いまさらだけれど、原作と多少設定に違いがあるかもしれない。
大きな矛盾にならないことなら目を瞑ってほしいっす・・・
~~サイ、その1~~
桜通りの吸血鬼の噂に魔法使いの影があることに気がついたサイとネギは別々に行動し、その真相を調べることになった。
サイの担当は噂の吸血鬼に襲われた被害者の女の子から話を聞き、情報収集することだ。
早速、学内にいる生徒に片端から声をかけていくが、
みんな噂の内容は知っているものの肝心の襲われたという人を知っている者は誰一人としていなかった。
「早くも手詰まりだぁ……」
職員室の自席に座り学内を歩き回った疲れを癒やす。
「(どうしよう……結構色んな人に聞いてみたけど誰も知らないって言うし。せめて 誰が襲われたか分かればいいんだけど……)」
「サイ先生~今日の出席確認表提出して下さいね~」
「あっ、はい!」
出欠席の記録を管理する事務の人に催促される。
クラスの遅刻、欠席者を記入してある表を毎日提出しているのはサイだった。
「えーと、今日の遅刻はまき絵さんで………まき絵さんだっ!!」
職員室で大声をあげるサイ。
びっくりした他の先生がサイの方を何事かと見てくる。
「すいません(そうだよ! まき絵さんが襲われたかもしれないから調べてるんじゃないか。灯台下暗しとはまさにこの事!)」
興奮して口調が変になっているが気にしない。
名簿でまき絵の寮部屋の部屋番号を調べ、家庭訪問と称し噂について聞こうと考える。
「(善は急げだ!)」
取るものもとりあえず、職員室を出て行くサイ。
この時まだ日は傾き始めたばかりだった。
女子中等部寮――――
サイはまき絵の部屋の前に立っていた。
「ごめんくださ~い、家庭訪問です!」
インターホンを押しながら声を出す。
すると、
「はーい。あれっサイ君やんか、どないしたん?」
サイを出迎えたのはまき絵ではなく、同室の和泉亜子だった。
「どうも。まき絵さんが心配で……お見舞いと何があったのかお話を聞かせてもらうのを兼ねた家庭訪問です。」
「ホンマかーわざわざありがと!」
亜子は快く部屋へと案内してくれた。
二人部屋だからかサイが住んでいる明日菜達の部屋に比べるといくらか狭い。
壁にはまき絵の新体操をしている写真や亜子と一緒に撮った写真なんかも飾ってあった。
「こんばんは、おじゃましますね、まき絵さん」
「あっ! サイ先生だ――どうしたの?」
テーブルにお菓子を広げているまき絵が元気よく迎える。
「まき絵が心配でお見舞い来てくれたんやで」
亜子が代わりに答えてくれる。
「具合はどうですか? 桜通りで寝てたらしいですけど……」
「うーん、見ての通り特にはないから安心して! でもなんで外で寝ちゃったか分かんないなぁ」
「………何も覚えてないですか?」
「そうだね……昨日の夜に桜通りを通ったのは覚えているんだけど」
「そうですか。 でもまき絵さんが無事で良かったです。 もう、次からは気をつけてくださいよ!」
腰に手を当てて先生らしく注意するサイ。
「は―――い!」
「うん、よろしいです! それじゃ、僕はこれで」
「もう帰っちゃうの? お菓子とかジュースもあるよ!」
まき絵が引き止める。
「すいませんまき絵さん。明日の授業の準備もあるので……」
「そっかーそれじゃあ仕方ないね」
「おじゃましました」
サイはバイバーイと手を振る二人に軽くお辞儀して玄関を出る。
「まき絵さんも何も覚えてないか………」
手がかりに思えたまき絵の話だったが、まき絵は何も覚えていないと言う。
しかし、まき絵が何者かに襲われたのはまき絵に残る魔力が示している。
この事はネギも同意している。
「もしかしたら、事件の被害者は犯人に記憶を操作されている……?」
噂は学内に広まっているのに、被害者は見つからないという奇妙な状況。
もし、被害者に襲われた自覚が有るならばすぐに名乗り出てもおかしくない。
それなのに、半日以上探しても一向に見つからないのは被害者自身が襲われた事を覚えていないからではないだろうか?
