔化すのが難しい場面が出てくるかもしれないから、それに備えての勉強である。
あくまでも面倒事を避ける為のものだから、これは努力ではない。普通にちょっと興味もあるしね。
どこからか「読んどる場合かー!」なんてツッコミが聞こえてきそうだけど、何を隠そう魔力を用いれば速読も可能なのだよ。
「俺達を誰だと思ってやがる! こんなふざけた真似をしておいてタダで済むと思うなよクソガキ! テメェも――!」
「私を、どうする? 奴隷達と同じく意図的に魔人へと堕とすか?」
「なっ……!?」
「何も知らない小娘だと思われても困るな。
私はこの数年、情報を集めつつ貴様等を追って古今東西を旅してきた。その中で幾度も黒い噂を掴んできたよ。
そして……動かぬ証拠もついに掴んだ。分かりやすく金庫にしまってあって助かったぞ」
「そ、それはっ、帳簿……! 馬鹿な! 俺の魔力でなきゃ開けられない筈だ!」
「開けたさ。ナイフで斬ってな」
「は、はぁ!? な、なな、ナイフで!? 嘘を吐くなクソガキ! そんな与太話誰が信じるか!」
「これが此処にあるのが確かな証拠だろうに。……それに、あの程度の金庫を両断する程度、エルミナスの私には造作もないことだ」
「エルミナス……? ま、まさか、剣聖――!」
「の、娘だ。では覚悟してもらおう。貴様等悪党と長々と会話するほど、私の気は長くないのでな」
「ぐっ……!」
「カシラ! いったい何事っすか!」
「遅ぇぞテメェ等! ハッ、エルミナスが何だ? 確かに剣聖はおっかねぇが、その娘なら話は別。数の暴力で押し潰せばいいだけの話だろうが!」
「道理だな。如何に強かろうと圧倒的数の前には、私の父ヴォルグでさえ苦戦するかもしれん。が、生憎とこちらも1人ではない。
待たせたなヴォイド殿! ご助力願う!」
「ヴォイド……?」
「お、おい、確かヴォイドって昼間の女が言ってた……」
「まさかあの上客……! ちくしょうが! ナメた真似しやがって!」
ちょうど本を読み終えたところでミルトさんからパスが飛んできた。良いタイミングだね。
奴隷や奴隷商人のことについても粗方理解できたので、用済みとなった本は魔力で燃やしておくことを忘れない。
さてそれじゃ、僕の夢の為にもここは一つ、お仕事といこうか。
「今回のオークション、なかなかに楽しませてもらった。貴重な体験をありがとう。では諸君、お縄をちょうだいしようではないか」
そう言って僕は魔力を解放して見せた。普段抑えつけている魔力を、ただ解放しただけの簡単威圧術。
この行動の良いところは、こういう感じで大勢に絡まれた時、濃い魔力に耐性の無い人を魔力酔いにさせて一気に鎮圧できる点。そして何より、抑えていたものを解き放つから僕が気持ちいい点。あ〜スッキリ。
「ご、が……」
「ぅぶ……おぇぇぇぇ……!!」
「ひぃぃぃぃ! ばけ、バケモノ……!」
例に漏れず、駆け付けた奴隷商人の仲間のほとんどが魔力酔いの症状で無力化された。
気を失う人、盛大に吐く人、チビリながら腰を抜かす人と実に様々な反応。魔力総量が少ない人は特に酷い症状に陥りやすいから大変だねぇ。
「なんてことだ……まさかこれほどとは。ヴォイド殿、貴方はいったい――」
ミルトさんは流石エルミナスのご令嬢ってところかな。魔力酔いに陥った様子は見せていない。けど、額に汗をかいているところを見れば、まったく問題ないというわけでもなさそうだ。
やろうと思えばミルトさんにだけ魔力を当てないことは出来るけど、面倒くさいからやらない。
それはさておき、魔力解放のおかげで戦力は大幅に削れた。でも肝心のハゲはしっかりと意識を保っている。腐っても頭目ってやつかな? 魔力総量は少なくともそれなりに耐性はあるみたいだ。
「な、ナメんじゃねぇ! そんなコケ脅しにビビるかよ!」
「そうか。では、どうするのかね?」
「決まってんだろうが!」
そう言い放ち、何やらハゲが懐から取り出したマスクを装着。その後、僕に向かって拳を向けてきた。その手に付けられた指輪がキラリと光った瞬間、黒い霧が飛び出して僕の体を覆い隠す。
「ヴォイド殿!」
「ハッハー! 馬鹿がっ! どれだけ力のある奴でもたちどころに魔人へと堕ちる濃度の魔素だ! ヴォイド? アレットのトップ?
知るかよバーカ!
