旅人の見た幻想郷   作:千思万考

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旅人、紅魔の館にて弾幕遊びに興じる

 俺の不手際により予定を重ねてしまい、慌ただしく過ぎ去った例の日から一週間程。

幻想郷は完全に日常の雰囲気へと戻り、約一ヶ月前に全土が争いに巻き込まれていたとは思えないような平穏を取り戻した。……いや、平穏と言うには語弊も有るか。戦闘の数その物は、むしろ以前より増加している。

これは吸血鬼異変後に定められた数々のルールが周知され始めた結果、力を持て余していた人妖が各地で決闘を行うようになった事による。これらの決闘には勝敗に関わらず命の奪い合いはしないと言う絶対条件が有るし、厳密には戦闘よりもスポーツと表現するべきだろうか。

 

 

 「不死『火の鳥-鳳翼天翔-』!」

 

 「わー!?」

 

 

 俺の周囲でも、このルールに則った決闘が散見されるようになった。

初期案では『命名決闘法』だった名前はいつの間にか『スペルカードルール』と言うハイカラな物に変更され、光と音が賑やかな『弾幕ごっこ』が主に女性の間で繰り広げられている。

 

 丁度、妹紅の放った不死鳥の如き火炎が犬走を撃墜する事でスペルカードルールによる決闘に勝負がついた。

当初は勝負のつく瞬間を見る度に肝を冷やしていた物だが、最近は俺も慣れてきた。これは弾幕ごっこ、少なくとも故意に相手を殺しかねないような攻撃は無いのである。

 

 

 「鍛えた時間が違うんだよ、お前くらいの妖怪に負けるものか。さて、邪魔者は帰った帰った」

 

 「相手が相手とは言え、人間に一度も勝てないのは白狼天狗の名折れだ……それでは田澤さん、約束でしたので今日はこれで失礼します」

 

 「……まあ、妹紅は幻想郷の中でもトップクラスの実力なんだ。あまり気を落とすなよ」

 

 

 髪や服の端を焦がしつつ何とか立ち上がる犬走だが、そこへ投げ掛けられた妹紅の冷めた言葉に項垂れてしまう。

約束と言うのは、決闘の前に二人が提示していた要求の事。犬走が勝てば犬走が、妹紅が勝てば妹紅が、それぞれ今日一日俺と行動する権利を得ると言う条件だった。……そこに俺の意思が含まれていないのは何故なのだろうか。

がっくりしながら立ち上がった犬走は、俺に対し軽く頭を下げて力なく飛び去る。その哀愁漂う後ろ姿に、俺は思わず励ましの言葉をかけた。

 

 

 「さて、これで邪魔者は居なくなったな。今日こそは私と行くぞ、田澤」

 

 「行くぞと言われても、俺にだって一応用事が有るんだが……」

 

 

 割りと満身創痍に見えた犬走とは対照的に、疲れた様子すら見せない妹紅が有無を言わさない勢いで迫ってくる。

吸血鬼異変が終わってからの一月は、様々な事情や個人的に思う所も有って一度も妹紅に会っていなかった。今日になって、唐突に妹紅の方から俺の元へやって来たのだが……何となく、目が怖い。

 

 

 「むう…… 何処へ行くのさ」

 

 「紅魔館、と言っても妹紅には伝わらないか? 例の吸血鬼の拠点さ」

 

 「そんな所へ何の為に行くの? 今更私達には関係ない場所じゃないか」

 

 「今だからこそだ。彼女らが何事も無く幻想郷に馴染めているか、それを確認しなければ」

 

 

 ……何しろ、俺が濡れ衣を着せたような物なのだし。不都合が生まれているなら、俺が解決しなくてはならない。それがせめてもの罪滅ぼしと言う物だろう。

それに加えて、他にも確認すべき事が有る。歴史改変によって無かった事になっているが、紅魔館は『田澤昴』が出現し世界を歪ませる力を行使した場所だ。考えたくはないが、悪影響が発生している可能性も皆無ではない。

 

 

 「ふーん……まあ、あれだけの騒ぎを起こしてるんだしね。私もいざと言う時の為に様子を見てみようかな」

 

 「妹紅も来るつもりか? 特に面白い事は無いと思うが」

 

 「別に面白い事を目当てにしてる訳じゃないよ。 ……それとも、田澤は私が居たら迷惑か?」

 

 「そんな事は無い。……最近は二人で行動する機会も無かったし、今日は一緒に行くか」

 

 「そうだよ、風見とか今の天狗とか、他の奴とは何回か遊んでるって言うのにさ……」

 

 

 俺が了承すると、嬉しそうな表情に変わりながらも不満を言う妹紅。

微妙にいじらしさを感じて可愛く思うも、それ以上にそこはかとない寒気も覚える。何故なら……

 

 

 「……妹紅、何となく疑問が浮かんだが。俺が風見と会っているなんて何処で知ったのだ。少なくとも、妹紅には言ってなかったが」

 

 「え? いや、慧音が寺子屋の前で話をしたって言うからね。私もここ数日人里で田澤を探してたんだけど、射命丸が教えてくれたんだ」

 

 

 ああ、そう言う事か。思わず背筋の凍るような場面を想像してしまった。

俺と風見が花を見ながら他愛ない会話に興じている所を、妹紅が気配を隠蔽し無言で見ているとか……考えるだけで妙な寒気に襲われる。

実際にはそんな事も無く単に人伝に聞いただけらしいので、俺の過剰反応だ。

 

 

 「それを聞いてなかったら、見付かるまでずっと探し回る所だったからね。助かったよ」

 

 「……そうか」

 

