旅人の見た幻想郷   作:千思万考

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旅人、魔と出会いその仮面を砕かれる

 俺は妥協し、ソロモン72柱の悪魔の召喚術について解説を行った。無駄に時間をかけたくは無いので要点のみに絞った簡素な物だったが、これでも十分な知識になる筈である。

……と言うより、これ以上詳しく説明するとなると本当に半日近くこの図書館で過ごす事になるので、少し詰め込み気味では有るが無理矢理に切り上げさせてもらった。流石にそこまで懇切丁寧に骨を折る義理は無い。

 

 

 「……まあ、そんな訳で。基本的にあの術式は俺以外に扱えない筈の物だ。

  それを自在に扱っていると言う事は、俺個人としても浅からぬ縁が有る。此処に来た理由には、対処する為の専門知識を持っているのは俺だけだと言う自負も有る」

 

 「なんか納得出来ないけど、理解はした。軽く確認したけど、確かに私も理解出来ないような術式だったし」

 

 「……確認した、とは? 起こっている現象だけを見ても、その術式まで判別する事は出来ないだろう」

 

 「ああ、そう言えば伝えて無かったわね。レミィをおかしくしたその術式だけど、元々はこの図書館にいつの間にか紛れ込んでいた魔導書に記述されていたのよ」

 

 「なっ……!?」

 

 

 俺は例外だが、あの召喚は見ただけでその術式を確認出来るような物ではない。過程はともかく結果だけなら他の召喚術と何ら変わらないし、殆どの者は違和感などそもそも感じないだろう。

だと言うのにその術式の特異性を既に知っていたような言動をするパチュリーが気になり、その点について聞いてみると衝撃的な答えが返ってきた。当然ながら、俺は自分の召喚術について書を執筆した覚えは無い。

 

 

 「……ますます怪しくなってきたな、まさか本当に『我等』が同胞の仕業か?」

 

 「ん? 小声で呟かれても聞こえない、もう少し大きい声で頼むわ」

 

 「む、すまない。その魔導書と言うのは、今はレミリアの所持する所と言う訳か?」

 

 「ええ、そうよ。最初に読んだのは私で、その時は魔力も何も感じられない本としか言えなかったのに……何故かレミィが勝手に持ち出して、それからは見ての通り」

 

 

 思わず疑念を漏らしてしまうが、誤魔化して適当に取り繕う。

まだ詳しい事情は不明だが、とりあえず俺の召喚術式……『禁忌の叡智』を記した魔導書が今回の異変の原因となっている事は確かなようだ。

同胞の痕跡を探す為に幻想郷を離れたと言うのに、戻ってきたらその影が見え隠れする異変に巻き込まれるとは、とんだ皮肉である。俺を幻想郷に誘導した正体不明の声と言い、作為的な何かを感じる。

 

 

 「まだ聞きたい事は有るけど、それは後にしておくわ。

  さて、貴方達はレミィを助ける手段が有るみたいな事を言ったけど。それは、どんなものかしら」

 

 「あ、やっと本題に戻ってきましたね。いつまで続けるのかと心配しましたよ」

 

 

 今の所はこの説明で満足してくれたのか、パチュリーはようやく俺達に協力する気になったようだ。

少し離れた位置で十六夜の様子を看ていた美鈴は話題が変わった事に気付いたのか、俺達の方へ歩み寄ってきた。

 

 

 「やる事自体は実に単純だ。レミリアから例の魔導書を引き離し、その精神干渉を解除すると言うだけだからな」

 

 「簡単に言うけど……それ、アイツに察知されないよう何度か試しているわよ?

  偽装するのにも手間をかけたから全力をつぎ込めなかったとは言え、結果は散々だったわ」

 

 「『アイツ』? もしかして、精神干渉している存在をも把握しているのか?」

 

 「まあ、ね。自分でも鵜呑みにするのはどうかと思うけど、今のレミィは自分の事を『べリアル』と名乗っているわ」

 

 「……何ともそれらしい奴が出て来たな」

 

 

 ソロモン72柱が内の序列68番に位置する、偽証と詭弁に長けた悪魔だ。その名前を名乗っているのであれば、幻想郷の妖怪達をごく短時間で支配下に置いた手腕も理解出来るが……

逆に言えば全ての言動が信用ならないと自分から公言しているような物なので、果たして本当にそれが正しいのか疑問が残る。まあ、現状ではレミリアを乗っ取っている存在が確実に居ると分かっただけでも有りがたい。

