旅人の見た幻想郷   作:千思万考

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旅人、止まらぬ宴にて人形遣いを欺く

 「最近は、探りを入れ始める奴が増えてきたねえ」

 

 「それは当然じゃない? 2、3回くらいならともかく、もう2桁にも届くくらいやってるんだもの」

 

 「最初の内は違和感も無かっただろうが……これだけ続いて、その上何故か止める気にはなれないと言うのに思い至れば、怪し過ぎるからな」

 

 

 俺の家を拠点とし、例の宴会について語り合う。俺と妹紅は参加者の視点から、伊吹は俯瞰する側の視点から。

俺達から見ても最近の宴会には妙に牽制しあうような気配が有り、それは伊吹から見れば何を行っているかも一目瞭然のようだ。

 

 

 「まあ、複雑だけど嬉しいかねえ。私を探ろうだなんて生意気だって気持ちと、ようやく気付いてくれるのかって気持ちが半々かな」

 

 「元々の目的が曖昧な部分も有るし、このままどう転がろうと君にとっては良い方向に進むだろう」

 

 「見付かったって、弾幕ごっこをして、それで仲良く宴会に混ざるだけだろうね。私は、もう名乗り出ても良いと思うんだけどなあ」

 

 「ここまで来て、それじゃあ拍子抜けさ。向こうはまだ怪しいと感じてるだけで、私の正体まで掴んでる訳じゃ無いんだから。

  自分から出て行って懇切丁寧に事情を説明するのも何だか間抜けだし、どうやって私に辿り着くかを見物したいね。宴会に大手を振って混ざるのは、それからでも遅くない」

 

 

 妹紅は事情を明かしても良いのではと提案するが、伊吹はそれを拒む。

宴会をしたいと言う当初の目的、そして初対面である自分を果たして皆が受け入れるのかと言う不安の解消、それはもう果たされている気はするが……

俺の勝手な想像として、伊吹は地底の鬼達にも呼び掛けたいと言う思いが有る気もしている。それを見届けるまでは続けたいと言う事なのだろうか。単純にゲーム感覚で皆の反応や行動を楽しみたいだけかもしれないが。

 

 

 「……おっと、また何か面白そうな事をしてる奴が居るね。じゃあそう言う事で、明日の宴会も頼むよ」

 

 「便利だよね、霧になってあちこちを見れるって……」

 

 「薄く広げれば広げるほど、気付かれにくくもなるしね。便利と言えばそうかな。まあ、行ってくるよ」

 

 

 伊吹はこの場に実体としてその身を置きながらも、一部だけを分身のように霧として分かつと言う高度な事も出来るらしい。

今も俺達と会話しながらどこかを見ていたようで、そちらの見物に本腰を入れる気になったようだ。一応俺達の会話は情報交換や作戦立案と言った名目が有るのだが、そもそも同じ場で宴会をしているので今更改まって確認するような事も無い。

要するに暇つぶしの世間話以上の事では無いので、明確にやりたい事が出来たならそれを優先するのも当然だろう。

 

 伊吹は俺達に手を振りつつ、霧になってその姿を消す。こうして考えると、八雲とはまた違った意味で神出鬼没である。

 

 

 「探りを入れてきてる、かあ。勘の良い奴なら、そろそろ私達にも疑いの目を向けてくるのかな」

 

 「どうだろう、ボロは出していないつもりだが……霊夢辺りは、何がどうなって気付くのか分からない所も有るな」

 

 

 そもそも完全に気付いている風見と言う例外も居るが、彼女は傍観する側に回っている。

気付いているからこそ、怪しんで探りを入れる事もしないのだろう。何しろ、探るまでも無く真相に辿り着いているのだから。

……もしかしたら鬼と力比べがしたいとか言う理由で突発的に殴り込みをかけてくるかもしれないが、現時点ではそれは考えないでおこう。

 

 

 「ただ、俺達に疑いの目が向けられる事自体は確定的だろう。宴会に参加している全員が容疑者と言えるのだし、俺達だけ怪しまれないなんて事は有り得ない」

 

