『旅人の見た幻想郷』の第一話は『旅人、裏の月の地を踏む』となりますので、宜しければそちらから読んでいただけると幸いです。
断章・全ての始まり
この記録は『俺』が『田澤昴』、ひいては宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンの情報。
そして『元の世界』の情報についてを、口語体かつ一人称視点における物語調で記述する物である。なお、便宜的に稗田家のメモに対する考察も含めた。
「お前がサークル入らないのって何かの主義か? 灰色の青春だと思うぜ」
「俺だって危機感を覚えてる所なんだよ、この一年不健康な方向にだけ充実していた」
今年めでたく大学二年、つい最近成人を迎えた俺こと田澤昴。大学構内で偶然出会った友人から、唐突に痛い所を指摘された。
簡単に言ってしまえば、お前昨年度何もしてなかったけどそれで良いのかと突っ込まれたのだ。これには孤独を選ばざるを得ない複雑な事情が……有る訳はなく、単に加入を迷っている内にタイミングを逃しただけ。
たった1ヶ月の間にどこのサークルも内輪的な雰囲気を醸し出し始め、入るに入れなくなったのだ。
「別に俺のサークルを紹介しても良いんだがなあ」
「お前、俺がド下手なスポーツランキング一位に君臨するのがバスケットだって知ってるだろ……」
うん、まあ。友人自体はそこそこ居るので、彼らにコネを頼む手も有ったのだが。
基本的に俺はバスケに限らずスポーツが苦手なのだ。柔道剣道は素人以上には出来る自負も有るが、大した事は無い。中学校までは続けていたのだが高校で特に理由もなく止めてしまったので、今から再開しても真面目に取り組んできた人達の中ではお荷物でしかないだろう。
そして他にも文化系サークルという選択肢が有った訳だが、試しに覗いてみたら体育会系のサークル以上に排他的な雰囲気だった。
「あ、そう言えば噂で聞いたんだけどさ。秘封倶楽部って、どんなサークルなのか知ってるか?」
「……田澤、あそこは止めとけ。お前の事だから人数が少なければ打ち解けやすいって考えてるんだろ?
確かに秘封倶楽部は女二人という男が加われば即勝ち組決定のサークルだが、あの二人は出来てるって話だ」
「出来てる? 何が?」
「そりゃあ友人を超えたお付き合いだよ。講義の時以外、暇が有れば常に二人だけで行動してるんだぞ。
まあ、見てくるだけだったら自由だと思うが……下手な内輪のサークルより入りづらいだろう。後、噂でこう言う事を広めるのは嫌なんだが、一応言っておく。その二人、宇佐見とハーンって言うんだが、危ないぞ」
「危ないって、何がだ。怪しげな薬品を作ってるとか?」
「食堂でたまたま隣に座った奴が、異界だの結界だの境界だの魔法だの大真面目に話してると証言しているんだ。危険だろ?」
異界ねえ。何となく、更に興味が湧いた。色々と不安な要素も有るが、行くだけ行ってみようか。
いくら度を超して仲が良かったとしても、新入生の振りをしていれば表立って避けられる事は無いだろう。……無いよな?
「まあ、実際に見てから判断する事にするよ。とりあえず、活動場所を知ってないか?」
「大体外に出てるみたいだから詳しくは知らないが…… 構内ではあの辺りに居る事が多いのか?
