旅人の見た幻想郷   作:千思万考

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旅人、妖寺を超え月の地を踏む

 寅丸やナズーリンと打ち解けた後、俺達は茶を飲みながら色々と雑談していた。

実は毘沙門天の弟子であるらしい寅丸や、毘沙門天の部下であるナズーリン。そしてこの寺の元々の僧侶、『聖白蓮』の話は特に興味深い。

 

 

 「その聖って僧侶が寅丸を毘沙門天の代わりとして、信仰を集めるようにしたのか」

 

 「最初は聖も毘沙門天様自体を呼び出したかったようなのですが。多忙なあの方には長く留まるのも難しい事だったのです」

 

 「それで妖怪である寅丸を毘沙門天の弟子とする事によって、一石二鳥とした訳か」

 

 

 ただでさえ妖怪が忌み嫌う寺、更に毘沙門天などと言う存在が呼び出されそうとあって、この山の妖怪は退治されるのではないかと怯えていたらしい。

妖怪とも良好な関係を築いて信仰を得たい聖と言う名の僧侶は、そこで山の妖怪を毘沙門天の弟子として迎え入れると言う逆転の発想をした、と。

 

 

 「しかし、なあ。まさか毘沙門天に直接関わりのある存在と会えるとは思ってもいなかった」

 

 「私もここまで毘沙門天様に詳しい方が来られるとは思いませんでしたよ」

 

 「君達は旅人だと名乗ったが……随分と、教養に富んでいるね」

 

 「私は、元々はそこそこの教育を受けてたってのもあるけど。こう言う知識は全部田澤から教えてもらったんだ。単なる受け売りさ」

 

 

 妹紅は短く自分の知識の出所を話し終えると、俺に続きを促すような視線を向けてくる。

寅丸とナズーリンも大本の情報源が俺と知り、どこから得た知識なのかと聞きたげな瞳で俺を見る。

 

 

 「そう大した事情が有る訳でもない。俺は他の人よりも多少その手の情報に触れる機会が多くて、徐々に詳しくなったと言うだけの話さ」

 

 「それはそうなんだろうが……いくらなんでも知識が深過ぎやしないか、とね」

 

 「まあ、人間本気になれば短い期間で書物やら経典やらを暗記して理解するのも不可能じゃないさ。とは言っても、数十年やそこらで叶うような芸当でも無いけどな」

 

 「私達は不老不死なんだ。田澤は不老なだけらしいけど、私は殺されても死なない」

 

 「不老不死とは……これはまた」

 

 「田澤の方は魔法使いに見えなくもないけど、妹紅は魔法使いでも仙人と言う訳でも無さそうだね」

 

 「俺は称号として魔法使いを名乗ってはいるが、一応種族的には人間だぞ」

 

 「私はちょっとした事情で蓬莱の薬ってのを飲んでから、この通りの生活が始まったよ」

 

 「……君達も随分と複雑な事情を持っているな。解脱もせず生の苦しみから逃れた所で、安寧が得られるとは思わないが」

 

 「うるさいな、少なくとも今私は充実しているんだ。外野はケチを付けないでくれ」

 

 

 実効するかは別として、俺は死のうと思えば死ねる。しかし、妹紅の不老不死は自殺すら許さないようだ。実際に見たわけではないが。

ナズーリンの指摘した、不老不死に精神が耐えられるかと言う問題は妹紅と切っても切り離せない物だろう。あくまで妹紅の精神は人間なのだ。

人間はそもそも数百年以上も生きるような精神構造を持っていない。妖怪にとっての百年と人間にとっての百年とでは、年数は同じでも重みが違う。

俺の役目はその点でも妹紅に道筋を示してやる事だろう。俺はもう、慣れるとかそう言う問題じゃないくらいに生きてしまったが。

 

 

 「それにしても、君達はどこでどう知り合ったんだ? 仲が良いようだけど、まさか不老不死になる前からの友人かい」

 

 「いや、田澤と会ったのは私が不老不死になって数十年くらい経ってからだよ。……今思うと、結構失礼な事言ってたな」

 

 「失礼とは、どのような?」

 

 「田澤が不老で何千年以上も生きてるって言った時に、妄想癖のある自称旅人って他人に紹介しちゃったり。まあ、色々」

 