 

 

 「あ、悪魔と言えばもうひとつ伝え忘れていた事が有ったわ。来なさい、小悪魔」

 

 「あ、どうも……」

 

 

 情報を纏めようとするが、パチュリーにはまだ伝えるべき事が残っていたらしい。

会話を中断して奥の本棚に目を向けたパチュリーは個体名なのか愛称なのか判断に困る名を呼び、同時に向こう側で何者かがビクッと動く気配。

そのまま暫く移動する様子を見せなかったが、やがて観念したらしく。随分と人間に近い姿をした赤髪の悪魔が、本棚の陰から腰を低くして現れた。

 

 

 「え、えっと、私はパチュリー様に仕える下級悪魔です。一応違う名前も有ったりするのですが、とりあえず今は『小悪魔』と呼ばれています」

 

 「何やらやけに下手に出るわね…… 召喚者の私にも初対面では態度大きかったのに」

 

 「だ、だって! この魔術師、何か数千年以上も生きていそうな雰囲気ですよ!? そんな相手に逆らうなんて選択肢は有りません!」

 

 「数千年……? 中々凄い事を聞いたわね。と言うか小悪魔、私に態度が大きかったのは若い魔法使いと舐めてかかったから?」

 

 「ち、違いますよ。決してそんな動機ではなくてですね、少しでも主導権を握れれば良いなあと言う私なりの努力だった訳でして……」

 

 「……そろそろ話を進めないか」

 

 

 これ以上成り行きに任せていると俺は舞台からフェードアウトしそうである。

協力の代償としての講義はもう充分に義務を果たしたと思うので、そろそろ向こうにも行動を要求をしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「本当にたった一回の説明で大丈夫ですか? この魔法陣の構成は複雑な物なんですけど」

 

 「館内の空間をリアルタイムに把握しつつ物質の転送まで行う複合型の大魔法。自分で言うのもおかしい気がするけど、私でも構成と設置に一週間かかったわ」

 

 「そこは俺の実力を信用してくれ。空間に干渉する魔法は得意だ」

 

 

 小悪魔の協力を受けながら、俺は予めパチュリーが展開していたという魔法で館内の状況を探る。

とは言っても軽く説明を受けた時点で大体の仕様は把握出来たので、その後は独自の改変も加えつつ自由に弄らせてもらっている。

 

 

 「初見の魔法を動かしながら、同時に構成も改変するなんて出来る人が居るとは思いませんでした……」

 

 「世界は広いわね、私も井の中の蛙では居られない」

 

 

 魔法使いとしての実力を、それも同業者に褒められるのは久しぶりだ。

この世界に来てから何度も神秘の力を扱う者と遭遇しているが、実は俺以外の魔法使いと出会ったのはこれが初めてになる。

 

 

 「藍達は……何だこれ、侵入した時よりも数が増えている? この様子だと救援は後回しにしても良さそうだな」

 

 

 何故かは知らないが、敵の陣地真っ只中で数の優位に立つという謎の状況になっている。

詳しく確認してみると大半が藍の呼び出した式神らしい。質も中々のようで、戦況から判断するに今すぐ合流する必要は無い。

むしろ別の場所で孤立している面々が居るようだから、そちらへ向かった方が良いだろう。

 

 

 「敵に発見されると妨害を受けると言うのは面倒だな、これも組み換えておこう」

 

 「出来るの?」

 

 「勿論。出来ない事ならわざわざ口に出さないさ」

 

 

 現在発動している術式の構成を読み取り、空間転移に関する記述を抜き出す。

それらが転移魔法に果たす役割を解読し、得られた情報を元に脳内で最適化を行う。意味が重複している箇所を削除し、俺の知識によって新たな法則を書き加え、正しく連結して補強する。

この演算によって導き出された解を代入する事で、パチュリーが展開していた魔法の隠匿性能は飛躍的に増大した。

 

 

 「……自信が無くなるくらい鮮やかな手腕ね。100年程前だったら迷わず弟子入りしてるわ」

 

 「今からでもご教授願ったらどうですか、パチュリー様?」

 

 「小悪魔、それ遠回しに私を馬鹿にしてない?」

 

 「なんでさっきから喧嘩腰な発想をするんですか!? 私は純粋にパチュリー様が知識を蓄えるお手伝いが出来たらと……」

 

 「……まあ、プライドが足を引っ張るのよね。そもそも田澤だって迷惑でしょうし」

 