 

 でも何だろう、やっぱり微妙に怖いような…… もう少し、妹紅と会話する機会は作ろう。

今更保護者気取りでやたらと接するのも変かと思って多少距離を取っていたが、昔のように行動を共にするのも良いかもしれん。そう言う意味では、今回は良い機会か。

 

 

 「妹紅は場所を知らないだろうし、俺が先導する。遊覧飛行も兼ねてゆっくり行くぞ、まだ朝だしな」

 

 「分かった、任せるよ」

 

 

 最初の予定とは異なったが、妹紅が居ても特に支障はない。俺は妹紅を連れ、紅魔館へ飛行を開始した。

 

 

 「……ふふっ、こうしてのんびり田澤と一緒に飛んでると昔を思い出すよ。あの時は主に歩きだったけどさ」

 

 「前回は一日だけの休暇だったから、ここまで気を抜けなかったしな」

 

 

 紅魔館までの穏やかな行程に、妹紅は懐かしげに笑いながら話す。確かに、昔はこんな感じで色々歩き回った物だ。

それを懐かしいと感じる程に時間が経過しているのだと、改めて思い知らされる。……普通の感覚なら、懐かしいと言う次元すら超えている年数だが。

 

 

 「改めて振り替えってみると、田澤に会わなかったらどうなっていたんだろうと思うよ。

  あのまま自分独りで色々な事情に折り合いを付けられたとは思えないし、今頃は復讐の事しか考えていなかったかも」

 

 「仮定の話をしても仕方無いさ。今が充実している、それで十分だろう?」

 

 「まあね。まさか私が人に物を教える立場にまでなるとは思ってもいなかったし」

 

 「それは良かった」

 

 

 間に空白を挟んではいるが、妹紅は俺がこの世界に来た最初期から現在に至るまで交遊を持ち続けている数少ない存在だ。

一番最初に出会った八意とは結局ごく短時間の会話をしてそれっきりだし、神奈子ともあれ以来顔を合わせていない。一応、神奈子の方は探そうと思えば出会える可能性も高そうだが……今更馴れ馴れしく声をかけるような関係でも無いか。

伊吹や星熊達とも俺が幻想郷を離れてからは会えていないが、彼女等を含め鬼の面々は地下に潜ったと言う事は射命丸から聞いている。地上との行き来に関して何か規則も有るらしいが、いつかは会いに行こう。

 

 

 「……うん、田澤と会話する時はいきなり反応しなくなっても気にしない。覚えてるよ」

 

 「……すまん、どうも急に物思いに耽る癖は治らんな」

 

 

 そのまま会った事の有る中で印象に残っている面々について思いを巡らせようとした所、妹紅の声で我に帰る。

呆れと苦笑が混ざったような表情に気恥ずかしさを覚え、謝ると同時に顔を反らす……と、到着か。

 

 

 「妹紅、あの真っ赤な舘が紅魔館だ。分かりやすいだろう?」

 

 「うわぁ、何時かの田澤みたいなセンスだ」

 

 「……君も古い事を覚えているな」

 

 

 俺も言われるまで気付かなかったが、大昔に妹紅へプレゼントしようと思ったコートもこんな色合いだった。

俺は紅魔館に対し初見で『建築者のセンスが疑問になる』との評価を下した訳だが、それは自身で作成したコートへの客観的な判断とほぼ同義だったらしい。と言うか、妹紅も今になってその話題を持ち出すとは……もう千年近く前の話だぞ。

 

 

 「色が衝撃的だったって言う理由も有るけど、曲がりなりにも田澤からの初めての贈り物だったしね。

  結構嬉しかったんだよ、あの時。その嬉しさと恥ずかしさを天秤に乗せたら、傾いたのが恥ずかしさだったんだけど……」

 

 「……その話は終わりにしよう。さて、一応美鈴に声をかけるのが礼儀だろうな」

 

 

 色々と居た堪れない思いしか浮かんでこないので、強引に話題を終わらせる。そのまま話を切り替え、門の前に降りる。

妹紅はまだ言いたい事が有ったようだが、これ以上続ける内容でも無いと思ってくれたのか大人しく誤魔化されてくれた。……正直、ありがたい。

 

 

 「おーい、美鈴」

 

 「おや、誰かと思えば田澤さんじゃ無いですか。そちらのお嬢さんは……?」

 

 「始めまして、になるな。私は藤原妹紅、田澤の一番弟子だよ」

 

 「成程、田澤さんは弟子を取っていたんですか! 武術も魔法も使えて、人柄も誠実。良い師父になりそうですものね」

 

 

 退屈凌ぎなのか、門の前で軽く体を動かしていた美鈴に声をかける。

美鈴が挨拶に続けて妹紅に顔を向けると、流れるように妹紅も自己紹介。その紹介を受けて美鈴は感心した風に頷く。

 

 

 「最近は師匠らしい事をしていなかったんだがな。俺がやったのは陰陽術や体術の基礎を教えるくらいで、後は自分で成長していった」

 

 「その基礎が妹紅さんに良い影響を与えたのは確実だと思いますよ」

 

 「……まあ、その話は良いだろう。今、舘に入る事は可能か? レミリア達に会いに来たのだが」

 

 「咲夜さんとかパチュリー様は起きておられるでしょうけど、今の時間ならお嬢様はお休みになられているかもしれませんね。

  とは言え、田澤さんを入れる事に不都合は無いです。妹紅さんも、田澤さんのご紹介と言う事で大丈夫ですよ。夜まで御待ちになりますか?」

 

 「うーむ。なら、取りあえず入らせてもらおうかな」

 

