螺旋の唄 (裏)   作:Ahoo

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今回ちょっとポケモナー的な描写があります。 ごめんなさい。
本編次から始まります。


5. 林檎の味は

朝も早いのに喧嘩の音が聞こえる。 ご苦労なことで。 目が覚めてしまったし、横のタッチーを起こさないように身支度を整えた。 最近確定したのだけど、やっぱり縮んできている。 というより、若くなっていっている? 肌はきめ細やかモチモチ、髪は艷やかさらさら、爪も綺麗なピンク色でピカピカ。 当初着ていた服がブカブカで、そろそろシャツがミニ丈ワンピース代わりに丁度良くなった。

 

それより何より、最初は抱き合って寝るだけだったいろんなポケモン達に抱かれて寝るようになった。 地味に屈辱を感じるとはいえ、柔らかで艷やかな腹毛に顔をうずめて寝たりするのが気持ちよい。 一度キュウコンが来た時なんかは天国だった。 皆してあの尻尾に包まれて寝る権利を争った記憶は今でも新しい。 そして皆して乱入してきたミルタンクにふっとばされた挙句鹿さんと仲が良いプクリンさんから怒られた。

 

こうなった原因は多分あれだろう。

 

 

 

 

 

 

その時僕は、一人で散歩をしていた。 珍しく周りには誰もおらず、ほぼべったりなタッチーも川のほうで遊んでいたはずだ。 草原には常にあった気配も音も何もなく、聞こえるのは生い茂る葉が擦れて奏でるホワイトノイズだけだった。

 

どれくらい歩いただろう、昼が幾分か過ぎたあたりだっただろうか。 あてもなく歩いていた僕の目の前に、最近見ていなかった鹿さんが出てきた。 会うつもりはなかったのか、普通に目で挨拶をされたのでお辞儀を返す。 バックビーク!

 

しかし何かを思いついたのか、顔を上げて思案する鹿さん。 待つ僕。 やがて良い尻についた手触りの良さそうな尻尾でついてこいと指示する鹿さん。 その尻から目を離せない僕。 気づかない鹿さん。 だって太もも然り、引き締まってて素晴らしい造形なんだもの。 丸みを帯びた臀部から伸びるすらりとしたまさにカモシカの足。 ふにふにしてそうな、命の輝きに満ち溢れた肉付きの良い肌。 そのもっちりとした両山の上の付け根から生える、真っ黒なふわふわ尻尾。 実は水色だった元金色の縁取りの滑らかさ。 今は普通の角っぽく輝いていない角の伸びやかさ。

 

絶景ですがな。 できれば腹も触りたいけど我慢だ。 そうこうしてるうちにちょっとだけ開けた場所に出た。 中央には小さな池と、そこにそびえ立つ堂々たる巨木のような鉱石のような、そんな感じの根っこらしきものが何本か飛び出ていた。 それは背で言えばそこまで高くないものの、明らかに年を経てもはや意思すら持っているかのような存在感を醸し出していた。 ファンタジーでいえばワールドツリー、世界樹に準ずる物だろう。 それの一部が突出している状態みたいだ。

 

その根らしきものに近づくと、間から小さなピンク色の生命体が顔を覗かせ、かしげた。 

 

「んみゅ?」

 

ええ、どうみてもミュウです本当にありがとうございました。 ちまっとした手が可愛らしい。 あれは世界のはじまりの樹の根っこなのだろうか? そしてミュウと見つめ合う鹿さん。 会話をしているのだろうが、僕には何も聞こえない。

 

やがてミュウは顔を引っ込めたかと思うと、僕の片手にすっぽり収まるサイズの半透明の宝石を持ってきた。 それは動かさなくとも刻一刻と色を変え萌え上がり、僕の目を捉えて離さなかった。 虹色に輝く生命の源、それがそこにあった。

 

「ミュルルルル」 それから目を無理やり引き離す。 あまりにも美しくて、これ以上見ていたら奪い取ってしまいそうだ。 ふわりとミュウがその愛らしい顔で僕に笑いかける。 見とれている僕を意に介さず、その猫みたいな不思議な生き物は宝石を掴んだまま、僕の胸にアッパーカットを仕掛けた。 もちろん僕は為す術もなくそれを受け、軽く吹っ飛ぶ。 いきなりのバイオレンス! 人間って飛ぶんだね。 鹿さんが慌てたように僕の側に来て、鼻で付く。 