 「今はともかく、時間が有る時なら別に構わないんだがな」

 

 「……気が向いたらアドバイスをお願いするわ」

 

 

 さて、曲がりなりにも今回の異変の裏に潜む存在を知る事は出来たし。

紅魔館の内部を把握し、味方の位置も把握した以上この地下図書館にいつまでも留まる訳にはいかない。

 

 

 「美鈴は、一応此処で待機していてもらいたい。今はまだパチュリーの近くに戦力を置いておきたいんだ。

  いざとなれば転移魔法を使う事で前線に出る事も可能だし、せっかく得られた協力者を孤立させたくない」

 

 「私としても積極的に打って出るのは苦手ですし、異存は有りません。何としてでもパチュリー様達を守り抜きますよ」

 

 「ありがとう美鈴、此処は頼む。パチュリーはこの魔法で戦況を俯瞰し、大きな動きがあったら伝えてくれ。俺との間に簡易なパスを繋いでおく」

 

 「私は指揮官でも何でも無いし、あまり高度な事を期待されても困るんだけど……やるだけやってみるわ」

 

 「判断に困ったら俺に情報をそのまま送ってくれても構わない。小悪魔も、パチュリーを補佐してやってくれ」

 

 「精一杯お手伝いしますよ、私だって悪魔の端くれなのです」

 

 「最後に注意点を伝えておくが、俺がさっき改変した魔法でこの地下図書館は空間転移が制限されている。

  これは敵がピンポイントに此処を攻める事を防ぐ為だ。唯一の例外は、その魔法自体による転移。この事を考慮して行動してくれ、敵の襲来は腰を据えて迎撃する事が出来る」

 

 「そんな機能まで、あの短時間で…… この転移魔法って、転送だけでなく回収も出来るのね?」

 

 「その通り。退却する時とか、一時的にでも此処に戻りたい時は指示するからサポートを頼む」

 

 

 これで準備は整った。後は俺がこの魔法で得られた情報を元に皆と合流しつつ戦力を集中させていけば良い。まずは藍や風見の居ない、戦力でやや劣勢に立たされている方との合流を急ごう。

 

 そう改めて思考を纏めつつ、俺は展開された転移魔法を発動。

地下図書館から一気に館内の中層部へ移動した俺は、繋いだパスから現在地と地図を照合し目的の場所へと走る。

直接目的地に転移すれば手っ取り早いのだが、転移した直後に流れ弾にぶつかるという事故に会っては堪らない。奇襲を狙う意味も込めて、わざと少し離れた位置に転移したのだ。

流石に一秒の時間も惜しいようなギリギリの状況であれば話は別だが、そうでなければ焦って先走るのは得策でない。

 

 

 「そろそろだな、中々派手な戦闘音が響いて……うん?」

 

 

 独り言を呟きながら深紅の廊下を走っていた俺だが、角を曲がった所で思わず足を止めてしまう。

目に飛び込んできたのは紅白の巫女衣装で装った黒髪の少女。少女の目的地も俺と同じらしく、どこか面倒そうな表情で妖怪達が戦闘を行う場へ向かおうとしている。

吸血鬼側の戦力が今更悠長に戦場へ向かうとも考えにくく、そもそも目の前の少女は純粋な人間だ。あのメイドも時間と空間の操作という破格の能力を有しながら人間だったが、雰囲気からは敵と思えない。

 

 

 「あー、そこの君。君はもしかして『博麗の巫女』か?」

 

 

 結局、直接本人に聞いてみる事にした。幻想郷では巫女に思い当たる物が一つしか無いし。

いきなり後ろから声をかけたと言うのに驚きもせず少女は振り向き、突っ慳貪に答えてきた。

 

 

 「まあ、そうだけど。で、あんたは何?」

 

 「何とは随分なご挨拶だな。俺は田澤昴、吸血鬼の打倒に協力させてもらっている人間だよ」

 

 「人間? それにしては物騒な雰囲気が……無くなってる? あれ、やっぱり人間なのかしら」

 

 「博麗の巫女が此処に来たと言うことは、吸血鬼の鎮圧に動いたと判断して良いのかな?」

 

 「異変解決は私の仕事だからね」

 

 「援護は必要だろうか、元々俺は山の妖怪達を支援する為に来たんだが」

 

 

 会話の途中で少し焦る話題が出てきた物の、単なる勘違いだったと自分で納得してくれたらしい。

更に話題を逸らす意図を込め『仕事』について聞いてみると、困ったような顔と口調で少女は返答した。

 

