旅人の見た幻想郷   作:千思万考

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旅人、地上に戻りて安息の地を踏む

 『扉』を潜り、瓦礫が墓標のように立ち並ぶ領域を越え、寅丸達の寺に出口を開く。

微妙に調子が戻っていないらしく『扉』は不安定に形を変化させているのだが、この程度なら誤差の範囲内。転移に支障は無い。

蒼い空間の裂け目から身を乗り出して周囲を見回し、転移に失敗していない事をしっかり確認してから地面に降りる。

 

 

 「……ふうっ、戻って来たなあ」

 

 

 降り立った場所は夜の寺の境内。せわしなく飛び立つ鳥の羽ばたく音、うるさく聞こえる虫の鳴き声、周囲に感じる妖怪の気配。懐かしさを感じ、思わず笑みが浮かぶ。

実際には懐かしさを覚える程に長く地上を離れていた訳でも無いのだが、それほど月で濃密な時間を過ごしたと言う所だろうか。この喧騒が、月にはまるで無かったのだし。

息を吐きながら寺に近付く。中から気配はするし誰かが居る事は確実だ。普通に考えれば、寅丸やナズーリンだろう。とりあえず声をかける。

 

 

 「済まない、誰か居ないか」

 

 

 ……我ながら、もう少し言い方は無かったのかと思うような台詞だ。疲れで頭が上手く回らない。

つい先ほどまで大怪我を負ったり、無理矢理に魔法を使ったり、解放された狂気に耐えたりと精一杯だったので、気が抜けた途端に疲労感が襲ってきた。

今更ながら、この夜更けに声量を抑えず呼びかけたのも非常識だと思い至る。いくら相手が妖怪で、夜行性だと思われるにしても、迷惑には違いないだろう。

 

 

 「はーい、どちら様でしょうか……って!? た、田澤さん!」

 

 「あ、ああ寅丸。悪い、こんな夜遅い時間帯に」

 

 「いや、そんな呑気な挨拶をしている状況じゃないです! さ、とりあえず中に入ってください」

 

 

 少し間が有って、現れたのは寅丸だった。

自分で呼んでおいて言葉が思い浮かばず、頓珍漢な言動をする俺を見て寅丸は慌てたように俺を寺の中に引き入れる。

 

 

 「少しここで休んでいてください、私は妹紅さん達を呼んできますので…… ナズーリン、お茶か何かをお出しして!」

 

 「何だいご主人様、そんな血相を変えて……え?」

 

 「う、うむ。久しぶりだな、ナズーリン」

 

 「……君も随分あっさり帰って来たな。まあ、事情は大体把握した」

 

 

 寅丸の大声を聞いて大儀そうに顔を出したナズーリンは、床に座る俺を見て一瞬硬直した物の。

そのまま呆れとも感嘆ともつかない表情で俺に答え、茶の準備を始めるナズーリン。中々にクールな少女である。

寺の奥の方へ走って行った寅丸を見送ったナズーリンは、盆に茶を乗せつつ俺の前に座り興味深げに俺を眺め始めた。

 

 

 「上着も肉体も整っているが、肌着がボロきれのようだね。少しでは無い血も付着しているし、余程の事が有ったと見える」

 

 「まあ、な。本当に、疲れた……」

 

 

 ナズーリンからは何が有ったのか聞きたいと言う視線を感じるが、離すと長くなるので億劫だ。眠気さえ覚え始めた。

どうせ皆に話す事になるのだし、全員が揃ってからでも遅くは無いだろう。溜息を吐きながら湯呑を掴み、中身を一気に流し込む。

 

 

 「火傷するぞ、君……」

 

 「良い目覚ましになるさ」

 

 

 喉を通る茶の熱さに心地よい物を感じつつ、目を閉じれば眠りに引き込まれそうな意識を覚醒させる。

俺が眠気を覚えると言う事は魔力が切れかけている証なのだが、これは精神的な疲労による錯覚だろう。

少なくとも魔力自体は普通に残っているし、体調も悪い訳では無い。集中力が散漫としているので、魔法の使用には問題が出るかもしれないが。

 