だとしたら、その状態を作り出したのは?
もちろん犯人である。
前にネギとの魔法練習の時に記憶を操れる魔法なるものがあると聞いた。
もし犯人が必要以上に騒ぎ立てられてしまうのを防ぐためにこの魔法を使ったとしたら今の状況を説明できる。
「そうなると、相手も魔法に長けている事になるな」
顎に手を当てながら、サイは薄暗い寮の廊下をコツコツと足音をたてて歩く。
そうこう考えている内にいつの間にか明日菜達の部屋、つまりサイが住んでいる部屋の前に来ていた。
「そういえば、木乃香姉さんには遅くなるからご飯いらないって言っとかないと」
これ以上は情報収集がはかどらないと割り切り、この後は外に張り込んでいるネギの応援に行こうと決めドアノブをひねる。
が、しかし
「あれ? 鍵かかってる……」
外はもう日没しかけているのにまだ誰も帰って来てないらしい。
「買い物でもしてるのかな?」
仕方ないので貰っている合い鍵で鍵を開ける。
ドアを開けると室内にはサイの予想通り誰もおらずシーンとしていた。
「どうしよう……書き置きしとけばいいかな?」
サイは木乃香の机の上に自分とネギが遅くなる旨を伝える紙を置く。
明日菜に言わないのはご飯を作るのがいつも木乃香だからだ。
書き置きを残した後、サイはネギへの差し入れにサンドイッチを作り再び家を出ようとする。
「おっとっと、万が一のために杖と箒は持って行こう」
サイの杖は練習用の先に三日月がついた物だが、箒(主に移動に使う)は学園長が昔くれた、普段は短い棒のようでポケットに入れられるが、魔力を込めると空飛ぶ箒に変身するという優れものだ。
普段は、ネギとの練習の時にしか使わないのでネギと共有しているロフトの奥にしまっている。
「せっかく携帯できるタイプだし、今後こういう時のために僕も持っておこ」
明日菜に魔法のことがバレて以降、もうあまりコソコソする必要もなくなった。
木乃香は何となく大丈夫そうな雰囲気だしと一人ごちする。
杖と箒をポケットにしまい、ロフトを降りようとしたとき、サイはネギが使っている机の上に置かれたパソコンに目が止まる。
パソコンと言っても本格的なデスクの物ではなく簡単にインターネットに繋げられるといった程度の代物である。
「このパソコン……前にネギが自慢してたっけ」
学園内にはコンピュータ室があるが、サイ自身はそこに入った事がなくパソコンに触れたこともほとんどなかった。
けれども、ネギが一緒に住むようになってからはちょくちょくネギが使用しているのを見ていたし、たまに使わせて貰ってもいた。
そんな中で、パソコンが物珍しいサイにネギが特に自慢したのが端末からすぐさま『まほネット』に繋げられる機能であった。
『まほネット』とは魔法関連の情報を提供する、いわばグー○ルやYah○○の魔法版だ。
そこまで思い至りサイはパソコンの電源を入れる。
「まあそんな都合よく情報が手に入るとは思わないけど…………一応ね」
まほネットの画面を呼び出して検索ワードをタイプする。
[記憶操作 魔法]
「どれどれ……、『認識阻害魔法の一つ。即効性はないが魔法に少し長けた者なら扱うのは比較的容易。』と……やっぱり犯人はこれを使ったのかな」
サイは誰もいない部屋でうんうん頷く。
「そうだ、ウワサでは犯人は吸血鬼だって言ってたっけ。そっちも調べておこう」
[ 吸血鬼 ]
実際の所、この時のサイは何かしらの情報が手に入れられればいいな。
そんな気持ちで検索をしていた。
しかし、
【吸血鬼 : ――――外見は普通の人間と区別がつかない。ただし彼らは人間の血を摂取するための牙を有している。
一般には吸血能力を持つ個体の総称が本項で解説する『吸血鬼』だが、現在では失われた秘伝によって自らを吸血鬼化した人間を特に『真祖』と呼ぶ。