 「自分が不老不死でも、他人がそうだとは信じられなかったんですね。

  ……って、何千年以上も生きてる? 田澤さん、一体どの辺りまで本気なんですか」

 

 

 妹紅が出会ったばかりの相手とここまで長く世間話をするのは稀なので、良い機会だと思いあまり口を挟まないで居たのだが。

会話の流れの中で水を向けられたので、俺も会話へ参加する事に。

 

 

 「別に嘘は言っていないぞ。事実として俺は何千年以上の時を生きているんだ」

 

 「……種族は人間なんだろう? 私達、妖怪並みに生きているじゃないか」

 

 「聞くたびに言っている年数が違うから、とりあえず長く生きてるって考えれば良いんじゃないかな。私はそうしてる」

 

 「聞くたびに違うって、例えば?」

 

 「実年齢は億を超えてるとか何とか」

 

 「ああ、そういう……」

 

 

 おい、そんな突拍子の無い言動をする少年を見守るような生暖かい目は止めてくれナズーリン。

普通に考えて信憑性が全く無い事は自覚しているし、信用されないのは当然の事と受け止められるがその視線はキツい物が有る。

 

 

 「……まあ、少なくとも何千年以上生きているのは事実だ」

 

 「それも中々信じがたいが、君の顔を立ててあげよう」

 

 「殆ど信じてないじゃないか」

 

 年齢はともかく『この世界』の過去について言及されるとボロが出るから、冗談とされてもそれはそれで助かる。

しかしこのまま冗談半分な言動をする男と見られるのも癪なので、何とか上手い事言い返せないかと考えを巡らせていると。

 

 

 「え、部屋の中に霧? ……って、これ!」

 

 「妖力で構成されているね、どう見ても妖怪の仕業だ」

 

 「いくら寂れてしまっているとは言え、毘沙門天様の寺に手を出す不届き者が居るとは。ここは私が聖譲りの南無三で……」

 

 「南無三が何かは知らないが、少し待ってくれ。……伊吹か」

 

 

 室内であると言うのに、突然俺達を覆い始めた霧。妹紅とナズーリンは含まれた妖力を訝しみ、寅丸は錫杖を構えて気の早い事を言い始める。

……南無三と言われても言葉の意味が微妙に通じないが、前後の文脈的に考えて攻撃に近いニュアンスなのだろう、多分。

 

 

 「よく分かったね、流石私が見込んだだけはある」

 

 「うぇ、いつだったかの鬼…… そっちから来るなんて、何の用事だよ。と言うより、どうして私達の場所を」

 

 「紫が会ったって言う都を中心に限界まで霧を広げて、それを手がかりにね」

 

 

 俺が名前を呼ぶと、応じる声と共に霧が一ヶ所に集まり始めて形を作る。そのまま俺達の目の前に伊吹が姿を現した。

妹紅は妹紅で警戒しているようだが、初対面となるナズーリンと寅丸は相手が鬼と言う事もあってか臨戦態勢に入っている。

その警戒を解く意味も含めて、普段より固い表情をしている伊吹へ親しげに話しかける。しかし、伊吹の返答は完全に想定外の物だった。

 

 

 「どうした伊吹? いつに無く焦った顔をしているが、酒でも尽きたのか」

 

 「いや、違う。……昴、無理を承知で言う。私を月の都まで転移させられる魔法は無い?」

 

 「月、だと? 月に都が有るのは知っているが、そこに何故向かう必要が」

 

 「紫の助太刀に行く。と言うより、連れ戻す」

 

 「紫……八雲の事か。ともかく、詳しい事情を話してくれ。まずは、それからだ」

 

 

 ナズーリンと寅丸に俺達の知り合いである事を説明し、対応を最低限の警戒に留めてもらう。

腰を据えて事情を聞く体勢に入り、伊吹が語り始めた事を纏めると。八雲が地上の妖怪を引き連れて月を攻め、返り討ちにあっているようだ。

 

 

 「……え、それだけ? しかも、俺は凄まじく自業自得だと思うんだけど」

 

 「私だってそうは思うけど、友人の一大事だ。何とかして助けてやりたいさ」

 

 「……一応、月へ空間転移する方法については何個かアテが有る。

  だが、八雲も空間を無視した移動が可能だったんじゃないか? そうでなければ、そもそも月に行けないし」

 