 「実際の事まで分かっているかは別として、って事か。確かに今の状況なら、とりあえず全員が怪しいもんね」

 

 「大小の差こそ有るだろうが、疑って見られる以上はどこで何に気付かれるかは分からない。

  極端な話、何も証拠が無くとも『犯人っぽい』と言う理由で決めつけられる事も考えられる。そしてそうなったら、例え根拠が無くともその人物は真実に辿り着いたと言う事になる」

 

 

 これは俺達にとって避けられない事である。根拠が後付けになったとしても、後ろめたい事が有るのは事実。どう振る舞っていようと関係が無くなってしまう。

 

 

 「それは気付かれるのも時間の問題って事? まあ、いつまでも誤魔化せるとは思ってなかったけどさ」

 

 「発想を変えた方が良いかもな。疑いを向けさせるような行動を敢えて取り、真の『黒幕』である伊吹から目を逸らさせる。

  当初の目的から離れている気がしないでもないが、少なくとも伊吹にとっては面白い展開になると言えるだろう」

 

 

 要するにミスリードを誘うと言う事である。俺達は共犯者であっても実行犯では無いと言う絶妙なポジションなので、巧く立ち回れば容易な筈だ。

何をしようといつかは誰かが真実に辿り着く。ならば俺達の方で捜査を誘導して攪乱、少しでも時間を引き延ばすのが最善と言えるだろう。……誰にとって、どういう意味で最善かと聞かれると、我ながら少し疑問は有るが。

 

 

 「でも、具体的にはどうするの? あまり腹芸は得意じゃないんだよなあ」

 

 「ふむ……俺が何とかしよう。この手の小細工には自信が有る、苦手ならば無理をする必要はない」

 

 「うう、田澤に頼りっきりになるのは申し訳ないけど……下手にやったって足手纏いか」

 

 「そんな事は無い、居てくれるだけで気が楽さ。一人でも騙さなくて良い相手が居ると言うだけで、精神的に大助かりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦会議もどきの世間話を終えた俺達は、互いの用事も有り一旦別れた。

今日は宴会が無いし、行動を共にする必要性も薄い。そして、俺はともかく妹紅には寺子屋で子供達の相手をすると言う明確な仕事が有るので、いつまでも油を売っている訳にはいかないのだ。

 

 人里に居ても今の所やる事が無いので、俺は幻想郷の各地を意味も無く訪れていく事にした。

家に留まって過ごすと言う選択肢も有った訳だが、今回は止めておく。目的もなくぶらつく俺の姿は客観的に見て怪しい筈なので、宴会に参加している誰かの目に留まれば注意を引けるだろう。

……そう考えて、手始めに魔法の森付近で無意味に意味ありげな動作を繰り返していたのだが。

 

 

 「……進んで不審な行動を取ると言うのも何だかなあ」

 

 

 誰が通りがかるとも知れない森で、宴会に参加するメンバーが偶然俺を発見すると言う確率は、当然ながら低い。

一応それくらいは流石に見越して魔理沙やアリスの住居が近いこの森を選んだ訳だが、言いようのない虚しさを感じる。

 

 しかし一度始めた事なので、ある程度の時間は続けなければ本当に意味が無い。実際に成果が出るかは分からないが、数分程度では何も起こらないと確実に言える。

『小細工には自信が有る』と自慢げに言っておきながら、結局はこんな訳の分からない事をしている俺を見たら妹紅はどう思うのだろうか…… 内心の恥ずかしさと虚しさを堪えつつ、俺は怪しい行動を続ける。

 

 

 「……貴方、何をしているの?」

 

 「ん? おお、アリスか。ここで会うとは奇遇だな」

 

 

 徐々に自分の思考と行動が馬鹿らしく思えてきて、演技も投げやりになりつつあった所でアリスと遭遇した。

正直もう恥しか感じないが、ここまでの努力を水の泡にしたくはない。さも大真面目に何か行っていた雰囲気を装い、鷹揚に返答する。

 

