旅人の見た幻想郷   作:千思万考

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旅人、霊を弔い再び幻想の地を踏む

 「……あまり詳しくは覚えてないけど。私があの人を突き飛ばしたのは、こんな感じの場所だったと思う」

 

 

 ひたすら登り続ける内に岩場へ到達し、斜面をよじ登るように進んでいた俺達。

俺が軽いロッククライミング気分を味わいながら周囲を見回していると、妹紅が一息吐きながら呟いた。遂にここまで来たかと、一旦動きを止めて返答する。

 

 

 「分かった。細かい場所の違いは何とでもなるし、始めようか」

 

 「うん。……ここまで、長かったな」

 

 

 瞳を閉じながら、噛みしめるように言葉を発する妹紅。その声には果たしてどのような思いが込められているのか。

軽々しく声をかけるべきではないと考え、そのまま暫く過去へ思いを馳せる妹紅を見つめる。何としても妹紅の願いを叶えてやらなければなるまいと考え、俺も改めて気合いを入れ直す。

死者と向き合うのだし、浮ついた気分で行う事は出来ない。普段も不真面目にしている気は無いが、一層真摯に取り組む必要が有るだろう。

 

 

 「ごめん、待たせちゃったね。心の準備は出来たから、田澤の方が整ったら始めてちょうだい」

 

 「任せてくれ。途中で不調を感じたら、すぐに言うんだぞ」

 

 

 妹紅の意思は固まったらしい。俺も心身の集中は済んでいるので、妹紅を待たせないようにすぐさま儀式へ取り掛かる。

『扉』を開いて必要な呪術的触媒と刀を取り出し、陰陽術を用いて儀式場の形成を行う。独特の歩法で円を描くように歩きつつ、触媒と刀で地面に呪文を刻み込んでいく。

ふと妹紅の様子を見ると、俺の作業を見て何かを聞きたそうにしている。今の所は話をしても問題ない段階なので、妹紅に解説を入れる。

 

 

 「今やっているのは、此処を儀式を行うに相応しい『場』として整えると同時に泰山府君に死者との会話を許してもらうべく供物を捧げる作業だ。

  『場』としては神が住まう山と言うだけで十分な霊格を備えてはいるが、泰山府君に許可を頼むんだから俺達が誠意を見せてしっかりやらないとな」

 

 「ふーん。これは、田澤独自の魔法じゃないよね?」

 

 「そうだな。今から行う儀式の為に多少やり方を変えている部分は有るが、殆ど既存の形式に沿った陰陽術だ」

 

 

 流石に一朝一夕で儀式を行えるようになれとは言わないが、これらの知識は陰陽術を扱っていく上で無駄にならない筈である。この作業だけでも結界の応用になるのだ。

一通り説明を入れながら儀式場を整えていき、最後に供物として紙で作った人形を中心に置いて火を灯す。もし許可が出れば、向こうから何かしらのアクションがある筈だ。

 

 

 「わ、地面が光った……!?」

 

 「どうやら許してくれたみたいだな。積極的に力を貸してくれる訳では無さそうだが、俺の魔法の補助はしてくれるらしい」

 

 

 人形が爆発するように燃え尽き、それと引き換えのように周囲に刻んだ呪文が淡い光を放ち始めた。

先程までは俺が込めた力しか発揮していなかった儀式場が、泰山府君の加護を受けて降霊に最適な環境を備えた領域に変化した。ここから先は俺の魔法が担当する。

 

 

 「よし。妹紅、何度も確認するようだが始めて良いな?」

 

 「覚悟は出来てるよ」

 

 「なら問題ない。……我が内界に宿る記述を励起。ソロモン72柱が内の序列4番、死霊侯『サミジーナ』。ソロモン72柱が内の序列46番、死霊伯『ビフロンス』。我が魔力と血肉を糧に、汝らの力を借り受ける。

  我は苦悩を呼び、煉獄、霊魂、墓標、蝋燭に火を燈す。果たされる事の無かった思いを抱える者、無念の亡霊よ。在りし日に岩笠の名で呼ばれた者よ、安寧の闇より一時の目覚めを果たし、我が元へ馳せ参じよ」

 

 

 『叡智の王国』の記述よりソロモン72柱が内の序列4番と46番を参照、魔力を注ぎ込み内界にその存在を再現。そのまま続く詠唱を行い、2柱の悪魔を直接召喚はせず力のみを借りる。

