旅人の見た幻想郷   作:千思万考

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旅人、安息の地を超え幻想の地を踏む

 八雲との腹の探り合いのようなやり取りを終えた後、俺は何事も無かったように居間に顔を出した。

日も差し込み始めそろそろ皆集まっている頃だろうと思ったからだが、肝心の妹紅の姿が見えない。仕方ないので取りあえず自室に戻ろうと歩いていると、通りがかった部屋から妹紅と寅丸の会話が漏れ聞こえてきた。内容を耳に入れないよう足早にその場を立ち去る。

綿月姉妹の時は自分の処遇や自由がかかっていたので盗み聞くと言う失礼極まりない行動をしてしまったが、そのような非常事態でなければこの程度の良識は持っているつもりだ。

 

 ……ふむ、しかし困ったな。妹紅に八雲からの提案を話さなければならないが、今はそれどころではなさそうである。

いつまでも話している訳では無いだろうし、しばらくは何かで時間を潰していよう。

 

 

 「……よくよく見るとコートの限界が近そうだな。そろそろ修復しておこう」

 

 

 この世界を訪れてからの様々な戦闘で幾度となく苛烈な攻撃に晒され、月では余波とは言え神の炎の直撃を受けている。

このまま放っておくと激しい戦闘では致命的になりそうだ、時間のある内に取りかかろう。自室に入り、『扉』から用具を取り出して作業を開始する。

 

 

 「……意外ですわね」

 

 「ん、八雲か。意外とは言うが、これは一品物だからな。自分で手入れしなければなるまい」

 

 

 全体の状態を見て、破れかけていたり薄くなっていたりしている部分は思いきって切り抜く。新たに用意した布地でかけ継ぎ、大まかに見た目を整えていく。

そのようにしてコート自体の形を直していると、まだ何か用事が有るのか八雲が再び顔を見せた。糸と鋏、多数の布地を広げて裁縫をしている俺に、驚いたような表情をしている。

 

 

 「まあ、貴方の特技は置いておくとして…… それで、あの娘は何と?」

 

 「妹紅は寅丸と会話してて、間に入っていける雰囲気では無かったからな。結局まだ聞いていないんだ、すまない八雲」

 

 「一分でも早く、と言う訳でもありませんし構いませんわ。この日の内に答えて頂ければ問題有りません」

 

 

 八雲と会話しつつも、手は止めない。形やコートの状態自体を修復するのは終わったので、次は武装としての防御力を付加する作業である。

用意していた数々の媒体を取り出し、俺の魔力を注ぎ込みながら加工。鉱石状の物は細かく砂状に砕いてコートに縫い込んでいき、液状の物は直接馴染ませる。

 

 

 「『魔法使い』らしい作業と言えば確かにそうかも知れませんけど、見た目には外套を縫っているように見えて……」

 

 「滑稽に見えても、これは俺にとって重要な事だ。こう言う地道な努力の積み重ねで俺はここまで来たからな。

  数万年も続けていた習慣のような物さ、魔法使いはこう言う所で努力を惜しんではいけないと言うのが俺の持論でね」

 

 

 一口に魔法とは言っても、攻撃用の派手な物も有るし日常生活を便利にするような所帯染みた物も有る。魔道具の作成だって、魔法の一種だ。

魔力で強化しなければ素の人間並みの身体能力しか持たない俺にとって、このような武装の作成は冗談ではなく死活問題に成りうる。こう言う作業に労力は惜しまない。

 

 

 「……今初めて、貴方が悠久の時を生きていると実感が湧いた気がしますわ」

 

 「ようやくか。まあ、流石に自分を絵空事と評されるのは堪えたし……そう思ってくれると有りがたい」

 

 「ええ、未だに威厳も風格も感じないのは変わりませんけどね?」

 

 「……それって、純粋に俺を馬鹿にしていないか」

 

 

 旅人に威厳も風格も必要ない。別に目立ちたい訳でも無いし、存在を過剰にアピールする気も無い。

ただ旅をして、色々な景色を見て、その道中で出会った様々な人との交友を楽しむ。これが俺の目的である。

……まあ、一応殆どの生命種より長く生きていると言う自負に近い物も、無きにしもあらず。若々しいと言われるならともかく、それ等が全く感じられないと言われるのも。

 

