【完結】その日、合歓垣フブキは警察に成った 作:曇りのち晴れ男
――あの突入の日から、二週間ほど過ぎた。
あの黒く変異したフブキの影響で、私は重傷を負い入院することになった。完治するのに半年から1年はかかるらしい。
医者には「生きているのが奇跡」と言われてしまった……。
私の怪我はいまだ完治しておらず、あばらも痛むが、こうしてパソコンを使えるくらいには動けるようになったので記録を残そうと思う。
あの日奴を連行した後、フブキは静かに帰宅した。特別何も言わず、かといって暗くない表情で。
あの時私はフブキが手錠をかける瞬間を見ていたのだが、あの瞬間は本当に安心した。
奴はフブキに自分を撃つよう促していたが、その言葉を無視してフブキは警察であることを選んだ。
先生と出会い、彼女は非常に楽しそうに暮らしていたが。その日常を壊した相手を始末できる状況で、彼女は理性を取ってくれた。
彼女が市民に銃を向けていたのを発見した時はどうなることかと思ったが、今後も心配はない。防衛室長にだって自信をもって報告できる。
あの企業は倒産した。前々からブラック企業が疑われていたのはそうなのだが、フブキが単独潜入してくれたおかげでその実態を暴き、先生殺しのことに加えて書類を送った。
そこそこの中堅企業だったせいで職を失った人は多い。今私は動けないが、メールでのやり取りを駆使してそういう人の職復帰の手伝いをしている。
ヴァルキューレは先生殺害の事件を経て、非常に反省をした。
警察という立場でありながら、先生という重要人物を守れなかったこと。
たかが電子機器異常にあんなにも統率を乱されたこと。
これまで一部の生徒はやる気が見れないところもちらちらあったが、今回の事件で皆気を引き締めなおしたようだ。
キリノはあの事件で自分の改善点を探していた。例の電子機器の不具合が起きた日に、もう少し事件の解決スピードや移動スピードが速ければ先生を助けられたのかもしれないと、日々筋力や体術訓練をしている。
生前先生が厚く射撃の面倒を見ていてくれたおかげか、彼女は先日初めて狙った場所に弾を当てた。あの時の電話越しに聞こえる彼女の喜びようは言い表せなかった。
彼女もフブキと同じように先生が死んだ時の感情の起伏がすごかったが、彼女なりに目標を見つけたようでなによりだ。
コノカは相変わらず私の手伝いばかりしてくれる。私が入院してからは特にせっせと動いてくれて、よく料理を持ってきてくれるのだ。病院食に飽き飽きすることもあるから、非常に助かる。
頻度にして二日に一回はお見舞いに来てくれて、私がいない間に起きた事件やその解決の報告書などを持ってくる。その報告書はどれも、最善の方法で解決に向かっていた。
局長代行として、彼女はいかんなく力を発揮してくれているようだ。
そしてフブキ。
先ほどヴァルキューレが今後の改善をするということを書いたが、そのことに一番貢献してくれているのは彼女だ。
というのも、彼女はあれから警備体制についてよく意見を出すようになった。しかもその意見はどれも的を得ている。
それがなぜか、私たちは言わなくてもわかってしまう……。
あまりにも達観したその警備配置の技術のおかげで一時期は警備局から声がかかったりもしたが、彼女は断っていた。
普段の任務についても申し分ない。ついこの間パトロール中に『災厄の狐』と戦闘になったみたいで、結果として逃げられてしまったが、七囚人相手にたった一人で確保寸前まで行ったそうだ。
もしかしたら……私を超えるような日も来るのかもしれない。
……だが、今でも彼女は時々事務所で窓の外をぼうっと見ていることがあるらしい。
私の頭の中にも、そんな光景が容易に想像できる。
彼女が何を想っているのか、そんなことはわかり切っている。
それでも、今はただ彼女の心が治るのを待つしかない。
■■■
「はぁ~……」
昼下がり、窓の外で楽しそうに走る子供たちが見える。
それを見て何が変わるわけでもないが、私の胸の中にある空虚感の答えを見つけたいがために、意味もなく窓を見てしまう。
いや、答えなんてもう見つかっているんだろう。
私は窓から視線を外し、手元に置いてあった私の銃の点検を始める
「……フブキ? なんでさっきから何度も銃の点検をしてるんですか? それ4回目ですよ?」
「あれ、そういえばそんなに点検してたっけ」
キリノにそう言われ、記憶をたどると確かに私はこの数分ですでに3回点検したことを思い出す。
確かに点検は心がけるようにしたけど、まさか短時間でそんなに回数を重ねているとは思わなかった。以前弾詰まりを起こしたのがだいぶ効いているみたいだ。
弾倉などを確認しながら、キリノと何気ない話をする。
