叛逆の悪魔   作:あめんぼユカイ

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1-3:In Tokyo

新宿の喧騒は、悲鳴と破壊音に塗り替えられていた。

 現れたのは『ビルの悪魔』。周囲のコンクリートを自らの肉体として取り込み、巨大な多脚戦車のような姿に変貌したそれは、逃げ遅れた一般人をその体内に閉じ込め、無差別に建物をなぎ倒していた。

 

「……うげっ、デカすぎだろ。あんなのどうやって斬るんだよ」

 

 現場に到着したデンジが、見上げるような巨体に顔をしかめる。

 

「ワシは腹が痛くなってきた。デンジ、お前が先に行け」

 

 パワーが早々に逃げ腰になる中、アキが刀の柄に手をかけた。

 

「……作戦を立てる。ダンテ、お前は後方で――」

「作戦? そんな面倒なもんは、事務所に忘れてきた」

 

 アキの言葉を遮り、赤いコートが風に舞う。

 ダンテは悠然と、巨大な悪魔の正面へと歩み出していた。

 

 ――グオォォォン!

 

 『ビルの悪魔』が、ダンテを「羽虫」と判断し、巨大な瓦礫の拳を振り下ろす。轟音と共にアスファルトが砕け、土煙が舞い上がった。

 

「ダンテ!」

 

 アキが叫ぶ。だが、煙の中から聞こえてきたのは、乾いた笑い声だった。

 

「スピードが足りないな。……あくびが出るぜ」

 

 土煙が晴れる。そこには、片手で巨大な拳を受け止めているダンテの姿があった。

 足元の地面は陥没しているが、彼の腕は微動だにしない。

 

「なっ……生身で受けやがった!?」

 

 デンジの目が飛び出す。

 

「さて、まずは軽く準備運動といこうか」

 

 ダンテは跳躍した。重力を無視したかのような滞空時間。

 空中でリベリオンを引き抜き、目にも留まらぬ速さで振り下ろす。

 

「ヘルムブレイカー!」

 

 一撃。コンクリートの装甲が、まるでバターのように両断される。

 着地と同時に、ダンテは背中の大剣を流れるような動作で納め、両手に漆黒と白銀の二挺拳銃を構えた。

 

「エボニー&アイボリー。……さあ、ダンスの時間だ」

 

 トリガーが引かれる。

 魔力を弾丸として撃ち出す銃声が、戦場に規則正しいビートを刻む。

 通常の銃器が効かないはずの悪魔の肉体が、ダンテの放つ弾丸によって次々と弾け飛んでいく。リロードの必要がない無限の連射。それはもはや銃撃ではなく、暴力的なまでの演奏だった。

 悪魔が苦し紛れに、体内から無数の鉄骨を触手のように突き出してきた。

 ダンテはそれを、最低限の動きで見切る。

 ある時はスケボーのように瓦礫に乗って滑り、ある時はバックフリップで回避しながら、銃弾を叩き込み続ける。

 

「あいつ、戦ってるっていうより……遊んでねえか?」

 

 デンジが呆然と呟く。

 

「……。契約の力じゃない。あれは、奴自身の純粋な暴力だ」

 

 アキは戦慄していた。この男は、悪魔から力を借りているのではない。悪魔を「素材」として蹂躙しているのだ。

 やがて、追い詰められた悪魔が最後の足掻きとして、核となる中心部を露出させ、広範囲を押し潰そうと崩れかかってきた。

 

「フィニッシュだ」

 

 ダンテの瞳に、紅い魔力が宿る。

 彼はリベリオンを正面に構え、低く身を沈めた。

 

「スティンガー!!」

 

 爆音。

 ダンテの体が一本の矢と化し、悪魔の巨体を一直線に貫いた。

 突き抜けた衝撃波が、背後のビルをも震わせる。

 ゆっくりと、巨躯を誇った『ビルの悪魔』が砂塵となって崩壊していった。

 静まり返る新宿の路上。

 ダンテはリベリオンを背負い直し、髪をかき上げた。

 

「ふぅ……。ちょっとは腹が減ったな」

「……見事な手際ね」

 

 背後から、静かな足音が近づく。

 マキマだった。彼女は周囲の惨状には目もくれず、ダンテの背中を見つめている。

 

「どうかしら、ダンテ。私たちの下で働く気になった?」

 

 ダンテは振り返り、マキマの感情の見えない瞳を見つめ返した。

 

「……勘違いするなよ。俺はあんたの所有物(ペット)になるつもりはない。だが、この街には面白い悪魔が多いようだ。……退屈しのぎにはなりそうだな」

「そう。なら、歓迎する。……とりあえず、ピザの代金は公安で立て替えておく。あなたのこれからの活躍で、返してもらうけれど」

「はっ、世知辛いね。……おい、小僧! これでおさらばか?」

 

 呼びかけられたデンジは、鼻をすすりながら笑った。

 

「まさか。……お前、面白いからよ。今度、美味いパンの食い方教えてやるよ」

 

 ダンテは小さく笑い、空を仰いだ。

 見慣れない、だが同じように暗い空。

 

「……親父。こっちの世界も、なかなか賑やかだぜ」

 

 最強のデビルハンター、ダンテ。

 彼がこの狂った世界に刻む新たな伝説は、まだ始まったばかりだった。

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