金銀の野生ポケモン遭遇時の音楽が脳内で流れだした。 野生という区分で良いのかはわからないが、トレーナーが見当たらないからそういう事にしておく。
暫定ジョカさんはテーブルの上から僕達を横目で見やっている。 カウンタータイプらしく出方を伺っているのか、動く気配がない。 ぴょいぴょいとボールを器用に上げては受け止め、また上げる。 体の振りは大きく、余裕があるように見える。 楽しんでいるようで、短い足も軽くばたばたしている。 倒すならこのまま即効で全力を投入するべきだが助手さんは多分そうはしないだろう。 とりあえずトレーナー必須の、ポケットにいれてあるけむりだまをこっそり確認した。 補充ホント大事。
そうしていると助手さんが我に返ったのか、慌てて最近ちょっと太ったの!らしいスターミー精神的♀のジョンを繰り出す。 本当に相手がジョカならアカンなこれ。 普通に負けるわ。
勝てるとふんだのか正面から迎え撃つ事にしたらしい。 以外にも優しくテーブルに三人を下ろしたそのジュペッタは飛び下りて、僕達の方へと歩き出した。 そこに助手さんが攻撃命令を出す。
「ジョーーーーーン!」
:いやあああっ……!:
しかし歩みを止める事無く張り手一発であの最近ちょっと以上に太ったジョンを殴り飛ばす目の前の人形ポケモン。 そんな無慈悲な攻撃にも己の本分を忘れずやけに色っぽいが野太い声で吹っ飛ぶヒトデ。 ちょっと気持ち悪そうにそのヒトデを見やる人形。 もうおっさんのくせに艶かしいポーズで墜落した場所に横たわるヒトデ。 しかもちょっと喘ぎ声っぽいのを出してるっぽいそのヒトデ(おっさん)。 関わり合いになりたくないと思ったのか目をそらす人形。 そして散乱している備品。 掃除するの僕なんだけど。
しかし覚えているより強くなっている気がする。 このままだと助手さんもあの毒牙に掛かりそうだったので、観念して顔を出した。 見た目は違えど、名前を呼べば気づいてくれる可能性があるかもしれない。 なので彼がこっちを見た瞬間、僕はそれはもう全力の笑顔で彼を呼んだ。
「ペッタちゃんひっさしぶり~ぃ! 元気してるぅ?」 きゅるん☆なんて擬音がつきそうなウィンク付き全力アイドル系挨拶に時が止まった。 全力媚び媚びのショタボイスとか惚けるしかないよね! その間に僕は本命のけむりだまを全弾ぶん投げる。 総数、5つ。
最後に見えた暫定ジョカさんは目を皿のように見開いて硬直し、口はだらしなくも少し開いていた。 いや、この想定外の事への耐性の無さはやっぱり彼だ。 その隙に全力で逃走を開始する。 これで助手さんの事は頭からなくなるだろうけど、捕まったらあの腕力でぶん殴られるだろう。 相手は相手が子供だろうが大人だろうが女だろうが男だろうが、人間だろうがポケモンだろうが容赦しないジョカだ。 すべて平等に叩き潰す。
とりあえず撒こうと思い、ここまでの十年で鍛えた足腰で9番道路に向かう。 研究所から案内所までは間に特に何もなく、左斜め前方に走ればすぐに付く。 そのまま走り抜けて、できるだけ自然のままを残すためにと触れ込みの、本当は予算が無いんだろうと思われる比較的整備されていないその道をしばらく気をつけながら走る。 ここは影がさしていて風が気持ちよく、わりと広いのでこんな薄暗闇でも結構歩きやすい。 しかし今の時間でも暑いものは暑い。 そうすると、輝きの洞窟に繋がってるとてもデコボコの山道が見えた。 監視員という名のお守りさんはいつもどおり寝ている。 なので思い思いに寝転んだりしている在住サイホーンさん方に挨拶して単身突っ込もうとしたら近くに居た一人に阻まれた。
コロンと転がって進行方向を阻むイケメンが一人。 :危ないぞ:といいながらこちらをつぶらな瞳で見上げる。
「分かってるけどそんな暇ないでござる、ちょっとごめんねー」 のっそりと起き上がっていよいよ通してくれなさそうな雰囲気を醸し出しはじめるその子。 実は監視員とか本当はいらないんじゃねーのと言われている原因その1くんである。
:ん、乗るか?: 優しく頭を擦り付けてくる。
「いや、だから」 心配しているのもわかる。 でもそういうお仕事ってのもあるけども、全員話を聞いてくれない。 平地ならともかく、この山道を行くスピードだと即座に追いつかれるだろうから困る。
:急いで乗るか?: 可愛く小首を傾げられるが乗る気はない。 しかしハンサムな僕はそこで良いアイディアを思いついた。