 

「……なにするの!」咳を宥めて息をついてから最初に言う。 僕が何をしたというのだ。

 

:シカン: 笑顔を崩さずにミュウは言う。 

 

「ごめんなさい」バレてーら。 

 

:ん: 宝石はいつの間にかなくなっていた。 鹿さんは抗議していたらしいが、ミュウは何も言わずに笑って姿を消してしまったようだ。

 

 

 

 

それでも生活は大体変わらない。 ゴーストちゃんに日課のプロポーズをするも逃げられる。 山というか森に木の実や接種可能な草花を探しに行くと、動ける子達が皆でお手伝いしてくれる。 皆で作った風呂らしき物体に水を入れて、炎タイプが熱して、皆で入る。 ゴーストちゃんを追いかけるも逃げられる。 イメチェンなのかショートカットになっているルージュラの髪を梳かしていると、別の子がこちらのぼっさりヘアーを同じように整えようとしてくれるも挫折して慰める羽目になる。 夜にゴーストちゃんを探して迷ってジョカにこめかみスクリューをくらう。 ここに居させてもらっていた合間にやらかした事で一番やばいのは、やはりジョカに痕を残さない攻撃手段を覚えさせてしまった事だろう。

 

そんな生活の合間にも、自分はどんどん若返っていく。 そろそろ十ヶ月にもなろうかという頃にはほぼ赤ん坊になっていた。 自分で歩くのも、喋るのも、ほぼ無理。 三大欲求……空腹などはもう感じなくなっていたけれど、苛立つことこの上ない。 這うのも日毎に難しくなっていくのだ。 タッチーやジョカがほぼ付きっきりで居てくれるし、ゴーストちゃんも二人が居なかったりすると必ず見える所に居てくれるから(若干心配そうな顔でチラチラ見てくるのがまた可愛いんだこれが!)恵まれてると思うし、不便はないけれど、出来た事ができなくなるのは相当なストレスだ。

 

特に他の子達は三人のようにデリケートに扱うとか理解出来ない子が多いので、振り回されたり落とされたりという事案が度々ある。 ジョカやタッチーが居れば大体はなんとかなるんだけども、ツンデレゴーストちゃんは素直になれないが故に寄って来ず、おかげで皆さんが気軽にやってくるので少々怖い。 とはいえ、何故か皆途中で心変わりしてくれるので今の所はあまり危害を加えられた事はない。 後ろに気配を感じるので、多分ゴーストちゃんが怖い顔でもやってくれているんだろう。 こっそりデレるとか可愛いってレベルじゃない。 結婚するしかない。

 

そんな生活を経て、這うこともできなくなった頃、鹿さんが来た。 最初に感じたあの暖かさ、この場所に満ち満ちた陽気の圧縮版が冬の朝の毛布のように辺りに広がる。 自分がさらに小さくなっていくのがはっきりと分かった。 タッチーとジョカが側に来て、僕の顔を覗きこんだ。 ジョカが僕の頭を撫でながら、僕がよく皆に歌っていた子守唄を僕より上手く歌い始める。 喧嘩売ってるだろこれ。 タッチーは僕を鹿さんとサンドイッチにして、擦り寄ってきた。 

 

上手く動けないもどかしさに唸っていると、顔に影がさしたのでもうあまり見えない目を開けた。 愛しいゴーストちゃんが上に居たので最近出来てなかったプロポーズをする。 ため息を付いて私を見下しながらも伸ばした手に触れてくれた。 初めての接触! これは結婚オーケーという事か! ああしかしもう眠い! 悔しさに胸を焦がしながら強すぎる睡眠欲に身を委ねて……

 

 

 

 

……肺に初めての空気が入って、その不快さに思い切り泣き喚いた。

 




林檎の種類の一つに北欧神話から取られた「アンブロージア」という名前のものがあるのですが、初恋のように甘酸っぱくて噛むと気持よく果肉が割れます。
でもスーパーとかには全然並んでくれなくて困ってます。
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