2柱の力を借りる代償として刀を抜き放ち、その刃を左手で強く握りこむ。左手から血が滴り始め、淡く輝いている地面に染み込んでいく……筈の血液は紫紺の怪しげな光を放ちながら、その形を変えて幾何学的な模様を描き出す。

血の放つ光が輝きを増す度に、反比例して辺りから明るさは消えていく。遂には完全に漆黒の帳が下り、地面の淡い輝きと新たに現れた紫紺の光を放つ刻印のみが暗い世界を怪しく彩る。

 

 

 「……とりあえず、儀式は成功した。後少しも待てば、向こうが妹紅を見付けてくるだろう」

 

 

 手順を完璧に終え、失敗の気配は感じられない。とは言え実際に目的の人物が現れるまでは油断も出来ないので、集中を切らさずに妹紅に現状を報告する。

俺の儀式によって著しく変貌した周囲の状況を見てあたふたしていた妹紅は、声をかけられてある程度の冷静さを取り戻したのか、軽く息を整えてから改めて返答してきた。

 

 

 「うん、いよいよだね。……陽気な光景を想像してた訳じゃないけど、この気が滅入るような真っ暗闇は想定外だなあ」

 

 「これについては勘弁してくれ、儀式の都合上どうしてもこの暗闇が生じるのは避けられないんだ」

 

 「薄気味悪いだけで実害は無いから、嫌って訳でもないけどさ」

 

 

 妹紅の反応は芳しくない。泰山府君の補助を得ているとは言え、元々が悪魔の力から発動された儀式なので薄気味悪くなるのはある意味当然とも言える。

しかし術式の制御には細心の注意を払っているし、招いていない悪霊などの干渉はそれこそ泰山府君の権威で防がれる。妹紅の言う通り、実害は無い。

 

 

 「……そろそろか」

 

 「……」

 

 

 『場』に、俺の魔法によって呼び出された霊魂が現れた。今はまだ気配がするだけだが、じきにこの暗闇の中から姿を現すだろう。

……俺は此処に留まっていてよいのだろうか? ここから先は妹紅の問題であって、俺が関わる権利は無いとも思う。一人で気丈に振る舞えているのだから俺が居ても邪魔になる気が。

 

 

 「妹紅が彼と……岩笠と話す時に、俺は邪魔になりそうだ。暫く出払った方が良いか?」

 

 「もしよければ、田澤にも居てほしい。勿論何かやる事が有るなら引き止めないけど……田澤に、見ていてほしいんだ」

 

 「分かった。そう言う事なら、此処に居るよ」

 

 

 ……今更な話だったな、この段階に至って確認するのも逆に迷惑だっただろう。そもそも薄気味悪いと訴えている場所に一人置いていくのも非常識か。

そのように考えつつ気配の接近を待っていると……体のあちこちに酷い擦過傷を負い、間接を有り得ない方向へねじ曲げた青白い男がさ迷うように現れた。

妹紅の罪の象徴、蓬莱の薬に運命を翻弄された悲運の男は、呻くように掠れた声を発する。

 

 

 「おお、おお……ここは、ここは如何なる場所ぞ……」

 

 「岩笠っ! ごめん、ごめんよ、今まで無念だったろうに……!」

 

 「何を、泣いておるか…… 泣くでない、娘…… 薬は、帝より託された薬は……どうなったのだ」

 

 「……薬は、私が飲んだ。貴方は何が起こったか分からなかったのかもしれないけど、あの時貴方を殺して、壺ごと薬を奪ったのは私なんだっ!

  死ぬ事は無くなったけど、貴方が私を恨むと言うのなら全て背負う! 呪うと言うのなら苦しみ続ける! それで貴方の無念が晴れるなら、私は永遠に……!」

 

 「殺した……? そうか、私は死んでいる……この身を苛む無念は、そう言う事だったのか……」

 

 

 呼び出された岩笠の霊魂は自らの状況を理解出来ていない様子で、妹紅に殺されたのだと聞いて初めて自らが既に死んでいる身だと気付いたようだ。

現状に理解が及んだ事で擦り切れかけていた人格が再び確固たる自意識の下に統合されたのか、それまで散漫気味だった受け答えに明確な自我が感じられるようになっていく。それと同時に、動く死者そのものと言った風体も戦装束を纏う武者の姿に変わった。