……それにしてもさ、お前ももう少し学生事情を知っとけよ。あの二人、見た目はかなりの美人だから今の噂はわりと広まってるぞ?」
「……もう少し、行動的になるよ」
「んー、居ねえなあ。そもそも此処が活動拠点じゃないって可能性も有るが……」
友人に教えられた場所を訪れてみるも、それらしき集まりは見付からない。
そもそも此処は構内でも奥まった地点なので人の姿が疎らだ。時折カップルらしき二人組が通る程度である、畜生め。
「大体にして、その二人の顔も分からないのに探すのが間違っている気も……」
十分程度粘ってみる物の、特に成果は無し。今日はサークル活動の無い日なのだろうと考え帰る事にする。
別に今日どうしても会わなければならない理由が有る訳では無いし、会えた所で加入できるかどうかも不透明なのだ。明日以降に回しても支障は無いし、俺にも用事は有る。
そろそろ通りがかる二人組の男の方から向けられる優越感に浸った視線に耐えられなくなってきた事も有り、諦めて足を大学の敷地内にある図書館に向ける。
結構色々なジャンルの本が置いてあって、中々面白い所だ。俺も提出課題の参考になる本を借りたり、趣味の本を借りたりと結構お世話になっている。今日は借りていた本を返す期限間近だし、返すついでに適当にうろついてみよう。
何事もなく図書館に到着し本返却などを済ませた後、適当に歩き回り俺の趣味に合致した本が無いかを探して回る。
そんな青春の気配など何一つ感じられないルーチンワークを黙々とこなしていた俺は、趣味の本を5冊程見繕った所で可愛らしい女性に出会う。
「うーん、届かないわね…… 踏み台も見付からないし、どうしようかしら」
「ん?」
棚の最上段、そこに並んだ本へ手を伸ばすも届かず難儀している女性。
薄い紫のワンピース、白いナイトキャップのような物を被った金の長髪の彼女は、どうにも困っているようだった。
近くに人が居ないようなので、少し迷った後に近付いて本を代わりに取ってやる。こう言う時、地味に高い身長は便利だ。
「これ、ですか?」
「あ、助かります。すみませんね、手間を取らせちゃって」
「いえいえ。ではこれで」
本を手渡し軽い挨拶の後、俺も再び本探しに戻ろうとして…… 女性が俺の持っている本に注目している事に気付く。
俺が今持っている本は、所謂オカルト系である。装丁からして雰囲気を出している、古臭い怪奇文学や怪しい書物。いや、少し語弊が有るか。これらは『雰囲気を出している』程度ではない。
俺のちょっとした感覚によって選別された、正真正銘の本物であるオカルト本だ。……少なくとも、俺はそう信じている。客観的に確かめられる訳では無いので、もしかしたら正真正銘の偽物かもしれないが。
「……何か?」
「あ、その…… その本、借りるんですか?」
「そのつもりですが」
「気を悪くしないで聞いてほしいんですけど…… 止めておいた方が良いと思います」
はあ? いや、そんな事言われても。人の借りる本にケチを付けるなんて何様のつもりだよ。
あれか、もしかして俺に対して遠回しに『そんな根暗な本なんて気持ち悪いですよ』とか言いたいのか。
悪かったな、こんなオカルトが趣味の大学生で、と言いかけて慌てて止める。
流石に初対面の女性に対しての発言として不適切だと思い直したのが半分、俺の異能……と信じたい感覚が目の前の女性に対して何かの反応を見せたからと言うのがもう半分。
……うーん、少し鎌をかけてみるか。
「お気遣いなく。本当に危ない物は選んでないので」
「……その本が、危ないって分かるんですか?」
「勘のようなものです」
そう答えると、何やら女性は悩み始めた。
とりあえず軽く探りを入れた所この女性も何となく『分かる』素振りだが、まだ決定的ではない。俺のように悪い意味で夢を捨てきれていない人かもしれないし。
もう少し冷静になり、様子を見てから対応を検討しようか……
「少し、生協辺りでお話ししませんか? 迷惑なら、別に断ってくれても構わないのですけれど……」
「分かりました行きましょう」
即答する。いや、だって、ほら。この人、美人だし。俺彼女いない歴が今年めでたく20年だし。断る訳無いだろう。
内心の激しい感情の動きは極力抑えたつもりだが、早口になってしまったかもしれない。ギリギリ敬語は崩れなかったが。
女性の前に立って歩くと、目的地が同じなので当然ながら女性も俺の後ろに着いてくる。ヤバイ、いかにもツレって感じで正体不明の高揚感が。
気分だけは彼女持ちを密かに堪能しながら本を借り、そのまま生協の食堂に入ってドリンクを購入。無駄にカッコつけて、勢いのままに女性の分も俺が払う。
互いにテーブルの対面に座り、ドリンクで喉を潤してから会話を再開する。
「で、何を話したいんですか?」
「単刀直入に聞きますね? 貴方、さっきの本の境界が見えていたんですか?」
境界? つい最近どっかでそのフレーズを耳にしたな。
それにしても境界って何だ。俺が見えているのはトラブルとか、良くない物の気配なんだが……もしかして、それを言っているのか?