 

 「ここ最近の陽気で頭をやられてしまったのかと思ったけど、僅かに魔力も漏れていたわよね。何かの儀式だったのかしら」

 

 「まあ、そうだが。君には関係の無い事だ、気にせずとも構わんよ」

 

 

 内心ではアリスの言い分は尤もだと頷きつつ、敢えて素っ気無く言い放つ。言葉自体はどうとでも取れる物だが、口調には詮索を拒むような意図を混ぜ込む。

これでアリスが素直に大人しく退くか、俺の行動の真意に気付いて離れていけば、何も起こらない。だが、もし俺に乗せられ追及をしてくるようであれば……

 

 

 「聞きたい事が有るのだけど。貴方ほどの魔法使いなら、当然宴会の妙な妖気には気付いているわよね。心当たりは無いかしら?」

 

 

 ……悪いがアリスには更なる深みに嵌ってもらう。間違った選択肢を選んだペナルティと言う所だ。

 

 

 「ふむ。悪いが目ぼしい情報は提供出来ないな。しかし所詮は宴会の連続開催を強制する程度の妖気だ、そこまで気にしなくても良いだろう」

 

 「……驚いた。貴方がそんな霊夢みたいな呑気な事を言う人だとは思わなかったわ」

 

 「事実、体力的な問題こそ有れど実害は出ていない。企てた誰かの気が済むまで、騒ぎ続けるのも面白いのではないかな」

 

 「ふうん。企てた『誰か』のね……それにしても、目ぼしい情報を提供出来ないと言う割には随分と訳知り顔で言うじゃない」

 

 

 俺は思わせぶりな素振りで、誤解を招くような言葉を並べていく。

しかしこれは明確に嘘を吐いてまで偽装している訳では無く、俺に対して疑いの目を向けていなければそれこそ『呑気』で済ませられるような物だ。

要するにこれは最後の篩い分け、ここで俺を犯人と判断するかしないかで最終的な対応を決めさせてもらおう。

 

 

 「その誰かさんに伝えておくわ。私は自分自身が踊らされるのは好きじゃないの。趣味の合わない人形劇は即刻取りやめて頂くわよ」

 

 「ん? それを俺に言ってどうするのだ」

 

 「まだ惚ける気? 幻想郷を覆う程の妖気ともなれば、怪しい者は限られてくる。

  今日はその怪しい奴等を訪ねて回ろうと思ってたけど……輪をかけて怪しい事をしている大魔法使いさんを発見したからね」

 

 

 ふむ、アリスはどうやら元々俺に疑惑の目を向けてはいたようだ。まあ、それ自体は間違いではない判断だったのだが……真実に辿り着く前に、目先の情報に囚われたのが失敗だ。

 

 

 「……まあ、君がそこまで言うなら相手をしてやろうじゃないか。果たして『趣味の合わない人形劇』を止める力量が有るのかどうか、見極めさせてもらおう」

 

 

 意識して嘲笑の表情を作り、あたかも自分が黒幕のような物言いで、俺はアリスに宣言する。

しかし冷静に言葉を吟味すれば分かる事だが、俺は自分が犯人だとは一言も言っていない。否定はしていないが、肯定もしていないのだ。

誤解されるよう恣意的に言葉を選んではいる物の、それでもアリスは現時点で客観的な状況証拠を持っている訳ではない。だと言うのに俺を犯人とした辺り、アリスは意外に主観的な判断基準を持っているようだ。

 

 

 「随分な上から目線ね。幾ら積み重ねた年月に差が有るとは言え、その慢心は命取りになるよ」

 

 「慢心でも油断でもない、事実から来る余裕さ。何が有ろうと、君がこの場で異変を解決する事は出来ない」

 

 

 ……何しろ俺は異変の実行犯では無いからな、俺を倒しても異変自体には影響ないのだ。屁理屈だが、一応は事実である。

 

 

 「あらそう。それなら、どちらが正しいか結果で判断する事にしましょうか」

 

