「……。私は少し、ダンテさんと話をしていくよ」
マキマの静かな、しかし有無を言わせない声が事務所に響く。早川アキは一瞬だけ足を止めたが、彼女の横顔を見てから、一礼して部屋を後にした。重い扉が閉まり、深夜のオフィスにはダンテとマキマ、二人きりの沈黙が降りた。
マキマはゆっくりと歩き、アキのデスクの椅子を引いて座った。背筋を伸ばし、組んだ両手の上に顎を乗せて、ダンテを見つめる。
「お酒は用意できなかった。……でも、君には冷たい水の方が似合うと思ってね」
「ハッ。……気が利くね。できればストロベリーのシロップも欲しかったが」
ダンテはグラスには手を触れず、ソファに深く身体を沈めたまま、背中の『リベリオン』の感触を確かめた。この女の前で武器から意識を逸らすのは、死神とチェスをするより分が悪い。
「……ダンテ。君は、とても不思議だ」
マキマの同心円状の瞳が、無機質にダンテを捉える。そこには親愛も敵意もなく、ただ対象を観察し、分類しようとする静かな意志だけがあった。
「この世界の悪魔は、人々の『恐怖』から生まれる。……でも、君からは恐怖が匂わない。代わりに漂ってくるのは、ひどく懐かしくて、そして異質な――『意志』の香り。……君は、この世界のルールで動いていないね?」
「ルール、か。……生憎だが、俺はガキの頃から型にハマるのが嫌いでね。……お姉さん、単刀直入に言えよ。俺に何の用だ?」
「用、というほどのことじゃない。ただ……期待しているよ。……今、公安はサムライソードたちの襲撃を受けて混乱している。特異4課も、チェンソーの少年を除けば戦力が足りない。……そんな時、君のような『理外の力』が協力してくれるのは、とても好都合だ」
マキマは立ち上がり、ゆっくりとダンテの方へ歩み寄る。その足音は一定で、一切の迷いがない。
「ねえ、ダンテ。……君の望みは何かな? お金? それとも……元の場所へ帰る方法?」
「……。俺の望み、ね」
ダンテは不敵に口角を上げ、リベリオンの柄を軽く指先で叩いた。その瞬間、事務所内の空気がピリリと帯電し、窓ガラスが微かに共鳴する。
「俺が欲しいのは、いつだって最高のピザと、退屈しないダンスの相手だけだ。……だが、一つだけ言っておくぜ。……俺は、誰かに『飼われる』趣味はない。……たとえそれが、どんなに綺麗な飼い主様だったとしてもな」
二人の視線が空中で激突する。
マキマの瞳に宿る不可視の圧力が、ダンテの精神へと手を伸ばそうとする。だが、その干渉はダンテの全身から立ち上る紅い魔力の陽炎に触れた瞬間、霧散した。
「……そうか。……それは残念だね」
マキマは表情一つ変えず、ただ短く、吐息のように言った。