 

 「人に対して尊大に接するのも見苦しいと思うから、俺なりに謙虚にしているんだよ。いさかいの種火になりそうだろう?」

 

 「あまり力を抑えていて見た目通りの人間と判断されても、厄介事に巻き込まれるかもしれません。

  それに好戦的な妖怪は基本的にそんな工夫なんて詳しく考えませんわよ、特に妖獣のような者達はね」

 

 「だからと言って、わざわざ力を見せびらかすのもなあ」

 

 

 これまでに会った妖怪達を思い返してみる。伊吹達、鬼は無駄に敵意を向けては来なかった物の、そこに居るだけで威圧されるような強烈な存在感が有った。

射命丸達、天狗は表面上腰を低くしていても要所で俺を観察するような狡猾さが有り、威圧とは違う物のどこか油断ならない雰囲気を発していた物だ。

自らを鵺と称した少女は、ある意味で俺の持つ妖怪に対しての漠然としたイメージ通りの性格であった気もする。自らの楽しみを優先して人間の事情を無視し、夜の闇に紛れ人を困らせては笑う。

風見は……どうなんだろう。そもそも種族がはっきりとしないが、あの苛烈な性格は間違いなく彼女個人の性質だろう。あの暴力的な性格が特徴の種族は想像すると怖い。

 

 

 「……そう言えば、君に当てはまる種族が思いつかないな」

 

 「私一人の種族、いわば新種ですしね。スキマ妖怪、と名乗っていますわ」

 

 「スキマ……ああ、境界だからか。万物に干渉出来て、なおかつ破壊や創造も可能な力、凄まじい物だな」

 

 「便利な力ではありますけど、そこまで強力な物でもありませんのよ? 私自身は単なる妖怪ですし、存在の格が違い過ぎる神には通用しませんもの」

 

 「……『単なる妖怪』と神が比較対象になる時点で既におかしいだろ」

 

 「貴方こそ人間の身でありながら、その身に多数の神や悪魔の力を宿している。

  かつてこの地に降り立った天津神、その力にすら痛み分けに近いとは言え打ち勝った。純粋な戦闘能力ならば、貴方は私を完全に上回っている」

 

 「君が搦め手を使えば何も出来ず負けるかも知れないけどな」

 

 「ふふ、そちらこそ貴方の得意分野では無くて?」

 

 「……まあな、それこそ魔法使いの得意分野では有る」

 

 

 長々と話しながらも、コートに魔法的な付加を纏わせていく。

さっき八雲にも言ったように、この作業はもう手慣れた物だ。会話に意識を向けながらでも手が止まる事は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 「お疲れ様、でしょうか」

 

 「ああ、元々破け始めてた部分を直すだけのつもりだったしな」

 

 

 一応区切りの良い所までは終わったし、やりすぎるとマズイ。

妹紅を待つ間の時間潰しとして始めたのに、これに集中し過ぎて肝心の妹紅を無視する結果になったら何とも間抜けだ。

 

 

 「……今更、それも私が言う事でも無いですけど。他人が居る前でそのコートを修復して良かったのかしら? 貴方がそれに仕掛けた魔法、全て見てしまいましたけど」

 

 「見られて困る物なら見せてないよ。まあ、その辺りの詳しい事情はそれこそ言えないが」

 

 

 修復の終わったコートに袖を通し、違和感が無いので一先ずこれで終了とする。用具を片付け『扉』に放り込む。

そうして、そろそろまた妹紅達の様子を見にいってみようと立ち上がると……

 

 

 「た、田澤!」

 

 「おお妹紅か、丁度良かった。話したい事が……どうした?」

 

 

 タイミングの良い事に、戸を開けて妹紅が顔を出した。これ幸いと八雲からの招待について話そうとしたのだが、いつになく神妙な表情に思いとどまる。

普段の調子ならここで八雲に何か言いそうな物だが、それも無いとなると只事ではない。とりあえず俺の用事は後回しにして妹紅の用事を聞く事にする。

 

 

 「どうしても、田澤に聞いてほしい事がある。嫌っても、軽蔑しても構わない。でも、これ以上黙っているのは、もう耐えられない」

 

 「あら、告白? 私はお邪魔かしらね」

 

 