 

 我ながら慢心を体現していると思える台詞を受けたアリスは、流石に堪忍袋の緒が切れたようだ。俺を睨みながら、武器を構えた人形を呼び出し戦闘態勢に入る。

逆の立場で考えれば俺だって気分を害する筈なので当然の展開であるが、本心からのたまっている訳では無いので勘弁してもらいたい。……いや、それも別方向に性質が悪いか。

 

 ともかく、アリスは完全に俺を今回の異変の黒幕と誤認した。

この時点で当初の目的は達成されているので、後はどうなろうと構わない。極端な話、勝負など放り出して転移してしまうと言う選択肢も有る。

しかし、それは遠慮しておこう。演技とは言えここまで挑発しておいて逃げるように去るのは幾ら何でもおかし過ぎるし、俺としても年下の魔法使い相手に負けてなるものかと言うプライドが有る。……ああ、弾幕戦であれば話は別だ。これに関してはもう変なプライドを持たない事にしている。

 

 

 「力尽くの勝負で真否を問うと言うのか? 存外に野蛮だな」

 

 「野蛮とは失礼ね、これから殴り合う気でも居るの? どちらが真に余裕を持っているのか、それをこの人形達が証明してくれるわ。……蒼符『博愛の仏蘭西人形』!」

 

 

 一度戦闘態勢に入った事で思考が切り替わったらしく、挑発の効果が薄い。

アリスはスペルカードを掲げ、展開した人形達から無数の弾幕を放つ。……結局弾幕戦になってしまったか。

 

 

 「ふむ、この場合その人形達は使い魔のような扱いになる訳か……成程、中々面白い」

 

 「……やりにくいわね」

 

 

 弾幕戦を普通にやりあっては、黒幕の演技など続けられない。

様子見の攻撃を死に物狂いで避ける黒幕などカリスマの欠片も無いし、攻撃も見かけ倒しでは白ける事この上ない。なので、今回は少し趣向を変える事にする。

 

 

 「人形遣いとしての君には後塵を拝するが、魔法使いとしてなら君より遥か高みに居ると自負している」

 

 「いきなり自慢? 前の魔理沙の戯言も、外れてなかったって事かしら」

 

 「これからの展開に挫折をしないようにと言う親切心からの忠言さ。……『マジカル・マリオネット』!」

 

 

 俺は魔力で一体の人形を生成し、それを実体化させる。どこか骸骨を彷彿とさせる全身鎧を纏い、赤黒い鎌を引きずる、いかにも悪役の風体をした騎士だ。

 

 

 「わざわざ私の分野に踏み込んでくるとはね……後悔させてあげる!」

 

 

 アリスは俺の作り出した騎士人形を見て、その表情を怒りとも喜びともつかない複雑な物に変えた。

そのまま俺と騎士人形の両方を巻き込むようにスペルカードの弾幕を放つが……アリスの弾幕は騎士人形が振り回した鎌によって掻き消され、棒立ちしていた俺に届く事は無かった。

 

 

 「えっ……ちょっと、今のは反則じゃないの!?」

 

 「何を言うのだ、弾幕が使い魔によって阻まれ相手にまで届かないと言うのは良くある事だろう。君だって、今俺が弾幕を放ってもその人形達が壁になるではないか」

 

 「壁と言っても弾幕を放つために用意した使い魔であって、潰されれば私も不利になる。今みたいにあからさまな防御はしないわ!」

 

 

 当然アリスは抗議してくるが、俺は屁理屈で有耶無耶に返す。……これが通らなければ形振り構わずの全力回避を強いられるので、内心で実は必死だ。

 

 

 「今まで誰もしてこなかったとは言え、ルールで規定された違反行為には何も抵触していない。反則ではない、新戦術なのだよ」

 

 「……口の達者な人!」

 

 

 アリスは苛立たしそうに吐き捨てつつ、スペルカードの弾幕展開を続行する。

……抗議を取りやめて攻撃を再開したと言う事は、消極的ながらも今の迎撃を認めたと判断して良いのだろう。助かった、これで俺の無様な回避動作を見せずに済む。

 

