旅人の見た幻想郷   作:千思万考

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いつもの半分程度の文章量かつ、三人称視点と言うやや特殊な形式となっております。気軽に楽しんでもらえると嬉しいです。
また、投稿時間の関係上これを約一か月ぶりの最新話として読む方は一つ前の『旅人、紅魔の郷にて悪魔の妹と出会う』も確認してもらえると助かります。


閑話・外の世界の旅人

 『田澤昴』と契約し、その最期の願いを叶える為に人々との交友を求めて行動する旅人、『俺』こと田澤。

彼は現在主な行動場所を幻想郷に移してはいるが……そこそこの頻度で外界も訪れている。今回は、彼の外界での姿の一部を取り上げよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「元気出てきました! 有り難うございます、田澤さん!」

 

 「礼には及びません、彼女の方と上手く行くよう私も祈っていますよ」

 

 

 とある商店街の傍らに建てられた、手作り感溢れる小型の東屋。そこで常の黒コートではなく、きっちりとしたスーツを着て男子高校生と会話する田澤。

高校生は頻りに頭を下げた後、財布から千円札を取り出して差し出す。どうやら、何事かへの謝礼らしい。それを見た田澤は、苦笑を浮かべつつ千円札を受け取って……高校生の手に500円硬貨を渡す。

 

 

 「いや、これは俺の気持ちです! 何から何までアドバイスしてもらって、本当ならこれでも足りないと……」

 

 「この看板にも書いてある通り、一人の方から500円より多くは受け取らない事にしているんです。来てくださる皆様の喜ぶ顔が、一番の報酬ですから」

 

 「……! 俺、学校でもっと此所の事を広めます!」

 

 「はは、来れるのは不定期ですから。私に対しては見かけたら声をかける、くらいで構わないですよ」

 

 

 田澤は言葉遣いから立ち振舞いまで、文句の付けようがない好青年ぶりを擬態……発揮している。

彼は高校生を見送った後、暫く周囲の様子を見てから立ち上がり、『本日の占いは終了しました』と書かれた簡易な看板を立てて東屋を出た。

そして用意していたペットボトルの水を飲みつつ休憩を取る田澤に、近くの八百屋から店主が近付き、親しげに話しかける。その様子からは、互いに顔見知りである事が窺える。

 

 

 「よう、先生。今日の営業はもう終わりかい」

 

 「そろそろ夜ですしね。客層は主に高校生ですから、下校時間を過ぎればどうしても来られる方は少なくなります」

 

 「まあ、先生が此処で占いを始めてから高校生が商店街まで足を運んでくれるようになったからなあ。

  最近は大手のショッピングセンターよりもこっちが良い、なんて言ってくれる子も増えて励みになるってもんよ」

 

 

 どうやら田澤は商店街のスペースを間借りして、若年齢層を主な対象とした占いを行っているようだ。

商店街側も客層が増える事を歓迎して快くスペースを貸し出し、互いに持ちつ持たれつの関係を築いているらしい。

 

 

 

 

 

 そして、またある日の事。いつもと同じように東屋で客が訪れるのを待っている田澤の元へ、八百屋の店主が慌てて押し掛けてくる。

 

 

 「せ、先生! 何だか分からんが、えらい別嬪さんが先生に占いがしてもらいたいって来てるぞ!」

 

 「えらい別嬪さん? どのような方でしょうか」

 

 「ハリウッドの女優みたいな金髪グラマーの外人さんだよ。日本語もペラペラでな、才女ってのはああ言うのを指すんだろうね」

 

 「はあ……」

 

 「魚屋のトメさんが時間を稼ぎつつ案内してるから、今の内に準備を整えておいた方が良いぞ先生!」

 

 

 八百屋の店主は言うだけ言うと、今度は別の店に『別嬪さん』を説明しに行った。

残された田澤は首を傾げながらも、言われた通り占いの準備をして軽く身なりを調える。そして、暫くそのまま『別嬪さん』の到着を待っていると。

 

 

 「ふふ。良く当たる占いと、親身になって悩みの相談に乗ってくれる男性が居るとの噂を伺って、遥々やって来ましたわ」

 

 「なあっ、八雲!?」

 

 「あら、どなたの名前かしら? 私はメアリー・バイオレットと申します」

 

 「何とも下手な偽名を……」

 

 

 そう、『別嬪さん』とは妖怪の賢者、神隠しの主犯、大妖怪の八雲紫だった。

幻想郷でのドレス姿ではなく、デニム地のジーンズに淡い紫色のジャケットを合わせた紫はいかにもな現代的ファッション。

体のメリハリを強調したその服装は成程、別嬪ともグラマーとも言える美しさに溢れていた。……が、田澤はジト目である。その複雑な視線の理由は、『田澤昴』の事情による物だけではないだろう。

 

 