 

 

 「死んだ後も我が身を苛み続けた無念など、一つしかない。部下であり友であった者達を一夜にして失い、帝の命をも果たせなかった事。我が無念など、それしかない……」

 

 「……分かったよ。壺は何としてでも見つけて、絶対に供養する。だから、貴方は私を恨んで!」

 

 「言ったであろう、無念などそれしかないと。帝の命を果たせなかった事は口惜しいが……人を憎んで何となる」

 

 「そんなっ!?」

 

 「……妹紅、そこまでにしておけ。この人は他人を憎む気は無いと言っているんだ。無理に憎め恨めと望んで、怨霊に貶める訳にはいかないだろう」

 

 

 俺が口を出す権利など無いとは考えていたが、たまらず声が出た。

妹紅は恨まれなければ殺された無念が晴れないと思い込んでいるようだが、それは違う。最初からこの人に殺された恨みなんか無かったんだ。

確かに誰に殺されたか分からないから、誰を恨む事も出来ずに長年が過ぎたと言う事も有るのだろうが、それでも帝の命を果たせなかったと言う事こそが心残りだったのだ。

……死んで尚、その忠誠心か。敬意を表するに値する、生前はさぞかし高潔な男だったのだろう。

 

 

 「……そこの妖術師、名を何と言う?」

 

 「田澤昴と申します、調岩笠殿。その様子ではお気づきになられているのやもしれませんが……此度、貴方をお呼び立てしたのは私です」

 

 「そうか……なればこの娘と共に、蓬莱の薬を何としてでも供養してほしい。そして、出来れば我が部下達を弔ってやってほしい……」

 

 「勿論です。貴方の無念は、必ずや私達が晴らします」

 

 

 心底から頼んでいると言うのが伝わってくる岩笠の願いに、力強く頷く。

そんな俺を見た岩笠は安心したように笑い、それがきっかけになったかのように徐々に姿が薄れ始めた。薄れゆく自らを見た岩笠は、目に涙を浮かべている妹紅に向けて、最後にこう言った。

 

 

 「娘よ、私は其方を赦す。故に、我が死を恨みと共に抱えないでほしい」

 

 「っ!? あ、あぁ……!」

 

 「元より私は恨んでいないが、こう言わなければ受け入れてくれそうにない。全く、強情な娘よな」

 

 「っ、私は、私は藤原妹紅! 結局あの時は名前を言えなかったけど、私の名前は藤原妹紅だっ!」

 

 「そうか、藤原。やはり、山賊とは騙りであったな。……では妹紅姫、さらば! 今行くぞ、友よ……!」

 

 

 俺の力により現世に呼び出されていた霊魂が、在るべき場所へと還っていく。

『ビフロンス』『サミジーナ』の力は対象が未練を抱え、輪廻転生していない場合に発揮される。唯一遺されていた無念が消え、本来の意味で成仏を果す時が来たのだろう。

 

 

 「……さよなら。ありがとう、岩笠さん」

 

 

 妹紅の言葉は果たして届いたのかどうか。光に包まれるように姿を消した岩笠は、最後まで笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……その後は山頂に登って残る使者達を二人で弔い、『扉』で幻想郷に戻ってきたと言う事さ」

 

 

 そう言って、茶の注がれた湯呑みに口を付ける。今現在俺が居るのは幻想郷の冥界、白玉楼である。

あれから本来の予定を終わらせた俺達は、一旦休みを入れる意味も込めて幻想郷に戻ってきていたのだ。

 

 

 「死人の声を聞き、その魂を鎮めるとは……魔法使いの次は僧侶にでもなる気かしら?」

 

 「鎮めると言っても、無念こそ抱えていたが悪霊では無かったからな。普通に会話しただけさ」

 

 

 網を張っていたのか、俺達が幻想郷に戻ってから数秒も経たない内に現れた八雲。

事情の説明を要求され、白玉楼へ連れられた俺達は改めて事情を説明していた。……コノハナサクヤと遭遇した事は伏せさせてもらった。これに関しては妹紅とも予め口裏を合わせていたので、ボロは出ない。

 

 

 「……死人の声を聞くなんて、それこそ幽々子の領分でしょうに」

 