 そのまましばらく休んでいると、ドタドタと廊下を走る音が近づいてくる。気配からして、これはおそらく……

 

 

 「田澤が、本当に戻ってきたんだな!? 嘘じゃないよね!」

 

 「本当ですよ。ですから妹紅さん、そんなに必死に走らなくても……」

 

 

 部屋の戸が突き破られるような勢いで開かれ、妹紅が飛び込んでくる。

後ろからは苦笑した寅丸が、そしてゾロゾロと伊吹達が入室してきた。……改めて見ると、男女比偏ってるな。

妹紅は涙目になりながら俺に近寄り、自分を落ち着かせるように深呼吸した後、凄い勢いでまくし立てて来た。

 

 

 「無事なんだよね、月で変な事されなかったか!?」

 

 「とりあえず落ち着くんだ。それも含めて、質問が有るなら皆から受け付けるから。ただ、少し静かにしてくれると助かる」

 

 「……やっぱり、どこか調子悪いの?」

 

 「調子が悪いと言うか、単純に疲労がたまってな。つい先ほどまで月で大立ち回りをしてきたんだ」

 

 

 熱い茶でいくらか眠気は覚めた物の、精神的な疲労までは流石にどうにもならない。

回復魔法でどうにかなるのは肉体的な問題だけだし、そうでなくともこう言う事にまで魔法を使って解決するのもどうかと個人的に思う。

 

 

 「あれ、それでしたら皆さんを呼んだのは失敗でしたかね……まずはお休みになりたかったでしょうか」

 

 「まあ仮眠くらいは取りたかったが。皆が集まっているのに寝るのも悪いし、今のうちに互いの情報交換くらいはしておこう」

 

 

 寅丸が俺を気遣ってくれるが、そこまで切羽詰まっている訳でもないので遠慮する。ここまできて図太くも寝入る度胸は無いし。

 

 

 「それなら、まず最初に言っておきたい事が有る。

  ……昴、有り難う。私の頼みを聞き入れてくれて。そして済まない、とばっちりでここまで負担をかけてしまって」

 

 「気にするな、伊吹。困ったときはお互い様だし、捕まったのも俺の詰めの甘さが引き起こした事さ」

 

 「……うーん、責めてもらった方が気が楽だなあ。そこで寛容にされると、逆に申し訳ない気持ちでいっぱいになるよ」

 

 「そうか。なら、不平不満を並び連ねて陰険に皮肉を言ってみよう」

 

 「それはそれで嫌だ……」

 

 

 伊吹がしおらしく頭を下げるが、俺の中では既に折り合いがついている。色々苦労もしたが、結果的に無事だったのだから良いだろう。

そのような事を軽口も交えて伊吹に言った後、すぐさま続けるように八雲が状況説明を開始した。

 

 

 「では、あれから起こった事を話しますわね。

  まず、田澤さんの力でこの寺に帰り着いた後、事情を説明した私達は数日ほど留まって貴方の帰りを待っていた。

  しかし、七日が過ぎ、十日が過ぎても帰ってこない事、捕えられた場所が月である事から私は自力での帰還が困難であると判断。

  どうしても残ると言う蓬莱の娘と萃香を置いて、私と藍は拠点へと戻り月への再侵入を試みていた所に貴方が現れたと言う所ですわ」

 

 「拠点?」

 

 「幻想の里、と言い換えても良いかしらね。萃香の話だと、田澤さんも訪れた事がある筈だけど」

 

 「私達が再会して、酒を飲み交わしたあの山一帯だよ。月に攻め込んだ妖怪達も、大半はここに住んでる」

 

 「ふむ、理解した。……再侵入については、今は置いておこう。俺の方は意識を取り戻したら力を封印されていて、おまけに牢の中。

  仕方無いから成り行きに任せて警戒を解いて、行動の自由が与えられてから月を見回って……月の兵器を奪って行動を起こしたのが、数時間前だな」

 