 「まあ、良いや。君がそう言うのなら、ここではそうなのだろう。……さて、メアリー様。本日はどのような占いをご希望ですか?」

 

 「そうね、無難にこれからの運勢をお願いしようかしら。ついでに私の相談にも乗ってくれると嬉しいですわ」

 

 「分かりました。私の占いは大アルカナのタロットカードを用いますので、貴女の手でテーブルに広げたカードを良く混ぜてもらえますでしょうか」

 

 

 事情を突っ込むのを早々に諦めた田澤は仕事モードへ移行し、振るまいや言葉遣いを変えて紫に接する。

紫はその対応を見て何故か満足げな笑顔を浮かべ、田澤の指示に従い広げられたカードを両手でかき混ぜる。田澤は混ぜられたカードを手際よく揃え、途中紫にカードをシャッフルさせつつ数枚のカードを抜き出した。

 

 

 「まず貴女の象徴であるカードですが……『世界』の正位置? やく、いやメアリー様は相当な運命をお持ちのようだ。

  そして現在の運勢の推移ですが、『死神』の逆位置ですね。一旦これまでの流れが終了し、新たな展開が始まる事を示しています。

  ……今更ですが、メアリー様にこれらの解説は必要でしょうか? 貴女の事ですし、カードの暗示する意味と解釈の仕方も把握しているのでは」

 

 「それはそうなんですけど。では、早速悩み事の相談をお願いしますわ」

 

 「私は何の為にカードを繰ったのでしょうか……」

 

 「ふふっ、まあまあ。次は私の悩みを聞いてくださる?」

 

 「喜んでお受けいたしましょう、メアリー様」

 

 

 

 

 

 更に、別の日。今日もまた、田澤は東屋で占いをしている。そんな中、東屋を訪れる女子高校生が一人。

 

 

 「あのー、此方では悩み相談もしてくれると聞いたのですが」

 

 「ええ、お悩み事が有るのでしたら及ばずながら力になりますよ。占いはご希望でありませんか?」

 

 

 田澤を訪ねてきたのは緑色の長髪に蛙の髪飾りを付けた少女。何気無く対応した田澤だが、その内心は疑問に溢れている。

幻想郷でさえ通用する程の神秘的な力、それも『神』に近しい気配を感じ、この少女が何者なのかと判断が付きかねているのだ。

 

 

 「占い、ですか。えっと、別料金とかでは無いですよね?」

 

 「占いと悩み相談をセットで500円です。そんな迷信は信じない、と言うのであれば占いを無しにする事も出来ます。その場合はお値段を引かせてもらいますので、ご安心ください」

 

 「セットで500円!? 占いの相場とかは知りませんけど、それでやっていけるんですか!?」

 

 「一時間に少なくとも3、4人は来てくださるので。元手無しで時給2000円と考えれば、中々好条件ですよ」

 

 「それでも一回辺りの料金が良心的過ぎる気が……」

 

 「まだまだ見習いですし、当たるも八卦当たらぬも八卦の占いでお金を頂くのも本来なら心苦しいのですよ。

  なのでせめてものサービスとして、悩み相談と言う事でカウンセラーの真似事をしています。こちらもご専門の方には及びませんが、年が近いからこそ理解できる悩みも有ると考えております」

 

 

 少女は迷っていた様子だったが、田澤の占いを受ける事に決めたらしい。田澤の指示に従いカードをシャッフルし、数枚のカードを抜き出す。

 

 

 「貴女の悩みの対象は……『恋人』の逆位置。どうやら貴女は、親しい相手との別離に悩んでいるようですね。

  そして、その運命の行き着く先は……『塔』の正位置、ですか。予期せぬ崩壊、破滅。……少しお待ちください。このペンタグラムで『戦車』が逆位置、『魔術師』も逆位置……『死神』が正位置。

  お気を悪くしないで聞いてもらいたいのですが、貴女は悩みを解決してもしなくても何かを失うと言う、悪い解釈も出来る結果が出ています。勿論、これは絶対の真実では有りません。占いは人の心によってその姿を変える物ですから」

 

 

 田澤は途中で声のトーンを落とし、すまなそうに占いの結果を告げる。

そのまま外れている可能性も有ると続けるが、少女はハッとした表情になり意を決したと言う様子で悩みの詳細を話す。

 

 

 「これはたとえ話なんですけど。大事な人が死にそうになっていて、私はそれを助けたいんです。そして、方法も1つ思い当たる物が有るんです。

  でもそれは私が今までに関わってきた人全てと縁を断ち切る事を意味していて、もう二度とその人達とは会えなくなってしまうんです。大事な人を選べば家族とも友人とも会えなくなって、家族や友人を選べば大事な人は死んでしまう。私は、どうしたら良いのでしょう」

 

 

 少女は俯き、涙を流しながら語る。その様子から夢見がちな物語を展開している訳ではないと判断した田澤は、少し間を置いてから口を開く。

 