 八雲の空気を読まない言動を、妹紅も俺もスルーした。

これには八雲も都合が悪かったようで、少し肩を落としながら隙間の中に消えて行った。流石に彼女も最低限の遠慮は持っているらしい。

 

 

 「田澤。私は、私は……」

 

 「落ち着け。深呼吸だ、無理に喋らなくても良い」

 

 「う、うん」

 

 

 俺の言った通り、素直に深呼吸をする妹紅。余程ペースが乱れているのか、中々落ち着かない様子。昨日までは普通に見えたのだが、急に一体どうしたと言うのか。

 

 

 「田澤、私は、人を殺した事がある」

 

 

 漸く落ち着いた妹紅の口から発された言葉は、衝撃的な物だった。

意味を理解するまで数秒の時間を要し、理解してからも混乱が続く。

 

 

 「……そうか。詳しく説明してくれるな?」

 

 「うん。そのつもりで来たから」

 

 

 人を殺した事がある、か。説明を聞かなければ、まだ何も言えないし判断できない。

勿論、普通に考えて殺人とは許される事では無い。情状酌量の可能性は有るにしても、罪である事は変わらない。

 

 

 「まだ私が蓬来の薬を飲む前、輝夜が月に帰ってすぐの頃だ。帝は渡された薬を月に近い山で燃やせなんて言ったらしくて、使者が山に登った。

  私は輝夜への嫌がらせになりそうだと思って、隙を見て奪い取ろうと考えた。当時は使者が運ぶ物の中に何が入ってるとか、事情をよく知らなかったけどね」

 

 

 妹紅は自分の服を握りしめながら、言葉を続ける。

 

 

 「まあ貴族のお嬢さんが、それも大した計画も無しで山を登ろうなんて無謀だよね。当然自分の無謀さを痛感した所を、よりによって帝の使者達に助けてもらった。

  事情はよく分からないが登るなら協力しようか、みたいに言われてね。……ああ、長くなっちゃってるけど一度に言い切って良いかな?」

 

 「構わない。その方が妹紅にとっても楽だろうしな」

 

 「……ありがとう。

  そして、私達は無事に山頂近くまで辿り着いた。代表格の男が薬を火口に投げ込もうとしたけど、山の神様が出てきて止めさせた。

  不死の薬なんて物を投げ込まれたら火山活動が大変な事になるとか言ってたよ。神様の言葉で自分達が運んでる物が不死の薬だと皆が知って、慌ただしくなった。

  男はその事を最初から知ってたんだね、皆の様子を見て咄嗟に神様の静止を振り切って薬を燃やそうとしたんだけど、何故か火は付かなかった」

 

 

 妹紅の表情は固く、話し方もいつもとはやや違う。思い出すのが辛いらしく苦しそうだ。

……それにしても、山の神様か。俺の知ってる物語通りなら登った山は後の富士山だろう。富士山に関わる神格なら、神様とはコノハナサクヤ辺りだろうか。

コノハナサクヤは火を司るとも水を司るとも言われる神格、どちらにせよ着火を防ぐくらいは手間でも無い筈だ。

 

 

 「その日の夜は、今考えても不気味だった。皆、目が異様にぎらついてたよ。自然と、薬の番をする役割みたいなのが時間交代制で始まった」

 

 

 人間の手の届かない、届いてはいけない夢である不死。自ら使う気はなくとも、富を得る方法は幾らでも思い付くその薬を前に、誰しも冷静ではいられなかったのだろう。

そう言う、極限状態の欲望がぶつかり合う空間で当時20年も生きていない少女であった妹紅は何を思ったのだろうか。少なくとも、良い影響は無かった筈。

 

 

 「で、私とその男が休息をとって起きたら辺り一面血の海って状況だった。

  神様は薬を巡って互いに殺しあったって言ったけど……何故か焼死体もあったな。人を焼く程の火なんて、近くには無いのにね。無事だったのは私と代表格の男だけ。神様は別の山を紹介して、薬はそこに捨てろって」

 

 

 それは、コノハナサクヤも手を出したという事か?