 「そう言えば、あの人も幽霊なんだよね。何だか私よりも活力に満ち溢れている感じだったけど……」

 

 「幽々子はあの通り、天真爛漫な子だから。……ふふっ、あれで食い意地も張ってるのよ」

 

 

 茶を飲みながら会話する八雲と妹紅を見ていて、ふと疑問が浮かんだ。今まで考えていなかったが、いくら冥界とは言え輪廻転生せずに亡霊として存在し続けるなんて普通は有り得ない。

誰かに呼び出されているようにも見えないし、自力で留まり続ける程の強烈な未練が有るようにも見えない。……まあ、何か事情が有るのだろう。深入りする気はない。

 

 

 「田澤殿、貴方は魔法使いを名乗っていたが……陰陽術にも相当な知見を持っておられるようだな」

 

 「まあ、俺の言う『魔法』は神秘の法全てを引っ括めて便宜的に名付けた物だからな。

  俺は旅をしながら学んだ様々な神秘を節操なしに混ぜ合わせて、独自の体系に纏め上げた。そして、それを扱う者として『魔法使い』と名乗っている」

 

 

 降霊の儀式に泰山府君の力を利用したと言う事を疑問に思ったのか、藍がその点を質問してきた。

俺の言う魔法の概念はこの世界一般の魔法とは別物で、所謂『非現実的な力』を纏めた物だ。俺が『魔力』と呼んでいる力も、この世界の月を由来とする魔力とは異なる物だろう。

 

 

 「……随分と多才なのだな」

 

 「何万年も生きていれば、色々な事に手を出してみたくなるものさ」

 

 「私はそんな小難しい事を進んで覚えようとは思わないけどなぁ……」

 

 

 何やら信じられない事を聞いたとばかりの反応をする藍と妹紅だが、これについてはある意味でズルをしているので誇る気にはなれない。

しかし、わざわざズルの理由を示して否定する気も無いので適当に濁しておく。この辺りは俺の能力の性質にも関わってくるので、説明するのは避けたい。

 

 

 「所で、貴方達の次の目的は壺探しになるのかしら?」

 

 「またいきなり話を変えたな…… いや、壺は既に手に入れたよ」

 

 「……所在も不明だったのではなくて?」

 

 「転移の魔法を逆に作用させて、壺を俺達の元に呼び寄せた。流石に自力で探していたら何時までかかるか分かった物じゃないからな」

 

 

 『セエレ』の力の本質は物体の移動であり、術者の転移しか行えない訳ではない。目的の物を自分の元まで運ぶ、それも能力の1つなのだ。

 

 

 「田澤は目的の山を探す事も出来るって言ったけど……それは止めてもらったよ。最後くらいは、自分の力でやらないとね」

 

 

 俺は早々に供養を済ませようとしたのだが、その点は妹紅にとって譲れない事らしい。

妹紅がそう言うのなら俺が手を出すのも変な話だろうと考え、そこからの壺の取扱いは妹紅に一任した。まあ、持ち運びに難が有るので『扉』の中に保管してはいるのだが。

 

 と、ここまで話した所で何やら複数人の廊下を歩く音が近づいてきた。気配からして一人は西行寺、もう一人居るようだがそちらは誰か分からない。

……今になって思い至ったが、俺を客観的に見ると家主が留守なのに勝手に茶を飲んで寛いでいる非常識な男だぞ。八雲があまりにも自然に差し出すから何の疑問も持たずに受け取ってしまった。

居心地の悪さを感じながらも、まさか逃げる訳にもいかないので、大人しく到着を待つ事数秒。

 

 

 「やっぱりお揃いだったのね、手間が省けたわ~」

 

 「幽々子、お邪魔してるわよ……と、映姫様」

 

 

 西行寺と共に部屋へ入室してきたのは、何やら法官のような服で装った緑髪の女。……威厳溢れる雰囲気に外見年齢をイマイチ定めにくい。少女のようにも見えるし、女性と言うべき姿にも見える。

常に不敵な態度を崩さない八雲が珍しく口ごもるようにした事と言い、この人も一筋縄ではいかない性格だと予想は出来る。どう対応するべきか判断を迷ったが、自然体で接する事にする。

 

 

 「どうも、初めまして。俺は田澤昴と言う、差し支えなければ君の名前を教えてもらいたい」

 