「境界と言われても良く分かりませんが、さっきの本から良くない感覚を受けた事は確かです」
「……良くないって分かっていて、どうして借りたんですか?」
「面白いからです」
その質問を受けて、思わず内心で笑みが浮かぶ。それは俺が小学校の頃以来誰にも明かしていない趣味に関わっている。
隠していたから当たり前と言えば当たり前なのだが、誰も今まで俺にそれを聞いた事は無かった。俺は、他人にこの夢を理解してもらいたかったのかもしれない。自然と饒舌になる。
「こんなに進んだ現代の科学ですら解明出来ないトラブル。それを俺は見付ける事も避ける事も出来るんです。
そして、分からない事や不思議な事は何としてでも解明したい。少なくとも、目に見える物は解き明かしたい。
そうすれば、今よりももっと世界は楽しくなる筈。今はまだ、力も立場も無いから図書館で本探しをする程度ですが」
と、ここまで語って我に帰った。
いきなり目の前の良い年した男が、謎を解明したいだの世界は楽しくなるだの言い出したら普通はどうなるか、と。
楽しい夢をお持ちなんですねと微笑ましい顔で見守られるか、楽しい頭をお持ちなんですねと引きつった顔で見守られるかの二択であり、後者もそうだが前者もキツイ物が有る。
大学では単なる地味な人というノリを通してきたのに、此処に来て不気味な趣味持ちという属性が皆に広まってしまうのか……
「そう、なんですか。……貴方に是非来てもらいたい場所が有るんです。一緒に行きましょう」
「うぇ?」
しかし俺の予想とは異なり、急に立ち上がった女性は俺の手を掴んで引っ張り始めた。
そこまで押しの強そうな性格に見えなかった事と、初めて同年代の女性の手を触った事に驚き間抜けな声を上げてしまう。
意識に一瞬の空白が出来た間にも引っ張られ続け、女性に手を引かれて進む男という光景が食堂にて展開される。何だ何だと注目が集まりかなり気恥ずかしくなったが、二重の意味で手を振り払う勇気は無くされるがままに。
結局、役得と羞恥の両方を甘んじて受ける俺だった。
「あ、あのー。せめて何処に連れていくのかくらいは教えてもらえると嬉しかったり……」
「あ、ごめんなさい。それに良く考えれば私達自己紹介もしていませんね。
私はマエリベリー・ハーンと言います。貴方に私の所属するサークルを紹介したいんです」
「ハーン、さん? それにサークルとは何とも…… ああ、俺は田澤昴と言います」
「田澤さん、ね。とりあえず見るだけでも良いので、着いてきてくださいな」
漸く落ち着いてきて状況説明を求める。すると女性、ハーンさんは慌てたように俺から手を離し目的地と名前を教えてくれた。
俺も名前を返すが、ハーンと言う名前をつい最近聞いた事とサークルと言う言葉にどうしても反応してしまう。これってもしや。
今度はゆっくり先導してくれるハーンさんに、軽い疑問を抱きながらも大人しく着いていく。
「あ、此処です。……蓮子ー!」
「……ハーンと女性の名前。もしかして本当に」
どう見ても半分以上放棄されている感のある、使用用途の分からない部屋。
そこの前で止まったハーンさんは手慣れたように気負いもなくドアを開ける。俺も腰を低くしながらハーンさんに続く。もう、恐らくは確定だろう。
「ねえ、蓮子。ちょっと面白い人を連れてきたんだけど」
「メリーが誰かを呼んでくるってのも珍しいわね。一体、誰を……って、アンタ!?」
部屋の中で椅子に腰かけ、気怠げに雑誌を捲っていた黒に近い茶髪の女性。白いシャツに黒いカーディガン、黒の中折れ帽を被った……って、この人!?
