英雄の息子と麻帆良の子   作:お~い紅茶

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VSエヴァ 始まります


エヴァンジェリン編 大停電の夜に ①

 

 

 

 

麻帆良学園都市はその大きさ、規模故に通常の学校では見られないような行事がある。

 

その一つが『学園都市大停電の夜』である。

 

実際ある種の街と化している学園都市だが、街の各所への送電施設は数える程しかない。

当然普段は無休で稼働しているそれらも、年二回、春先の新学期と冬休みに入る前の週末に全機能を止めてのメンテナンスが入る。

よってその日は麻帆良全体で停電となる。

ちなみに、停電となるのは夜8時~12時の間。その間は学生寮の明かりはおろか、街中の明かりが消えてしまうのだ。

 

 

「―――という訳ですから、皆さんも停電の間は外出禁止ですからね!」

「はーい」

ネギが帰りのホームルームで生徒達に説明している。

こういった連絡事項は基本的に担任のネギが伝えることになっている。

 

「それではこれでホームルームを終わりにします。さようなら!」

ネギの挨拶と同時に生徒達が席を立ち教室から出て行く。

 

何やら慌ただしく出て行く彼女らを見ていると明日菜が訳を教えてくれた。

「停電の日はね購買で停電セールやるのよ。ろうそくとか懐中電灯とかを安く売るわけ」

「みんな内心はちょっとしたお祭り気分って感じなんだよ」

そう言うサイは流石育ちが麻帆良なだけある。

要は経験者は語るというやつだ。

 

「ところで、最近エヴァンジェリンはどうなのよ兄貴」

明日菜の肩ごしにカモが三人にだけ聞こえるように話す。

「『登校の呪い』があるから学校には居るはずなんだけど授業にはほとんど出てないしなぁ」

「僕の数学もそんな感じかな」

ネギとサイの返事は芳しくない。

 

四六時中、エヴァを監視できるのがベストなのだがそうもいかない。

授業時間以外にもネギ達には仕事があるので常時エヴァを監視する事はできない。

しかも、たとえできたとしても確実にバレる。

 

「今は辛抱の時ってか……」

カモが腕を組んで唸る。

 

「いいか兄貴達、奴さんたちが何を企んでるかわからねぇが近い内に仕掛けてくるのは間違いない。その時は作戦通りにな」

ネギ、サイ、明日菜が頷く。

 

「それじゃあ僕とサイは停電中の学園見回りの当番があるのでこれで……」

「カモ君はこっちにきてね」

サイが明日菜の肩から自分の肩にカモを移す。

 

 

その数時間後、カモが予想していたよりもずっと早く作戦は始動することになった。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「夜の寮っていつも見てるはずなのになんだか不気味だよね…」

「たしかになかなか怖いね」

ネギとサイが連れ立って見回りをしている。

二人の持ち場は学生寮街の周辺でそろそろ引き上げようというところだった。

 

「むむむ………」

「どうしたのカモ君?」

今はサイの肩に乗るカモが眉をひそめる。

「俺っち達オコジョ妖精は一際魔力には敏感な種族でよ……感じねえーか?」

 

カモ達オコジョ妖精は人間よりも魔力というものを強く感じる生き物である。

ネギやサイも魔法探知といった形で魔力を感知できるが、その精度は距離が離れるほど反比例していく。

その点、カモ達は遠くの魔力も高い精度で感知できるのだ。

ちょうど犬が人間よりも嗅覚に優れているのに似ている。

 

「……感じるって何を?」

サイが恐る恐る尋ねる。

 

まさか魔物の類ではないだろうか?

 

「いや。魔物ならまだいいぜ」

カモが自らのしっぽを前に出す。

「見てくれこのしっぽの反り具合を……こいつぁかなりの大物だぜ」

 

いつもは『柔らかい~っ』と言って木乃香が撫でているカモのしっぽ。

今では針金でも入ったようにビィィンと起っている。

「もしかしてエヴァンジェリンさん?」

ネギが言う。

「そうかもな、この魔力が奴のだってんなら納得できる」

カモも同意した時点で二人はほぼエヴァだと決めていたが、さらにだめ押しが入る。

 

 

「――――ネギ・スプリングフィールド……」

「何だっ! ってまき絵さんっ!?」

サイもびっくりした。

なぜなら、三人の前にまき絵が立っていたから。

 

…………全裸で。

 

 

どう考えても様子おかしいが彼女はそのままに語り出す。

「時ハ来タ……エヴァンジェリンA・K・マクダウェル様ガ貴様ニ戦イヲ申シ込ム……」

「10分後ニ大浴場マデ来イ……」

 

「一体これは……?」

突如として現れた全裸のまき絵。更にはエヴァの事を喋り出す状況にネギが困惑する。

 