どんなにお偉い野郎でもな、魔人に堕ちちまえば奴隷行き! それが世の摂理ってもんだ! おいクソガキ、次はテメェだ! 可愛がってやるから覚悟しな!」
「どこまでも腐った下郎がっ……!」
魔素? あぁ、うん。確かに魔素だけど……僕が知ってる天然の魔素とはかなり違う。いつも僕が利用してる魔素核から漏れ出すものの方が圧倒的に濃い感じで、もっと禍々しい。
それにあの指輪、もしかしなくても魔素を人工的に生み出す魔導具だろうか? ロアルが見たら凄い嫌そうな顔をしそう。人の役に立つ物を造り出すのが信条である彼は、きっとアレの存在を許さないだろう。
……まぁ、ともあれ。
「ふむ。私も安く見られたものだ」
「ははははは! ははは……は……は……?」
既に勝った気で笑ってるハゲには悪いと思いつつも、魔力操作を用いて魔素をすっぽりと包み込み球状へ。
そのまま圧縮に圧縮を重ねて、魔素を僕の魔力に変換、吸収。それを見たハゲはマスクに覆われた顔面を蒼く染め上げていた。
「随分と質の悪い魔素だ。食えたものじゃない」
「何、を……何をしやがった!? いやそれより、何故魔人に堕ちていない!? ありえねぇ!」
まぁ魔素って、魔力を体に纏わせておけば大抵無力化出来るからねー。誰かさん曰く、そんな超技術扱えるの僕だけらしいけど。
何が難しいんだろ? ただ魔力を纏わせるだけなのにね。
「魔素程度で私を無力化できるとでも? ナメているのはどちらかね?」
「クソが……クソがぁぁぁぁ!!! 魔素が効かねぇだぁ!? だったらよぉ、コイツはどうだ仮面野郎!」
次は何を見せてくれるのかと少しだけワクワクしながら見ていると、今度は別の指輪がキラリと光った。
あぁ、たぶん指にはめてる指輪全部魔導具か。納得。
次は魔素ではなく無数の黒い槍が形成され、その切っ先が一斉に僕へと向けられる。戦場とかで用いられる攻撃用の魔導具であることに間違いなさそうだけど……うーん、素人の僕が見ても分かるほどお粗末な物だなぁ。
これがロアル製の物だったなら……うん、たぶん此処一帯が針山になるだろうね。
「串刺しにして焼いてやんよぉ!」
呑気なことを考えている間にハゲが槍を射出。対する僕はその場から動かない。
焦りは無いよ。自動迎撃は絶賛起動中だからね。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「あ」
迎撃範囲に槍が入った瞬間、刃と化した僕の魔力が目にも止まらぬ速度で槍を自動破壊。……だけならいつも通りだった訳だけど、勢い余ってハゲの足元まで盛大に破壊してしまった。
魔力の刃は床下の空間、つまり地下室まで貫通。床は崩落してハゲも一緒に落ちちゃった。エルフの魔人が入れられた檻が落ちなかったのは不幸中の幸いかな。
(あちゃ〜。魔素吸収した直後は威力跳ね上がるの忘れてた)
魔素=獣を産み出してくれる貴重な資源だから、滅多なことでは吸収しない為すっかり頭からすっぽ抜けてたよ。
ちゃんと調節しないと怪我の元ってね。はー面倒くさ。
「ヴォイド殿……今、いったい何を?」
「見えなかったか? ならばミルト殿もまだまだ鍛錬が足りないな」
「ふふ、言ってくれる。とにかく奴を追おう。先に行くぞヴォイド殿」
「いや、私が行こう」
「む」
魔力で探ったところ、この下は監禁部屋。つまり奴隷達が捕まってる場所だ。先にミルトさんが降りちゃったら魔人達の感謝はミルトさんに向けられてしまう。それでは本末転倒だ。
最初の刷り込みってのは大事だからね。ここは譲れない。
「腹を立てているのはなにも君だけではない。アレットは私の行動領域だ。そこで勝手な真似をされるのは、どうにも許せないものでね」
「……分かった。そういうことならばヴォイド殿に譲ろう」
取ってつけたような理由だったけど、少し考える素振りを見せた後にミルトさんは納得してくれた。
「ミルト殿にはそこで伸びている連中の捕縛。それと、逃げ遅れて隅で震えている客の確保を頼みたい」
「分かった。他にどんな魔導具を隠し持っているか分からない。油断はするなよヴォイド殿」
「もちろんだ」
さぁ、これでクライマックスの準備は整った。
降りた先で魔人達を利用されたら面倒くさい展開になるのは容易に予想できるので、ハゲと奴隷を繋いでいる魔力の繋がりは予め絶ち切っておく。
魔力操作を用いればどうということもない作業だ。
やっぱり暇つぶしでも知識は蓄えておくべきだね。さっき本を読んでなかったら、奴隷紋の仕様とか魔力の繋がりを斬っちゃってもいいのかとかも分かんなかった訳だし。
「な、何故だ……何をしてるお前等! これは命令だ! その矮小な命を賭して俺を守るんだよ!! 働けゴミクズ共ぉっ!!!」
下からハゲの焦った声が響いてきた。
うんうん。内容を聞く限り、ちゃんと繋がりは断ち切れてるみたいだ。これで魔人達はハゲの命令に従うことはない。
それじゃ、締めと行こうか。
ハゲの支配から解放したばかりのところ悪いけど、次は僕の為に働いてもらうよ? 魔人諸君。クフフ。