今日は特別何も事件が起きない。非常に平和だ。
「どこか出かけませんか、フブキ」
キリノからそのように誘われる。
しかし先生殺しの事件を解決してからというもの、あまり遊ぶ気が起きないため、その誘いは断ってしまった。
もちろん気力がないなんて言っても、前の私のように過ちを起こすようなことは決してしないと心に誓っている。
「いや、いいよ」
キリノの誘いを断るのもこれで何回か目だ。
──ふと、デスクから書類が落ちてしまい、地面にいろんなものが散乱する。
やってしまったと思いつつ、ゆっくりと書類を拾い上げていく。その中に一つ紙切れが落ちていた。
それは、例のドーナッツ食べ放題券だった。
あの日ドーナッツが食べられなくなった時から一切口にしていなかったが……。
期限は明日までになっている。せっかくなら食べに行かないと損だ。
明日最後のドーナッツを引き換えに行こう。そう思い券をポケットにしまう。
そういえば、引き換えたのは初日とその次の日、そしてドーナッツが食べれなくなった日の三日しか使ってないのを思い出す。
半年もあったのに、なんかすごいもったいないことしちゃったな……。
「あ、帰るんですか?」
「ちょっとね。市民の平和のためにやらないといけないことがあるからさ」
なんて冗談をキリノに言いながら、私は事務所を後にする。
街をぽつりぽつりと歩いていくと、数々の思い出がよみがえってくる。
先生と初めて出会ったドーナッツ屋さんに立ち寄り、三つドーナッツを買う。
不思議と嫌悪感はなかった。
袋を抱えたまま、街中を散歩する。
クイズ大会が開かれた会場は今も頻繁にいろんなイベントが開催されているようで、今日も人がにぎわっていた。
あの大きな火事があったビルは再建され、今はその事件を感じさせないほどきれいになっている。
一歩、また一歩と歩くたびいろんな記憶が呼び起こされる。おかしいなぁ、あの拷問部屋で全部思い出したはずなのに、復習をするたびに懐かしさで満ち溢れる。
「あっ……」
涙がこぼれているのを感じる。
先生が死んだ時のことを思い出してしまったのだ。
忘れようとしたわけじゃない。ただ、思い出さずにいられるようになっただけで。
あの時、先生は何を想ったのだろう。死ぬ寸前に私へのメッセージを打ち込みながら、先生が感じていたのはなんなのだろう。
対人徹甲弾による痛みに絶望したのだろうか、それとも人知れず路地裏で死ぬ孤独に打ちひしがれたのだろうか。
苦しかっただろう、寂しかっただろう。
そんなことを考えてくとどんどん悲しみが積み重なっていく。
涙をこらえながら街を歩いていると、ある二人に出会った。
あの日私が銃を向けてしまったギャル二人だ。
「あっ……」
「あっ、お巡りさん」
罪悪感に包まれる。今思い出してもあの時の私は何をしていたのだろうと疑問に思う。
気まずい、私が思わず目をそらしていると、ギャル二人はその視線の先に移動してきた。
「怖い顔のおまわりさんに聞いたよ、すっごい犯人捕まえたんだって?」
「英雄じゃん、ウケる」
二人は笑顔だった。あんなひどいことをした私を受け入れようとしてくれていた。
「……二人とも、あの時はごめん」
いてもたってもいられなくなり、反射で頭を下げると私の頬が持ち上げられる。
二人はもう気にしていないと、私に言ってくれた。
また涙がこぼれてしまった。私を警察として認めてくれる人がいるのが、こんなにうれしいこととは思わなかった。
しばらく泣いてしまい、二人に慰められながら歩く。
何とか泣き止み、二人に別れを告げる前にドーナッツを二つ分けてあげた。
また目的のない散歩を続けていると、ある川に着いた。
私が水切りをしていた場所だ。
前に来たときは気づかなかったが、ここは夕日が本当にきれいに見える。
ちょうどよくベンチがあったので、そこでドーナッツをかじる。
「……んっ、美味しい」
もう吐きはしなかった。
夕日を眺め、ドーナッツを食べながらいろいろ考える。
先生が殺されたことによって、キヴォトスの政治的なことや事務周りのことが少しだけ混乱したようだが、つい先日シャーレの先生はまた新しい人が現れたようだ。その先生はヴァルキューレではなく『アビドス』と言う学園に向かったそう。
今までシャーレの先生に選ばれる人と言うのは人格者ばかりだと聞く、その人はきっとそっちでもうまくやるだろう。前までと変わりなく、先生がいろんな学園で仕事をこなすキヴォトスに戻る……。
……これから私はどうしよう。
ただ日々をむさぼるのは、先生と遊ぶことを知ってからはつまらなく感じる。
いや、嫌いではないのだが、なんだか今一つ物足りなさを感じるのだ。
七囚人を全力で追ってみる? いや、めんどくさい。
