第4回しぶころ投稿作品。
テーマ「ぬくもり」。

審査の結果4位を頂きました。
大会で入賞したのは今作が初めてでした。応援ありがとうございました。精進致します。


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主題

私、風園杏実(あずみ)。17歳。

一応女子高生。

 

聞いてよ、いつもみたいに登校したら机の上が花びらでいっぱい。ユリだよ?白ユリ。ここは教会かっての。

まあそれは気にならないんだけど。だって昨日まで飾ってたのが枯れたんだと思うし。

視線を落とせば『Divine judgment(神の裁き)』って文字と、十字架が机に刻まれてる。

これもまあ、手の込んだイタズラだなって。

でもね、私が驚いたのはこんなことじゃない。

なんと聖母像まで用意されてしまってた。金の装飾にうっとりするけど……やりすぎでしょ。流石の私も呆れるって。

 

おまけにバケツで水まで掛けられたけど、私はもう避けることもしなかった。床は一面水浸しになり、なんの関係もない子の机にも掛かってしまってた。

「ごめん!カリンちゃん!」

「気にしないで。」

カリンちゃんはハンカチで机を拭き、私に一瞥もくれなかった。

 

「杏実、また懲りずに登校してきたの?」

「ありえない、何回嫌がらせしたら来なくなんのよ。気持ち悪い。」

「早くいなくなってよ……なんかこの世に未練があるかもしれないけどさぁ……」

 

……そう。

私は死んだのだ。

死因はまぁ、不運な交通事故。

赤信号無視のトラックに突っ込まれた。体がふっと軽くなって、息が止まるまで早かった。1秒1秒を鮮明に思い出せる。視界が真っ赤に染まって、甘い暗闇に落ちていった。怖くはなかった。あの世とやらに興味はあったし。

「あ、思ったより早く行けるんだな」ってそれだけ。

 

 

「しょうがないでしょ、気付いたらあの事故現場にいるんだもん。どうやって天国に行けるのか、私が知りたいよ。」

笑って返すけど、心は疲れてる。

「もう1ヶ月になるんだよ?杏実ちゃん。」

「分かってるよ。でも下校中に意識どっか行って、次目が覚めたらいつもの交差点。ずっと毎日これだよ?置き勉してたから教科書は困ってないし。私が生きても死んでも、一喜一憂してくれる身内はいないし。

……これ、今、私“生きてる”って言えるのかなぁ。

お腹も空かないんだよ?弁当いらなくて済むけどさ。」

「杏実はあの日死んでるよ。あんた幽霊だよ幽霊。やっべ!センコー来る前にサボったプリントやんなきゃ!」

「えー!?マナまたやってきてないの!?」

「当たり前じゃーん!ライブDVDのほうが大事だって!」

キャハハハハ……って周りが笑ってる。

私は机を適当に片付けてる。

どのみち私はクラスじゃ浮いてる。あ、物理的な意味じゃなくって。

居場所なんて初めからない。生きても、死んでも、変わらない。

 

 

私は濡れた制服を乾かしに、1限をサボって外へ出る。慣れた。いつもの事だし。

朝のツンと冷たい空気は嫌いじゃないの。

 

1ヶ月。もうそんなに経つのか。

いつ終わるのだろうか、この繰り返される世界は。

私もそろそろ眠りたい。

『天国』とやらに行ってみたい。

疲れたなぁ。

──明日、目覚めたら学校サボっちゃおう。

カラオケ1回行けるくらいはお金入ってるし。

(グッジョブ!生前の私!)

今日の授業さえ頑張ればいつものあの曲歌いまくれるんだ。楽しみ♡ポテト頼めないのが惜しいけど。

 

石段に座ってぼーっとしてると、なんもない薄青の空に、1限終わりのチャイムが鳴り響く。

早いなぁ。鳥とか数えてたら数十分なんてあっという間……。

 

私はチェックのスカートをひらめかせ、校舎へ戻る。2限はイズミ先生のくそだるい授業だ。数学って大人になったら使わないじゃん絶対。

点Pってさ、なんで動くの?

だる……でも出ないと……教室が唯一の居場所なんだし……。

 

 

下校が近づく。私は明日のカラオケが楽しみで、「もうすぐ締切なのに教材費納入されてない。お家の人に話しておいて。」って担任の話なんて上の空だし、通りすがる連中の冷めた視線も全然気にならない。

足早に階段を降りて煌めく午後の日差しに飛び込んでいく。昇降口を出ればそこは私の世界!

あの右角を曲がれば毎度タイムリープする事故現場!

暖かな太陽の光に包まれて、私は、私は──。

 

…………。

 

あれ?タイムリープは?