 

 まさかこの時代でスペースシャトルでも作った訳は無いだろうし、俺の前に現れた時の事を考えても転移能力に準じた物を持っている筈だ。

 

 

 「『境界を操る程度の能力』だね。確かに脱出も簡単な筈なんだけど、帰って来ないから」

 

 「境界を操る……概念操作の力か? だがそうなると、君が言う通り只事では無さそうだな」

 

 

 八雲の意に反して帰還が叶わないとなれば、概念操作を妨害出来る存在が居ると言う事だ。俺はさっきも言った通り、自業自得としか思えないが。

 

 

 「分かった、力を貸そう。俺も行く」

 

 「え、いや……私一人で行くよ。わざわざ昴を危険な事に巻き込めないって」

 

 「俺が行かなかったら、帰る時どうするつもりだ? 

  八雲の能力がどうなっているか分からないんだ、伊吹だって帰れないかも知れないぞ」

 

 「それは昴も同じ事じゃないか」

 

 「何とかして見せるさ。伊吹に俺の本気、見せてないしな」

 

 「た、田澤! 月に行くんだったら私も……」

 

 「妹紅は残れ。月の兵の強さ、その片鱗は知っているんじゃないか? 真っ向から戦う事になったとして、応戦出来るか?」

 

 「う……」

 

 

 俺としては戦わないのが最善だと思うから、戦闘するような状況を作りたくはないけど。

もし戦闘になったとして、科学力をも味方に付けた月人に妹紅が上手く対応出来るとは思えない。

と言うより、ビーム兵器らしき物を警備兵が持ってるような所にこの時代の妖怪は敵うのか? 何だかよく分からない内に負けた、とかになってそうだ。

八雲は行き当たりばったりな行動を取る程頭が悪く無いと思うが……裏が有りそうだ。

 

 

 「でも、月に行けば……」

 

 「妹紅、何故そこまで月に執着する? 復讐ついで、とかならお断りだぞ」

 

 「っ!?」

 

 「図星か。そんな暇は無いからな」

 

 

 ……月にも行ける、と言うのを教えてしまったのは誤算だったかもしれん。

最近は出会った当初程の危うさ見せていなかったから安心していたが、『月に転移』と言うワードが出てからの妹紅は不安定さが見受けられる。

 

 

 「とにかく残ってろ。すぐ戻るから、行ったところで何もしないまま帰る事になるぞ」

 

 「……分かった」

 

 

 少し威圧しながら言うと、妹紅は渋々納得した様子を見せる。

ただでさえ危険な所だと言うのに、わざわざ輪をかけて危険な目に遭うような事はさせられない。そのように考えつつ手早く準備を整えていると。

 

 

 「鬼と知り合い、ね。随分と顔の広い人間だよ、君達は」

 

 「聖の目指したような関係だと思います。やはり、両者とも親交を深められるのですね」

 

 

 ナズーリンと寅丸は俺達の交友関係に思う所が有るようだ。人間と妖怪の新しい親交の形で有ることは確かだし、目指すべき1つの姿として映っているのかもしれない。

しかし、このようなケースは非常に稀だろう。俺は一般的な人間とはとても言えないし。一応俺の考えについては話しておこう。

 

 

 「……手前味噌のようでアレだが、全ての人間と妖怪がこんな関係を築くのは無理だと思うぞ。

  ある程度、妖怪と関わっても無事で切り抜けられると言う自負に基づいている事は否定できない」

 

 

 普通の人間は、そのままであれば妖怪と対等な力は持たない。極端な話、気まぐれに殺されそうになったとして抗う手段は無いのだ。

こう言うと妖怪には悪いが、人間にとって妖怪の思想や行動は受け入れがたい物も有る。人喰い等はその最たる物だろう。

殆どの場合において自分達の上に立つ、受け入れがたい相手。積極的に関わろうとする人は結構な聖人だと思う。

 

 言いたい事を言った俺はそのまま月の都への『扉』を開くが……成程、強い何かが『扉』に干渉している。流石に妨害は出来ないようだが。

 

 

 「さて、伊吹の言う通りだ。急ぐぞ」

 

 「よしきた。早速暴れるとするかな」

 

 「……戦わないですぐに帰るんだよ。彼らは強いんだ」

 