 「月の兵器を? しかし、あれは我々地上の者に扱えるような物では」

 

 「田澤は頭が良いからね、お前に使い方が分からなくても関係無いんだよ」

 

 「……妹紅、その喧嘩腰は止めろって」

 

 

 八雲は『月の兵器を奪った』と言う俺の言葉に対して疑問を抱いたようで、軽く驚いたような素振りを見せる。

その反応に、八雲を馬鹿にするように言葉を差し込んでくる妹紅。割りと刺のあるその言い方に、諌めるように俺が苦言を漏らすと。

 

 

 「……その鬼は、伊吹萃香は帰ってきた時も私に謝ったし、今だって真っ先に田澤に頭を下げたから許すけどさ。

  八雲は何も田澤に謝ってないじゃないか、こいつがそもそも田澤が月の奴らに捕まった原因だって言うのに!」

 

 「それについては、伊吹に対して言った事と同じような物さ。最終的に俺の意思で月に行ったんだからな。

  危険を被る覚悟は少なからず有ったし、嫌なら最初から見捨てて放っておいてる。こうして今は無事なんだから良いじゃないか」

 

 「……納得出来ないけど、田澤がそう言うなら今は引くよ」

 

 

 妹紅としては中々に譲れない所なのだろう。俺の言葉に渋々頷く。

妹紅は妙な部分で生真面目な所があるし、八雲のようなタイプとは根本的に相性が悪いのかも知れない。八雲が妹紅をどう思っているかについては見当も付かないが。

 

 

 「で、どこまで話が進んだっけ……ああ、月の兵器云々についてだな。これに関しては、隙をついて奪った物を見よう見まねで使っただけだ。

  弾幕を放つ長い筒は持ち手の部分を弄れば誰でも扱える事は予測出来た。脱出に使おうとした空飛ぶ船は、動かす事は出来たけど結局途中で墜落してしまったしな」

 

 

 嘘は吐いていない。トリガーを引けば光弾が発射される事は、誰だって落ち着いて見れば分かるだろう。

宇宙船についても、動かし方が最初からある程度理解出来ていた事には触れていない。事実を言っただけだ。

 

 

 「それにしても、月人達が貴方に行動の自由を与えたとは信じ難いですわね……私が居なくなった以上、殆どの罪は貴方に押し付けられたでしょう?」

 

 「……微妙に恥ずかしいんだが、俺と戦った彼女とその姉が便宜を図ってくれてな。彼女達の師匠と俺は大昔に会っていたようで、その縁だ」

 

 「大昔? 警備兵と戦った事は有ると聞きましたが、その時に関係するのかしら」

 

 「正確な年月は俺も覚えていないが、数万年は前だろうと思う」

 

 「……気を悪くしないで聞いて貰いたいけど、数万年前に生きているなんて人間を名乗れないわよ」

 

 「肉体的にはな。前にも言ったが、精神的な物として俺は人間を名乗っているんだ」

 

 

 数十年どころか数万年レベルは最低でも生きているのだから、純粋な人間を名乗る気は流石にない。

だが種族が何かと問われれば、どんな時でも人間と答える事にしている。それが『俺』のアイデンティティだ。

 

 

 「私からも、質問を良いか」

 

 「そこまで改まらなくても…… 許可するよ、藍」

 

 「貴方は先程、空飛ぶ船は壊れてしまったと言った。ならば如何なる手段を用いて戻ってきたと言うのだ? 見た所、封印とやらは外れているようだが」

 

 「ついさっきまでは、この寺の周りに潜む妖怪に勝てないくらいになるまでの封印を施されていたんだがな。

  月兎の能力を逆用して何とか足掻いたのと……後、これは本当に恥ずかしい話なんだが、最終的にはさっき言った『姉』が封印を解いてくれた」

 

