「……なんだぁ? こりゃあ……」
チェンソーの刃を回転させていたデンジが、その場で呆然と立ち尽くした。
さっきまで銃を構えていた男たちが、一人、また一人と「見えない力」によって捻り潰され、肉の礫へと変わっていく。
パワーもその異様な光景に、本能的な恐怖で尻もちをついた。
「……呪いか!? 何奴の仕業じゃ……!」
血の雨が降り注ぐ車内。ダンテだけは、その不可視の攻撃の「出処」を察していた。遥か遠く、何百キロも先から響いてくる、冷徹で淡々とした「支配」の拍動。
「……。まったく。……お姉さんの演出は、いつだって趣味が悪い」
ダンテは肩をすくめ、血に濡れた床を避けるように一歩踏み出した。
その先には、ボロボロになりながらも立ち上がったサムライソードがいた。仲間が次々と肉塊に変わる異常事態に、その異形の瞳が激しく揺れている。
「……マキマ……。あの女……俺たちを、最初から……!」
「……。気づくのが少し遅すぎたな、お前さん」
ダンテはリベリオンを静かに横に構えた。
「……あんたの雇い主も、俺の知り合いのお姉さんも、どっちも『他人の命』をチップに賭けをするのが好きらしい。……だが、俺はそいつが大嫌いでね」
サムライソードが絶叫と共に、最後の一撃を放つ。
死を覚悟した、捨て身の超加速。
だが、ダンテはそれよりも速く、リベリオンの柄を強く握り直した。
「……幕引きだ。……地獄へ行く前に、自分の足の運びを反省しな」
刹那。
ダンテの姿がブレ、サムライソードと交差した。
――『ドライブ』。
空間を断ち切る衝撃波が、サムライソードの両腕の刀を粉々に砕き、その肉体を車両の壁ごと突き破った。彼は列車の外、猛スピードで流れる景色の中へと放り出されていく。
同時に、外を並走していた蛇の悪魔も、マキマの不可視の圧搾によって、ぐしゃりと潰されて消滅した。
静寂が訪れる。
残されたのは、血の匂いと、風の音。そして、呆然とするデンジとパワーだけ。
「……。終わったぜ、ガキども。……死ぬのが嫌なら、次からはもう少しマシな席を選びな」
ダンテはリベリオンをくるりと回し、吸い付くように背中へと戻した。
その動作には、一分の隙もない。
そこへ、アキが血相を変えて駆け込んできた。
「ダンテ! デンジ! 無事か! ……これは、一体……」
「……。お兄さんの上司が、遠くから掃除をしてくれたのさ」
ダンテは窓の外、遠く離れた京都の方角を一度だけ見やり、吐き捨てるように言った。
「……支配、ね。……ハッ。……反吐が出るぜ」
数時間後。東京に戻ったダンテは、一人、マキマの執務室の前に立っていた。
扉を開けることなく、彼はその向こう側にいる気配に向けて、低く、しかし鋭い声を投げかける。
「……マキマ。……あんたのやり方は、ダンスじゃない。……ただの虐殺(ジェノサイド)だ」
部屋の中から、感情の読み取れない静かな声が返ってくる。
「……。結果がすべてだよ、ダンテ。……被害を最小限に抑え、敵を排除した。……君がそれを気に入らないとしても、ね」
「……。ああ。……だからこそ、俺はあんたを『ダンスの相手』に選ぶことはねえよ」
ダンテは背を向け、廊下を歩き出す。
彼の背中で、リベリオンの髑髏が、まるで冷笑するように口を開いていた。