 

 そこまで俺が言った瞬間、不快な違和感が全身を襲う。世界から色と音が消え、あらゆる物の動きが止まる。

……『俺』の奥底で『我等』が動き出すのを意識して抑え込みながら、この状況を作り出した張本人が現れるのを待つ。

 

 

 「……あら、貴方は。お久し振りですね、1ヶ月ぶり程でしょうか」

 

 「前置きはいらん。今すぐに時間停止を解除したまえ」

 

 「随分と嫌われているようね」

 

 

 舘の中から歩いてきた、フリルの付いた清楚なメイド服を着た銀髪の少女。時間を操るメイド、十六夜咲夜だ。

十六夜は俺に気付き礼をしてくるが、生憎とこの空間で悠長に会話を続けたくない。失礼な対応だとは自覚しているが、これに関しては余裕が無いのだ。

十六夜は軽く首を竦めた後に時間停止を解除。世界に色と音が戻ってくる。

 

 

 「……っ!?」

 

 「妹紅、あまり驚かなくても良い。このメイドのちょっとした手品だ」

 

 「あ、咲夜さん。丁度良い所に来てくれました、田澤さん達を中に通してあげても構わないですよね?」

 

 「特に異存は無いけど、彼のお連れ様はどなたかしら?」

 

 「藤原妹紅さんと言って、田澤さんのお弟子さんだそうです。悪い子じゃないですよ、きっと」

 

 

 子と言われた事に一瞬眉を潜めた妹紅だが、それ以上は何も反応を見せなかった。

今更間違いを訂正するのも面倒なのだろう。それともこの話題に噛み付くのも子供っぽいと思い直したのか。どちらにせよ、大人の対応である。

美鈴に軽く説明を受けた十六夜は妹紅に視線を向けた後、何かに納得がいったという様に呟いた。

 

 

 「道理で初対面の私に敵意を向けてくる訳ね。そちらの師匠様から何か言われたんでしょうけど」

 

 「田澤からは何も言われてない。ただ、お前が来てから田澤は急にピリピリし始めた。あまり信用出来ないな」

 

 「……妹紅、この少女については俺が一方的に過剰反応しているだけだ。人格的に客を陥れるような奴ではない。その点は断言する」

 

 

 あくまでも時間操作の能力者へ積極的に関わりたくないと言うだけで、十六夜本人の人格を嫌っている訳ではないのだ。

俺の対応を客観的に見た場合、結果的にあまり違いは無いが…… 妹紅が俺の対応を参考にするならば、意識的に改めた方が良いか。

 

 

 「先程から大人気ない態度で接して申し訳ない。俺を許せとは言わないが、せめて妹紅くらいは受け入れてやってくれ」

 

 「私は紅魔のメイド。主であるお嬢様と舘の者達に危害を加えないのであれば、私が嫌うも許さないも関係有りません」

 

 

 十六夜は口元だけの笑顔で俺に答えた後、俺達に背を向けて紅魔館へ歩いていく。どうやら案内をしてくれるらしい。

一応俺のこれまでの非礼について、少なくとも表面上は流してくれるようだ。……個人的には未だに思う所が有るようだが、それも仕方のない事だろう。

取りあえず今は十六夜の案内を受けよう。妹紅を宥めながら美鈴に手を振る……と、その前に。

 

 

 「美鈴、もし差し支えが無ければ君の武術を後でゆっくり見せてもらいたい。今後の参考にしたいんだ」

 

 「私は別に構いませんが……既に円熟を迎えている戦術の妨げになりませんか? 全く種類の違う武術を覚えても、そのせいで得意な動きが鈍ってしまったら本末転倒ですよ」

 

 「それは俺には無用の心配なんだ。それじゃあ、また後で」

 

 

 あまり長く美鈴と話していても十六夜に迷惑なだけだろう。取りあえず口約束を取り付けた時点で満足しておく。俺は先に進んでいる十六夜と妹紅を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「田澤様については、パチュリー様から呼び出しがございました。まず最初は地下図書館にご案内しますが、宜しいですね?」

 

 「パチュリーが? ふむ、了解した。異存は無い」

 

 「私も他に行くアテは無いし」

 

 

 紅魔館の廊下を十六夜の案内で歩いていく。俺は美鈴と共に地下図書館へ行った事が有るから、実は案内が要らない気もしていたが……

進んでいる内に違和感を覚え、廊下や部屋割りの構成を改めて確認してみると、明らかに前回訪れていた時と異なっている。一体どう言う事なのか、まさかこの短期間で建て直した訳も有るまい等と考えを巡らせていたが、十六夜の声を聞いて気付く。

時間と共に空間を操作する力も持つ十六夜が、館に何かしらの細工をしているのだろう。

 

 

 「それでは、こちらの階段を下りて頂きます。やや角度が急で薄暗いですので、足元にお気をつけください」

 

 「へえ……私も長く生きてきた自負が有るけど、こんなに長い階段を見たのは初めてだよ」

 

 

 十六夜に地下図書館へ繋がる階段まで誘導された。これまで洋館を見る機会なんて無かったであろう妹紅は珍しげに声をあげる。しかし、俺としては別の点が気になってしまう。

 

 

 「十六夜、前回地下図書館への階段は幻影で隠されていた気がするんだが、あの仕掛けはどうなったんだ?」

 

 「幻想郷に対する我々の誠意として、紅魔館の防衛機能は一部凍結されております。

  ……この機能に関しては妖精メイドからの不平不満が最高潮に達した、という情けない理由が主な物ですが」

 

 「美鈴の言っていた事は事実になってしまったのか」

 

