~ネギ、その3~
ネギ、明日菜、カモが明日菜のベッドに集合している。
「それじゃ作戦会議いっちょ始めましょうや!!」
「コラッ、このかも居るんだから静かにしなさいよ」
「おっとすまねぇ」
声を潜めてカモが話す。
「いいか兄貴達、俺っち考えたんだがよ、やっぱエヴァンジェリンらとやり合うにはパートナーは必須だぜ」
「それはそうだけど……。でもアンタが言うパートナーって『仮契約』てのをやるんでしょ」
「その通りっすよアスナ姐さん! 兄貴は子供だからまだ『本契約』は出来ねぇが、『仮契約』なら俺っちの仲介でなら可能だぜ」
『契約』とは魔法使いがその従者との間で結ぶものである。
『契約』した従者は魔法使いを守り助ける事になるが、同時に、魔法使いは自身の魔力を従者に与えることで従者の身体能力を向上させられるようになる。
実はカモ、既にこの日、本屋ちゃんこと宮崎のどかをネギと『仮契約』させようとしたのだが明日菜に止められてしまった。
なぜなら、
「ねぇカモくん、『仮契約』ってキ…キスしなきゃいけないんだよね……」
「うーん他にも方法はあるっちゃあるんだがよ。それが一番簡単なんだ」
「だからって本屋ちゃんを騙すような真似して許されるわけ無いでしょ!」
明日菜がカモを両手で掴む。
「へへっ姐さん、それはすんだ事ですぜ。堪忍してくだせぇ」
「このエロオコジョ~!! 女の子のキスを何だと思ってんのよ」
明日菜が顔をひくつかせる。
「まっ、待ってくれよ!俺っちにいい手があるんだ」
「いい手ぇ~~?」
話を聞くためにカモを離してやる。
しかし、カモが話し始める前に木乃香からお呼びがかかる。
「アスナ~、ネギ君~ご飯できたで」
「おっと――詳しくは明日の放課後話すからそん時な」
ニヤリと笑うカモ。
この時、カモが今日一番の悪い顔をしていたことにネギも明日菜も気づいていなかった。
次の日
「―――で、なんで私達こんな事してんの?」
「さあ…」
「兄貴達! 何おしゃべりしてんだ。茶々丸を追いかけんぜ」
二人と一匹絶賛尾行中。
「カモ君、どうして茶々丸さんを尾行してるの?」
「これが、俺っちの作戦なんすよ」
「作戦?」
明日菜が訝しい目でカモを見る。
「名付けて、二人が無理なら一人をボコれ!茶々丸よ年貢の納め時じゃあ、作戦よ」
「はあ!?」
「相手が二人揃った状態じゃ、兄貴がパートナーを伴っても正直厳しい戦いになる。けどよ、だったら片一方を二人でポコッちまえばいいだけよぉ」
カモがグヘヘと汚い笑いをもらす。
「……なんか卑怯じゃない?カモ君」
「そうよ、辻斬りみたいで気分悪いわよ」
流石に抵抗する二人。
「何甘っちょろい事言ってんすか!? 敵は容赦してくれないぜ!」
力説するカモを囲んでいると、輪の外から話しかけられる。
「誰が容赦しないんですか?」
「「「えっ?」」」
そこには尾行していたはずの茶々丸が立っていた。
「くそ気づかれたか! 兄貴、今なら周りに誰もいねぇ!魔法をぶちあてちまえ」
作戦が狂いやけになるカモ。
「そういうことならお相手します」
茶々丸も静かに戦いの構えを見せる。
このまま戦いなると思われたが、
「…………できません」
「ネギ……」
「どうしたんですか兄貴!?」
「僕には攻撃できません――っ!!」
ネギはそういい残して杖に乗って飛び去ってしまう。
「兄貴~~どこいくんすか!?」
「ちょっとネギ――――ッ!」
カモと明日菜の呼びかけむなしく、ネギはどんどん遠くに言ってしまう。
「とにかく追いかけるわよ!」
「合点!!」
明日菜はカモを肩にのせネギが飛んでいった方へ走り出す。
その場には茶々丸だけが残される。
「ネギ先生……」
◇◇◇◇
一方、飛んでいったネギは学園の中心から離れた位置にある森の上にいた。