「……あ、それよりちょっと皆集まって」 なんだなんだと皆がこぞって顔を上げた。 監視員さんは居眠りを続けた。 皆さん大人しくて良い子だからね、仕方ないね。 山間部だから影内なら涼しいしね。
どうやら微妙に探しまわってたようで、ギリギリのったり系サイホーンな皆さんを集めて合間に隠れ終えた時にようやくジョカが追走してきた。 多分僕の性格上、あからさまな場所には逃げないとふんだんだろうが、そう、天才な僕は逆をついてやったのだ。 間髪入れず響いたどざぁ、という音はジョカが止まった音か。 皆に僕の事を聞いたけど、知らないと言われてすぐにまた走り始めた。
あの荒れ道でも、ジョカの身体能力ならそりゃ余裕だろう。 現に着地のガッガッという音も少し聞こえてくる。 もう何も聞こえなくなった後、皆の合図で顔を出した。 どうやら上手く撒けたらしい。 うぇーい☆と喜びを自分主体で分かち合う。 スイッチがオフのサイホーンという種族は良くも悪くもマイペースだ、もう意識を落としてる子達も居る。 :がんばれ::転ぶなよ::気をつけてな::またな::なんかくれ:と、口々に言葉を貰って意気揚々と家方面へ歩を進める。 なんか欲しがった子には残ってた普通チョコポフレをあげた。
道を戻りながらジョカのなだめ方を考える。 さて、とりあえず問題を先送りにしたのは良いがどうしようか。 落ち着くまで隠れておけばまあちょっとしたお説教ですむんだけど、ってなんだこの光は。
どこから来たのか変な光が目の前に漂ってきた。 ふらふら、ふらふら、あっちへいったりこっちへいったり、紫色の未確認飛行物体が蝶のようにはたはたと暗い道の真中に浮かんでいる。 僕はなんでか目を離せず、それが誘導するままについていく。 これはなんなのか、何がしたいのか。 触ろうとしてもするっと指の合間を抜けていく。 妖しく仄かに点滅するそれは来た時と同じように唐突に消えた。
と同時に、いきなり何かが僕の頬を掠めて地面に穴を作る。 よほど強い力で打ち出されたのか、わりと深めの穴で音もボスッ程度だった。 感覚から射出されたであろう方向を見上げてみれば、なんというこ……ジョカが影を顔に、逢魔が刻の鮮やかさをバックに、さわやかに足を器用に組みながらでかい崖の凹みに座っていた。 あらやだかっこいい。 右手で小石を一個ポンポンしつつ、左手には小石の山が積まれている。 それわざわざ集めたんですよね、相変わらず変なとこで勤勉ですね。 改めてジョカの顔を見る。 すっごく笑顔だ。 僕も笑った。
「やあ久し振りだねジョカさん今日はお日柄も良くすばら」 また一つクレーターが出来た。
「すいませんでしたぁ!」 びっしと敬礼する。 クイッと足元に来い、とジェスチャーされた。 彼が下りてくる合間におとなしく従ってとりあえず土下座する。 こうすればあんまり怒られ……あっれ踏まれたんだけどなにこれ。 なんでこんなに機嫌悪いのこの子。 そしてとってもタイミング悪く案内所の方から来ているのはどうみてもちょっと経験を積んだトレーナーさん。 よくよく見られたら憤死ってレベルじゃない。
「ねぇ誰かがこっち来てるんだけどちょっと恥ずかしい……」
:黙れ:
「あっはいごめんなさい」
最終的に、土下座状態で頭を踏まれつつのお説教という辱めを受ける事で許してくれた。 しかもその最中、タイミングよく謝罪の言葉を言うように仕向けるもんだから、累計一人の旅人さんと二組の観光客さん達、適当に嘘を織り交ぜて事情を説明した案内所のお姉さんとそこに留まってる皆様に生暖かい目で見られてしまった。 明日にはこの小さな町中に話が回っているだろう。 穴があったら入りたい。 とりあえずは許された僕が最初にした事は、助手さんの所に一緒に行ってジョカの名前を訂正する事だった。 そんなにイヤかそうか。 その後は部屋の掃除をして帰った。 そういえば、デコボコ山道まで入っていったジョカは最初から幻影だったらしい。
:何度お前らをとっ捕まえたと思ってんだ馬鹿。 パターンなんて読みきっとるわ:
僕のベッドを占領しながら呆れた声で言ってやがった。 次はもっと上手くやるとしよう。 そういえば後ほどジョンさんと話した時、:美しさならアタシが勝ってた:とどこぞの4コマ漫画の草タイプのような事を言われた。 それだけ言えるなら大丈夫だろう。
ポケモン4コマ漫画は最高傑作でした
ピカチュウがコイルに虐められてるやつが好きでした。