話の流れからして使者達だけで殺しあったというのも考えにくい。そもそも薬の奪い合いならば、妹紅も男も狙われていなくては辻褄が合わない。

 

 

 「……下山の時、私は不老不死の薬に目が眩んだ。

  このままだと不老不死の薬は燃やされる、死なないなんて素晴らしい事じゃないか。そう思った私は薬を処分しようとする邪魔者である男を……突き落とした」

 

 

 ……。

 

 

 「急な斜面だったし、後ろからいきなりぶつかったからね。

  その人は抵抗する事も無く転がり落ちていった。そうして私は、不老不死になった」

 

 「……話はそれで終わりなんだな?」

 

 「うん、終わり」

 

 「改めて聞いておくが、何故話す気になった? 黙っていれば今まで通りの旅が続いただろうに。何の得にもならないだろう?」

 

 「っ、田澤の横でこんな私がのうのうと過ごす事に耐えられないから。例え田澤との旅がここで終わっちゃうとしても、もう黙っている事なんて出来ない。

  ……昨日、田澤に会えて、久しぶりに安心しながら床につこうとした時。ずっと目を背けてた事に気付いちゃったんだ。あの男に家族が居れば、その家族はあの男と会えなくなったんだって。夢枕でも、ひたすら責められたよ」

 

 

 妹紅の表情が酷く歪んだ。自分が安心したからこそ、自分のせいで二度と再会できなくなった人達が居ると言う事に耐えられなくなったのだろう。

妹紅は気丈さを取り繕うが既に泣き顔だ。相当の悪夢だったのか、よく見ると目の下に隈が出来ている。しかし、その目から涙は流れない。妹紅の意地だろうか?

 

 

 「……律儀と言うか何と言うか。真面目なヤツだよ、妹紅は」

 

 「人殺しが真面目? もう遠慮しなくていいよ、私が近くに居ても気味が悪いでしょ? 何せ人殺しだからね、いつ田澤を殺すか分からないよ」

 

 

 ほう。遠慮せずに言いたい事を言って良いんだな?

 

 

 「では言わせてもらうが。その考えは卑怯だ、言いたい事を言って後は逃げるってのは。

  自分が言った事には全て責任が生じるんだ、それを話したからには俺から逃げるな。俺はまだ何も妹紅に言っていないだろ? 逃げるなら俺の返事を聞いてからだ」

 

 「……私は逃げてなんかいない」

 

 

 妹紅は少しムスッとした表情になったが、それでも悲壮感あふれる顔のままだ。

ここまで妹紅が自分を卑下するのを俺は初めて見た。いや、人殺しを自白して胸を張れとは言わないが。

 

 

 「まず最初に言っておくが、別に妹紅が俺の近くに居ても構わない。

  その人を殺した事、それは今まで誰にも知られなかった事だろう? 黙っていれば俺だって知る事は無かったしな、罪を背負う覚悟は出来たんだろう」

 

 「……」

 

 「覚悟は出来て、しかも後悔しているなら。自分が大変な事をやったんだって思えるなら、その罪を背負って生きていけ。永遠に続く、現世に縛られる命。殺人の罪として皮肉の効いた刑じゃないか?」

 

 「田澤は、私に何もしないのか? 私は……」

 

 「人が人を裁くなんて思い上がりだよ」

 

 

 少なくとも、この時代なら思い上がりだと思う。

人が裁かずとも神が裁き、人が刑を与えずとも天が刑を与える。人が人を裁くのは、幻想の否定される時代になってからだ。そもそも、俺に妹紅を裁く何の権限が有ると言うのか。

 

 

 「そんなに何かしないと気が済まないなら、その山に御参りでもどうだ? もしくは寺社参り、丁度今やってるところだろ?」

 

 「……そうだね。それくらいしか今の私には出来る事が無い。だったらせめて、その『出来る事』をしっかりやらないと駄目だな」

 

 

 妹紅は神妙に頷く。先ほどまでの自暴自棄な雰囲気とも違う、目的を持った瞳だ。

 

 

 「田澤。本当に、ありがとう。私は田澤に色々良くしてもらってるのに結局何一つ返せてない。不甲斐ないよ」

 

 「って、おい、泣くなよ。別に返すとかはどうでもいい。俺が好きでやった事だ。……まあ、そうだな。どうしてもと言うなら1つ頼みを聞いてくれ」

 

 「何だ!? 何だってするよ!」

 

 

