英雄の息子と麻帆良の子   作:お~い紅茶

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エヴァンジェリン編 ~幕間/夢 ~

 

 

 

 

 

 

―――― 誰も彼もと同じように

 

 

 

―――― 少女は夢を見る。

 

 

 

 

 

―――― 少女の記憶をなぞる夢物語。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

ある時、今では遙か昔だが、その少女は不死身となった。

 

なぜそうなったかはわからない。

特に望んだ訳でもないし、自分に理由があると思えなかった。

 

 

ともかくその日、少女は人ではなくなった。

 

初めはこの不幸な運命を呪った。

自分をこんな目に陥れた奴を憎しみもした。

だけれども、少女は自分を元に戻す方法が必ずあるはずと希望を持っていた。

 

そして、少女は一人、旅に出る。

 

 

 

 

 

しかし、時は思いを風化させていく。

孤独に世界をさすらう内に、時間は残酷に少女からあらゆるものを奪う。

 

 

 

100年で 呪い続ける気力が失せた。

 

 

 

200年で 憎しみの牙が殺がれた。

 

 

 

300年で 希望は潰え、

 

 

 

400年で 生きる意味を忘れた。

 

 

 

500年で 絶望した。

 

 

 

 

そうして、600年経ったある日。

 

少女は切り立った崖から落下した。

 

ちょっとした不注意だったと思う。

あるいは無意識的な死への渇望だったのかもしれない。

 

 

『このまま死んでくれたら楽なのに……』

 

 

600年唯一願い続けた。

 

 

だが、少女は死ねない。

その度に少女は思う。

 

 

 

『死ぬことが人が生きていた証なら。死ねない私は生きていない』

 

 

もはや自分の生死すら判別がつかなくなってしまった。

 

 

 

眠るように目を閉じ、浮遊感に身を任せる。

 

その時、何者かに手を掴まれ落下が止まった。

 

目を開けると、一人の男が眩しく笑っていた。

 

 

 

「危ねぇな! お前死んじまう所だったぞ」

 

 

 

 

 

それが出会い。

 

 

 

 

 

その出会いが少女に今一度人だった頃を思い起こさせた。

灰色だった世界にその男が色を塗り直したのだ。

 

そして少女は、まるで恋する乙女のようにその男の後を追い続けた。

 

 

来る日も来る日も。

 

 

 

来る日も来る日も。

 

 

 

 

来る日も来る日も。

 

 

男は迷惑そうにしていたが、何だかんだ相手をしてくれた。

 

 

彼には言わなかったが、彼との旅は孤独という砂漠を旅してきた少女にとってのオアシスだった。

男とのやり取りは少女の渇ききった心を潤し、男の笑顔は少女にも笑みをもたらした。

 

 

 

 

 

けれど、その旅も極東の島国で終わりを迎えた。

 

その時、男は少女に言った。

 

表の輝く世界を知れと。

少女が旅してきた裏の、闇の世界を離れるべきだと。

 

 

本当は嫌だった。

 

そんなもの知らなくてもその男のそばに居るだけで充分救われていた。

 

今更離れることは出来なかった。

 

もう失いたくなかった。

 

けれど、男は無理やり少女をその世界に放り投げ、去ってしまった。

 

 

 

「そんな顔するな! すぐに戻ってきてやるよ」

 

 

 

別れ際、そう言ってぶっきらぼうに頭を撫でていた男の手は暖かかった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

少女は目を覚ます。

 

その後がどうなったかはよく知っていた。

その男の約束は未だ守られずにいる。

その男――サウザンドマスターは少女を残し、どこかへ消えてしまった。

 

 

だが、10数年経った現在に少女は機会を得た。

一人でこの眩しい世界を抜け出し、彼の元へと飛んでいく機会を。

 

 

 

そして今、機は熟した。

 

 

「マスター、準備完了しました」

 

「そうか……。ご苦労だった茶々丸」

少女――エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルはその従者絡繰茶々丸の差し出す闇の衣を身に纏う。

 

 

「では……いくぞ!!」

吸血鬼の『真祖』【闇の福音】は心地よい夕闇の中、衣をはためかせて躍り出ていくのだった。

 

 

 

 

 

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