真祖の特徴はその膨大な魔力と不老不死の肉体にある。何百年と生きている真祖達は魔術戦力的に見ても一国が有する軍事力を脅かす程であり、実際に過去に真祖と相対し壊滅に追い込まれた軍隊も存在する。
上記のような力を持つ『真祖』が人間と子をなし生まれた二世、三世の内吸血能力が発現した者達も吸血鬼と呼称されている。彼らは――――】
「『真祖』か……」
まほネットの情報に息をのむサイ。
「……ん? 確認されてる真祖達の情報も別に載ってるのか」
吸血鬼の解説ページのおしまいにリンクが貼ってあった。
サイはそのリンクの一番上、【闇の福音】のページに興味本意でとぶ。
そのページもまた最初に文章による解説がなされていた。
【闇の福音 : 現在確認されている真祖の一人。 【人形使い】とも呼ばれる女性の真祖。外見は若い女性であったり、少女であることが多いが認識阻害魔法の幻術で己の姿を自在に相手に知覚させているのであまり当てにならない。
真名はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
600年近くの時を生き長らえる最高位の吸血鬼であり、彼女の被害にあった人は計り知れない人数である。以前、魔法界は彼女に600万ドルの懸賞金を懸けていたが、15年前にその懸賞金は無効にされている。その時期から彼女を目撃した証言が報告されなくなる。最後の目撃情報は日本である。――――】
記事を読み進めるうちにサイの顔はどんどん青ざめていく。
「え、エヴァンジェリンさんが『真祖』? ……ハハハ、そんなバカなことがある訳ないよ!」
認めたくないような事実を目の前にしてサイは思わず叫んでしまう。
「はあっ……はぁ……、写真か……」
そのページには解説と一緒にエヴァンジェリンと目される写真が添付されていた。
「そ、そうだこれを確認すればきっと別人だってわかるよ! たまたま名前が一緒だっただけだって。」
そう言い聞かせ、恐る恐る添付されているファイルを開く。
そして、画像のローディングが始まる。
この少しのロードの時間が焦るサイには非常にもどかしく、待たされる間サイの心臓は早鐘のように鼓動する。
そして―――
「あぁっ……そんな……」
開かれた決定的なファイル。
パソコンの画面には、サイも何度も見たことがある少女の顔写真。
クラスの一番後ろの席に座りいつもつまらなさそうにしていた金髪で小柄な少女。
自分の授業を時折休んでいるので、身体が弱いのかなと密かに心配していた人物。
しかし、それらは全部虚構だったのだ。
「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは………【闇の福音】」
そんな独り言が口をつく。
もはや、揺るがない事実であるはずなのに言葉にしてしまう。
そうやって再び音として取り込まなければ到底信じられそうになかったから。
「……僕達のクラスにこんな人がいたなんて……学園長は知ってて? タカミチも?」
エヴァの正体が判明してもまた噴出する疑問たち。
しかし、状況の推移はサイに考えさせる時間を与えなかった。
――――ズンッ
「――っ!! この感じ……誰かが魔法を使ってる!? それもすぐ近くで」
魔法を扱う者が学ぶ魔力探知の技術。
基礎魔術が得意なネギは広範囲にわたって自分の周囲の魔力を発生やその位置を特定できる。
そのネギよりも精度や範囲が劣るサイだが今回ははっきりと知覚できた。
サイはパソコンの電源を切り、ロフトから飛び降りる。
そして部屋の窓から外を窺う。
「………どこだ? さっきの魔力ネギのも混じってた!」
窓を開け、顔を突き出すサイ。
いつの間にか日はとっぷりと暮れ、明るい満月が空に登っていた。
それに風が強いのか寮の前の桜通りから飛ばされたであろう桜の花びらが宙に舞っているのが目に入る。
―――ズンッ