 

 「成程。どちらも失いたくない、しかしどちらかを選ばなくてはいけない。その矛盾に貴女は苦しんでいると」

 

 「それもなんですけど、はっきり決断出来ない自分にも嫌気がするんです。大事な人の命を握っているのに、決断出来ない自分に」

 

 「決断出来ない事は、この場合恥では有りませんよ。貴女がこうして悩んでいると言う事は、まだ幾分猶予は有るのでしょう?」

 

 「え、ええ。まだあと数年なら信仰……じゃなくて余命が持つと」

 

 「ならばこの場合最悪なのは決断を焦る事です。考える時間は有る、時間いっぱい悩むべきでしょう」

 

 

 田澤はいっそ一般論とも言える、明確な答えを示さない言葉を少女にかける。

少女はその言葉を受けて逆に苦痛を感じたようで、怒りとも嘆きともつかない声を上げて田澤に思いをぶつける。

 

 

 「でも! 私、限界まで粘っても決断出来る気がしないんです! 多分、『その時』が来たら私は大事な人を助ける為に動くと思います。

  だけどそれは納得して決断したんじゃなく、本当に時間が無くなってしまったから。絶対に、大事な人は見捨てられないから。見捨てたく、ないから。でも、私だって、他を捨てるなんて覚悟は……」

 

 「ならば答えは1つですね。両方を選べる手段を見付けるんです。その為にこれからの時間を使う」

 

 「無理、ですよ。助ける為の方法は散々探したんです。探して、探して、探して、漸く見付けたのが、たった1つだったんです」

 

 「無理と決め付けてはいけません。そう貴女が断じた瞬間に、全ての可能性は閉ざされる。

  選びたくない決断をする為に、これからの時間を使いますか? それとも貴女が望む未来を掴む為に時間を使いますか?

  どちらが貴女にとって苦痛でしょうか。どちらが貴女にとって、快い結果をもたらしてくれるでしょうか。どちらも苦難の道ではあるでしょうが、先に待つ物は絶対に違う」

 

 「それは、分かります。分かるんですけど……」

 

 

 少女の様子は変わらない。おそらく、田澤が投げかけた陳腐な正論など既に理解していたのだろう。それでもなお悩んでいるからこそ、彼の言葉は意味を成さない。

田澤は息を吐き、その雰囲気を好青年を装った物から永きを生きた旅人としての物に戻す。単なる若い占い師としての言葉では、少女を導く事が出来ないと感じたようだ。

 

 

 「……神に仕える君が奇跡を信じなくて何となる。現人神である君が降りかかる苦難を祓えなくて何となる。自信を持ちたまえ」

 

 「っ、貴方……!?」

 

 「君の素性は知らんが、神気を発する人間となれば大体の見当は付く。……最初に言った筈だ、『及ばずながら力になれる』と。

  だが、今日は此処で終わりにしておこう。君は、1つの物事に囚われるあまり視野が狭くなる欠点が有るようだ。今日の事を落ち着いて吟味して、受け入れられるだけの余裕が出来たら再び此処へ来ると良い。道に悩む者を導くのが『俺』の役割だ」

 

 

 田澤は少女が落ち着く前に、一方的に話を切り上げつつ約束を取り付ける。巧みな話術と言えば聞こえは良いが、殆ど詐欺の所業である。

そして唐突に変えた威厳溢れる口調と雰囲気を維持したまま、勿体ぶった素振りで指を鳴らす。その動作をキーとして転移魔法を発動させ、少女を東屋の外へ。

同時に『本日の占いは終了しました』の看板をセットしつつ、自分自身は遠く離れた位置へ転移。自分が人知を超えた力を持つ事をまるで隠そうともしない、何とも演出過多な占い師である。

 

 

 「えっ、えっ?」

 

 

 残された少女は堪ったものではない。いきなり自分達の核心を付く意味ありげな言葉を投げ掛けられたと思いきや、訳の分からない内にこの状況である。

暫く呆然としていた少女だったが一応気を取り直したのか、釈然としない表情のままでありながらも帰り道を歩いていった。それでも最後の印象は鮮烈だったようで、誰に聞かせるでもなく独り言を呟く。

 

 

 「あの人も、神様に仕えているのかな…… もしそうだとしたら、同じ神職に関わる者としてあのカリスマは見習いたいな」

 

 

 

 

 

 「八百屋さん、何時もの」

 

 「あいよ。先生も好きだねえ、大根」

 

 「大根おろしに目が無い物でして。他に趣味らしい趣味が無い反動か、おろしポン酢にして食べれば一日で一本消費するペースです」

 

 「……先生、それは流石に偏食だろう」

 

 「……冗談です」

 

 

 一方、少女が立ち去った後の商店街では。間抜けにも歩いて戻ってきた田澤が八百屋の店主とカリスマなんて有ったものじゃない会話を交わしていたそうな。

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