「分かった! まき絵さんは僕達がこの件に関わることになったきっかけでエヴァさんに噛まれてる!」

「なるほどな、だからあの娘はあんな様子なのか」

サイとカモは理由に思い至ったようだ。

未だ理由がわからないネギがサイに聞く。

 

「どういう事?」

「僕はこの数日吸血鬼について調べてたんだけど、僕が目を通した本やネットのあらゆる吸血鬼に関する媒体にはこう書いてあったよ」

 

 

『吸血鬼に噛まれた者は吸血鬼になる』

 

 

「つまり、まき絵さんはエヴァさんの操り人形なんだ」

「えっ、うそ!?」

「嘘かどうか見てみろよ」

 

「じゃ――ねネギくーん! 待ってるよ―――っ!!」

そう言ったまき絵はどこに隠していたのか、新体操で使うリボンを使ってあっという間に寮の屋根を登り消えてしまう。

 

「な゛っ!?」

「ほらな、人間技じゃねぇ。半吸血鬼化はしてるなあの姉ちゃん」

 

「でもまき絵さんを保健室で見たときは魔力の残り香だけで……」

「僕もだよネギ。まき絵さん達の部屋にお見舞いに行ったけど何も感じなかった」

「やつの魔力が封じられてたのが仇になったんだよ。潜伏していて兄貴達にも気づかれなかったんだ」

 

「と、とにかく、エヴァンジェリンさんが僕達に勝負を申し込んで来たんだ……」

「それも、どうやってか魔力も回復させてね」

本当にエヴァが吸血鬼の力を取り戻しだとしたらネギは分が悪い。

 

「だったら俺っち達はチームで戦おうぜ!!」

 

しかし、カモの言うとおりネギには仲間がいる。

「よし!確かこの辺にと……あったあった!」

ネギが寮の建物の影から大きな袋を引きずり出した。

袋には『VS エヴァンジェリンさん』と丁寧に書かれている。

 

「ネギ……どこにそんなに大きいの隠してたの?」

「実は前からこの時の為に準備してたんだ」

袋の中には今どき珍しい魔法道具や、魔法薬がぎっしりつまっていた。

 

「とにかく時間がない。カモ君はアスナさんに知らせて例の場所に連れてきて!」

「僕とサイは作戦通りにエヴァンジェリンさんを誘き出すから」

「任されたぜ! 兄貴達も気をつけろよ!」

カモは寮の部屋にいる明日菜を呼び出しに行く。

この勝負、ネギと『仮契約』した明日菜も必要になるだろう。

 

「ネギ、準備オッケー?」

「大丈夫だよ。急ごう!」

ネギとサイは二人で大浴場へと駆け出すのであった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

女子中等部学生寮の大浴場はその広さが自慢であるが、停電中のひっそりとした雰囲気はかえって不気味さを助長していた。

 

 

「どこですかエヴァンジェリンさん! まき絵さんを解放してください」

 

「ふふ……ここだよ坊や」

声とともに大浴場に明かりが灯される。

「善く来たなネギ先生……おや?サイ先生までいるじゃないか」

大浴場の中央に茶々丸と並ぶエヴァが少し驚く。

 

「ネギは別に一人で来いなんて言われてないですよね」

サイが前に出て言う。

「おい、坊やそれでいいのか?私は容赦しないぞ」

「……構いません」

ネギの目に躊躇いは無いことがエヴァにはすぐわかった。

 

「(チッ、まさか、二人がここまでが団結してくるとはな)……茶々丸!!」

エヴァが指を鳴らす。

するとエヴァの背後からメイド服を着た茶々丸が姿を現す。

と同時にネギ、サイを取り囲むように佐々木まき絵、明石裕奈、大河内アキラ、和泉亜子がこれまたメイド服で現れる。

「待ッテタヨ先生」

「センセ…遊ボ…」

 

「ネギ、まき絵さん以外の三人も操られてるみたい」

「そうみたいだね…」

 

「さて両先生方、満月の前で悪いが……今夜ここで決着をつけさせて貰うよ」

「わかりました。でも僕達が勝ったら悪いことはやめて授業にでてもらいます!」

ネギが杖を握り直す。

 

「ネギを守って茶々丸さんのお茶を飲ませてもらいます!」

サイも身構える。

 

 

「ならば……やれ!! わが下僕達よ」

 

闘いが始まる。

まずはエヴァの号令を合図に周囲のまき絵達がネギとサイに迫ってくる。

ここで、サイは箒に魔力を込め上に逃れるがネギが捕まってしまう。

 

「ソレ~~脱ガシチャエ!」

メイド服姿の運動部四人娘に装備した魔法道具を取られてしまうネギ。

 

