第27話:生きて戻った、その先で
先輩たちを連れて、生きて戻った。
まずはクランリーダーに報告をしにいく。
「戻りました」
一拍
「二人を連れて帰ってきてくれた事、
クランのリーダーとして感謝する」
クランリーダーは硬い表情のまま
俺たちに感謝を告げた。
「――いえ……」
そして——
それ以上の言葉は、誰も言葉にできなかった。
クランハウスの一室。
簡易的な医療スペースで、先輩たちは横になっている。
包帯。
固定具。
最低限の処置。
命は助かった。
だが、それだけだった。
「……悪いな」
一人の先輩が、天井を見たまま言った。
「迷惑、かけた」
声は落ち着いている。
だが、その静けさが逆に痛い。
「いえ」
俺は短く返す。
それ以上、何を言えばいいのか分からなかった。
もう一人の先輩は、壁の方を向いたままだ。
目は閉じているが、眠ってはいない。
その背中から、
**“まだ整理がついていない”**ことだけが伝わってくる。
仲間を失った。
生きて戻った。
どちらも事実で、
どちらも重すぎた。
その日の夕方。
クランリーダーから、メンバー全員に簡単な報告があった。
「……二人とも、引退を選んだ」
淡々とした声だった。
「探索者としては、もう続けない」
それが、答えだった。
誰も、止めなかった。
止められる言葉を、持っていなかった。
⸻
翌日。
探協から、正式な評価が出た。
指名依頼の結果報告。
内容は、あくまで事務的だった。
・第九層までの調査完了
・第十層到達は、区画の一部のみ
・構造変化と敵性存在の分布に関する情報を確認
——それだけ見れば、「成功」だ。
ブラックホーンは、高く評価された。
討伐数。
半生体に関する具体的な報告。
素材の回収。
数字と成果が、並ぶ。
「さすがだな」
「やっぱり、あそこは違う」
そんな声が、ロビーに広がる。
一方で。
アウルズ・パスの評価は、別の言葉でまとめられていた。
・探索時の判断の適切さ
・判断の迅速さ
・報告の精密さ
評価は、悪くない。
むしろ、堅実だ。
だが——
そこに、拍手はない。
「……結果だけ見れば、だな」
誰かが言った。
「九層までなら、前から行けてた」
別の誰かが続ける。
「今回は死人が出た割に、進んでねぇ」
その言葉は、
誰かを責めているわけじゃない。
ただ、
数字を見ているだけだった。
ネクサス・マテリアルズの一団が、
ロビーの端で話している。
「半生体素材のデータは貴重だ」
「次は、もう少し数が欲しい」
契約。
成果。
次の段階。
人が減ったことは、
話題にすらならない。
中堅以上の探索者たちは、
口数が少なくなっていた。
九層以降。
——“行ける”と分かっていても、
——“帰れる”かは別だ。
それを、
はっきり突きつけられたからだ。
⸻
夜。
クランハウスの屋上。
俺たちは、並んで座っていた。
佐伯が言う。
「……クランの評価、悪くなかったですね」
「悪くはないな」
事実だ。
澪は、少し間を置いて言った。
「でも……」
続きを、言わない。
言わなくても、分かる。
少なくなっても、
生きては戻せた。
それが、
今回の“結果”だった。
それで、
何かが帳消しになるわけじゃない。
俺は、奈落の入口を見下ろす。
静かだ。
何も変わっていないように見える。
だが——
確実に、線は引かれた。
進みすぎた者。
それでも戻れた者。
評価された者。
名前が消えた者。
「……次も、同じ選択をするか?」
自分に問いかける。
勘は、何も言わない。
だが、
答えは出ていた。
俺たちは、
まだ越えてない。
だが、
越えた先に何があるのかを、
もう知ってしまった。
それでも。
生きて戻る。
結果より命を最優先に考える。
その選択を、
間違いだとは言えないまま。
夜がひっそりと深まっていく。
静かすぎるほどに。