 「……色々と苦労してるみたいだね、そっちも」

 

 

 疑問は解決した物の、今度は別の意味でモヤモヤしてきた。いや、俺が気にする事でも無いのだが。

何とも言えない妙な沈黙が漂う中、三人で階段を降りていく。そうして地下図書館へ到着すると、十六夜は沈黙を振り払うように良く通る澄んだ声を発した。

 

 

 「パチュリー様、田澤様とその弟子の方をお連れいたしました」

 

 「弟子? まあ分かったわ、連れてきて」

 

 「承知致しました」

 

 

 何処からか魔法で拡声されたパチュリーの返答が響き、十六夜は再び歩き始める。

ここの部分の構造は変化していないようなので、もう案内は要らないのだが……だからと言って十六夜を無視する理由も無い。そもそもそんな事をすれば失礼と言うレベルを超えているので、大人しく妹紅と共に着いていく。

 

 

 「……久し振りね、田澤。その隣のは魔法使いって感じじゃないけど、何の弟子?」

 

 「彼女は藤原妹紅と言う。俺が教えたのは主に陰陽術、後は本当に微妙な所で体術か」

 

 「陰陽術? 貴方は本当に様々な魔法体系に造詣が深いのね」

 

 「これでも一応『魔法使い』なんでな」

 

 「……うん。やっぱり貴方に頼むのが良さそうね。田澤にお願いが有るんだけど」

 

 

 無数の本棚を抜けていった地点で、相変わらずの眠たげな雰囲気で待っていたパチュリー。

妹紅について聞いてきたので先程美鈴にもしたような説明で返すと、パチュリーは微妙に目を細める。そして何か納得したように頷きながら、意外な頼みをしてきた。

 

 

 「お願いとは? 余程の無理難題で無ければ聞けるが」

 

 「新魔法開発の共同研究を申し込むわ。それと、スペルカードって言う物の準備もしたい」

 

 

 魔法の共同研究か。……ふむ、別に俺は構わない。

今まではその場その場で必要に迫られた時に改変してきたが、腰を据えて取り組むのも良さそうだ。そして他者と共同で魔法の研究をすると言うのは俺にとっても初体験。やらない理由が無い。

 

 

 「共同研究の件については問題ない。何なら今日からでも構わないぞ。ただ、スペルカードについてはなあ……

  ルールは把握しているんだが俺もスペルカードは持っていないし、上手い助言は出来ない。女がやる物って風潮が広まっているから、今まで関わった事が無いのだ」

 

 

 女の子達が楽しく遊んでいる中に準備を整えて本気で介入する大人の男など、良く考えなくても顰蹙ものだろう。

スペルカードルールによる弾幕ごっこは女の子の遊びと言うには物騒だし、元々が決闘形式の戦闘なので実際は気にする事でもないかも知れないが……俺だって周囲の目は気になる。

 

 

 「……ならさ。私が二人に助言するから、その魔法使いと一緒に田澤もスペルカードを作ったら? 作るだけなら問題ないでしょ」

 

 「それは良さそうね。田澤にも実際の動きを知ってもらった方が、スペルカードの研究も進みそうだし」

 

 「……とりあえずは、そうするか」

 

 

 この場に限ってと言うならまだ許容出来るが、それにしても複雑な物が有る。

とは言え、提案してくれた妹紅やそれで納得している風のパチュリーに悪いし、今だけでも付き合ってみよう。

 

 

 「弾幕ごっこの基本中の基本は『回避不可能な弾幕は出さない』だ。あくまで遊びだからね、その前提を崩しちゃダメだよ。

  そして次に、自分で作った弾幕の型には名前も含めてちゃんとした意味を込める事。名前に意味を持たせ、相手を圧倒する。

  どれだけ美しく戦えたか、魅せる戦いが出来たかが最終的な勝ち負けに影響するんだ。まずは自分が楽しめなければ勝ちは無いよ」

 

 「つまり『本気で遊べ』って事ね。戦闘を遊びにし、妖怪と人間の実力差を互いに対応出来る程に近付ける。

  ……恐ろしい程上手く出来たルールね、これを短期間で整え広めた幻想郷の賢者達には畏怖の念すら抱くくらいに」

 

 

 妹紅のレクチャーを聞いて、スペルカードルールの概要を学ぶ俺とパチュリー。

俺は前身の命名決闘法案に関わっているし、概要ならばかなり詳しい所まで知っているつもりだが……経験者の助言だ、聞いて損は無いだろう。

 

 

 「実際にどうするかだけど、取りあえず手加減が効く攻撃手段をばら蒔く。私なら陰陽術の御札とかだね」

 

 「ふむ。名前を付けない、本命の弾幕に挟む小休止と言った所か」

 

 「そうなるね、これはスペルカードとしては扱わないよ。言うならば通常弾幕って所かな。

  スペルカードは簡単に言えば必殺技って所かな、これで放たれる多種多様で色とりどりの弾幕が弾幕ごっこの醍醐味さ」

 

 「大体の事は分かったわ。通常弾幕とスペルカードを交互に使って、撃墜されるかスペルカードを使いきってしまったら負けね」

 

 「スペルカードを打ち破られる事をスペルブレイクと言ったり、耐久弾幕とか、他にも覚えておいた方が良い事は有るけど……基本的にはそれさえ分かっていれば問題ないよ。

  この辺りは特に意識して覚えるような難しい事でも無いから、実際にやってみた方が速いな。まずは二人とも、簡単な物で良いからスペルカードを作ってみて。これが無いと何も始まらないからね」

 

 

 そう言って締めくくった妹紅は俺とパチュリーに視線を向ける。確かにスペルカードルールではそれが最優先か。

しかし作成しろと改めて言われると困るような気もする。俺の攻撃魔法の内で直接弾幕に転用出来るような物は少ない。その中で、命中しても痛みを訴える程度で済む物を挙げろと言われれば皆無だ。つまり、ゼロから構成を組み上げる必要が有る。

……まあ、パチュリーの研究に付き合える程度にしておけば良いのだし。取りあえず幾つか即興で作ってみるか。

 

 

 「なあ妹紅。スペルカードと言うが、要するにこのカードは相手に自分の弾幕発動を宣言する為の物なんだな?