 

 「顔も姿も見れなかったけど、胡散臭い雰囲気の奴に一人で力を見せつけてこいって言われたのよね。

  まあそう言う訳で、気持ちだけ受け取っておくわ。一人だと時間かかりそうで面倒だけど」

 

 「苦戦しそうで、ではなく時間かかりそうで、か…… まあ、それだけの自信が有るならいいか」

 

 

 何となく、少女の言う『胡散臭い奴』に見当も付いた。

この段階まで表舞台に立たない事に疑問も有るが、彼女の策略を瓦解させる必要は有るまい。

この少女が底の知れない相当な実力を持っている事は気配から分かるし、このまま同行するよりも藍達の援護に向かった方が効率は良いだろう。

 

 

 「分かった、ならば俺はもう一つの集団と合流してくる。そちらは任せた」

 

 「私が行く前に終わらせてよね、移動するのも手間がかかるし」

 

 

 俺は急遽目的地を変更し、藍達との合流に動く。

はっきり言って戦況は俺が行くまでもなく藍達が優勢だったのだが、他に優先すべき行動も思いつかない。パチュリーに藍達の現在地を照会してもらい、再び転移して長距離を移動する。

 

 

 「そう言えば、あの巫女と互いに名乗りあってないな」

 

 

 自己紹介している暇が無かったとは言え、最初から最後まで名前を呼ばずに会話が終了。

今更考えても遅いが、初対面の相手に失礼な事をしてしまった。今度会ったらちゃんと名乗ろう。

 

 

 「で、そろそろ到着する筈……まるで爆撃でも有ったかのような惨状だな」

 

 

 目的地が近くなるにつれて、周りは見るも無惨な姿を晒していく。

豪奢であっただろう廊下は無数の傷と焼け跡を付け、調度品の数々は元は何だったのか判別不能な有り様。

いくら激戦とは言え、吸血鬼……『べリアル』の支配下にある妖怪が進んで館を破壊する事は無いだろう。つまり消去法的に大部分は山の妖怪側、それも恐らくは藍が呼び出していた式神の活躍と言う事に……

 

 とりあえず藍が味方で良かったと溜め息を吐きつつ、戦場となっていた大広間に足を踏み入れる。

するとやはり戦闘はほぼ終了していて、後は敵の捕縛のみと言う段階だったのだが……

 

 

 「……あの藍を懐かしいと表現して良い物かね」

 

 

 全身から探るまでもなく強大な妖気を発し、九つの尾は不気味に蠢く。

この時点で既に普段の藍とは違うのだが、それに加えて風見に負けず劣らずの嗜虐的な笑み。何と言うか、初めて相対し俺の体を貫いてくれた時の姿を彷彿とさせる。

妙な気疲れを覚えつつ、近寄って声をかける。

 

 

 「すまない、この館内の探索を優先していて合流が遅れた。だが、もう片方の隊の居場所も分かったぞ」

 

 「田澤殿も無事だったか。いや、そう言う事なら詫びる必要は有るまい。戦力は我々で十分足りたのだしな」

 

 「それを言うなら十分に足した、でしょう? まったく、一々言動が慇懃な狐ね」

 

 「何、風見殿の力も戦力として数える事は出来たよ」

 

 「……暗にそれ以上では無いと言ってるわよね? その分厚い面の皮を薄くしてあげようかしら」

 

 「お、おいおい…… 頼むからここまで来て仲間割れは勘弁してくれよ」

 

 

 状況の確認も含めて話を続けていると、藍の言い方が気に入らなかったのか風見が不機嫌に割り込む。

そんな危険な状態の風見に対しても皮肉で返す藍に、いよいよ風見が爆発寸前の様相を呈してきた。慌てて二人の間に入り、何とか取りなす。

 

 

 「風見、今は俺に免じて抑えてくれ。この状況で味方に力を振るうのは不味い。そして藍、徒に風見を刺激するような事は止めてもらいたい」

 

 「分かっているよ、これ以上の事はしないと誓おう。久し振りに力を解放し、少々気が昂っているのだ」

 

 「……一応、この場では矛を収めてあげるけど。女狐、あんたには後できっちり落とし前を払ってもらう」

 

 

 な、何だか不安だな……本当に大丈夫なんだろうか。

まあ両者の言質は取ったし、いざとなったらプライドに訴えるような説得をすれば良いだろう。

 

 

 「それにしても。変わったと言えば狐だけじゃなく貴方もね、田澤」

 

