『越えない探索者』   作:r_watanabe

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第24話:指名された道、選ばなかった道

第24話:指名された道、選ばなかった道

翌朝。

 

 探協の掲示板の前に、

 人が集まっていた。

 

 紙一枚。

 だが、そこに向けられる視線は、

 いつもより重い。

 

 俺は、

 人垣の隙間から内容を確認した。

 

 

緊急指名依頼

 

依頼内容

奈落・上層第一層〜第十層までの現状調査

(構造変化・魔物分布・異常兆候の確認)

 

指名対象

・ブラックホーン所属 三パーティ(計十名)

・アウルズ・パス所属 一パーティ(計五名)

 

条件

・パーティ単位で第十層までの複数回到達経験を有すること

・過去と現在の奈落の差異を、明確に認識できること

 

 

 ざわめきが、

 ゆっくりと広がっていく。

 

「……ブラックホーンが三つか」

 「アウルズ・パスは一つだけだな」

 「イカロスは?」

 

 すぐに答えが出る。

 

 「イカロスは、今も奈落の中だ」

 「数日前から進行中で、まだ戻っていない」

 

 さらに——

 

 「アウルズ・パスの主力も不在だ」

 「二パーティは外部依頼中」

 「今すぐ動けるのは、限られている」

 

 つまり。

 

 “今、戻れる可能性が高い戦力”だけを集めた。

 

 それが、この編成だった。

 

 俺は、

 アウルズ・パスの名前を探す。

 

 そこに、

 俺たちのパーティはない。

 

 代わりに記されていたのは、

 十層までの経験を何度も持つ、

 クラン内でも屈指の先輩たちの名前だった。

 

 妥当だ。

 理屈では、そう思う。

 

 だが——

 胸の奥に、

 憧れという名の

 小さな引っかかりが残った。

 

 指名依頼を受けたベテラン達の出発準備は、

 異様なほど早かった。

 

 ブラックホーンの探索者たちは、

 余計な言葉を交わさず、

 装備を整え、

 淡々と集まっていく。

 

 その中に、

 見覚えのある背中があった。

 

 黒瀬大河。

 

 大きな刃を肩に担ぎ、

 一度も立ち止まらない。

 

 迷いがない。

 躊躇もない。

 

 彼にとって、

 この依頼は“踏み込む価値があるかどうか”ではない。

 

 行けるから行く

 稼げるから進む。

 

 それだけだ。

 

 一方で、

 アウルズ・パスの先輩たちは違った。

 

 地図を囲み、

 野営予定地点を確認し、

 撤退ルートを何度も共有している。

 

 「今回は調査だ」

 「無理に十層を踏む必要はない」

 

 そう口にしながらも、

 表情は固い。

 

 ——十層。

 

 上層の最深部。

 日帰りは想定されていない。

 

 消耗を抱え、

 夜を越え、

 それでも進む場所。

 

 「……俺たちは」

 

 佐伯が、

 小さく言った。

 

 「いよいよ三層、ですよね」

 

 声に、

 いつもより張りがない。

 不安が漏れている。

 

 「ああ」

 

 俺は頷く。

 

 「今日は、三層だ」

 

 そう答えながら、

 胸の奥が静かに締め付けられる。

 

 三層。

 

 これまで、

 見上げていた場所。

 

 資料でしか知らない層。

 戻ってきた探索者の、

 疲れ切った顔と一緒に語られる階層。

 

 澪が、

 ゆっくり息を吐いた。

 

 「……初めてですね」

 

 その一言で、

 実感が押し寄せる。

 

 俺たちは、

 出発するベテラン探索者たちを見送った。

 

 一人、

 また一人と、

 奈落の闇に消えていく背中。

 

 探協の職員が、

 アウルズパスの先輩に声をかける。

 

 「——必ず、帰還報告を」

 

 その言葉が、

 どれほど重いかを、

 全員が知っていた。

 

 やがて、

 奈落の入口は静かになる。

 

 俺は一度だけ、

 深く息を吸った。

 

 それから、

 俺たちも奈落に入り、

 先へと進んでいく。

 

 三層へ続く道。

 

 まだ、

 何が待っているのか分からない。

 

 勘は、

 何も告げない。

 

 警告もない。

 拒絶もない。

 

 それが、

 余計に緊張を煽る。

 

 だが、

 足は止めない。

 

 選ばされた道と、

 選んだ道。

 

 どちらが正しいかは、

 まだ分からない。

 

 ただ一つ確かなのは——

 

 この奈落に対して、

 同時に、

 複数の“試し方”で

 挑んでいく者たちがいる、

 ということだけだった。

 

 

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