  だとすればカード自体に力を込める必要は無く、最悪宣言が出来るのならばカードを使用しなくても良いと?」

 

 「一応はそうだね。でもその場で考える訳でも無いし、最初からきっちり準備して普通はカードで宣言するけど」

 

 「ありがとう、疑問は解決された」

 

 

 落ち着いて考えてみれば、自分のスペルカードを考案する作業は新しい魔法を開発する作業とも言えるのか。

そう思うと何だか俄然やる気も出て来た。これまで攻撃魔法は相手を打倒する為に最適化された物しか作ってこなかったし。こうして自分の遊び心や余裕を持って自由に構成するのは初めてかもしれん。自分が楽しみ相手も楽しむ、素晴らしい事じゃないか。

 

 

 「パチュリー、悪いがこの椅子とテーブルを借りるぞ」

 

 「別に構わないわよ、むしろ私が断ったとしたら立ったままで考えるつもりだったの?」

 

 「この辺りを聞くのは最低限の礼儀だろう」

 

 

 その礼儀を失した対応を十六夜にやってきた俺としては、特に神経質になってしかるべき事だ。

十六夜ではなくパチュリーに礼を尽くすのも変な話だが、この辺りは気分の問題だ。後で十六夜にも改めて謝っておこう。

 

 パチュリーに許可を貰った俺は椅子に腰かけ、『扉』を開いて白紙とペンを取り出す。

『俺』の本来持つ特性、『田澤昴』の記録の断片、俺が旅してきた世界の記録、それらの中から使えそうな物を書き出していく。ある程度を箇条書きの形で纏め、弾幕として構成し名前を付けた場合に面白くなりそうな物を感覚で選別していき、候補を決定。

これら数十の候補の中から時間をかけずに完成出来そうな物を更に抜出し、現時点で作れるモチーフを数個選ぶ。

 

 

 「……前に魔法陣の構成を弄っていた時にも思ったのだけど。彼ってこういう時に神がかり的な集中をしているわよね」

 

 「もしかして、時々田澤の意識が飛んでるのはこんな感じの事を考えてるからなのか? 私はただ単にボーッとしてるだけかと……」

 

 

 名前と弾幕の整合性を改めて照らし合わせ、的外れでは無い事を再確認。実際に放たれる弾幕を作成する作業に入る。

弾幕のモチーフとなったイメージを元に弾幕全体の流れを試行錯誤していき、俺の中で合致した時点で改めて筆記。現在作成を予定している弾幕を纏め上げ、筆記した弾幕の流れをパターン化して発動する魔法の構成を行う。

 

 

 「よし、後は試すだけか」

 

 「え、もしかしてもう出来たの?」

 

 「……まずは感覚を掴みたいし、先に二人で模擬戦を行ってくれない? 私も元々有った魔法の威力を調節する形で様子を見てみるけど、まだ時間がかかりそうだし」

 

 「私は二人同時に教えるつもりだったけど、それなら先にやった方が良いか。……ここでやって大丈夫なの?」

 

 「多少の事は何とかなるわ。……咲夜、空間の拡張をお願い」

 

 

 パチュリーが呼びかけると、これまで無言で控えていた十六夜が音も無く近寄る。つくづくハイスペックなメイドだ。

十六夜は一瞬俺に視線を向けた後、能力で空間に干渉。俺と妹紅を中心にして、地下図書館の空間が引き伸ばされたように広がる。

 

 

 「うわ、これは凄いな。どうなってるんだろう、あの女の力」

 

 「……」

 

 

 前にも思ったが、空間と時間に干渉する能力を持ち仕える主が存在すると言うのはどうにも。

俺に対する何かの嫌がらせなのだろうかと、被害妄想的な思考さえ浮かんでくるくらいに『俺』の事情を突いてくるな。別に彼女は何も悪い事をしていないのだから、攻撃的に対応しても八つ当たりだが……

 

 

 「ともかく、場所は作ってくれたみたいだね。では早速始めるよ、好きなように撃ってみて」

 

 「うむ。宜しく頼むぞ、妹紅先生?」

 

 「……田澤にそう呼ばれると、何かこう、込み上げる物が有るね」

 

 

 これまでは俺が妹紅に物を教える事が多かったし、俺が挑む側になると言うのは非常に珍しい事だ。

これも成長の結果か、弟子に物を教わるとは師匠冥利に尽きる。妹紅は妹紅で何か感慨深げだが、俺も感じ入る物が有るぞ。

 

 

 「では早速、発動させてもらう! スペルカード宣言、特異『グレート・アトラクター』!」

 

 

 俺が攻撃魔法でも使用し引き起こす重力異常。その異常を直接攻撃に利用するのではなく、銀河団の群れに見立て発生させた無数の弾幕を引き寄せる為に発生させる。

中心に集束していく弾がどのように方向を変えるかは重力まかせのランダムだが、所々に重力の無風地帯を変遷させている。こうしないと結構な確率で回避不可能な状態になると、構築段階で気付いたのだ。