 「そうだな。今までとは感じる力が違う、気配もどこか歪だ」

 

 

 ……流石に気付くか。美鈴やパチュリーの場合は初対面だったから比較なんて出来ないにしろ、普段の俺を知っているこの二人には違和感しか与えないだろう。

こうなったら、ある程度は真実を語らなければなるまい。下手に誤魔化せば、それこそ不和の元だ。

 

 

 「此処に到着するまでの戦闘で苦戦してね。普段は封印している力まで使ったから、それが影響しているんだと思うぞ」

 

 「封印していた力、か。それを解放して今の気配と言うのなら、とても人間とは思えないな……」

 

 「今更な話でしょう、そもそも数百年以上生きている時点で一般人を名乗るのは有り得ないわ。

  私はむしろ田澤が本気を出す必要が有るまで追い込まれた事の方が気になるんだけど。これまで力を抑えていたなんて、聞いてないわよ」

 

 

 とりあえず二人とも俺への違和感については納得してくれた。

尤も、俺が人間だと言う事は疑問を持たれてしまったのだが……風見の言う通り、はっきり言って今更か。本当に純粋な人間であったのなら百年も生きれば長い方である。

 

 

 「……ともかく、この場での戦後処理を終えたらもう1つの部隊との合流に向かおう。信用出来る内通者を確保したから、館内の状況は把握して」

 

 

 と、そこで言葉が止まる。誰の物とも知れない強大な魔力が展開され、周囲が張り詰めた気配に包まれたのだ。

同時に繋いだパスを通しパチュリーの焦った声が聞こえてくる。咄嗟に意識をパスへと移し、状況の確認をしつつパチュリーに応答する。

 

 

 『不味いわ、田澤! レミィが魔力を集中し始めた、その付近に強襲が来る!』

 

 『このタイミング、俺達が気を抜く頃合いを見計らっていたな……パチュリー、詳細な情報は分かるか!』

 

 『攻撃形体は魔力の槍、たった今放たれて、到達までは十秒も無い!』

 

 『それだけ有れば十分だ、迎撃に入る!』

 

 

 ……内界に宿る術式を参照。魔力によって記述を励起し、限定的に『銀の槍』を構成。

 

 

 「皆、伏せろっ!」

 

 「え……!?」

 

 

 パチュリーから送られた情報を元に、攻撃の方向を確認。

周囲に大声で伏せるよう叫びつつ、右手に掴んだ槍を未だ見えぬ攻撃に向けて全力で投擲する。

放たれた槍は銀色に輝く火炎と雷撃と言う矛盾に溢れた存在へと変質。そのまま館の分厚い壁へと走り……

 

 

 「っ……」

 

 

 瞬間、轟音が響く。敵の放った巨大な深紅の槍と、俺の投じた銀の槍の魔力が正面からぶつかり合い、強烈な爆発を引き起こした。

爆発の余波が周囲を襲い、この大部屋の外壁が殆ど消し飛んだが、いち早く迎撃した事が幸いし俺達を直接は巻き込まない範囲での撃墜に成功した。

 

 俺は吹き飛んだ外壁の向こう側を見据え、遠く離れた位置から俺達を見下ろしている敵へと告げる。

 

 

 「そろそろ目の前に出てきて欲しい物だな、レミリア・スカーレット……それとも『べリアル』と呼ぶべきか?」

 

 「……くくっ、それを知られているか」

 

 

 流石にこの状況に至って動かざるを得なくなったのか、『セエレ』の力を用いて俺達の前に転移してくる吸血鬼。

俺の挑発に対する反応からも、今この場で俺と相対しているのはレミリアの人格でない事は確かだろう。本当に『べリアル』なのかまでは、まだ分からないが。

 

 

 「いやはや、君の力はやはり凄まじい物だな。田澤昴がその力を得る為に払った代償を考えれば、当然と言えるのかも知れないが」

 

 「会った事も無い相手に対して分かったような言動は感心しないね。適当なホラを吹くな」

 

 

 まだまだ続きそうだった吸血鬼の芝居じみた言葉に割り込み、強引に打ち切る。

仮にも『べリアル』を名乗る相手に口を開かせる訳には行かない。厄介な事態を引き起こされる前に機先を制しておかなければペースを握られる。

 

 

 「くくっ、私に喋らせるつもりは無いか。まあ良い、有象無象を惑わすなど所詮は言葉遊び。

  私が君を追い込むにはただ事実を伝えれば良いのだからな。私は君の、田澤昴の過去を知っているのだよ」

 