 罪の告白の最中は堪えていた涙を流しながら、またもや自分を卑下する妹紅。

そんな様子を見兼ねて提案すると、今度は凄い勢いで俺の胸元に飛び掛かってきた。だが、多分妹紅が思っているような俺のためになる事を要求する訳では無い。

 

 

 「何でもするんだな? よし、なら俺といっしょに八雲が作った里に行くぞ」

 

 「え、いや、そう言う事? もっと他に無いのか、遠慮はいらない!」

 

 「別に遠慮はしていない。普段の妹紅なら嫌がるだろう事を要求しているしな」

 

 

 気勢を削がれたといった感じで俺に返答する妹紅。

予想と大きく異なったから面食らったのだろうが、これ以上を要求するつもりは無い。最初からこの条件を了承させる為に提案したんだし。

 

 

 「……分かったよ。そんな事で良いならね」

 

 

 がっくりした様子で投げやりに答える妹紅。

とんでもない事を言われた訳でも無いんだから、もう少し喜べばいいような。それとも、とんでもない事を言われないと釣り合わないとか考えたんだろうか。

 

 

 「八雲は……居間に行ったみたいだな。俺達も戻るぞ、一応八雲を待たせている形だし」

 

 「ちょっと、時間をくれ」

 

 「ん? ……おっと」

 

 

 妹紅に背を向けた所で何か軽い物がぶつかってきた。

妹紅の言葉に振り向きかけていた俺だが、空気を読んでそのまま黙っている事にする。後ろから腰の辺りに回されている腕を撫でてやると、妹紅がしゃくり上げはじめた。

 

 

 「暖かいな、田澤」

 

 「妹紅こそ」

 

 

 妹紅が落ち着くまで、このままでいる事にする。疲れた心に、人の体温は暖かい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あら、お二人さん。先程はお楽しみのようでしたね」

 

 「ああ、二人で愉しんできた。妹紅も悦んでくれたようだな」

 

 「なっ!? いきなり何言って!?」

 

 「……え? もしや本当に、しかも寺の中で?」

 

 「冗談だ。普通に考えて妹紅が受け入れないだろう、これくらいで騙されるな」

 

 「今までその方面の話題を出さなかった相手に、それも真顔で言われたら多少は信じますわよ……」

 

 「いつもからかってくるからな、お返しだ。そして済まなかった妹紅、こう言う話題に引き出さして」

 

 「え? ああ、うん、まあ良いけど」

 

 

 居間で待ち構えていた八雲にカウンター。思ってもいなかった反応だったらしく、妹紅も八雲も面白いリアクションだ。

まあ、妹紅はともかく八雲には驚いてもらわないと困る。さっきの事を深く詮索されないように、インパクトのある台詞で気を逸らそうと考えた結果の行動だし。

 

 

 「そんな事より八雲、妹紅の了承も得たし君のお誘いを受ける事にするよ」

 

 「聞いてくれましたのね。ふふ、断られたら立場が無い所でしたわ」

 

 「何だ、もし私が駄々をこねたら田澤も行かないつもりだったのか?」

 

 「嫌がるのに連れていく訳にはいかないしな、妹紅を置いて一人で行くのも悪いし」

 

 「相変わらず随分とその娘に入れ込んで…… まあ良いわ、行きましょう。藍も萃香も待ちくたびれている頃ですわ」

 

 「……伊吹は既に此処を出ているのか? まあ、俺と妹紅は寅丸に挨拶をしてくる。何から何まで彼女達には世話になりっぱなしだからな」

 

 

 俺とは殆ど関わりが無いと言うのに、色々と気遣ってもらい。妹紅達にも良くしてくれたようで、本当に頭が上がらない。最後となったら、感謝の意を示さなければな。

 

 俺が先頭に立って寅丸の部屋まで行くと、丁度寅丸が部屋から出てくる所だった。俺の隣に居る妹紅を見て何かを察したらしく、妹紅と何か目で合図をしていた。

 

 

 「さて、二人とも良いか?」

 

 「ええ、役に立てた事が分かりましたから」

 

 「……貴女には、感謝しないとな」

 

 

 妹紅とのさっきの会話は懺悔に近い物だったのだろうか。寅丸が背中を押したからこそ、妹紅は俺の所に来たのかもしれない。

 

 

 「寅丸、そろそろ俺達はおいとまさせてもらう。八雲との用事が出来たし、あまり長居すると流石に悪いからな」

 