「まったく……先生と関わったせいで、私の人生が大きく変わっちゃったよ」
そんなことを言って、この空のどこかにいる『先生』に文句を言う。
今、先生はどこにいるのかな。
「あっはは」
ふと隣からそんな笑い声が聞こえ、首が飛んでいきそうな勢いで横を向いた。
そこには誰もいない。
「……っぷ」
大きな声で笑いだす。理由なんてないが、おかしくて笑ってしまう。
ドーナッツ最後のひとかけらを口に放り込んで、川の前にある柵に寄りかかる。
オレンジ色の夕日がまぶしい。
「ありがとう、先生」
どうも、曇りのち晴れ男です。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
このあとがきでは、少しだけこの小説についてのお話や、一部シーンを抜粋して「込めた気持ち」をお伝えしたいと思います。
二話のあとがきでもお話ししましたが、この話は「フブキを曇らせてドーナッツ食べられない体になったら面白くね?」というゲスの極みみたいな発想から生まれたお話です。
本来は一話完結の曇らせバッドエンドのつもりだったのですが、フブキを知るにつれてどうにも曇らせるだけじゃだめだなと思いこの話のような形になりました。
私は力を込めた小説を書く際、テーマソングと言うかなんというか、一つ決まった曲をその小説のイメージにします。曲調だったり歌詞の一部だったり……いろいろな要素を見て決めています。
この小説では、『ずっと真夜中でいいのに。』のカバーする『有心論』をイメージして執筆しています。私はこの曲とフブキの暗い状態に挟まれて脳を焼かれました。(自傷ダメージ)
本家様の曲ももちろんいい曲なのでどちらを頭に置いておこうか悩んだのですが、やはりアニメ的なカバーをするずとまよを選びました。先生がいなくなっても市街を歩き続けるフブキが頭に浮かびます。映画で最後に一回だけ流れるEDとして聞くイメージです。
映像化されるわけないのに、エピローグの『オレンジ空の下に立つフブキの映像』から『真っ暗な画面からのエンドロール』を想像してこの曲を流すと涙が出ます。どうも地産地消のできるタイプの作家です。
局長がフブキを取り押さえたシーンで、珍しく泣いていたと思います。
私も極力ブルーアーカイブ本編の描写は細かく見逃さないようにしていますが、局長が泣いたシーンなんて珍しいと思います。
ここのシーンは、先生が死んで、その事件の足取りすら掴めない苛立ちが募ってしまった局長。そして立場上その苛立ちの開放すらできない局長の限界を表現したいシーンとなってます。
もしその後の『射撃訓練場での戦闘』でフブキが諦めていれば、彼女の心は限界を迎えていたと思います。たとえプロ・デュースの事が分かっても、自らの手でフブキを突き放してしまったことで本小説の最終話のように社長を捕まえることはできなかったのではないでしょうか。
あの戦闘でフブキが諦めず三階に逃げる決断をしたからこそ、彼女自身ももう少し頑張れた可能性があります。それが奇跡的に間一髪社長を捕まえる道筋になっていた、かと……。
また、今回のエピローグで、新任先生がアビドスに向かったという描写を入れましたが、この先生はブルーアーカイブ本編の先生と思ってもらって構いません。つまり画面の前の皆さまです。ただし、ヴァルキューレ先生などがいたこの時空は、本編とはまた違った道筋をたどると思います。あくまでも本編と100%違う世界です。そもそも七囚人逃げ出してるしね。
多分この世界のフブキならワカモを何度も逃がすことはしないと思いますし(バレンタインイベント参照)。
多分ヴァルキューレが関わってくるイベントでヴァルキューレがやらかすはずだった事象は全部なくなるんじゃないですかね? ヴァルモブはともかく、少なくともネームドキャラがやらかすことはないと思います。
この時空は、ヴァルキューレのネームドキャラの絆ストーリーをすべて通った時空をイメージしてます。
「絆ストーリーは本編先生の通る道だろ!」と思う方もいると思いますが、細かい部分は許してください……。
あとはまぁ、公式Youtubeの「先生、一杯いかがですか」などもヴァルキューレ先生の目線で見るとだいぶ……きますね。
ヴァルキューレが変わることによって大きく差が生じる話は間違いなくカルバノグの兎ですね。はい、何にも考えてません。
ヴァルキューレ先生がいたことによってあの話がどう変わってくるのか……もはや二次創作レベルで本編が変わってしまうと思います。
フブキ*テラーについてですが、これは登場させようか非常に悩みました。執筆をしてて寝落ちしたのですが、起きたらなぜかメモ帳にフブキ*テラーが目覚めるまでの流れが執筆されていたんですよね。だから多分私は登場させたいんだろうなと思いながら、いまだ謎の多いテラー化について踏み込んでいいものか……と悩んでいました。