いつもならここでぱったり意識が途絶えるじゃん。どうして?

どっかのチャリが「道の真ん中で立ち止まんじゃねぇ」ってブチギレながら通過した。うるせー。チャリが歩道走んじゃねーよ。

いやいや、待って。明日のカラオケ無くなっちゃうじゃん。早く明日に行かせて。

私、帰る場所無いんだから。

…………。

………………。

なんで?

 

 

幼少期に過ごした公園で、夜を明かすことにした。

朝は別に良かったけど、日が傾くと流石に寒い。

ブレザーじゃちょっと心許ないな。

ブランコを弱く漕ぎながら、どんどん黒く染まる景色を見つめてる。

手も足も冷えていく。

心も。

私が何したっていうんだろ。

親は私がまだ小さかった頃にどっか消えて、仲良くもない親戚と住んで、めっちゃくちゃに怒られながらバイトして、なんとか勉強して高校続けてた。ちなみに私の葬儀がどう行われたのかは知らない。タイムリープが始まったのは葬儀のあとからだったし。

 

──寒いなぁ。

カラオケ行こうと思ってたけど、コンビニでおでんか肉まんでも買うか、それとも横のスーパーで安いカップ麺とか探そうかな……。

行きたかったなぁ。カラオケ……。

……笑えちゃう。

私が。もう死んでるはずの私が。……寒いなんて。

なんか暖かいの探しに行こっと。

 

 

辺りはすっかり暗くなって、段々と無口になっていく街にせっかちな冬の足音が聞こえ始める。チラチラと雪が降り始める中、帽子を目深に被った大きな男とぶつかる。あたしのコンビニの袋がガシャガシャ鳴って地面にホット緑茶とチョコとおにぎりが落ちた。

「あっ!ごめんなさい!」

「おや、ごめんよ。……もしかして杏実ちゃん?」

「!どうして私の名前を?」

──私は袋にモノを詰め直しながら、その男に警戒し一歩退く。

「杏実ちゃん。7歳から逢ってなかったね。小さい頃よく君の両親と関わってたんだよ。おじさんのこと覚えてない?」

「知らない。おじさんも知らないし親なんて居た事も知らない。不審者!」

「君のお父さんの知り合いだよ。流石にもう覚えてなかったか……。」

……。

「親は私を残してどっか行きました。父親なんて知りません。記憶から消しました。」

「君のお父さん、お母さんもね、重い病気で遠くに行ったんだよ。二人とも今、別の国にいる。」

「……!し、信じないよ、そんなの!」

「だろうね、10年も前のことだから。でも、逢いたがってるよ。大きくなった杏実ちゃんの顔が見たいって。制服似合ってるんだろうなって。特にパパのほうが……」

 

 

私は話の途中でダッシュして逃げた。

冗談じゃない!信じてたまるか。今まで私がどれだけ、どれだけ「お前片親どころか両親居ねえの?」って虐められてきて、苦しんできたか。やっと終わりそうなのに逢いたいって?そんな、自分勝手過ぎでしょ。

……そうだ、もう私死んでるじゃん。教えてあげなきゃ。杏実はとっくに死にましたって。

 

踵を返しダッシュで戻る。街灯の下、まだあの人はいた。私は遠くから叫んだ。

「おじさん!私もう死んでるから!親に言っといて!次は天国で逢おうって!」

 

おじさんが笑って「知ってるよ」って言った。

「だから迎えに来たんじゃないか、杏実。」

「そうよ杏実。あなたがなかなか来ないから私達から来ちゃったのよ。ほら、ご飯食べて暖かいとこ行きましょう?」

 

……え?どゆこと……?

 

おじさんは帽子を脱ぎながら、女の人は街灯の裏から顔出して、私に笑いかけた。知ってる顔だ。

忘れかけたはずの。忘れたくなかった顔。

 

「ほら、何してんの。ご飯食べな。風邪ひくよ。あんた中々来ないから待ちくたびれちゃったわ。」

「ママ、……なの?」

「そうだよ杏実、パパとママ。病気して、君をおばあちゃんに預けて、東京で入院して、……それで……。偶然を装って、話しかけて。」

「杏実、あなたね、私達がまだこの世にいるって信じて疑わなかったでしょ。居ないのよ。とっくにね。」

 

……私がいつまでも眠れなかったのは、もしかして……。

 

「大きくなったね。ママとパパが10年ぶりに抱っこしてやろう。ほらおいで。似合うねぇ。可愛いねぇ。制服。」

「あぁ、杏実ちゃん。あったかいねぇ。ママ、嬉しい……帰ろう、お家にね。」

 

 

 

──雪がしんしんと降り続いて、ここに、私のいない世界が始まる。

 

 

 

 

 




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