 「何を言い出すかと思えば、今度は易学者気取りか。時間稼ぎもそろそろ見苦しい」

 

 「威勢が良いのは結構だが、その態度が何時まで続くか見物だな? 『70億の殺人者』殿」

 

 「……いや、俺を陥れるにしてももう少し真に迫った嘘を吐けよ」

 

 

 心底呆れて思わず敵に助言した、という風に答える。

苦笑するような外面を取り繕いながら、思考と意識を全て『べリアル』との問答に移す。

尤も『べリアル』に言葉を続けさせる事自体が本末転倒、重要なのは怪しまれないよう会話を打ち切る事。

 

 

 「70億と言う数の人間は、幻想郷どころか外界を含めても届くか届かないか。そんな数の人間を殺していたら今頃人間は絶滅している。それは有り得ない」

 

 「真実を知る私が恐ろしいか? 何故『此処』に自分を知る者が居るのか、とな」

 

 「そう適当な演説をした所で意味は無い。事実が混ざっているならまだしも、聞くだけで嘘と分かる言葉で扇動するのは流石に無理がある」

 

 

 今の所『べリアル』の言葉を真に受けている者は居ないようである。まあ、信用度の違いだろう。

数百年来の知人と、ぽっと出の敵。どちらの言葉を信用するかと言えば、普通に考えて知人を選ぶ。

 

 

 「だが、他ならぬ君は私が真実しか話していないと分かるだろう? それだけで良いのさ、私は君の……」

 

 「さっきからごちゃごちゃ五月蝿い奴ね!」

 

 「むうっ!?」

 

 

 大袈裟な身振りと言葉で演説を続けていた『べリアル』に、虹色に輝く魔力砲が放たれた。

誰の攻撃か等と考える必要も無い、戦闘寸前で大人しく敵と会話するような性格の持ち主ではない風見だ。

 

 

 「要するに、何? 田澤が信用ならない奴だって言いたいの?

  それならそうとはっきり言いなさいよ、どちらにしろアンタの耳障りだけは良い言葉なんて聞く気は無いけど」

 

 「おや、随分と彼に入れ込んでいるようだ。同じ人間を害する者同士、何か共感する物でも有ったのかね」

 

 

 ……何かおかしい。この程度が本当に『べリアル』の話術なのか? あの悪魔にしては詭弁が稚拙だ。俺に対する疑心暗鬼を植え付けるのが目的だったとすれば、この状態は間違いなく致命的な失敗である。

筋が通っている、だけでは人は言葉を信じない。そうかもしれない、という程度では疑いは生まれない。言葉や身振りに熱心さ、それら全てを含めた『雰囲気』が最終的に人の心を掴むのだ。

 

 

 「心が入っていない、白々しいだけの空虚な言葉。とても『べリアル』とは思えないが……」

 

 

 思わず呟く。白々しい言葉にしても『べリアル』ならば素晴らしい演説に仕立て上げてしまう物だ。少なくとも俺が召喚じた『べリアル』が此処に居たとしたら、この場の妖怪の半数は寝返るだろう。

 

 

 「藍。新しく分かった情報を伝えておくが、あの吸血鬼は『べリアル』を名乗る何者かの支配下に有る。

  果たして本当に悪魔の『べリアル』なのかまでは判別出来ないが、今の吸血鬼が自身の人格を維持している訳ではない筈だ」

 

 「吸血鬼そのものは傀儡に過ぎないと言う事だな。だが、攻撃を止める訳にも行くまい。何はともあれ、まず動きを止めなくては」

 

 

 吸血鬼の意識が風見との攻防に向けられた隙に、藍に小声で俺の見解を伝え情報を整理しておく。

そのまま短時間で方針を固め、本格的に吸血鬼への攻撃を開始。一応俺はこの場のリーダーに近い立場なので、今まで待機を続けてくれていた妖怪達に戦闘の指示をする。

 

 

 「皆、あの吸血鬼が目標だ! アイツを倒せば各地の戦闘もじきに終息する、最後のひと踏ん張りだ!」

 

 

 応! と言う心強い返答と共に妖怪達は各々の攻撃を繰り出す。

距離をとって魔弾を放つ者、3メートルはあろうかという棍を振るう者、目に見えて隆起した筋肉で拳を突きだす者。

それら多彩な攻撃の対象となった吸血鬼は一瞬表情を歪めた後、肉体を無数の蝙蝠に変えて回避する。

 