ただやはり『フブキがテラー化するなんてブルアカを知ってる先生こそありえないと思うはず、いっそやってしまえ!』ということでやってしまいました。
テラー化についてはいろいろな考察がありますね。自らの神秘を認識した際にテラー化してしまうという記事を見たのですが、あんまり難しく考えても整合性が取れなくなるだけなので、難しいことは考えず、作中の表現として『抑えられないほどの激しい怒りからテラー化』という考えで止めています。
まぁ知らん奴に『なんかムカつくから殺した』なんて言われたら無理でしょうね。
フブキ*テラーの見た目は
・後述の翼と髪の毛を除き、服を含めた全身の表面が銀河の星のような見た目で覆われる。
・黒い翼が生える。
・胸に大きな穴が開く。
・首は脱力し、目は白目。
能力として、胸の穴にかけての強力な吸引反応。そして胸の穴付近で強い重力を発生させ物体を消滅させる。まぁ要するにブラックホールです。
見た目に関してはそんなに深く考察するほどの理由は込められていません……。
銀河の見た目はフブキのふわふわとした、脱力感のある普段の態度からのイメージ。翼は北欧神話に出るワルキューレから引っ張ってきています。色だけ白鳥の白から黒に反転してます。
胸の穴については、フブキ自身にドーナッツになっていただきました。あと吸引能力は、常日頃ドーナッツしか食べていなかったフブキがトラウマによってドーナッツが食べられなくなり、それ以外のすべてを食べつくす欲求に反転してしまったと設定つけて解釈しています。
攻撃属性、防御属性については皆さまで自由に考察してください。そこまで考えるほどボスの傾向に詳しくないんです……。
ついでに本日の朝ごろに、エピローグのフブキとフブキ*テラーのイラストをそれぞれ挿絵として私のユーザーページに投稿しております。いるかどうかはわかりませんが、私解釈のフブキ*テラーのイラストを描きたい方がいたら参考にしてください。
私に絵の才能はないので無論AIイラストです。
……あと本当、なんでカンナはフブキ*テラーの攻撃に耐えれたんでしょうね。
あとそこらへん繋がりで行くと、プロ・デュースのベアトリーチェとのつながりを示唆しましたね。ここはゲマトリアの謎の多い部分を使わせていただきました。
・対人徹甲弾などという意味不明な兵器の開発
・課長がフブキに向けた、キヴォトス人を殺す弾丸。もといヘイロー破壊弾
・痕跡を残さない情報操作
・シッテムの箱の対処
最後のに関しては多分先生の不注意でタブレットを落としたりしたんでしょう。
そしてついで……というには少々大きすぎますが、一応謝罪をします。ついでに伏字にしておきます。
おそらくお気づきの方もいるでしょう。作中の一部描写で分かる通り、私は住●よるさんの作品が好きです。少し描写の真似をした部分もあります。
適合率90%……と言える場所は一か所しかないはずなので、どうかお許しください。
最後まで読んで、どうだったでしょうか?なるべく読者の皆様の心に残るような話にしたいな、と考えて考えて書いていましたが、心に残る作品に成れた……でしょうか。
正直なことを言うと、私は自分の小説に大した自信は持っていません。
というのも私、活字が読めないんです。読める小説は自分のものと、住●よるさんの作品のみ。なぜでしょうね。数年頑張っているのですが、どうしても活字を読むと頭痛がしてきちゃいます。
そんな私なので大した国語力も持っていませんし、小説を書くセオリーなども知りません。
どんな作風が美しく、どんな書き方が綺麗なのか、全く知りません。
なので人気が出る作品は作れないとハナから決めつけています。
ですがこのあとがきを呼んでいる読者がいるということは、少なくともあなたの心をここまで掴めたのだと思います。とてもうれしい事です。
本来創作をする人間はこんな弱音を吐いてはいけないですね。
次回作は大体形ができています。あとは私の方で書き上げるのみなのですが……なかなかプライベートが忙しくなってくるので、もしかしたら皆さまとはこれで最後かもしれません。
無論、おもいのほかパソコンの前に向かって書いている可能性も0ではないので、ぜひうっすらと楽しみにしておいてください。
また、次回作の主人公はイチカとなりますが、この話と一応時間軸は繋がっている設定でお送りします。
良かったら、この小説の感想を書いてください。
すべて読ませていただきます。
それでは皆様、ここまで読んでくださったことに、改めてお礼を申し上げます。
これからも良いブルアカライフを。