目指してたテーマに欠片もマッチしないので、ひっそりと誰にも知られず投稿しました

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第1話

 夢の中の河原だ。

 じりじりぎぎぎと雑音のする山奥の、ざわざわと擦り響く深緑の影が砂利を照らして、ゆらゆらと流れる清流が揺れる。

 水彩画の二枚絵をペラペラ漫画のように入れ替えて進んでいくアニメーションのような世界に、私は立っていた。

 ロッカーが落ちていた。学校の玄関口で見る鉄製の函六つのひとくくりが不法投棄されている。水たちは、大岩と勘違いして裂けて避けて進んでいく。

 

 ぎゃあ。と声がした。ロッカーの中から甲高くくぐもった声が鳴く。

 ぎゃあ、おぎゃあ。小さいけれど確かに叫ぶような呼び声が聞こえて、夢の中の私はロッカーの戸に手をかけていた。

 歪んで、硬い、ガンッと音がして、鉄の戸が開いた。

 おぎゃあおぎゃあ。

 赤ん坊の、声が泣く。

 ロッカーの中から。ロッカーの中の濡れてしわくちゃになったおみくじから。

 私はそれをぐっとつかんで掬い上げ、大事そうに持ちあげた。暖かく、手のひらに重みが伝わる。おぎゃあ。おぎゃあ。

 まるでそれが己の赤子かのように、優しく揺らして、泣き止めどうか静かにしてくれと宥めあやす。

 

 きゃあきゃあきゃあと笑った。おみくじは、いまだに濡れていて、だというのに暖かい、熱く暖かい。

 そっと開いてみる。結果は、滲んで読めなかった。

 

 そういう夢だ。今朝見たものは、そういうものだ。

 

 キャンプ中のことである。河原に黄色く手狭なテントを張って、一人休日の楽しみをしていたところだった。

 ここには曰くなどない。ただのよく来る橋の下だ。

 

 しかし目覚めて、テントのチャックをじじじと開くと、目の前の川にロッカーが落ちていた。

 夢で見たそのままの、鉄製、長方形で六つ扉がある。

 あれは嫌な正夢だった。

 流れてきたのだろうかと思った。流れてくるはずがないと思った。この大きさのこの重さのモノが、濁流でもない川に押し流されてくるとは思えなかった。

 

 しかしどうしても気になった。右側の中央のロッカーは、あのおみくじが入っていた場所だ。

 夢で見たようにさびていて、歪んでいる。声だけは聞こえない。

 靴を履いて、近寄った。そっと手を伸ばす。

 ぎぎぎと軋んで、しかし私は、お構いなしにこじ開けた。

 

 扉は勢いのまま開いて、蝶番のつながりのまま、ありえないくらいに、まるで紙のようにびろんと大きく開いてく。

 どこからか「トランスフォーム!」という声が聞こえた。

 くぐもってはいなかった。こだまのように、響く声だった。

 

 金属を歪ませて、角ばった男の顔が現れる。ほかの扉たちが本来ありえない方向に開いて、胴を、腕を作る。伸びる。立ち上げる。

 私二人分ほどのロボットになって彼は再誕した。もはや鉄さびも見られず、ロッカーにはなかったカラフルな塗装をした金属質の手が私に伸びてくる。

 そして全身を優しく包んだ。欠片も暖かくなかった。

 そのまま持ち上げられて、胴体の中に収納された。

 

 冷たい。寝起きの火照ったからだが急に冷えて、くしゃみをした。

 これまで水に使っていたロボットは濡れていて、私の寝巻きもぐしょぐしょだ。

 

 そのままロボットは上流に向き直った。

 上流からは、どんぶらこどんぶらこと別のロッカーが流れてくる。あのロッカーからはおぎゃあおぎゃあと赤子のくぐもった鳴き声が聞こえてきた。

 正夢なのはあっちの方だった。

 

 ロボットは水をかき分けて、もうひとつの流れてくるロッカーへと突進し蹴り上げた。

 ゴォンと衝撃音、そして火花が散る。赤ん坊の悲鳴が聞こえた。

 

 ぎゃあ、おぎゃあ、ぐああああああ!!! てめ何してくれてんねん!! 

 

 向こうのロッカーの戸が開く。そして私の手のひらほどの小さく美しいお姫様が出てきた。

 彼女は出てきた途端に肥大化を初めて、みるみるうちにロボットと同じサイズに骨格も、体格も、筋肉も膨れ上がった。

 彼女のお召し物がTシャツだったら、あの巨大な力こぶで破裂していただろう。

 

 ロボットと、姫の拳がぶつかり合う。

 ゴォンゴォンと、鐘のごとく低い音色が響いた。

 乗せられている私などお構い無しだから、もはやコクピットですらない私の収まるスペースが揺れる揺れる。

 あちこちに身体をぶつけて痛いのなんの。

 

 そのうち私は投げ出されて、砂利の地面を転がった。

 痛くて、痛くて、ぎゃあぎゃあ泣いていると、夢の私に持ち上げられて、優しく揺らされ慰められる。

 手のひらの指ほどしかない私は、赤ん坊を宥めるようにゆすられ、少しずつ落ち着きを取り戻してきた。

 私の手の中は暖かかった。

 力を抜いて倒れると、そのまま寝てしまおうかとすら思った。

 すると夢の私の指が伸びてきて、私をそっと開いた。ぐしょぐしょに濡れた私は、大人しく開かれていく。

 でもきっと、滲んで文字が読めないだろうから。

 代わりに私が、この後の運命を教えてあげた。

 

「大凶だよ。お前」

 

 


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