午前六時。
意識の輪郭が、枕元に置いた目覚まし時計の微かな駆動音によって、ゆっくりと結ばれていく。
俺――早川アキは、布団の中で一度だけ深く呼吸をし、肺の中に残った昨夜の重い空気を吐き出した。まだカーテンの隙間から差し込む光は弱く、部屋は薄い群青色に沈んでいる。
布団から出ると、肌寒さが腕を撫でた。
まずは寝室を出て、洗面所へ向かう。
蛇口を捻ると、静寂を破って勢いよく水が流れ出した。手のひらで受け止めた水は、冬の冷たさを残して肌を刺す。その冷気が、こびり付いた眠気を削ぎ落としてくれる感覚が好きだった。
鏡の中の自分と向き合う。
長い髪を後ろで一つにまとめ、ゴムで縛る。
指先に伝わる髪の感触、肌を撫でる水滴の重み。一つ一つの所作を確認するように、俺は日常を組み立てていく。
キッチンに立ち、まずはやかんに水を張った。
コンロのつまみを回すと、カチカチという火花が飛ぶ音の後に、ボッと青い炎が宿る。水が温まるまでの間、俺はキッチンの窓を開けた。
ひんやりとした朝の空気が、部屋の中へ流れ込む。
湿った土の匂いと、微かな排気ガスの匂い。遠くでカラスが鳴く声が響き、東京という街がゆっくりと脈打ち始める音が聞こえる。
やがて、シュンシュンとやかんが鳴り始めた。
沸騰したての湯を、急須に注ぐ。
茶葉が躍り、独特の香ばしさが狭いキッチンに広がっていく。
この時間が、一番落ち着く。
これから始まる、悪魔との殺し合いや、騒がしい同居人たちとの小競り合いから隔絶された、唯一の聖域。
……だが、その静寂は、いつも通りの「異音」によって破られる。
「……おいお兄さん。……朝から随分と、丁寧な仕事をしてるじゃないか」
廊下の暗がりから、普段は羽織っている赤いコートを片手に持ちながら影がゆらりと現れた。
ダンテだ。
彼はまだ寝ぼけ眼のまま、大きな欠伸をしながらリビングのソファに倒れ込んだ。
その背中には、相変わらずあの禍々しい大剣『リベリオン』が張り付いている。
銀色の刀身が、朝の光を反射して不吉な煌めきを放った。
「起きたか。朝食はもう少し時間がかかる……それと、朝からその剣を振り回すなよ。掃除の邪魔だ」
「分かってるって……こいつも、朝は機嫌が悪いんだ」
ダンテが指先でリベリオンの鍔にある髑髏を軽く弾くと、まるで剣が意志を持っているかのように、ひとりでに床を滑って壁際に直立した。
俺はため息をつき、茶を啜る。
こうして、俺のいつもの朝に、赤い異物が混ざり込むのが日常の風景となってしまった。