「あ、先日はどうも。いや、性別の境を超えた愛を育んでいるというお二方を邪魔する気は無いので、名前だけでもサークルに……」
「わ、私達ってそんな噂立ってるの? 私と蓮子はそんな関係じゃ……あるかも?」
「メリー、誤解が広まるような言い方しないでよ……」
蓮子って、この人だったのか…… 変な縁が有る人と言うか何と言うか。
「その反応だと二人とも知り合いみたいだけど…… いつ知り合ったの?」
「忘れたくても忘れられないわよ、あの無駄に印象的な初対面は……
何週間前かの夜、雨が急に降った時あったじゃん? アパートに帰る途中だったから困ってて、その時会ったんだけどさ」
「雨が降りしきる中、二人の男女が出会う…… 中々ロマンチックじゃない、それでどうなったの?」
「ロマンチック何かじゃないわよ…… 傘を貸してくれるって言ったから有りがたく使わせて貰ったんだけど、穴が空いてたの。
雨の下に出てから気付いて、慌ててる内にずぶ濡れになって。結局コイツのジャケットを盾にして二人で窮屈に脱出したわ」
「その節はどうもご迷惑おかけしました……」
「あれで風邪を引いてたら迷惑ってレベルじゃなかったわよ、本当に……
で、メリー。コイツが面白い人ってどういう事? 芸人的な意味でかしら?」
蓮子さんの俺に対する印象は悪いようだ。当たり前に俺の責任なので何も言えない。
「ふふ、今のを聞くとその面白さも有りそうだけどね。私が言ってるのは秘封倶楽部的な意味でよ、蓮子」
「コイツに? メリーが言うなら、まあ嘘ではないんでしょうけど」
ハーンさんの言葉が意外だったのか、疑わしさの残る顔つきながらも一応落ち着いて俺を見てくれる蓮子さん。
そのままじろじろと俺の体を見回すが……彼女もハーンさんとはタイプの違う美人だ。どうにも居心地が悪い。と言うか今日一日で人生の女運全て使いきるんじゃないかと思うくらい、美人と会話するな。
「駄目ね、私にはさっぱり。メリーの気持ち悪い能力ではどう見えたのよ?」
「この人、田澤さんって言うんだけど。彼が居る場所が、全て何かの境界になっているの。親和性みたいな物かしらね」
「何よ、それってコイツはただ立ってるだけで境界を見付けられるって事? 信じられないわ」
「本当よ、彼自身は境界と認識していないみたいだけど。それに私達の事を理解してくれる人だと思うわ、秘封倶楽部に必要な人材だと思うの」
「じゃあ、今日早速試験を行いましょう。コイツが本当に境界を見付けられるか、メリーが確かめてよ」
「……あの、境界って何?」
俺のちょっとした異能は境界なんて対象外だ。あくまでトラブルとか怪しい物を判別する程度なんだよ。
そんな俺の内心を余所に、ハーンさんと蓮子さんの会話の結果、俺は秘封倶楽部の活動に仮参加する事となった。……俺の意思は?
「じゃあ、この本の中から『当たり』を見付けなさい。もし近かったら、其処に行って確かめるから」
「『日本のパワースポット大全』? ああ、この特集されている中から本物を見付けろと言う……」
脱け出す事も不可能な雰囲気になってしまったので、大人しく彼女達二人と共に夕焼け空の下へ出てきた。
蓮子さんは突っ慳貪にさっき読んでいた雑誌を渡してくる。受け取ると、題名はいかにもなオカルト本。ただ、俺が見る限りではこの本自体は怪しい物に関わらない単なる本。まだ中身を開いた訳ではないが、この本の信憑性は薄いと思われる。
「一応読んでみますけど、本物が無くてもケチを付けないでください。そこまでは関与出来ません」
「良いから、さっさとやる」
視線と雰囲気で促され、渡された雑誌を捲っていく。斜め読みだが、本物が出ると感覚で分かるから問題ない。そうして数分程度作業を続けている内に……
「……驚いた。こんな雑誌でも『本物』は見付かる物なんだな」
「あら、どこどこ?」
「2つ見付かりました。1つは他県の墓場、もう1つは……此処から歩いて数時間の神社ですね」
「2つも有ったのね。でも近い方でも歩いて数時間か……蓮子、今日は諦めましょう」
「いえ、今から行くわ。こう言う事は早い内に終わらせないとダラダラ後を引くのよ。明日の活動までコイツに使いたくないし」
「今から行ったら帰ってくるのは深夜よ……」
「バスか何か探せば良いでしょ。ほら、行くわよ」
「何と言う行動力だ……」
ハーンさんの質問に答える形で成果を伝えると、蓮子さんは早速動くと言い出した。
何とも直情径行と言うか、パワフルと言うか…… ハーンさんも呆れてはいるがもう慣れたと言う様子。恐ろしい。
ハーンさんは一応止めたが蓮子さんはそこで折れず。急遽交通機関の時刻表を引っ張り出して検索。
