ドタドタと廊下を叩く足音が、朝の静かな余韻を容赦なく踏み荒らしていく。
「飯ィ! 卵の匂いがするぞアキィ!」
「待てデンジ! ワシが先じゃ! 今日はワシが一番に座ると決めておったのじゃ!」
リビングのドアが勢いよく開き、寝癖のついたデンジと、角をぶつけそうになりながら割り込むパワーが雪崩れ込んできた。二人は空腹の獣のような目をして食卓に飛びつき、椅子をガタガタと鳴らす。
アキは深くため息をつきながら、人数分の皿をテーブルに並べた。
炊きたての米から立ち昇る、甘く柔らかな湯気。
出汁の香りを閉じ込めた黄金色の卵焼き。
そして、ダンテが淹れたコーヒーの、重厚でほろ苦い香りがまだ部屋の隅に漂っている。
「……座れ。お前ら、手は洗ったんだろうな」
「洗った洗った! ほら、見ろよ!」
「ワシもじゃ! 水の冷たさに勝利してきたぞ!」
デンジとパワーは、アキが差し出したご飯を待ちきれない様子で受け取る。
ふと、デンジが鼻をクンクンと鳴らして、ダンテの前のマグカップを覗き込んだ。
「……なんだ、これ。アキの茶じゃねえな。すげぇ苦そうな匂い……」
「それはダンテの『兄貴直伝』のコーヒーだ。お前らにはまだ早い」
「はぁ!? 俺だって大人だぞ! 一口寄こせよダンテ!」
ソファからゆっくりと立ち上がったダンテは、空のコーラ缶をテーブルに置き、不敵に笑ってデンジの頭を大きな手でわしづかみにした。
「……。よせよ。こいつを飲むと、背中が伸びるどころか、小言の多い幻聴が聞こえてくるようになるぜ。……それより、お兄さんのメシを食え。冷めると味が落ちる」
ダンテはそう言いながら、アキが自分のために用意した席に腰を下ろした。
「いただきます」
バラバラな声が重なり、早川家の朝食が始まる。
アキの卵焼きを口に運んだデンジが、「あちっ」と言いながらも幸せそうに頬張る。
パワーは野菜を巧妙に避けながら、卵焼きを奪い取るように口へ放り込む。
ダンテは箸を器用に使い、アキの作った味噌汁を一口啜った。
「……。ハッ。……悪くない。……こいつはコーラじゃ代わりが務まらねえ味だ」
「……当たり前だ。……おいパワー、ネギを避けるな。食え」
「嫌じゃ! ワシは血の通っておるものしか食わんと言っておろう!」
アキは小言を言いながらも、自分の茶を啜り、一瞬だけダンテと視線を合わせた。
さっきまでの、あの張り詰めた「剣士」の空気は、今はもうない。
だが、食卓の下に目を向ければ、壁際に立てかけられたリベリオンと、布に包まれた釘の剣が、静かに、しかし確かな存在感で並んでいる。
朝日の光が食卓を白く飛ばし、咀嚼する音、箸が皿を叩く音、そして他愛もない言い合いが、かもめ食堂の映画のワンシーンのように穏やかに流れていく。
この騒がしさが、自分にとっての「救い」になり始めていることを、アキは自覚せずにはいられなかった。
「……。よし、食い終わったら特訓だ。……ダンテ、あんまりこいつらを壊しすぎないでくれよ」
「心配するな、お兄さん。……壊れたら、また組み立て直してやるさ。……俺は、しぶとい奴は嫌いじゃない」
ダンテはコーラの最後の一滴を喉に流し込み、満足げに喉を鳴らした。