「また! ………やっぱりネギの魔力を感じる。ということは桜通り!」
場所を特定したサイは部屋を飛び出す。ポケットの杖と箒を握りしめて。
部屋から飛び出したサイは寮のエントランスで綾瀬夕映と早乙女ハルナに会う。
「こんばんは~サイ先生。 今からお出かけ?」
ハルナがサイの様子からそう判断する。
「あっ、ハルナさん、それに夕映さんもこんばんは。 まぁそんな所です。」
口早に最低限の受け応えのみで済まそうとしたサイはあることに気づく。
「……お二人だけですか? いつもはのどかさんも一緒ですよね?」
いつも仲良く三人で登下校することをサイは知っていた。
サイの質問に夕映が『豆乳コーラ』のパックをエントランスのゴミ箱に入れてから応える。
「今日はのどかが学校に忘れ物をしたので取りに行ってます。」
「えっ! 一人でですか!?」
サイはのどかが襲われたのでは? と考え始める。
「そ、そうですけど……それが?」
サイの驚きっぷりにたじろいでしまう夕映。見かねた隣のハルナが補足する。
「確かにのどかは一人で戻ったけど、途中でアスナ達が迎えに行くって言って戻ってたから今頃合流してるんじゃない? 」
「アスナ姉さん達まで……。 わかりました。ハルナさんと夕映さんは今日はもう遅いですから寮から出ないでくださいね。」
そう言ってサイは寮を弾丸のごとく飛び出す。
「サイ先生、足はやっ!」
「……いや、パル、あれは速すぎですよ」
残された二人はサイが見えなくなるまでその後ろ姿を見ていた。
普段サイは魔力で身体能力の向上をしない。だが、このときは思いっきり魔力を走力向上にまわしていた。
それだけ、サイは一秒でも早くネギと合流したかった。
夕映達とのどかが別れた後、のどかが桜通りにさしかかるであろう時刻を逆算する。それが最初に魔力を感じた時刻と一致するだろう事が夕映達の話から予測できた。
つまり、事件の犯人はおそらくエヴァで、今回襲われたのがのどか、それを張り込んでいたネギが助けるために魔法を使ったのだとサイはふんでいた。
「(アスナ姉さんが戻ったのはどうしてだろう? ………まあ何となくアスナ姉さんなら大丈夫な気がするけど)」
凶悪な吸血鬼エヴァンジェリンに跳び蹴りを食らわせる明日菜を想像して吹き出すサイ。
「だめだめ、気を引き締めないと」
先ほどまほネットで調べた『真祖』の情報を思い出し気を入れ直す。
すると、目的地桜通りに着いてすぐ二人の人影があった。
「――木乃香姉さん! 無事ですか!?」
明日菜よりも木乃香の方が心配だったサイは振り向いた元気そうな木乃香を見て少しほっとする。
「サイ君やん、うんウチは無事やけど……」
言葉尻がはっきりしない木乃香。その原因は彼女の腕の中にあった。
「のどかさん!? なぜ裸に!」
木乃香に抱かれるのどかはなぜだかほぼ全裸だった。
「それはな――――」
木乃香はネギがその場にいたこと、犯人を一人で追って行ってしまったこと、
さらには明日菜までもネギを追いかけてしまったことを話した。
「なるほど、だいたいわかりました。僕も二人を追います。姉さんはのどかさんを。」
サイが着ている上着をのどかに掛けてから言う。
「サイ君も行ってしまうん?」
木乃香は心配そうな顔をしてサイを見上げる。
「心配しないで。すぐに二人を連れて帰るから。」
そしてサイは再び走り出す。
◇◇◇◇
走り始めて数分、サイはネギの足取りを掴めずにいた。
途中まではネギともう一人(おそらくエヴァンジェリン)の魔力を交互に感じていたが、探知範囲の外にいるのかそれも感じられなくなってしまった。
「(下からじゃ埒があかない……空からネギを探そう)」
そう考えてサイは魔力を込めて箒を出す。
箒に飛び乗ると一気に麻帆良が見渡せる高度まで上がる。
上空をぐるぐる回りながら探すこと数分間、
サイよりも下の空を光を発しながら動くものを発見する。