 「会ったことがあるみたいな言い方だねえ。それにしてもこれ、紫のスキマに似てるなあ」

 

 「僅か数時間の滞在だったけど、月へは行った事もあるからな。

  後、スキマとやらでは無いぞコレは。俺は境界操作なんて能力は持ってない。……ああ、二人とも。慌ただしくてすまない」

 

 

 俺の開いた『扉』をぽかんとした顔で見る寅丸とナズーリン、妹紅。

彼女達に軽く謝りつつ、不思議そうな表情でしげしげと眺める伊吹の肩を押し月への『扉』を潜る。……さて。

 

 

 「伊吹、悪いが目隠しをさせてもらうぞ」

 

 「わっぷ!? 急に何を!」

 

 

 この空間の内装……と言うより、瓦礫の城と無数の墓標は誰にも見せたくない物なので、後ろから伊吹の目を手で覆って隠す。

転移する際はごく短時間しか通らないとは言え、その僅かな時間も他人に見られたくはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うわっと。……昴、少し私の扱い雑じゃないか?」

 

 

 『扉』の出口を月の都へと開き、目隠しを解いてやった伊吹を軽く押し出す。不満そうな様子だが、そこは勘弁してもらいたい。

軽く謝りつつ、俺も『扉』から月へと降り立つ。俺の主観的には十年も経っていないが、『この世界』での旅の始まりの地を再訪した事に感慨深い物も有るが……

 

 

 「萃香に田澤さん? 何故、ここに……」

 

 「っ、紫様! 今の内に距離を」

 

 「また懲りずに地上人が……さっさと帰れ、今なら見逃す」

 

 

 俺も意図していなかった事であるが、『扉』の開いた地点は八雲と藍、そして月人の少女が戦闘中の場所だった。

本当なら転移した後で姿を隠しつつ、戦闘の気配を感じる方向に向かって回収対象を視認、一気に転移に巻き込んで帰るつもりだったが早速アテが外れた。

それにしても、伊吹の説明だとかなりの妖怪達が月に攻め込んでいる筈だが、気配が感じられない。……殺られたか?

 

 

 「月人の少女、少なくとも俺に戦闘の意思は無い。その二人を連れて帰るだけだ」

 

 「連れて帰る? それは無理だ。侵略者のリーダーをみすみす逃せる訳が無いだろう」

 

 「それは、正しい言い分だと思うが……」

 

 

 本当にもっともな正論だから言い返せないし、言い訳めいた言葉で煙に巻く気も起きない。

あまり良い関係では無いと言え、一応は知人だし伊吹に頼まれて見捨てるのも悪いので俺も直接行くかと思ったのだが……客観的に見て相手が正しいので、どうにもやる気が出ない。

 

 

 「えっと。その二人はこっちで懲らしめるから、見逃すってのは」

 

 「月で罪を犯したのだから、月の法で裁かれるのが道理ではないですか?」

 

 「だよなあ……」

 

 

 さて、どうしたものか。伊吹に免じて八雲達も助けてはやりたいが、やってる事が擁護できない。

しかし策の単純さと言い、この結果と言い八雲はどうにも侵略を本気でやってるように見えないんだよな。

 

 

 「と言うか八雲、君は自力でここから逃げられるんじゃないのか?

  スキマとか言う能力はどうした、概念操作の力さえ止められるようなのが居るのか?」

 

 「……地上に戻ろうとはしたけど、そのスキマを月に繋がれるのよ」

 

 「……俺の『扉』に対しての干渉から、多少は予測していたが。まさか、概念操作を妨害するとはな」

 

 

 概念操作を楽々行う妖怪に、それを正面から止める人間……そう言えば月人って純粋な人間なのだろうか?