 

 「言葉で理解してもらえぬなら仕方あるまい。正義を証明する為、私も相応の力を示させてもらう!」

 

 

 妖怪達の追撃を振り切った吸血鬼は、先の激戦と槍の相殺で半壊している部屋の頂点付近で姿を戻した。相変わらずの白々しい口上と共に吸血鬼が指を鳴らすと、空間を割って様々な妖怪が転移してくる。

 

 

 「ふん、正義の証明の割には示す力がおかしいんじゃない? 洗脳して得た部下を呼び出して英雄気取りなんて」

 

 「洗脳? 私の号令に応じてくれた者達は皆、私の思想と言葉に賛同してくれたのだよ」

 

 「減らず口は一人で叩いていなさい」

 

 

 当然、転移してきた妖怪は吸血鬼の……『べリアル』の支配下にある者達だ。風見の反応は尤もである。

厄介な事に彼等はかなり高度な洗脳をかけられているようだ。思想のみを改竄され、最低限の自由意思は残っているように見える。

転移してきた数も俺達を上回っているようであり、これは結構不味い状況に追い込まれたかもしれん。

 

 

 「皆の者達よ、私の言葉を証明する手段が有る! まずは手筈通りに動いてくれたまえ!」

 

 

 吸血鬼の命令と共に、洗脳された妖怪達が何らかを狙って統率された動きを見せる。

目的までは見当も付かないが、どう考えても放っておいて良い物では無いだろう。俺も味方に指示を出す。

 

 

 「皆、奴等を目的通りに動かせるな! 陣形を崩すように切り込み、各個撃破を狙え!」

 

 

 俺と吸血鬼の采配により、たちまち妖怪達の大規模なぶつかり合いが始まる。

しかし個々の戦力は俺達が上回っているようだが、吸血鬼側の連携が凄まじい。目的意識が完全に統一されている。無駄な動きは一切しないし、かと言って柔軟な対応が出来ない訳でも無い。それに加えて士気が狂的だ。

 

 

 「どうする、田澤殿? 現時点では有利でも、このままでは遠からず戦況が奴等に傾く。

  私の式神も先の戦闘で使ってしまったから、すぐには呼び出せない。何か策は有るか?」

 

 「……悪いが、今は思いつかない。俺の魔法は広範囲への無差別攻撃が殆どだし、これも状況の打開には役に立てない」

 

 

 詠唱に時間をかければ敵味方を区別する事も出来るが、流石にそれは妨害されるだろう。

吸血鬼単体に強襲をかける事が出来れば良いのだが、風見の攻撃が対処されている現状では難しい。銀の槍を使用するにしても、魔力の槍で相殺されると結局は周囲を巻き込む。

 

 

 「向こうが何らかの目的を持って動いてる以上、受け身の対応では不利になる一方だ。

  私も策を練るが、今の内にせめて戦術上での有利くらいは取っておきたい。戦闘に加勢して良いだろうか?」

 

 「すまない、稼いでくれた時間で何かしらの策を考える。自分の身くらいは守れるから、向こうを頼む」

 

 「了解した」

 

 

 前線から離れた位置で適度に応戦しながら戦況の確認を行っていた俺と藍だが、あまり余裕を見せてはいられない。

器用貧乏な俺はともかく、藍は大妖怪クラスの戦闘能力。参謀としても魅力的だったが、今は戦力として数えた方が良いか。

 

 

 「……不味いな、先の戦闘で皆が少なからず疲弊している」

 

 

 連戦の影響は大きく、あの風見にも僅かな疲れが見受けられる状況だ。万全な体調の上に地の利が有る相手と戦うのはかなりキツい状態だろう。

こう言う時こそ俺がサポートするべきなのだが、藍にも言った通り俺の魔法は味方を巻き込む。あの吸血鬼相手にソロモン72柱の悪魔の力が十分に効果を発揮してくれるとも思えないし、召喚して攻撃する場合もデメリットの方が大きい。

 

 

 「……どうあっても、現状では不利を覆す手段が無いな」

 

 「田澤殿っ、そろそろ此方も手を打たないと不味いぞ! さっきから、何か嫌な予感がする!」

 

 「く、これ以上迷っていては戦況は悪化するばかりか」

 

 

 そろそろ前線を維持するのも限界なのか、藍の大声が俺に届く。流石にタイムリミットのようだ。

このままでは此方の不利は揺るがない。敵の親玉を前にしての退却は士気の低下を招きかねないが、潔く退却を考えるべきか。

 