 

 

 「おお、中々凄いね。でも、気合い避けが不可能な程難しくも無いよ!」

 

 「確かにこのままでは一定以上に激しい物にはならないが……弾幕の変化はこれで終わらんぞ」

 

 「……ん?」

 

 

 俺が周囲に展開した弾幕と軌道を見て、歓声を上げつつ弾と弾の合間を縫う様に回避していく妹紅。

実を言うと、この段階でもう少し苦戦してくれるかと思ったんだが……俺の発動したスペルカードはここからが本領発揮だ。

発動から一定時間が経過した事により、弾幕は次のパターンへ移行する。

 

 

 「弾幕がぶつかり合って拡散? こんなスペルカードは今まで見た事が無かったよ、流石は田澤だ」

 

 「……あっさりと避けながら褒められても」

 

 

 中心に引き寄せられていく過程で弾幕どうしの衝突が起き、それらはより小さな弾幕となって周囲に散らばる。

これによって生成された新たな弾幕も重力異常に影響され中心に向かう、その繰り返しで加速度的に弾の数は増えていく。

しかし妹紅は何だかんだと言いつつ、これも普通に躱していく。多分に遊びと無駄を入れた攻撃にしても、少し自信を失う。

 

 

 「もう少し、難しくしても良さそうだな」

 

 「正直に言うと、見ていて面白いけどそこまで難しくはないよ。この見かけ倒しっぷりがスペルカードルールの基本だけどね」

 

 「成程。何となく、スペルカードルールの概念が分かって来た」

 

 

 つまりは壮大な茶番みたいな物か、パチュリーが例えた『本気で遊べ』と言うのはかなり適格な表現だった訳だな。

そして、遊びだと言うのなら必要以上に気を張る必要も有るまい。勝ちは狙うが、要するに楽しめればそれで良いのだ。……って、今から思うとそれは最初に妹紅が言っていたな。やはり実際に体験すると違う物だ。

 

 

 「さあ来い、田澤の力はまだまだそんな物じゃないでしょ?」

 

 「良いだろう、偶には挑発に乗ってみるのも一興だ。師匠が弟子にやられっぱなしと言うのも恰好付かないからな」

 

 

 結局、『グレート・アトラクター』は妹紅にかすりもせず。妹紅は反撃にスペルカードを使った訳でも無いので、スペルブレイクが成立した。

まさか最初からこうも実力差を見せ付けられるとは思わなかったが、まだこれは序の口。挽回する機会は残されている。出来の良い生徒を見る教師のような視線を向けてくる妹紅に軽口で返し、通常弾幕を放ってスペルカードを使うタイミングを見計らう。

 

 

 「これは……田澤が時々使う魔力剣? 形は違うみたいだけど」

 

 

 俺の通常弾幕は、赤く輝く魔弾だ。主に犬走との手合わせで使用している魔力剣と構成は殆ど同じで、唯一威力が異なっている。

勿論、こっちの方が威力は極端に低い。恐らく、小石を投げ付けた方がまだ痛いくらいの筈だ。その分、一発の魔力消費は無いに等しい。弾幕戦では威力よりも数を優先した方が効率も良い筈なので、大体こんな所だろう。

 

 

 「どれ、それじゃあ私も」

 

 「……ふむ」

 

 

 妹紅は俺の通常弾幕の流れを見て軽く頷いた後、華麗に弾幕を回避しながら矢鱈に御札を投げ放ってきた。

一枚一枚は大した事もない直線的な軌道の物ばかりだが、それが百も超えそうな程の数で襲ってくるとなると話は別。

そもそもスペルカードルールでは相手の弾幕を『防ぐ』のは反則だ。あくまで回避するか自分の弾幕で撃墜しなければならない。

幸い、妹紅の弾幕も激しくはない。見える範囲に展開された御札の数こそ凄まじいが、落ち着いてみると隙間は結構多い。見た目の圧迫感に比べ、実は殆ど当たらない。

 

 

 「弾幕を受ける側からはこんな感じに見えるのか、参考になるな」

 

 「さ、そろそろ次のスペルカードを使ってくれない? このままだと私の方は使う気も起きないよ」

 

 

 軽く笑みを浮かべながら、再び挑発してくる妹紅。戦闘中にこの類いの言動、まるで俺を見ているようで思わず苦笑が出る。

どうやら妹紅は相手の集中を妨害する、俺の姑息な手段まで受け継いでくれたようだ。俺としては喜んで良いのか、微妙に判断に困る。

 

 

 「まあ焦るな、今度のはさっきよりも自信が有るぞ。 恒星『プロミネンス・ジェネレータ』!」

 

 

 二枚目のスペルカード宣言を行い、新たな弾幕パターンを開始する。

まず太陽に見立てた巨大な魔弾を上方に発生させ、その紅炎に見立てた波動状に拡散する弾幕を妹紅に向けて降り注がせる。

妹紅は動き続けながら弾幕の性質を確認し、紅炎状の弾幕を視認した時点で本格的な回避行動に移った。降り注ぐ弾幕、その中の自らに当たる軌道を描く物に対し、拡散する性質上どうしても発生する『ムラ』に身を潜り込ませて回避。

更には広く視野を持った的確な状況判断で、複数の弾幕に追い込まれる前に素早く場所を移動する。正に理想的と言える繰り返しだ。

 

 

 「どうしたの、まさかこれで終わり? もしそうなら大した事無いよ」

 

 「油断していてくれると、俺としては助かるな」

 

 「……うわっ!?」

 

 