「ネギッ! 掴まって!」

難を逃れたサイが四人を振り切ってネギを自分の箒の後ろに引っ張り上げる。

「ありがと、サイ」

「お礼は後で。それよりも後ろを何とかして!」

床スレスレを飛行するサイの後を追いかけるメイド達。

 

エヴァはそれを笑って見ている。

 

「ほらほら、ちゃんと逃げないと捕まってしまうぞ」

 

室内で箒に乗っても速度が出せない。

それに比べ、半吸血鬼化している彼女達は身軽に追いかけてくる。

「待ッテ―――ッ!」

徐々に両者の距離が狭まる。

後少しで後ろのネギに手が届いてしまう。

その時、ネギが残っていた魔法薬を投げ魔法を発動させた。

 

【風花・武装解除】

 

魔法薬は空中で破裂し、風が巻き起こる。

風は追っ手の服ごと吹き飛ばす!

 

「きゃあっ!?」

「まだです!」

続けて詠唱を始める。

「 ラス・テル・マ・スキルマギステル 大気よ水よ 白霧となれ 彼の者らに一時の安息を 【眠りの霧】!」

 

相手を眠りに誘う魔法。

半吸血鬼化しているとはいえ、彼女達も大事な生徒であるから傷つけずに戦闘不能にする。

霧を吸い込んだ者から倒れていくのを、サイは杖を振って順々に大浴場の隅にかためて寝かせる。

「フ……やるじゃないかぼーや達。では本番といこうか?」

 

「失礼します、先生方」

いよいよ、エヴァと茶々丸が動き始めた。

 

「リク・ラク・ラ・ラックライラック 氷の精霊17頭 集い来たりて 敵を切り裂け 」

 

エヴァが呪文を唱える間、茶々丸が前に出てネギ達を牽制する。

 

「ネギ! 作戦通りに」

「分かった!」

 

ここからはネギも自分の杖に乗り換える。

 

そうこうしている内にエヴァの魔法が放たれる。

「これをどう避ける? 【魔法の射手 連弾・氷の17矢】!!」

エヴァンジェリンA・K・マクダウェルが最も得意とするのがこの氷系魔法であり、作り出された鋭い氷柱が襲う。

 

「テ・トレス・テ・テラトゥルーツリー 光の精霊3柱 集い来たりて 敵を射て 【魔法の射手 連弾・光の3矢】」

 

サイも魔法の射手を放つがそれはエヴァにではなく大浴場の採光窓に向かう。

 

「ネギもあそこから外に!」

 

追尾する魔法の射手を受けるのに狭い室内はやりにくい。

サイは外への逃げ道を先に作ったのだ。

 

サイの魔法が窓を破り、二人で大浴場を飛び出す。

 

 

この時ネギが先行し、サイがぴったりと後ろに付く。

 

 

 

 

 

これが、作戦その1。

 

ネギが明日菜と『仮契約』したあの夜、そのすぐ後にエヴァンジェリン対策会議がネギ達のロフトで行われた。

 

 

参謀長(仮)であるカモが作戦を提示する。

「いいか兄貴達、まず、あのエヴァンジェリンを相手取る以上魔法の打ち合いは避けらんねぇ……」

「そうだね」

ネギが言うとサイも肯く。

「そこで俺っちはネギの兄貴とサイ兄貴の役割分担が有効だと考えた」

「役割分担ってどういう事なのよ?」

横で聞いてた明日菜がネギ達の代わりに問うた。

「具体的に言うとだな……兄貴達のどっちかがオフェンス。もう片方がディフェンスをするんだ」

 

カモの作戦はこうだ。

エヴァが魔力を封じられているいないに関わらず、ネギを襲うのに魔法が使えない状態は有り得ない。

そうなると、エヴァとの魔法の応酬となるが、相手は【闇の福音】とまで呼ばれる猛者だ。

ネギとサイの連携なしには彼女の攻撃を凌ぐのは難しい。

そのため、あらかじめ二人の間で役割を分けておき、連携をスムーズにしようというのだ。

「いいねその作戦!」

サイが感心する。

「それじゃ、サイどっちにする?」

「ここは、僕がディフェンスやるよ。理由はネギの方が攻撃魔法上手いのもあるけど……」

「ネギは僕が守るって決めたから」

 

 

 

 

 

大浴場を飛び出した二人は追尾するエヴァの魔法の射手から逃げている。

「サイ! これを!!」

ネギが後ろ手である物を手渡してくる。

見てみるとネギが用意した魔法道具の一つ、魔法銃だった。

機構は通常の銃と同じだが、銃弾に魔力を用いる点で異なる。

「よく狙ってぇ~……どうだ!!」

サイがドンドンッ、と連射する。

魔法銃から発射された魔力の塊が追いすがる氷柱とぶつかり相殺していく。

 