「はあ~。思わず逃げて来ちゃったけどこれからどうしよう。いっその事このままエヴァンジェリンさんが追いかけてこられない学園の外まで行っちゃおうかなぁ」
日本に来てどうにか教師で認められた筈だったのになす術がない今の状況。
ネギが目を背けてしまうのも当然といえば当然だった。
「お姉ちゃんやアーニャは元気かな……」
そうやって考え事をしていたのが良くなかった。
杖の操作が疎かになった結果、背の高い木に杖を引っかけてしまう。
「しまった!! 高度が低すぎたー!?」
身体だけ放り出されたネギはそのまま地面に落ちていく。
「うわ――――っ!?」
―――ボシャーン
ネギが落ちたのは幸いにも小川だったが、ネギはそのまま意識を手放してしまう。
◇◇◇◇
「ネギ坊主、起きるでござるよ!ネギ坊主!」
「う――ん、あれ……長瀬さん?」
「おお、気付いたでござるか。とりあえず一安心でござる」
「えっと僕は一体……」
まだ頭がぼーっとしている。
「ネギ坊主は拙者が川で魚をとってたら流れてきたんでござるよ」
上流の方を指さす長瀬楓。
よく見ると彼女は忍者が着るような衣装に身を包んでいた。
寝ていた体をゆっくり起こす。
「そうなんですか…助けてもらっちゃいましたね」
「これも修行だと思えばへっちゃらでござる!」
「修行ってちなみに何の修行ですか?」
「それは秘密でござるよ!ニンニン」
「あぁ……(絶対忍者の修行だ―――っ!!)」
「それよりもネギ坊主はどうしてこのような山奥に?」
「あっ……それは……」
まさか逃げて来たとは言うわけにもいかないので言葉がつまってしまう。
「………まあ、言いたくないなら言わなくてもいいでござる」
「すみません…」
楓の配慮にまたしても救われたネギ。
しかし、一安心したと思ったら別の問題が噴出する。
「あれっ!? 僕の杖が…どこかに落ちちゃったんだ…」
空中で放り出されたときに杖がどこかの木に引っかかったのは覚えているがその後どうなったかまでは知らない。
「探し物でござるか?」
楓がネギの顔をうかがってくる。
「あ、はい。大事な杖を森に落としちゃったみたいで……僕行かなくちゃ」
大切な人から貰った杖。
こんな事でなくすわけにはいかない。
一刻も早く見つけだすために走り出そうとするが、
「待つでござるよ。そんなに服が濡れていたら風邪をひくでござるよ」
「へっ? はっ、はっ…はっくしょーん!!」
怪我はなくても川に落ちたのだ。ネギは全身ずぶ濡れのことにようやく気付いた。
「風呂にでも入るか、ネギ坊主?」
「こんな山奥にお風呂があるんですか」
「それは拙者に任されよ!」
楓はネギにここに居るよう言った後どこかに飛んでいってしまう。
比喩ではなく本当にジャンプしたと思ったら楓の姿はそこにはもうなかった。
「長瀬さん……一体何者なんだ」
一人になったネギは川べりの一際大きな岩の上に座る。
「僕の杖どこにいったんだろ? いつもなら目を閉じただけでどこにあるかわかるのに…」
今はまるで霧がかかったように杖の場所が判然としない。
途方に暮れ、暮れなずむ空を見上げる。
既に日は西の方に沈み、夜の闇が森を覆おうとしていた。
しばらく暗闇の中で縮こまっていると楓の呼ぶ声がする。
「ネギ坊主~~! こっちにくるでござる~」
声のする方へと歩いていくとドラム缶に火をくべている楓の姿があった。
「ささ、入っていいでござるよ」
勧められるまま、ドラム缶の中に入る。
「あっ! 気持ちいいです。これが露天風呂なんですね」
少し熱めのお湯が川の水で冷えた体を温めてくれる。
山奥ではいるお風呂は寮の大浴場とは違った趣があり、特別な感じを抱かせる。
ネギも先程までの暗かった気持ちが嘘のように初めての体験を満喫していた。
「喜んでくれたようでござるな。どれどれ、拙者も失礼して…」
いつの間に服を脱いだのか楓も一緒に入ってくる。
これが早脱ぎの術だというのか?