 太陽に見立てた魔弾から強烈な熱波が発生する。これ自体は単なる演出と言って構わないが、本来の狙いは弾幕への副次的な影響だ。

熱波の干渉を受け、活性化した紅炎状の弾幕が濃度と形状を変えていく。更には弾幕同士でも干渉しあい、その軌道は不規則に変化。これまでパターンを読んで楽に回避してきた妹紅だが、流石にこの急激な変化には対応出来なかったらしい。

何とか弾幕の群れを振り切り一時的な安全地帯へ移動した妹紅は表情を引き締め、懐からカードを取り出しながら笑う。

 

 

 「ふふっ、やるじゃないか田澤。私のスペルカードも見せてやる! 不死『火の鳥-鳳翼天翔-』!」

 

 

 妹紅がスペルカード宣言と共に右腕を横に払うと、その軌跡を辿るように現れた燃え盛る炎が巨大な鳥の姿を形成し、俺の弾幕を撃墜する。

恐らくこの弾幕のモチーフは不死鳥なのだろう、妹紅の素性と相まってかなり上手いチョイスだと思う。見た目も派手で力強く、格好いい。

 

 

 「……感動している場合でもないな」

 

 

 俺の弾幕は太陽の紅炎がモチーフだが、カバーする範囲を広くした都合上威力が低いので妹紅の弾幕に一方的に打ち破られてしまう。

成程、相手の弾幕に撃墜されやすいかどうかは威力の兼ね合いが関係してくるのか。突破力を求めて一点集中にしすぎても問題がある、と。

 

 幸いこの弾幕も見た目ほどの難しさは無い。と言うより、火の鳥が引き連れてくる炎の弾幕が紅炎で相殺されている。

本来ならばこの炎の弾幕が逃げ道を塞ぐ壁となるのだろうが、結果的には俺を直接的に狙う火の鳥しか攻撃に使われておらず、それだけを躱すのならば大した労力も集中力も必要とされない。

同じ事は妹紅の方にも言え、妹紅も腕を振り下ろして火の鳥を呼び出し俺の弾幕を撃墜。密度の薄くなった中を悠々と避けていく。

 

 

 「さて、お互いにこのスペルは終わりだね。続けていくよ!」

 

 「確かにこのスペル自体の弾幕はこれで打ち止めだが……此処から更に次のスペルカードに繋がる。

  恒星から続く、新たなスペルカード。複数のスペルカードに跨って一つのテーマの弾幕を放つのはルール違反では有るまい?」

 

 「……違反では無いと思うよ。そもそもそんな事を考えなかったな。やっぱり田澤は面白い事を思いつくね」

 

 「ならば行かせてもらう、天蓋『ダイソン・スフィア』!」

 

 

 3つ目のスペルカード宣言。このスペルカードは直前のスペルで生み出した太陽状の魔弾を流用する。

擬似太陽を起点に、無数の巨大な弾幕群を展開。完全に囲い込んだ状態へ移行した後、そのエネルギーを吸収させ弾幕群に巡らせる。

全体に充填を完了させ、疑似太陽のエネルギーを余す事無く利用し……

 

 

 「演出が派手なのは構わないし、発動から攻撃開始までの時間が長くても良いんだけどさ。相手から意識を外すのはダメだよ」

 

 「……!?」

 

 

 と、そこまでを確認した時点で目前に迫る妹紅の弾幕に気付く。咄嗟に躱し何とかやり過ごすも、今のはかなり危険だった。

スペルの構成、俺が即興で組み上げた魔法は果たして想定した通りに動くのか。それを確認しようとしたのが仇となり、肝心の妹紅への警戒が疎かになっていたのだ。わざわざ妹紅が声をかけてくれなければ、実に間抜けな決着を迎える事になっただろう。

 

 

 「……済まない、手心を加えてもらって」

 

 「実際の勝負ならともかく、これはルールを把握する為の模擬戦だからさ。そこまで肩肘張らなくても良いよ」

 

 

 一応、今のやり取りの間に準備は整った。今度こそ気を抜かないようにしつつ、発動したスペルに妹紅がどう対応していくのかを見せてもらう事にする。

疑似太陽のエネルギーを充填した弾幕群は空間に複雑怪奇な回路を描きながら、そのエネルギーを電気的な物へと変換。描いた回路を導線とし電撃による簡易な迷路を作りながら、展開されていた弾幕群が妹紅を襲う。

 

 

 「相手の動きを制限するレーザーと、弾幕の合わせ技か。スペルカードの基本だね」

 

 

 俺としてはかなり独創的な物だと自負していたのだが、妹紅の反応を見る限りスペルカードでは定跡通りのパターンだったらしい。

強制的に逃げ道のない場所に追い込まれ、無数の弾幕と相対する事になったと言うのに妹紅は焦った様子を見せない。落ち着いて弾幕の軌道を確認し、必要最小限の動きで確実に回避していく。

 

 

 「っと、間違えたかな。私も二枚目を使わせてもらおう、滅罪『正直者の死』!」

 

 

 完璧に見えた妹紅の回避行動だが、ふとした判断ミスから被弾を免れない状況に追い込まれる。

軽く眉間に皺をよせた妹紅は懐から新たなカードを取り出し、俺のスペルに対する迎撃として二枚目となるスペルを発動させた。

 

 

 「……おいおい、これって」

 

 「相手に動く事を強制するレーザーと、弾幕の合わせ技。どう? 私のスペルは」

 

 

 妹紅の発動させたスペルは、俺の『ダイソン・スフィア』への意趣返しとも取れる物だった。

全方位に向けて放たれる高速の弾幕、それに加えてレーザーの薙ぎ払い。攻撃方法自体は似通っている物の、その性質は正反対と言っても良いだろう。

 