どちらにしろ、この世界も凄い存在がゴロゴロしている所だ。

 

 

 「……流石に姉さんも仕事をしているみたいね」

 

 「姉? そう言えば、名乗っていなかった。俺は田澤昴。もしよければ、君の名前を教えてくれないか」

 

 「田澤、昴? ……まあいい。私は綿月依姫と言う名前です」

 

 

 俺の名前を聞いて、一瞬不思議そうな表情になる綿月。反応される理由が分からないので俺も怪訝な顔をしていると。

 

 

 「田澤昴。八意××と言う名前を知っていますか?」

 

 「ああ。彼女の赤青の服は、今でも印象に残っている」

 

 「あ、赤青……当時からあの色が好きだったのか、八意様は」

 

 「当時? あ、ここは月だから八意も……ってアレ?」

 

 

 月人は普通の人間と比べて、物凄く寿命が長かったりするのだろうか。

最低でも俺が会った時から一万年以上は経過している筈だが、綿月の口振りからすると八意と直接会った事が有るようだ。普通の人間なら死んでいる。

 

 

 「田澤昴、貴方の事を八意様から多少は聞いている。

  八意様が頭の良い地上人と褒め称えたくらいだ、一応の信用は出来るのでしょう」

 

 「はあ……そりゃどうも」

 

 

 どうにも月の人達は上から目線だな。警備兵は職務上当たり前としても、八意も最初は俺に対して見下している雰囲気が有ったし。

文化や技術体系が大幅に発展している事で、地球の人間や妖怪を下に見ているのかもしれない。……もしそうだとしたら、あまり良い気はしないな。

 

 

 「そこで提案が有ります。私と勝負をして、貴方が勝ったら全員を見逃します。負けたら、大人しく縄についてもらいますよ」

 

 「あ、あれ? 私はー?」

 

 「私が相手に指定するのは田澤一人。その条件を飲めないならこの話は無しだ。

  そもそも、本来なら私が侵略者達に譲歩する必要など無いの。八意様に免じて田澤昴に機会を与えるけど、受けないと言うのなら遠慮はしない」

 

 「……伊吹、気合い入れて来た所を悪いが任せてくれないか」

 

 「も、もどかしいなあ」

 

 

 あくまで八雲達を助けに行くのは伊吹で、俺は帰還をサポートする付き添いのような立場だった筈なのだが。

ここまで来て八雲達を見捨てると言う選択肢もない以上、伊吹には悪いし俺個人としても乗り気にはなれないが、俺がやるしかないだろう。

 

 

 「……助けられる立場で言うのもどうかとは思うのですけども、田澤さんは月人の戦闘力を知っているのかしら?」

 

 「まあ、遥か昔に警備兵に攻撃された事はあるよ」

 

 「彼女はその身に神を宿す。生半可な力では敵わない、警備兵の力を基準として考えているのであれば今すぐ考えを改めるべきね」

 

 「ん? 八雲、君は負けたのか」

 

 「負けてはいません。決定打を出せなかったと言うだけですわ」

 

 「藍と二人がかりで決定打を出せなかったと言うのは、負けに近いような気もするがね。

  まあ、目の前の彼女が凄まじい巫女だと言うのは分かったよ。それでもやるさ、あまり親しく無いと言っても知人を見捨てるのは後味悪い」

 

 

 依姫と言う文字通り、神の依代になると言う事なのだろうか。

『神』と言うのが具体的にどのような神格を指しているのか分からないが、相手にとって不足無しと言った所か。

……彼女から『鍵』の気配はしないし、まかり間違っても我らが主を呼び出す事は無いだろう。同胞の気配もしないし、あの神話に関わる存在とは無関係と見ていい。

 

 

 「あの月人が宿すのは……」

 

 「どうせ1つでも見れば見当は付くんだ、始まる前から相手の手の内を聞く気は無い」

 

 「その心構えは一対一の決闘に際して、確かに美徳なのでしょうけど……そこまで言うなら倒す自信も当然あるんでしょうね?」

 

 「少なくとも俺は今まで負けようと思って戦った事は無い。真剣勝負ではな」

 

 

 神が相手になると言えば絶望的な気はしなくもないが、あくまで戦うのは綿月だ。

神の力を借りて戦う事は確かに出来るのだろう、だが綿月が神そのものになる訳ではない。ならば強大な力を持った相手だと想定し、いつも通りにやるだけだ。

俺も自らの魔法としてソロモン72柱の悪魔を使役、利用する事が出来るし、条件としては決して不利ではない。……神が相手であれば、いざとなったら奥の手も使う。

 

 静かな覇気と共に俺を見据える綿月を見返しながら、『扉』を開き愛用の刀を取り出して構える。唐突に始まり、半ば巻き込まれた形で始まる戦闘だが……やるからには全力を尽くす。

 

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