 

「マスター、全弾撃破を確認しました」

「ほう……どうやった?」

「―――破壊したのはサイ先生で、ネギ先生の魔法銃を使用したようです」

エヴァも茶々丸を引き連れてネギ達を追いかける。

「魔法銃? また珍しいアンティークを持ち出したものだ」

そういえば、さっきの大浴場ではよくわからなかったが色々装備はしていたなと思い出すエヴァ。

「ネギ先生方は、図書館島方面に移動中です」

「どうやら、少しは考えがあるらしいな……だが、そう易々と思い通りにさせんぞ」

手を前に向け魔法を放つ。

 

【魔法の射手 連弾・闇の17矢】

 

魔法の射手、闇のバージョンだ。

暗黒の弾丸が夜陰に紛れて、サイに迫る。

 

 

魔力の接近を察知したサイが背後に、

 

「これぐらいはっ!【風盾】!!」

 

幾重にもなる魔法障壁を展開する。

またしても、エヴァの魔法が防がれる。

しかし、今度はそれだけではなかった。

 

 

「ラス・テル・マ・スキルマギステル 【魔法の射手 連弾・光の11矢】!」

「何っ!? このタイミングで反撃してくるか!――【氷盾】!」

 

こちらの攻撃をサイが防いだとほぼ同時のネギの反撃。

 

防ぎはしたものの意表を突かれたのは確かだった。

 

今の攻防を俯瞰していた茶々丸が分析。エヴァに報告する。

「マスターの最初の攻撃ですが、魔法銃を所持していたネギ先生でなくサイ先生が対処した事。さらに二度目の攻撃もサイ先生が防ぎ、間髪入れずにネギ先生が反撃した事。以上から先生方は攻守の担当を分けているのかと」

 

「(なるほど……それならば、最初からネギ、サイという順のまま飛んでいる事と一致するな)」

実を言うと、この勝負エヴァは簡単に決着が付くと思っていた。

しかし、相手の未熟な魔法使いは予想しなかった善戦を見せている。

 

 

「クックッ……アハハハッ!」

エヴァの高笑いが夜空に響き渡る。

「……マスター?」

「いやなに、こんなに心踊る勝負ができるとは。良くやるよ、あのぼーや達は」

「楽しんでいるのですか?」

「久しぶりに魔力を存分に振るえるのだ、楽しまない手はあるまい?」

 

ネギの父サウザンドマスターにかけられた呪い【登校地獄】はエヴァの身体を15年間も麻帆良の地に縛り付けていた。

さらには、エヴァの魔力を押さえ込む厄介なことこの上ない呪いなのだ。

 

今回ネギの血を狙うに当たり、その魔力を如何にして確保するかがエヴァ最大のネックであった。

学園の生徒を桜通りで襲ったのも、魔法薬を多用していたのも魔力不足を補うための方法として行っていた事だ。

 

だが、それでも魔力は不足した。

ネギと初めて接触した夜に遅れをとったのがいい証拠だった。

 

しかし、ここでエヴァは考えた。

これはいくらなんでも抑えられすぎだと。

元々が高いエヴァの魔力をかの呪いだけでここまで抑えられるのはおかしい。

 

そこで、エヴァは茶々丸を使い原因を突き止めさせる事にした。

時間は授業をサボっているからいくらでも作れていた。

 

程なくして原因が明らかとなる。

 

「……予想通りですマスター」

中等部のPCルームの一台にアクセスしながら茶々丸が検索の結果を告げる。

「どうやら学園にはマスターの魔力を抑える『結界』が張り巡らされています。しかし、この結界は大量の電力を消費するようです」

「ふん、10年以上気づけなかったとはな。魔法使いが電気にたよるのか……えっと、ハイテクってやつか?」

「私も一応そのハイテクですが……」

 

ハイテクの力がエヴァを抑えつけていたが、それを解き放つのもハイテクだった。

 

エヴァは茶々丸に命じ、『大停電の夜』に学園結界を維持する予備電源システムをハッキングさせた。

こうしてエヴァの魔力は回復したというわけだ。

 

 

 

 

「楽しまれるのは結構ですが、残り時間にご注意を……」

停電が直ってしまえばメインシステムが復旧し、『結界』も戻ってしまう。

「わかってる! だがまだまだ楽しませてもらうぞ」

 

久々の魔法での戦闘からくる高揚感。

それだけではない。

サウザンドマスターの息子と言うだけはあるネギと、自分を『真祖』だと知った上で立ち向かってくるサイ。

未熟である二人が一体どんな手を尽くしてくるのか?

純粋にエヴァがネギ達に興味を示していたことが彼女を上機嫌にさせているのだった。

 

 

 

 

 

 

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