その日は、いつものように退屈で、そして最悪な形で幕を開けた。
東京の片隅にある、古びた定食屋。
ダンテは、アキ、デンジ、パワーと共に、柄にもなく木製のカウンター席に並んでいた。目の前には、湯気を立てる焼き魚と味噌汁。
「……なぁ、アキ。昨日のツケが溜まってピザ屋に出禁を食らったのは分かるが、なんで朝から焼き魚なんだ? 脂の乗ったサラミが恋しくて死にそうだぜ」
「健康管理もデビルハンターの仕事だ。黙って食え。……それと、店内でその剣を剥き出しにするなと言っている」
アキが呆れたように指差す先。
ダンテの背中には、禍々しい髑髏を模した柄の大剣、**『リベリオン』**が鎮座している。
鞘などという無粋なものは存在しない。剥き出しの銀光を放つ刃が、ダンテの魔力によって吸い付くようにコートの背へ固定されており、剥き出しの凶器としてそこにある。
「……ハッ、こいつは俺の体の一部みたいなもんでね。そう簡単に離れてはくれないんだよ」
ダンテが箸を弄んでいるその時――。
店の外から、乾いた銃声が響いた。
一発。そして、連続した掃射音。
悲鳴が上がるよりも早く、店のガラスが粉々に砕け散り、黒いスーツを着た男たちが無差別に銃を乱射し始める。
「なっ……!?」
アキが反射的に刀へ手を伸ばすが、敵の狙いは正確だった。
背後から撃たれたデンジの胸が弾け、パワーが血を噴き出して倒れる。アキ自身の喉元にも、即座に銃口が突きつけられた。
だが、その阿鼻叫喚のただ中で、唯一「静止」している男がいた。
ダンテは、自分のコートを貫いた数発の弾丸など意にも介さず、冷めた味噌汁を最後の一口まで啜り終えた。
「……おい。……食事中に、行儀が悪いぜ」
「……あんたがダンテか。……話に聞いていたより、ずっとマヌケな面だな」
散乱した瓦礫を踏みしめ、一人の男が歩み寄る。
コートの襟を立て、帽子を深く被ったその男……サムライソード。
彼が左手の甲を引いた瞬間、頭部と両腕から巨大な「刀」が突き出した。
「デビルハンターは、全員殺す。……特にお前は、マキマが最も警戒している『バグ』だ。……ここで死んでもらう」
「刀か。……ハッ、日本(ここ)じゃ馴染み深い武器だが。……お前のそれは、少し重みが足りないな」
ダンテはゆっくりと立ち上がった。
その動作と同時に、背負っていたリベリオンが、磁石に引かれるように吸い寄せられ、彼の右手に収まる。
サムライソードが腰を低く落とす。
この世界の物理法則を置き去りにする超加速。居合の構えから放たれる、対象を真っ二つに断つ一閃が、ダンテの首を捉える――。
キィィィィィィン!!
激しい火花が散った。
ダンテは一歩も動かず、右手に持ったリベリオンの刀身だけで、その「不可視の一撃」を平然と受け止めていた。
「……言ったはずだぜ。……重みが足りない、ってな」
ダンテはリベリオンを軽く押し返し、サムライソードを弾き飛ばす。
宙を舞う相手に対し、ダンテは剣を握ったまま、空いた左手でホルスターから愛銃、白銀の**『アイボリー』**を抜き放った。
「……朝食の邪魔をしたお詫びだ。鉛のプレゼントをたっぷりと受け取ってくれ」
アイボリーの銃口から放たれる魔力の弾丸が、サムライソードの胸部を正確に捉える。
その衝撃は通常の拳銃の比ではなく、大口径の砲弾を撃ち込まれたかのように、サムライソードの巨体をさらに後方の壁へと叩きつけた。