 「結果的には、自らの力で戻って来たと」

 

 

 これまで八雲の傍に控えて沈黙し続けていた藍が、微妙に言いにくい所を付いてきた。

聞かれた以上は答えない訳にもいかないので、差し支えの無い範囲で事実を語る。この辺りを詳細に説明するとなると、色々な意味で困る。

 

 

 「月人がかけた封印を、よりにもよって月人が解く……一体何が有ったのかしらね?」

 

 「俺も困惑している部分が有るんだ、聞かれても困る」

 

 

 八雲は真意を見透かそうとするかのように感情の読めない視線を向けてくるが、俺もそんな彼女を煙に巻く。

……豊姫に後ろから抱きしめられて半ば呆然としていたら何故か錠を外されました、なんて言っても変な方向に面倒が増えそうだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一通りの情報交換を終えた後、残りは次の日に回そうと言う事になり各々が与えられた寝室で休息を取った。

精神的な疲労がピークに来ていた俺は、床について目を瞑った途端眠りに引き込まれる。魔力切れ以外では久し振りに眠ったかもしれない。

 

 

 「……で、君はそこで何をしているんだ藍」

 

 「貴方が起床しだい呼ぶようにと、紫様に仰せつかっている」

 

 

 目を覚ました直後、部屋のすぐ外に藍が待機している事に気付く。寺の外はまだ明るいとは言えず、時間帯としては明け方だろう。

藍が何をしたいのか分からず、とりあえず声をかけてみると八雲が俺の起床を待っているらしい。断る理由も無いので身支度を軽く整え部屋を出る。

 

 

 「お疲れの所、申し訳ないな」

 

 「疲れは十分とれたから別に構わないが……そう言えば君、俺に対する口調が変わったな」

 

 「月では貴方に救われたからな、これまでのような慇懃無礼な口調では失礼に当たるだろうと考えたのさ。もしかして、気に障っただろうか」

 

 「まさか、普通に接してくれる方が嬉しいさ」

 

 

 初対面では互いに肉弾戦を繰り広げ結構な傷も負わされた相手だが、こうして普通の会話が出来るようになる事は嬉しい。

何だかんだと言って、常に旅をしていると個人と一定以上の友好関係を築くのは難しいのだ。それも妖怪との友好関係となると貴重、大事にしたい。

 

 

 「む、ここだ。入ってくれ」

 

 

 藍に案内されて八雲が居ると言う部屋の前まで連れてこられる。

わざわざ藍を使ってまで俺を部屋に呼ぶ理由は幾つか考えられるが……最も有力な物としては、昨日の続きだろうか。

 

 

 「おはようございます、田澤さん。よく休めたかしら?」

 

 「調子は良いな。で、こんな早くから俺を呼ぶ理由は何だ? 寅丸や妹紅に聞かれては困る質問でも有るのかい」

 

 「……まあ、確かにそんな所ですわ。ふふっ、前置きは要らないようね」

 

 「大体の質問には答えるつもりだが、その前に俺の質問に答えてもらいたい」

 

 「交換条件と言う訳ね、別に構いませんわよ」

 

 

 自分の部屋に呼んでいると言う事は、少しでも自分に有利な立場で話を進めたいとの意図も有るのだろう。

その機先を制する意味も含めて、此方から先に質問をぶつける。八雲にペースを握られるのは避けたい。

 

 

 「君が執拗に月に攻め入ろうとする理由は何だ? 単に侵略が目的なのであれば、月人の軍事力を確認した時点で退却している筈だ。

  君はスキマとやらの能力が制限されたから脱出が出来ないと言ったが、それでも戦闘能力を削がれた訳ではない。あそこまで壊滅的な被害を受けずに抗戦も出来た筈だ」

 

 「考えすぎね。攻め込んだ私達にそこまでの力が無かったと言うだけですわ」

 