 「貴方が田澤ですね、ならば隣の子は藤原妹紅と。泰山王よりその名前は聞いていましたよ。私は四季映姫、役職としてヤマザナドゥも名乗っています」

 

 「……ヤマに、ザナドゥ?」

 

 

 何やら色々と凄い言葉が返って来た。泰山府君と面識が有るような言い方に、役職名がヤマザナドゥ。

泰山王との呼び方からは十王が連想されるし、そこからヤマを閻魔王とすれば、八雲さえ焦りを見せるこの方は……

 

 

 「閻魔様、先程の無礼な言動をお許しください」

 

 「一定の敬意さえ持ってくれるなら、変に畏まらずとも結構です。泰山王も言っていましたが、貴方は少し言葉遣いを変え過ぎる」

 

 「は、はあ……」

 

 

 確かにそこは自覚も有る所なので、そこを突かれると俺としては頭が上がらない。

そう言われたら戻さない訳にもいかないが、立場を弁えない言葉遣いをする訳にもいかないと思うんだけどなあ……

 

 

 「さて、私がここを訪れたのは田澤昴、藤原妹紅の両名に用件が有ったからです。

  単刀直入に言いますが、輪廻転生の領域に踏み込む際はくれぐれも節度を持つようにと言う注意です。

  今回の降霊に関して特に問題が有った訳では有りませんが、多用してはいけない類の術である事は理解していますね?」

 

 「当然だ。生死は軽々しく扱って良いものではない、それは十分に心している」

 

 「分かっているなら良いのです。さっきも言いましたが、決して貴方の降霊術そのものに問題が有った訳では無いですからね」

 

 

 成程、つまり今回は許可したが乱用するなよと釘を刺しにきたのか。

確かに正当な代償を用意したからと言って降霊術を多用されたら、死後の世界を司る者達はたまったものでは無い。暗黙の了解ではなく、しっかりと線引きをしようとの意図だろう。

 

 

 「えっと、一つ聞きたいんだけど。貴女はどうして私と田澤が此処に来てるって分かったの?」

 

 「最初は仕事の休憩で白玉楼に立ち寄ったので、本当は来ている事を知っていた訳では無いですね。

  ここの亡霊が貴方達が屋敷に居ると伝えてくれたので、ならば顔を見るついでに説教もしていきましょうと思い立ち」

 

 

 俺の返答を受け満足気に頷いている映姫を見て、妹紅が横から質問をする。

その質問に対して詳しい事情を説明する映姫だが……その様子だと、俺達に注意をしたのは閻魔としての決定ではなく単なる個人的な思いつきなんじゃないか? まあ、だからと言って反発する気は無いが。

 

 

 「用事を済ませて帰って来たら亡霊と話をしている映姫様を見かけてね、そう言う事なら丁度良いわと思って案内してきたのよ」

 

 「……幽々子、そんな余計な事をしなくても」

 

 

 その説明を補足するように西行寺が言葉を続ける。何やら映姫に苦手意識を持っているらしい八雲が、そんな西行寺の台詞に小さい声で苦言を漏らした。

しかし正に地獄耳と言う事なのか、どうやらそれは映姫にも聞こえている様子。この手の言動には既に慣れているのか、それについては特に何も言わなかったが。

 

 

 「まあ、それはそれとして。八雲紫、田澤昴、藤原妹紅、そこへ直りなさい」

 

 

 一息を入れた後に、威圧するような声色で俺達三人を名指しする映姫。……もしかして、これは。

 

 

 「家長が留守の屋敷に我が物顔で入り、あげく御茶まで飲んで寛ぐとは一体どういう了見ですか!

  八雲紫、隙間妖怪などと大層に名乗っているようですが、それではぬらりひょんと変わりませんよ!

  田澤昴、泰山王の祭儀を行える程の者がこの有り様では陰陽道に関わる者の教育に悪影響が出ます!

