奈落が出現してから、世界は変わった。

地下に口を開けた未知の空間。
そこから現れる影と粘性の化け物。
探索者と呼ばれる者たちは、富と名声、そして力を求めて奈落へと向かう。

だが――
奈落で最も重要なのは、勝つことではない。

生きて、戻ることだ。

三十歳の主人公は、駆け出し探索者として奈落に足を踏み入れる。
特別な力はない。
魔法もスキルもない。
あるのは、少しだけ“嫌な予感”に敏感な勘と、無理をしない判断力だけ。

仲間と組み、慎重に一階層を積み上げ、二階層へ。
変わり始める奈落。
影と粘性だった化け物は、徐々に形を持ち始め、
やがて“吐き出された半成体”という異常な存在が姿を現す。

一方で、世界は探索者を選別し始める。
クランの格付け。
パーティ評価。
越えるべき線と、越えない方がいい線。

英雄のように突き進む者たち。
奈落の奥へ奥へと進む若き探索者たち。

その背中を見ながら、主人公は選ぶ。

――越えない。

慎重という選択。
戻れる位置に立ち続けるという覚悟。

これは、
奈落を攻略する物語ではない。

奈落に呑まれず、生きて帰る探索者たちの物語。

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