 我ながら現金な物で、弾幕回避の不安が解消されると演技にも余裕が出てくる。

魔力で宙に浮かび、まるで見えない椅子に腰かけているかのような体勢でアリスを見下ろす。……一応今までの一連の演技には情報を攪乱すると言う大義名分が有る訳だが、何だか個人的にも楽しくなってきた。アリスには悪いが、俺も大人げなく楽しませてもらおう。

 

 

 「いやはや、中々の人形劇だよ。実に興味深い見世物だ」

 

 「……」

 

 「無視とはつれないね。称賛の言葉だ、素直に受け取りたまえよ」

 

 

 俺の言葉に取り合うだけ無駄だと考えたのか、アリスはもはや反応さえしてくれなくなった。

少し悲しい気はするが、俺がイメージしているのは『傲慢な黒幕』だ。自業自得だし、思い通りの展開になっていると考えれば面白くも有る。

 

 俺は足を組み腕も組むと言う偉そうな態度でその場を動かないが、迫る弾幕は全て騎士人形が切り伏せる。

うむ、言動や人形の風体も相まっていかにも増長した悪役魔法使いと言った姿では無いだろうか。普段の俺とまだあまり交友の無いアリスだからこそ出来る演技だな、これは。

 

 

 「……スペルはこれで終了よ」

 

 「おや、もうお終いかね。だがこれは第一幕と言った所なのだろう? 終幕まで見届けてやるから、早く続きを執り行いたまえ」

 

 「……御代は高く付きますわ」

 

 

 内心でにやけている間に、アリス第一のスペルが終了した。

俺が最後まで被弾しなかった為、アリスは弾幕を避けきられた扱いとなり自動的に次のスペルカードへ移行しなければならない。

 

 

 「紅符『紅毛の和蘭人形』! ……使い魔に任せっきりだなんて、実は貴方弾幕ごっこに自信が無いんじゃないのかしら?」

 

 「くくっ、スペルカードルールとは互いの戦力差を可能な限り是正する為の物だろう?

  今は人形を用いて間接的に勝負をしているが……俺が直接君と相対すれば、勝負になどなるまいよ」

 

 

 これは紛れも無い事実だ。まあ、主語がどちらかと言うと、うん。アリスにはこの上なく驕り高ぶった言動に聞こえるだろうが、実は卑屈極まる発言である。

 

 ……普段の俺が弾幕戦において最も苦手としている回避行動を騎士人形に一任した事で、戦闘は非常に有利に進む。

自信のスペルに関しては相変わらずの物でしかないが、そちらはそれこそ手を抜いていると言い張れば済むのだ。そもそも、今回の俺は被弾させる事による勝利ではなくスペルカードを使い切らせる事での勝利を狙っているので、積極的に攻撃をする必要性も薄い。

弾幕を弾く騎士人形を眺めながら偉ぶった態度で構え、時折後ろに漏れてくる弾も余裕を持って回避。流石に数発程度なら、素の実力であっても楽に避けられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「くっ……これで、私のスペルは全てよ」

 

 

 やがて、勝負には終止符が打たれた。俺は弾幕に最後まで被弾せず、アリスはスペルカードを使い切った事で弾幕戦の続行が不可。俺の勝利である。

……勝ったには勝ったが、爽快感は無いな。一応アリスを言いくるめたが、それでもやはり弾幕を『回避』すると言う前提を崩しているのは事実な訳で、遊びとしては勝利の為に面白さを犠牲にすると言う本末転倒な有様だ。

今回は伊吹の望む方向に展開を進める為、このような形になったが。今後は似たような事が有ってもこのような卑怯なやり方はせず、負けても話を誘導できるような立ち回りを選ぶべきだろう。

 

 

 「……敗者にはかける言葉も無いって訳かしら?」

 

 「ん、ああ、済まない。決してそんな事を考えていた訳ではないよ、今回は悪い事をしたなあと」

 