3人で電車に乗って近くの町まで移動し、そこから歩くというハードスケジュールが設定された。ここまで来たからには途中で抜けるのも癪なので、もう開き直って自分から気を奮い立たせる。
電車の中ではハーンさんが場を繋いでくれた。俺も社交スキルが皆無と言う訳ではないので適度に話を合わせておく。そのまま会話を続けていると、蓮子さんも少しは気を許してくれたようだ。
「へえ、なら貴方は境界を見ているんじゃなく、境界が引き起こす出来事を感じているのね?」
「境界なんて分かりませんが、大体そう言う事なんだと思います」
「大体って、自分の感覚の事も把握していないの? そんなの、試してみたらすぐ分かる事でしょ」
「蓮子の能力は単純だもの、比較対象にするのはおかしいと思うわ」
「……能力?」
俺は微妙とは言え、一応他人には感じられない物を感じる異能が有る。
そしてハーンさんも、原理はよく知らないが少なくとも俺が感じる物は『見える』らしい。蓮子さんにも、そのような人とは違う才能のような物が有るのだろうか。
「蓮子はね、星とか月を見て時刻と場所が分かる目を持っているの。時計と地図要らずね」
「凄いですね、俺の抽象的な概念しか分からない異能よりも余程実用的だ」
「言うほど便利な訳でも無いんだけど…… それと、さっきからの変な敬語は要らないわ。同級生でしょ?」
「二年ですが」
「うん、同年よ。私達は気にしないし、楽に喋って?」
「……なら、そうさせてもらおうかな。では改めて宜しく、ハーンさん、蓮子さん」
「さん付けもナシ。私も呼び捨てにするからさ、田澤って」
「私もハーンとは呼ばれ慣れてないから、蓮子と同じくメリーで良いわよ」
……人間関係って進む時は一気に進展するものだな。まさか今日一日で2人の女性を名前で呼ぶようになるとは。
「へえ、田澤も良く分からない力を持ってるのね。正直、予想してなかった……」
「だから言ったでしょう、蓮子。面白い人を連れてきたって。彼の力、私達の活動に色々捗ると思うわ」
電車から降りるともう夜だった。流石にこの頃になると互いの異能について大体の事を理解しあっていた。
とは言え俺の異能は本当に捉え処が無いと言うか、とにかく説明がし難い物なので拙い紹介になってしまったが。
「俺はトラブル察知ぐらいにしか使えないと思ってるんだけどなあ、これ。だって君達と違って単なる勘みたいな物だぞ? まあ、面白い使い道は有るけどさ」
「私の見立てでは田澤の力の本質はそんなものじゃないわね。もっとこう、大きくて、夢のある物よ」
そんな他愛ない会話をしている内に、目的地だった神社に到着。俺の感覚を頼りに、怪しい気配へ近付く。
……だんだんと、受ける重圧が大きくなっていきテンションが下がる。それと反比例してメリーの眼は輝いていく。
「あら、この神社って本当に境界が有ったのね! あまりご利益とかは無さそうな所だけど……」
「こう言う風に、何となく奇妙で日常から離れた事が起こるって場所を予測する事も出来る。敢えて行くと、今みたいに途端に気分が悪くなったりするから自重しているんだが」
「でも、不思議な事が起こる場所を見付けられるって事でしょ。トラブル察知なんかじゃないって!」
「私と見える物、感じる物が近いって事は境界に関わる能力かもね」
「とにかく……田澤、合格よ。最初はまたメリー目当ての男が来たんだと思ってたけど、貴方は違ったわね。ちゃんと私達の活動に理解を示してくれるし、何より田澤自身が人と違った能力を持っている」
「歓迎するわね、田澤くん。ようこそ、秘封倶楽部へ」
「……まあ、加入したかったのは事実だしな。思っていた形とは違ったが、有り難く誘いを受けるよ」
……これが、『田澤昴』と宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーン、そして秘封倶楽部の最初の出会いだった。
さて、今回の記述は一旦ここで中断しよう。一度に大量の記録を再生するのは効率的ではない。
そして、今回は考察すべき対象が存在する。『幻想郷に落ちていたメリーのメモ』だ。メモに蓮子の名前のみが記されていたと言う事は、『田澤昴』の救済は正しく機能したと言う事でもある。
しかし、それよりもむしろ俺の最大の疑問は『八雲紫』の正体だ。メリーとの共通項が多過ぎる。外見や能力、こじつけに近いレベルであれば名前など。どれも偶然で片付ける事は出来るが……
メモ自体は『叡智の王国』に持ち込んだ事で、既に必要のない物となった。八雲に気取られない内に、速やかに稗田家へ返却するべきだろう。
今の段階では情報が少なすぎる。『田澤昴』の為にも、これらの真実を知る必要が有る。