「……何だろう?」
サイは高度を下げつつ、その物体に近づく。
しかし、それはネギなどではなく『真祖』エヴァであった。
「……まさかここで会えるとはな、サイ先生」
「こんばんは、エヴァンジェリンさん」
多少驚いたサイだったが、全くこの展開を予想していなかった訳ではない。
ポケットの杖を何時でも出せるようにして月下の会話を続ける。
「……こんな所でお月見ですか? まだ時期じゃないように思うんですが」
話しかけるサイだが、その間にもエヴァ達の様子を観察する。
一見、エヴァは寝間着のようだが『真祖』だと知っているので油断はできない。
「(それに、エヴァンジェリンさんを乗せて飛んでるのって茶々丸さんだよな……)」
口を閉ざしたままの茶々丸はジェット噴射で飛んでいる。
サイが上空より見た光は茶々丸のジェットだったらしい。
「フフッ、今日は月に手が届きそうだと思ってな………まぁ、邪魔が入って無理だったがな」
やれやれと肩をすくめるエヴァ。
「案外、趣深いものなんですね。 僕はもっと血も涙もないんだと思ってましたよ。『真祖』って」
「……何?」
サイの最後の言葉に眉をピクリとさせるエヴァ。
腹を括ったサイは杖を取り出しエヴァに向けて言い放つ。
「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、またの名を【闇の福音】。 吸血鬼の真祖にして悪の魔法使いのあなたが桜通りの犯人だと僕は思ってます!」
月が雲間に隠れる。
月の光が遮られ、暗くなったためエヴァの表情はわからない。
誰も何も言わない、茶々丸のジェットの音のみが辺りに広がる時間が過ぎる。
しばらくして、月がまた顔を出し始める。
「アハハハッ、面白い! そこまで知っていて私の前に現れたのか!」
エヴァは面白くて堪らないといった風に大声をあげて笑う。
「―――それで? 先生は犯人の私に何の用かな?」
「何でこんな事をするのか教えてもらいます!」
「嫌だと言ったら?」
エヴァは風に流される髪を手で押さえる。
なんて事ない仕草だが、彼女の眼光は刃物のように鋭い。
サイは背中に嫌な汗が滲んでいるのを感じる。
息を吐き出し、エヴァを正面から見据えはっきりと言う。
「――力ずくでも」
エヴァとサイの視線が交錯する。
どれほどそうしていただろうか、ほんの十秒だったかもしれないし、十分間にも思える重苦しい時間がサイを押しつぶさんとしていた。
まさに、一触即発のこの状況。変化をもたらしたのは茶々丸だった。
「マスター、よろしいですか?」
「何だ?」
「そろそろ、ジェットの連続稼働時間の限界です。すぐに自宅に向かわなければ途中で墜落してしまいます」
「そうか……ならちょうどいい。サイ先生、知りたいことがあるならついてくるといい」
そう言ってエヴァ達は先に飛んでいってしまう。
「わかりました……」
サイも二人の後を追い始める。
◇◇◇◇
学園都市の周辺を囲む森の中。
エヴァが住むログハウスはそこにひっそりと佇んでいた。
「どうぞ、サイ先生。好きな所にお座りになってお待ちになってください」
茶々丸が丁寧にサイを家へと招き入れる。
エヴァは「着替える」と言ってさっさと中に入ってしまった。
「……ありがとうございます」
サイには茶々丸がエヴァとどういう関係なのかわからないが、敵意は感じないので素直にお礼を言う。
「ただいまお茶をお持ちします」茶々丸は一礼すると部屋の奥へと消えてしまう。
一人になったサイは家の中を見渡す。
外から見た限りではこのログハウスは二階建てなので、玄関からすぐのこの部屋はさしずめロビーだろうか。
「……しかし、ぬいぐるみが多いな。」
ロビーにはソファやテーブルが置いてあるのだが、それらを覆い尽くさんばかりのぬいぐるみが無造作に散らばっている。
「なんかイメージと違ったなあ」