 「だが、君からは月を本気で侵略しようという気概は感じられなかった。侵略戦を扇動した当の本人が気乗りしていない、不自然極まり無いだろう」

 

 「私がやったのは、戦に飢えた妖怪達に存分に戦える場を提供しただけの事ですから。気乗りしていないように見えたのは、そのせいでは無いかしら」

 

 ……嘘自体は言ってないようだが、真の目的を話してもいないな。最初から正直に全て話すとは思っていないから想定内だが。

 

 

 「戦闘を求める妖怪と言うのなら、伊吹辺りも呼んでいる筈だろう? 君達は親しい間柄のようだしな」

 

 「貴方から親しく見えているだけで、私の本心は違うのかもしれませんわよ」

 

 

 感情の読みづらい不敵な笑みを浮かべて、俺に答える八雲。

俺の問いに直接は答えず煙に巻こうと言う魂胆のようだが、それなら直接的な質問をぶつけるだけだ。

 

 

 「八雲。君の目的は月に攻め込む事ではなく、妖怪を戦闘させる事自体に有るように思える」

 

 「思うも何も、私は先程そう言いましたわよ」

 

 「妖怪を戦闘させる事に目的があったとすると、いくつか理由が考えられる。その中でも、ほぼ完敗に近い状態で目的を達成していたとなるとかなり限られてくる」

 

 「……結局、何が言いたいのかしら」

 

 

 ここまでは質問でも何でもない、八雲の反応を無視しつつ単に思考を垂れ流しているだけだ。本題はここから、急に核心を突く事で動揺を誘う。

 

 

 「では、単刀直入に言わせてもらう。幻想の里とやらの妖怪の戦力を削ぐ事が君の目的だ。そうだろう?」

 

 「ふふっ、何を言い出すかと思えば。そんな事をして、自殺行為以外の何になるのかしら」

 

 「圧倒的な戦力を誇る相手と戦わせる事で不必要に高まった戦闘の意思を抑え、逆説的に自らの統率力を高める。畏怖と敬意を集めるには最適な手法の筈だ」

 

 

 これは月でずっと考えていた事だ。月に攻め込むと言う事は、八雲は月について予め知識を得ていなければおかしい。

全く未知の場所に戦を仕掛ける等と愚かな事をする訳がなく、そして軍事力について少しでも情報を得たのならば勝ち目が無い事はその時点で明らかになるだろう。

つまり八雲は分かっている死地に多数の妖怪を引き連れていったと言う事であり、事実八雲と藍以外の妖怪は全て依姫か警備兵に撃退され豊姫によって強制送還された。

この『八雲と藍以外の妖怪は全て』と言う点が分かりやすい。それほどの相手と互角に渡り合える力を持っていると言外に示しているような物だ。

 

 

 「……これは、私が貴方を呼んだそもそもの理由でも有るのですけど。田澤さんは、妖怪と人間の関係についてどうお考えかしら」

 

 「質問の意図が良く分からんが、俺の考えを言えば良いんだな?」

 

 「ええ、お願いしますわ」

 

 

 また俺を煙に巻こうと言うつもりなのかと思ったが、表情が真剣だ。

それも策略の内なのかもしれないが、答えても良いだろう。まだ会話のペースはこっちにある。

 

 

 「妖怪は、そもそも存在が人間に依存している。肉体を喰らうにしろ、精神を喰らうにしろ、畏れを糧にするにしろな。

  基本的な身体能力や魔力で妖怪に敵う人間は殆どいないが、それでも人間は妖怪の天敵だ。人間が幻想を否定した時、妖怪は力を失う」

 

 

 神でさえ、この括りに入る。信仰を失えば神は死んだも同然だ。

そもそも幻想は人間に立脚した物と言っても過言では無い、前提条件として人間が必要である以上は人間に否定されれば存在出来ない。

 

 