  藤原妹紅、悪い事は悪いと師に諌言するのも弟子の務めです、流されてはいけません! そう、貴方達は少し勝手過ぎる」

 

 「ご、ごめんなさい」

 

 「返す言葉も無い……」

 

 「映姫様、貴女の口うるさ……ありがたい御言葉は私としても大変身になる物で、拝聴したいのは山々なのですが」

 

 

 怒涛の勢いで同時に俺達を叱る映姫。妹紅は反射的に頭を下げ、俺も居た堪れない気持ちになりながら謝罪するが、八雲は正座した状態のまま指を床に擦らせるように動かし。

 

 

 「丁度これから日課である幻想郷巡回の時間帯なのです。これを怠ると幻想郷の危険を見逃す事もあって宜しくありませんから、今日はここで失礼させてもらいますわ」

 

 「あっ、待ちなさい! まだ話は途中ですし、貴女が幻想郷を巡回している姿なんて見た事も有りませんよ!」

 

 

 あれよあれよと言う間に状況は進み、八雲は隙間を開いて藍と共に何処かへと逃げてしまった。すると当然残るのは俺と妹紅になり、お叱りの対象は俺達に絞られる。

 

 

 「八雲に関してはまた会った時に説教するとして、今は貴方達についてですね」

 

 「それは勘弁してもらえませんか」

 

 「……と言うか、藍は良いの?」

 

 「本当なら言いたい事も有るのですが、式神は基本的に主には逆らえませんからね。そもそも彼女は茶を飲んでいなかったでしょう」

 

 

 それは正しい言い分なんだが……ともかく、八雲の逃亡を黙って見逃したのが間違いだった。

こんな事なら腕を掴んででも妨害するべきだったかと言う考えさえ浮かびながらも、映姫とはある程度以上の親交を持っている様子の西行寺に救いを求めて視線を向ける。幸いにも、西行寺は俺の意図にすぐ気付いてくれたようだ。

 

 

 「まあまあ。私は困っていませんし、特に被害を受けた訳でも有りませんから。皆の事は許してあげましょうよ?」

 

 「むぅ、そのような態度を取れば相手は反省しない……いえ、良いでしょう。家長が許して第三者の私がぐちぐち言うのも変な話です」

 

 「……閻魔様って、本当に口煩いんだね」

 

 

 西行寺の言葉を受け、映姫はこれ以上の説教は止めてくれるようだ。そして妹紅、また何か言われるから下手な事を口に出すのは止めた方が良いぞ。

 

 

 「紫は何処かに行っちゃったけど、皆でお茶菓子でも食べません? 美味しい物を食べてゆっくりしましょうよ」

 

 「私は今あまりお腹が空いていないんだよな、田澤に餅とか甘味とか貰ったし……」

 

 「お餅?」

 

 

 西行寺がこれまでの空気を変える意味も込めてか提案するが、山で休憩の際に甘味を食べている妹紅が渋い反応を見せる。

しかし妹紅の言葉を聞いた西行寺は、残念がるでもなく目の色を変えて俺の前に素早く飛び込んできた。いきなりの行動に面食らっている内に両手を握られ、何がなんでも逃がさないと言う気迫さえ感じるその瞳に真正面から見つめられる。

 

 

 「その話、詳しく聞かせてもらえません?」

 

 「そう言われても……って、何もあげないとは言ってないだろう。頼むからその目で覗きこまないでくれ、餅なら有るから」

 

 「有り難いわぁ、丁度美味しいお餅を食べたかったの!」

 

 

 西行寺の無言の圧力に負け、白旗を揚げる。……今度は西行寺に俺のレパートリーを披露する時が来たか。

実際にはレパートリーと言えるほど上等に料理が出来る訳でも無いが、餅を中心にするなら西行寺が満足できる物も作れると思う。妹紅に出した物をアレンジしてみるか。

 

 

 「……まあ、そう言う事になった。映姫もどうだ、少なくとも不味くはないと思うが」

 

 「それでは頂きましょうかね、私も少し甘味等には興味が有りますし」

 

 「なんだ、皆食べるの? だったら私も食べるよ、他の人が食べてるのを見るだけってのは嫌だし……」

 

 

 俄かに賑やかになり始めた皆を見て、これまでの旅が報われたような気分になる。こうした光景は俺の夢とも言える物だ、素直に嬉しい。

まだ簡単に決める事は出来ないが、幻想郷での生活も真剣に考慮してみよう。そう考えつつ、まずは皆の期待に応えるべく『扉』を開いた。




前回のコノハナサクヤもそうなんですが、今回の岩笠も原作での台詞がごく僅かなので殆どオリキャラ化しています。もしイメージにそぐわなかったらすいません……
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