 「そうですか……妖怪と知っても接してくれて、ありがとうございました」

 

 「礼を言うのはこっちだ。身内でもないと言うのに、色々と手間をかけさせて本当に済まなかった」

 

 「良いんですよ。やはり聖は間違っていないと、貴方達は思わせてくれました。

  妖怪と人間の隔て無く接してくれる、これほど嬉しい事は有りません。これからどこを旅されるのかは分かりませんが、幸運を祈らせて頂きます」

 

 「はは、君に祈ってもらえるのは心強いな。……俺が言うのも滑稽な気がするが、そっちこそ幸運を祈る」

 

 

 そして互いに礼をした後、俺達は寺を出た。元々荷物など無いに等しい、出ると決まればやる事は殆ど無いのだ。

寺の境内に立ち、コートを羽織る。つい習慣で『扉』を開こうとしてしまうが、正確に転移するには大人しく八雲に任せた方が良いだろうと気付き、止める。

 

 

 「その幻想郷とやらには、八雲の能力があれば容易に転移できるのか」

 

 「そうですわね、数秒とかかりませんわよ? ほら」

 

 

 八雲が軽く腕を振ると、空間に裂け目のような物が出現する。

少し中を覗いてみると無数の瞳がこっちを見てくる悪趣味な内装だった。まあ、入ったからと言って直接精神汚染を引き起こすような代物でも無いようだが。

 

 

 「力の制御は完璧なんだよな?」

 

 「勿論。空間と空間の境界を弄るのは、この能力の最も単純な扱い方ですし」

 

 

 空間と空間の境界か。予想はしていたが、やはり俺の『扉』とは仕組みが違う。実は疑っていた部分が有るので、一安心。

 

 

 「薄気味悪い力だね。力が持ち主に似ちゃったんだな、可哀想に」

 

 「妹紅、いい加減八雲への喧嘩腰は止めろって。さ、行くぞ。気味悪いって言うなら俺が目を塞いどいてやるから」

 

 「い、良いって、自分でやるからさ!」

 

 「……賑やかですこと」

 

 

 八雲の開いたスキマに入り、一気に空間を飛び越える。一面に紫色が広がる領域を眺めながら流れに身を任せていると、大した時間も経たずに目的地に到着した。

 

 

 「さあ、一応藍に用意はさせておきましたし案内をさせてもらうわ。……今の所、案内するような名所がある訳でも無いのですけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ねえ、これ何? 宴会?」

 

 「歓迎会だよ、昴のね!」

 

 「月人の捕縛も振り切って、単身で月を抜け出したそうじゃないか。私は月に行ってないから、その武勇伝を詳しく聞かせてほしいね!」

 

 「……八雲」

 

 「あら、別に構わないでしょう? 貴方の事をそれだけ皆が好ましく思っていると言う事ですしね」

 

 「藍と伊吹を先に幻想郷に帰したのは、まさかこの為か」

 

 「さあ、どうかしら。少なくとも私は田澤さんが来るであろう事、そして失礼の無いようにしろと言う事を藍に伝えただけですわ」

 

 

 案内された山、いつかも妹紅と共に訪れた場所で酒宴の用意を万全に済ませている妖怪達に遭遇。何かと思えば、俺の歓迎会だと言うので面食らう。

伊吹達に裏は無く、純粋に俺を歓迎してくれているであろう事は分かるのだが……八雲の狙いはこう言う大規模なイベントに参加させて、自分の頼みを断りづらくさせると言った所だろう。

正直、俺に対してここまでするとは思わなかった。卑屈になる訳では無いが、俺ってそこまでの労力を払う程の存在か? そうそう代わりは利かないと自負はしている物の、所詮はたった一人の人間である。

事実、月では最終的にお粗末な兵達に打ち破られている訳だし。

 

 

 「もうちょっと広い所に行こう、昴を見たがっている奴は大勢居るし!」

 

 「何と言っても、主役だからね」

 

 「……おう」

 

 「……何だか、凄い所に来ちゃったね」

 

 

 こうなったら、腹を括るか。こう純粋に楽しみにしていただろう伊吹達も居るんだし、それを御破算にするのも悪い。これ以上変な方向に話が進まない事を祈るのみである。

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