「いいお湯でござるな~」
「ソウデスネー」
楓は気にしていないようだが、ネギは結構恥ずかしかった。
二人は話すこともなくただただお風呂に入る。日はもうとっぷりと暮れ、星がよく見えた。
「ありがとうございます長瀬さん。助けてくれただけじゃなく、こんな事までしてくれて…」
「なんの、大したことではござらんよ」
「スゴイですね……長瀬さんは」
「…………胸がでござるか?」
「ええっ!? ち、違いますよ~(確かにアスナさんよりはおっきいかも…)」
頭の中で以前見た明日菜のものとついつい比べてしまう。
「へっ……くしっ!」
「姐さん風邪っすか?」
「いや、誰かが私の噂してるんだわ、きっと」
「へへへっ、姐さん冗談きついぜ――「あぁ゛?」――ウソです」
「バカ言ってないでネギがどこ行ったか考えなさいよ」
「もう寮に帰ってるんじゃねぇか? 俺っち達ももう帰ろうぜ。あれから走り回ってクタクタだ」
「走ってたのは私なんだけど……」
「そうじゃなくて…突然来たのに理由も聞かずに優しくしてくれて、中3とは思えないくらい頼りがいがあるじゃないですか。尊敬しちゃいます」
「そんな事言ったらネギ坊主だってサイ坊と一緒に先生頑張ってるではござらんか」
「そんなことないです。一人では何もできないし…今日なんか故郷に逃げ帰ろうとしたんです」
堰を切ったようにネギの思いが言葉にのって溢れてくる。
「僕今まで何でもできるっていい気になってたんだと思います。だけど新学期になって僕一人じゃどうしようもない問題にぶつかったら慌てるばっかりで。その問題に正面から向き合おうともしなかった」
ネギの肩が震える。
これまで、魔法学校を随一の成績で卒業し、日本に来てからもここまでうまくやれた。
だから、ネギにはこれからもやっていく自信があった。
けれども、エヴァの一件でそれが井の中の蛙と同じだと知り自らの無力を痛感した。
ネギをそっと抱き寄せる楓。
「落ち込む必要ないでござるよ、ネギ先生」
「な、がせ…さん?」
「何でも一人でできる人なんていないでござる。拙者だってまだまだ未熟で出来ないことは山ほどあるでござるよ……。ましてはネギ先生は10歳ではござらんか」
ネギの頭を撫でながら優しく伝える。
「―――だから逃げたっていいんでござる」
「でもいつまでも逃げてはいられないですよ」
今もいつ何時エヴァ達が襲ってきてもおかしくない。
「だったらみんなで立ち向かえばいいでござるよ」
「……みんなで?」
「そうでござる。一人で超えられない壁は二人で。二人で駄目なら三人で。そうやって助け合えば越えられない壁はないでござる」
「でも……僕一人の問題に誰かを巻き込むのは――――」
「―――迷惑がかかる、でござるか?」
楓はネギの考えを先読みする。
まるで忍者のようだと思いながらネギは頷く。
「それではネギ先生。拙者達に授業しているときにネギ先生は迷惑だと思ってるでござるか?」
「そんなこと無いです。僕は皆さんの担任で英語の先生です。授業するのは当然です」
「それと同じでござるよ」
「同じ……?」
「そう、先生が生徒に授業するのが当然なように友達が困っている友達を助ける。これは友達として当然の事ではござらんか? 迷惑とか巻き込むとか関係ないでござるよ」
