ここがいいかなと連れてこられた研究所の地下で向かい合う。 ゲームのように普通の室内でやったら建物が倒壊するからね! ちゃんと戦闘するためのものらしく、コートになっている。
「じゃ、やっちゃえジョカ!」
:おう!:
勇んで前に飛ぶジョカ。 運動不足だったのか、なんとも嬉しそうだ。 明日から一緒にランニングでもするかな。 そんな彼を眼前に、博士はボールを一つ取り出し、投げた。
「がんばって、ヒトカゲ」
ヒトカゲ、ほのおポケモン。 特性は……金銀に特性なんてなかったので知らない! もらいびとかたいねつしか思い出せない。 ほのおのからだとかはマグマッグとかしか居なかったはずだから心配しなくてもいいだろう。 それより、問題がある。 このヒトカゲ、どうみてもレベルが低い。 はねださんよりちょっと強いぐらいか。 ジョカと視線をかわして口を開いた。
「あの、博士」
「なんだい?」
「どうみても、その、レベル差が……」
「うん、実戦経験を積ませたくて。 気にしないでかかっておいで?」
度胸をつけさせるってレベルじゃない気がする。 しかしヒトカゲくんは現実に反しやる気まんまんで、挑発までしてきている。 だがそこはさすがジョカ。 乗らないどころか引いている。
「博士、彼のレベルはいくつですか?」
「3だよー」
これアカンやつや。
そして始まったポケモンバトルは、特筆する所もなくジョカの腕の一振りで終わった。 具体的に言うと、頭を掴んでこわいかおをしたら泣きが入ったので離してやっただけである。
:こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわ:
エンドレス。 まあそうなるだろうと分かってはいた。
「はかせー?」
「うん知ってたー」 わかってるならなんでさせた。 それでも博士にしがみついているヒトカゲちゃんが不憫でしょうがない。 その人元凶ですよ? 「じゃあ本命出すね?」
1on1じゃないんかい。 まあ良いけど。 ジョカがやる気出したし。 ぽーいと投げられたボールから出てきたのはこれまた見覚えのありすぎるオオタチだった。 なんでお前居るん?
:ボクと勝負だ! ジョカ!:
プラターヌ博士が繰り出してきたタッチーが、出てきた瞬間に言い放った言葉である。 やる気まんまんすぎる。 短い手でジョカをさしながら挑発する彼は、いつになくキリッとした顔だ。
:まずなんでここ居るんだ? 生息地違うだろ:
:鹿さんにお願いしたの!: 単純明快。 あの方おねだりに弱いんだろうか?
:そうか。 で、なんで勝負なんだ?:
:先に見つけたのに教えてくれなかったじゃん!:
:居るの知らないのにどうやって教えろと……てか俺もこの間再会したばかりだぞ:
:うるさいな! いーから勝負だ!: 怒った顔で短い手足をばたばたさせている。 ムイ・ボニート。 凄く可愛い。
:しょうがないな、かかってこい:
:言われずとも!: 言い終わるとともに、弾丸のように彼が飛び出した。 単なるでんこうせっかだけれど元々のスピードが早いせいでさらに威力が高いし避けにくい。 ただ、それはタッチーが様子見として愛用している技である。 なのでジョカは余裕で回避した。
「はたきおとす!」 相手が友であろうと喧嘩を売られたら買う。 飛び上がったジョカにそう指示を出すも、避けられて驚く。 僕が知っているタッチーは、でんこうせっかの後は体勢を立て直すのに少し時間がかかっていた。 だけれども目の前の彼は丸まって転がり、即座にその場を離れつつ止まらずに制御できる速度まで落とす事に成功していた。 そんなの聞いてない!
もちろんジョカの攻撃は外れた。 見事に空振って地面を抉るだけのジョカの拳。 その彼の背後でタッチーは軽やかに着地する。 そしてプラターヌ博士が何事か言った。 そら指示出してきますよね! 急いで振り返ったジョカが見たのは、息を吸い込んだ彼の姿だった。 そこから放たれる、凄く大きな声。 思わず二人して耳をふさぐ。 初めからこれだけ大きいなら、りんしょうでもエコーボイスでもない……ハイパーボイスか!
一瞬こそくらっとしたものの、平気そうな顔で挑発するジョカ。 やっぱ強い。 博士の指示でまたでんこうせっかを繰り出したタッチー、しかし二回も通じはしない。 ジョカはギリギリで横に避け、リーチを活かして横腹に重いパンチを叩き込んだ。 だましうちである。 ただ、吹っ飛ぶも体力はまだまだあるのか地面に落ちると同時に跳ね起きる。 二人してフーッと威嚇しあうポケモン達。 今の所は互角だ。 ならばモノを言うのはトレーナーの技量。 あれ、これやばくね?
睨み合いつつ、一歩一歩と円を描いて歩きはじめる二人。 緊張で息がつまり、汗が湧き出るも、博士は余裕の表情だ。 ラボで話していた時と同じように、微笑みながら楽しそうな目で僕達を見ている。 歩く音以外は静寂の中、呼吸すらももどかしいというのに。 何をきっかけにして動けば良いのかわからなくて酷く怖い。 野生ならちょっと戦ったら皆話し合いに応じてくれて、トレーナー戦でもジョカさえ居ればどうにでもなった。 だからこんなバトルなんて初めてで、自分が混乱しているのが良く分かる。 そこにどこからか聞こえてきた、微かなドアの閉まる音。
僕は耐えられなかった。 「……サイシス!」
僕なんかよりずっと知恵も経験もあるジョカの事だ、多分まだ動いちゃダメだってわかっていたんだろう。 僕だって言った瞬間後悔した。 それでも彼は言う事を聞いてくれた。
足を止めて予備動作に入ったジョカ。 相手を捻り潰さんと力を貯める。
「でんこうせっか」
博士が言った。 貯めていたジョカは避けきれず、腹に受けてよろける。 なんとかサイコキネシスを打つも、ひらりと躱されて無駄に終わる。 その勢いで背後から接近され、掴まれた。
「10まんボルト」
ジョカが目を見開いてもがく。 タッチーの毛皮が膨れ上がり、電気を纏い始めてパチパチと音を立てた。
「ジョカ、かげうち!」
なんとか引き剥がさないと。 でもどうすれば。 「転がって!」
命令通りにタッチーを自分ごと引き倒して、ゼロ距離でかげうちを叩き込む彼。 それでも相手は離さずに発電しつづける。 そして予備動作が終わった。
眩い光が走り、次いで大きな音が響く。 技が発動したのだ。 まともに見てしまったので目の前が真っ暗すぎる。 早く直してジョカの様子を見なければ。
目が慣れて最初に見えたのは、誇らしげに立つタッチーの姿だけだった。
主人公にバトル経験が無いせいで、即効で終わりました。 サイコキネシスの指示が来た時点でジョカはほぼ諦めましたが、さすがに10まんボルトは嫌だったのでなんとかしようとするも組み付かれていたので無理でした。 森に居た時にはそんなの覚えていなかったので油断していたのでしょう。
関係は無いのですが初物食いという単語がこのあとがき書いてる最中に脳裏にぽっと浮かびました。 関係は無いんですがね。