 「ええ、そうですわね。人間を滅ぼしても妖怪には何の得も無い、むしろ首を絞めるだけ。月に行って尚、戦いの為の侵略を求める者には私が直接手を下しました。

  ……人間は後何百年も経てば幻想を積極的に否定し始める。その時に備える為、妖怪は自らの発展を考えなければならない」

 

 「見てきたように言うヤツだな」

 

 「本当に見てきたのかも知れませんわよ? ふふ……」

 

 

 そう言って、やはり不敵に笑う八雲。この表情をしていないと落ち着かないのかと思う程、素の感情を見せたがらない女性である。

そして、今のやり取りで遠回しでは有るが俺の質問に対する答えも分かった。

 

 

 「まあ、それはいい。要するに、強硬派の妖怪を間引いたと言う事だな? 君が作った幻想の里とやらの」

 

 「……軽蔑するかしら? 『楽園』の維持の為、同胞とも言える妖怪を排除した私を」

 

 「その行いに賛成はしないが、反対もしない。

  君が多数の妖怪を死地に導いたのは事実だが、『楽園』の管理者としての責任もあるだろう。独り善がりな理想郷にしないのなら、それだけで俺は十分だ」

 

 

 まだ何かしら理由が有りそうな気もするが……この辺りで納得しておこう。これが目的の1つと言う事に嘘はない筈だ、もし騙されていたとしても俺が甘かったと言う事で手を打とう。

 

 

 「本当に、不思議な方。それとも、妖怪の生死は人間の貴方に興味を抱かせる物では無いと言う事なのかしら」

 

 「妖怪の命の価値を軽く見ている訳ではないよ。

  ただ、君の事情を詳しく知らない俺が外から訳知り顔で批判するのは筋違いだと思ったまでさ」

 

 「そう……」

 

 

 何も話さず控えていた藍に、八雲が手振りで何かを示しスキマを開く。藍は軽く驚いたような表情をした後、心得たとばかりに頷き開いたスキマの中に消えていった。

 

 

 「田澤さん。貴方を、私が作った幻想の里『幻想郷』に招待したいのです」

 

 「ほう。何故また唐突に?」

 

 「包み隠さず言うならば、貴方には幻想郷に住んでもらいたい。

  幻想郷は、いずれ人間に否定されるであろう妖怪や神の楽園になる。それでも人間と妖怪の勢力は、均衡が保たれていなければならない」

 

 「調整者として俺を呼び込みたいから、と言う事か」

 

 「貴方にとっても悪い話では無い。貴方も幻想に近い存在であるのですから。……田澤さんが安住出来る地ではある筈ですわ」

 

 「考えておこう。妹紅にも聞かないといけないしな、この場で即答は出来ない」

 

 「そう言えば聞いておきたかったのですが。あの娘とはどういう関係で?」

 

 「前にも言ったような……まあ、弟子だよ」

 

 

 この話の流れからいきなり話題を変えるのか。まあ、別に構わないが……

 

 

 「ああいった跳ねっ返りがお好みかしら?」

 

 「好むとか好まないとかは関係無いだろう。と言うかこれを聞いてどうするのだ」

 

 「今後の参考にしようと思いまして」

 

 「……堂々と色仕掛けすると宣言しているような物だぞ、それ」

 

 「私が何故田澤さんを招待するのか、それは田澤さんの側に居たいからですわ」

 

 「その言い方だと何とも夢のある話だが、要するに俺の力が欲しいんだろう」

 

 「からかいがいの無い方ね。それに幾ら何でも失礼な物言いじゃないかしら」

 

 「君より年上だからな。そして、気分を害したのなら謝ろう。確かに思慮が足りなかった」

 

 「……素直に謝られるのも落ち着きませんわね」

 

 

 素直に謝られるのが落ち着かないって、普段どんな相手と会話しているんだ。……まあ、八雲本人が特徴的な性格をしているか。

とりあえず招待くらいなら受けても良いだろう。俺としても、八雲の言う『幻想郷』には興味がある。果たして、活動の拠点にしたくなるような場所で有るのかどうか……楽しみだ。

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