 

 「ええい、戦功を挙げるのに焦って成功した軍は居ない! 皆、一時撤退だ!」

 

 「撤退!? ここまで来てか!」

 

 「ここまで来たからこそ、無理は出来ない! 俺達に失敗は許されない、万全の戦力を以て確実に奴等を打ち倒さなければならないのだ!」

 

 

 僅かな迷いを振り切り、撤退を宣言する。思った通りに不満の声が上がるが、今は従ってもらうしかない。すぐさまパスを通じて、俺達を地下図書館へ転移させるようパチュリーへ指示を出す。

 

 

 「パチュリー、その魔法陣を使って俺達を其処へ転移させてくれ!」

 

 『分かったわ……!?』

 

 「おっと、まだ君を逃がす訳には行かないぞ! 我が策の完成する最後の最後で逃げられてはたまらないからな!」

 

 「なっ、『セエレ』の転移魔法を妨害の用途で……!?」

 

 

 予め準備をしていたらしいパチュリーによって、指示を出した次の瞬間には転移魔法が発動した。

しかし、吸血鬼は『セエレ』の力を『俺達をこの場に転移させる』ように使用する。効果が矛盾する同種の魔法を重ねがけされてしまった事で、転移の力が妨害されてしまう。

 

 

 『でも、転移魔法は発動し続ける事が前提の物では無いわ。これは単なる悪あがきよ!』

 

 「ああ、無理矢理な魔力の使い方だ。『セエレ』の力を維持し続ける事など不可能、数十秒も有れば魔力は底を突く!」

 

 「くくっ、確かにキツい。魔法使いの仕掛けを相手にして、単独で抵抗するのにここまで負荷がかかるとはな。

  ……でも、それで良いのよ。もともと私の役割は時間稼ぎ、あの方の影武者となって田澤を此処に縛り付ける事だもの!」

 

 「なっ、今までの言動は全て演技か!?」

 

 

 突然に口調を変えた……いや、戻した吸血鬼。時間稼ぎ、影武者、そしてその目的。それをこのタイミングで明かすと言う事は……!

 

 

 「よくやってくれた、レミリア。十分だよ」

 

 

 慇懃な雰囲気を伴った、少女の声。俺を幻想郷に誘導した例の声に酷似した雰囲気の声に、咄嗟に振り向く。

そこに居たのはレミリアと似通った服装でありながらも、宝石を吊るしたような奇抜な翼を持つ少女。どうやらこの少女こそ、『べリアル』の真の依代らしい。

 

 

 「さて、壊れたまえ」

 

 「……!?」

 

 

 何の前触れも無く、対処する時間すら与えられず、纏っていた魔力障壁すら無視して俺は謎の攻撃を受けた。

血管が引き裂かれたように千切れ、肉体は細胞一つ一つが爆散したかのように弾け、骨格が有り得ない方向へ捻じ曲がり折れる。

しかし、そんな事はどうでも良い。メイドと美鈴に見せたように、肉体面での負傷などその気になれば一瞬で回復出来るのだ。これは、まさか……

 

 

 「『俺』が、『田澤昴』ノ仮面ga、壊rE……!?」

 

 「人間としての形を維持したまま、君を壊す。そうすると、後に残る者は誰だろうね? ハハハハ……」

 

 

 いかん、Kan全にテオクレになるる前に状態を■■しなくてはならない、あのじんかくをよびだしてはイケマセン。だめ。

おそらがあかいのはどうしてでしょうおこっているからですたくさんのひとがえーんとないたのできれいなみどりいろになりました

だいりせきのかべもいろあせてhaoらzyさとuが死をあたえくdあsitあもnoは シャットダウン。叡智の王国。

参照によると灰の上を歩く青年の記述。参照によると擦り切れたローブを纏う隻眼の老人の記述。

 

 

 『嘘、どうして妹様が!? あの封印は破られていないのよ!?』

 

 「田澤殿っ、大丈夫か!?」

 

 「ふ、ふざけないでよっ! 死んだら、殺すわよっ!?」

 

 

 叡智の王国の記述より、擦り切れたローブを纏う隻眼の老人を参照。叡智の王国の記述より、擦り切れたローブを纏う隻眼の老人を参照。叡智の王国の記述より、擦り切れたローブを纏う隻眼の老人を参照。叡智の王国の記述より、擦り切れたローブを纏う隻眼の老人を……

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