 

 俺の悪い癖が出た。思考に集中していたせいで決着が付いたと言うのに無反応となり、それでアリスは更に気を害したようだ。

弾幕戦が俺の勝利と言う形で終わったので、暗黙の了解としてアリスはこれ以上『異変』の事を探ろうとはしないだろう。今得た情報を積極的に明かすとも考えられないので、もう黒幕の演技を続ける必要も無い。

俺は頭を下げ、正直に事情を説明する事にした。

 

 

 「今まで散々思わせぶりな事を言って、君を挑発してきたが……実を言うと、今回の異変の主犯は俺では無い。共犯関係と言えば、かなり近い立場では有るがね」

 

 「……それって」

 

 「うむ、俺は真犯人の情報を攪乱する囮のような物だ。黒幕を装い、それっぽい事を言ったりやったり……済まなかった。君を侮辱する発言をしたのは事実だ」

 

 「私、空回りしてたって事……? ああ、もう……言われてから考えれば、『怪しいだけ』じゃないの」

 

 

 アリスは酷く疲れたように呟き、肩を落とす。ついでに周囲に浮かんでいた人形達も表情を暗くして項垂れている。……これはアリスが操作している筈なので、彼女自身が感情表現としてこの動作を取らせている事になる。中々芸が細かい。

 

 

 「だけ、とは言っても犯人の側に居る事は確かだからな。俺自身疑われるように振る舞ったのだし、そう気を落とす事は無い。中らずと雖も遠からず、と言った所では有ったのさ」

 

 「良いように誘導された結果とも言えるでしょう? まるで道化よ、こんなの私の役割じゃない筈なのに……」

 

 

 思った以上にアリスは悔しがっているようで、愚痴っぽく呟き続けている。

しかし、その度に人形達もまたコミカルに悲し気な動作を取るので、意外に余裕が有るようにも見えるな…… 本当に感情が有るのではないかと思わせる程に人形を繰るその技術は、正しく人形遣いと言った所か。

 

 

 「まあまあ。ここまで来たら、いっそ踊れるだけ踊ってみないかね。次の宴会は、今までで一番楽しい物になるだろう」

 

 「……癪だけど、そうさせてもらおうかしら。どうせ犯人捜しからはリタイアだし、せめて他の奴等が同じように迷う姿を見て溜飲を下げるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリスと別れた俺は、その後も各地を巡って同じように怪しい振る舞いをしていった。

しかし幾ら何でも人通りの多い所や住居に直接押しかけて演技していくと言うのは不自然過ぎる為、どうしてもギリギリで人目に付き難い場所を選ばなくてはならない。

多少なりともそれぞれの行動範囲に入る場所を選んでは見た物の、宴会に参加しているメンバーと遭遇すると言う偶然は二回も続かず。結局の所、大口を叩いた割には大して情報を攪乱させる事は出来なかった。

 

 

 「何だろう、かかった手間や疲労感に比して得る物が少なすぎる気がする」

 

 

 夜も遅くなってきた頃、家に戻った俺は今更ながらに呟く。

もう少し考えてから行動すれば、結果は違っていたようにも思うのだが……楽しめる部分が有ったのは事実なので、これはこれで良い事にしよう。

最善の方策を考えそれを正確に実行するよりも、ある程度行き当たりばったりに動く方が幻想郷的と言えるのではないだろうか。……ただ、これを言い訳にするような事が無いようにしよう。

 

 

 「……まあ、なるようになるか」

 

 

 次の宴会までは後二日。伊吹の言っていた事や、実際にアリスが動いていた事を考えれば、他の者達もこの期間で異変の黒幕を探している筈。

それぞれが疑いあう事での衝突は不可避だろうし、俺が強い影響を与えられなくても伊吹が好みそうな展開にはなっていくだろう。どうも彼女達は好戦的だからな。

 

 そんな、楽観的な事を考えつつ……俺は今日一日の精神的な疲れを癒す為に、静かに酒を煽った。

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