ソファのぬいぐるみを座る分だけどかしてそこに座る。
少し待たされて、茶々丸とエヴァがほぼ同時に部屋に入って来た。
「待たせたな、さて何から話そうか」
寝巻きの上にローブを羽織るようにしたエヴァがサイの向かいに座る。
そして、彼女は自茶々丸の淹れたお茶を優雅に啜りながらの呪いの事からなぜ今回の騒動を起こしたのかまでを語った。
その間サイは黙って話を聞いていた。
「――――という訳だ。何か質問でもあるか?」
一段落ついたエヴァはサイに話をふる。
「それじゃ、ひとつだけ。エヴァンジェリンさん、もっと平和に解決できないでしょうか?」
「どういう意味だ?」
「言葉通りの意味です。何もネギの血を使わなくても、ネギの父親である『サウザンド・マスター』をここに連れてくればいいんですよね? だったらネギを襲わなくても僕達が必ず連れてきます! エヴァンジェリンさんは知らないかもしれないけど今僕もネギの父親探しに協力する事になっていて、それで――――」
「くどい!」
「―――ッ!」
サイの言葉を遮り、エヴァが怒鳴る。
「お前は私に“いつか『サウザンド・マスター』をみつけてやるから、今はおとなしくしてろ" とでも言いたいのか?」
「それは……」
「そんな何時になるか分からない約束など私が待つと思うか? しかも、奴が生きている保証が何処にある? それに、例え生きていたとしても奴は私自身で見つける」
「………」
エヴァの反論に言葉が出ない。さらに、エヴァは言い放つ。
「勘違いしているようだから、はっきり言ってやろう。私はおまえ達の事情など知ったことではない! 今目の前にある機会を利用しようとしているだけだ!」
交渉の余地のない一言にサイは押し黙る。
「これ以上話す事もない。ぼーやは家に帰って眠ることだな」
エヴァはソファから立ち上がりサイの前から立ち去ろうとする。
「………待ってください!」
「まだ何かあるのか?」
サイも立ち上がり、エヴァの前まで歩いていく。
「エヴァンジェリンさんの考えはよ~くわかりました。その上で言わせて貰います。誰かを傷つけて自由を得ようとするやり方なんて間違ってる。だから僕はあなたを止めて見せます。」
「いいだろう。おもしろい、是非やってみろ」
エヴァは不敵に笑い挑戦を受けて立つ。
「では失礼します。 茶々丸さんお茶はまた今度、エヴァンジェリンさんを倒したら飲みに来ます!」
「はい、いつでもお待ちしています」
「お邪魔しましたっ!!」
なんだか吹っ切れた様子でエヴァンジェリン邸を出て行くサイ。
「どうやら、ネギの坊やよりも度胸はあるようだな」
サイをエヴァは評する。
「よろしいのですか、マスター? サイ先生を巻き込むような発言でしたが……」
茶々丸はエヴァがネギにはサイを巻き込んで欲しくないような言い回しをしていたことを言っている。
「ん? あぁ、どうせなら二人まとめてこてんぱんにしてやろうと思ってな。 私に向かってあそこまで強気な口を聞いた奴は久しぶりだったしな」
「……そうですか。 マスターが良いならそれで構いません」
「ふんっ……。 と・こ・ろ・で、いつでも待ってます、とはどういうことだ茶々丸! あれではまるで私が負けるみたいじゃないか~!」
エヴァは茶々丸の体を揺すりながら説教する。
「マ、マ、マスター落ち着いて下さい。別にそういったつもりは……」
「うるさ~~い! ええいっ、ネジを巻いてやる! 思いっきり巻いてやる――――っ!」
吸血鬼の『真祖』エヴァンジェリン。見た目は10歳の少女はその夜、年相応の子供のようにはしゃいだという。
自らを苦しめる呪いを解くメドがついたからか? はたまた、新しい“玩具"を見つけたからか?
その答えは誰も知らない。
怖いもの知らずのサイ君。
サイは真性の正義感丸出しなのでこの感じに・・・
次回はネギ編②となります