 最初は展開された互いの弾幕が相殺し、俺もレーザー回避にのみ集中する事が出来たのだが……

発動タイミングの早かった俺の『ダイソン・スフィア』は結局妹紅を捉える事なく終了し、妹紅のスペルが完全な形で俺に牙をむく。

俺を追い立てるように迫るレーザーを大きく動いて回避する物の、移動中も移動後も弾幕への被弾リスクを伴う。息を吐く余裕もなく右へ左へと俺を揺り動かすレーザーに、集中力も限界を迎えていく。

 

 

 「っ……、ここまでか」

 

 

 数回目のレーザー回避時に、自分から弾幕に衝突するコースへ飛び込んでしまった。

結局は妹紅に誘導されるような形で弾幕に被弾してしまい、決着が付く。俺の敗北、妹紅の勝利だ。……何故か、妹紅が笑っている。

 

 

 「いやあ、正に『正直者』な避け方をしてくれて面白かったよ」

 

 「……どういう事だ?」

 

 「分からないなら、別に良いんだ。相手のスペルの攻略法を見抜くのも、醍醐味の一つだからね」

 

 

 どうやら、俺は妹紅にとってとても愉快な避け方をしていたらしい。あれ以外にどう避けると言うのか、皆目見当が付かないが。

ひたすら悩み続ける俺を後目に、妹紅は今の模擬戦を観戦していたパチュリーへと向き直り声をかける。

 

 

 「どうだった? 全体として流れは掴めたかな」

 

 「ええ、スペルカードのセオリーも大体は理解したわ。これなら、今日中には数個程完成させられそうね」

 

 

 妹紅はその返答を受けて満足そうに頷きながら、再び俺へと向き直る。

 

 

 「田澤も、実際にやってみたら手を加えるべき所とかが見えてきたでしょ?

  スペルの構成は田澤の得意分野だろうし、次も期待してるよ。避けるのは精進有るのみだね、回数をこなせばきっと慣れるから」

 

 「う、うむ」

 

 

 何だか本当に普段とは立場が逆転しているな。どこか落ち着かない気もする。

負けた事について自分でも意外な程悔しさを感じているらしいと自覚し、何とか話題を変えようと周囲を見回す。すると、模擬戦が始まる前まではパチュリーの隣に控えていた十六夜が姿を消している事に気付く。

 

 

 「パチュリー、十六夜は何処へ行ったのだ?」

 

 「ああ、咲夜ならついさっきレミィに呼ばれて……」

 

 「くくっ、ようこそ紅魔館へ。歓迎するよ、田澤」

 

 「……いきなり来て開口一番にそれを言われても対応に困るんだが」

 

 

 パチュリーに十六夜の行方を聞くと、その返答に被せるようにレミリアの声が響いた。

声のした方向を見ると、そこには高い本棚の上に立ち腕を組んで俺達を見下ろすレミリアの姿が。……何だか口振りとのミスマッチが尋常ではない気がする。

 

 

 「ついさっき、咲夜から田澤とその弟子が来ていると報告を受けたのでね。こうして出向いてきたと言う訳さ」

 

 「……君も元気そうだな、安心したよ。あれだけの事が有ったから、窮屈な思いをしているのではないかと心配していたのだ」

 

 

 レミリアは威圧感を演出しようとしているらしいが、いかんせん全体の雰囲気が良くない。

数百年を生きた恐ろしい吸血鬼と言うより、見た目相応の少女が背伸びして演技しているようにしか見えない。尤も、そんな事を口に出したりはしないが。

 

 

 「ふふん、私を誰だと思っている。あれぐらいで折れるような柔な誇りは持ち合わせていないさ」

 

 「単にやせ我慢が得意なだけとも言うけどね」

 

 「……パチェ、せっかく雰囲気を出しているのだから茶化さないで頂戴」

 

 「田澤様、藤原様。これからティータイムなのですが、御一緒されませんか? お嬢様が喜びます」

 

 「咲夜もそんな子供っぽいような事教えなくて良いから! 私の威厳に傷が付くでしょう!?」

 

 

 やせ我慢とパチュリーは言うが、実際余裕は有るようだ。

余裕が有るからこそ、こうしてパチュリーが軽口を叩くのだろう。本当にやせ我慢だったら、もっと雰囲気が空回りする物だ。

 

 

 「うむ、喜んでその招待を受けよう。こうやって他の面々とも馴染んでいって欲しいしな。

  ほら妹紅、行くぞ。レミリアが俺達をティータイムに招待してくれるそうだ、有り難く頂いていこう」

 

 「う、うん……」

 

 「ほう、その娘が聞いていた田澤の弟子か。くくっ、まだまだだな。夜の女王たる私の雰囲気に呑まれていると見える」

 

 「一応言っておくが、妹紅は君の2倍以上は生きているぞ。単純計算で千年は生きているからな」

 

 「……それ、私も初耳よ。貴方の弟子が一般人とは思わなかったけど、魔法使いでは無さそうだったから人間と判断していたのに」

 

 「時間と空間を操る師匠に人間詐欺の弟子ですか。インチキ臭い二人組ですね」

 

 「……主として言わせてもらうけど、咲夜も大概インチキだと思うわ。それとも前半に関してはツッコミ待ち?」

 

 

 うん、こうして俺が積極的に関わっていけば彼女達が幻想郷で孤立する事も有るまい。

此処で共に過ごす仲間なのだ、皆で楽しくやっていきたい。あの異変に対する俺の対応として、これも1つの責任の取り方だろう。

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