『迷惑かけ合うのが友達だよ、ネギ!!』
以前そう言ってくれた友達の顔が浮かぶ。
「ネギ先生にはそんな友達がいたはずでござろう?」
ザバァ、とネギはお湯から出る。急いで体を拭き、服を着る。
「行くでござるか」
「はい。長瀬さんのおかげで大事なことを思い出しました」
「あいあい。いい顔になったでござるよ。ここに来たときとは大違いでござる」
「それじゃ!!」
楓に別れを告げ、川岸まで出てくる。
今なら見つけられる。
目を閉じ精神を集中する。
「(……見つけた、僕の杖)」
杖を感知し、手元に引き寄せる。
「思ったより近くにあって良かった」
灯台下暗し。
探すべきものはえてして一番近くにあるものだ。
けれど、それに気づくためには一旦そこから離れる必要がある。
まるで青い鳥の話のように。
杖にまたがり一気に上昇する。ネギは森の木々をはるかに超え、学生寮へと全速力で飛んでいった。
◇◇◇◇
サイは寮の部屋の前でネギを待っていた。
「(ネギが助けを求めてこなくても、勝手に守ってやる)」
そう決意したはいいが肝心のネギがいなかった。
もどかしさを紛らわせていると明日菜とカモがやってくる。
「あんた部屋の前で何してんの?」
「アスナ姉さんこそどこ行ってたの?」
そこで、お互いのここ数日を話し合い、連れ立って寮の屋上に上がる。
「あのバカはあっちの方に飛んでいったと思ったんだけどなぁ」
明日菜が遠くの森を指す。
「俺っち達もずいぶん探したんだが、兄貴はどこにも……まさかエヴァンジェリンに捕まったなんてこたぁねぇか?」
「変なこと言わないでよ……」
最悪の考えが出始めた時、サイが何かに気づく。
「二人ともあれ見て!!」
「おいおい、あれって……」
「「ネギ!!」」「兄貴!」
あっという間に屋上まで飛んできたネギがその場に降り立つ。
「ネギ!! 一人でどこほっつき歩いてたのよ!」
明日菜がズンズンとネギに近づく。
「いやぁ~兄貴が無事でよかったぜ…」
胸をなで下ろしたカモはタバコに火をつける。
ネギは詰め寄る明日菜をおいて、サイに向かって、
「サイにお願いがあるんだ! 僕と一緒にエヴァンジェリンさんと戦って欲しい!!」
声を張り上げ真剣に頼み込む。
「アッハッハッハッ!」
サイが大きな声で笑う。
不思議に思うネギにサイが答えてあげる。
「えっとね、実は僕もネギに『僕はネギを勝手に守るから! ネギの意志は関係ないからね』て言うつもりだったんだ」
「あんた達は同じ様なこと考えてたってわけ」
明日菜が嬉しそうに笑う。
「なんだ~断られると思って緊張したのにー」
「そんじゃネギ、私たちも『仮契約』しちゃいましょ」
「え?アスナさん……いいんですか?」
「良いも悪いも私の好きでやることなんだから、ネギは心配しないの」
「よっしゃ、俺っちの出番だな!」
カモが待ってましたと契約の魔法陣を描いていく。
その中心にネギと明日菜が立つ。
「準備オッケーだぜ兄貴。ぶちゅーとやってくれや! アスナ姐さん、おでこでごまかそうとすんなよ」
「チッ!」
「アスナさんやっぱり無理にやらなくても……んっ!?」
「おおっ!『仮契約』―――!!」
かくして紆余曲折を経て、ついに一致団結したネギ達。
決戦のときが近づく・・・・・・