澄野拓海「希望ヶ峰学園?」   作:たくみきんぱつ

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今回は長いです。


四章
百一日目の友情 壱 議論開始


【学級裁判…開廷!】

 

 オレ達はモノクマの誘導に従って、それぞれ席の前に立った。

 ただそれだけの話だというのに、ひときわ目立つものがこの裁判にはあった。

 誰かはそれをじっと見ていたり、誰かはそれを目に入れないようにもしていた。

 

「おい、モノクマ。裁判が始まる前に聞いておきたいことがある」

「なぁに十神クン。ボクも学級裁判が始まる前にいつもの説明をしなくちゃいけないんだけど」

「アレはなんだ?」

 

 十神の目線の先に、オレ達の目線の先にあったのは、七海の遺影だった。

 

「何って、見てわからないの? 千秋ちゃんの遺影だよ。仲間外れはいけないでしょ? だから、千秋ちゃんもこの裁判にいるってことだよ。遺影だけどね」

 

 悪趣味だな…。

 でも、そんなことも言っていられない。言っていられないんだ。

 

「えーではでは、最初に学級裁判の簡単なルールを説明しておきましょう。学級裁判では『誰が犯人か?』を議論し、その結果は、オマエラの投票に投票により決定されます。

 正しいクロを指摘できれば、クロだけがおしおきですが、もし間違った人物をクロをした場合は…クロ以外の全員がおしおきされ、生き残ったクロだけにこの島から出る権利が与えられます!

 これが、お馴染みのルールですが、今回はなんと! 追加ルールが適用されます!

 その追加ルールの説明もしておきましょう。

 通常の学級裁判でその『卒業』ができるのはクロのみですが、今回はなんと、ある条件を満たした生徒はシロでも『卒業』できるのです!

 その条件とは『この修学旅行の謎を解き明かすこと』と『クロまたはシロ自身が学級裁判にて、生き延びること』、『※※※※※※※※※の卒業条件を満たしていること』、この三つです!」

「何度聞いても残酷なルールでちゅ…!」

 

 オレはモノクマとは別のヌイグルミの声を聞いて、咄嗟にその声の方を見る。

 そこには、どこからか吊るされているモノミの姿があった。

 

「ウサミは…ちゃんといるんだね」

「はい! あちしはここにいますよ!」

「はい、ちゃんといますよ。だって、いないとボクにケチ付けるでしょ? 

 まぁ、こいつのことなんてぶっちゃけおまけなんで、さっさと議論をはじめてくださーい!」

 

 モノミには聞かなくちゃいけないことがたくさんあるんだよな。でも、今それをやったら議論しろって言われるだけか?

 

「最初に確認しておきたいんだけどさ、モノクマはこの学級裁判において、不正なんてしないんだよね?」

「学級裁判は100%公正行われますので、安心してください。ボクって不正とか贔屓とか嫌いなんですよ! モノミの次に、オマエラのイチャコラの次に!」

 

 イチャコラって何の話だ? 前にも言ってた気がするけど、これも何か意味のある言葉なのか?

 

「それでは、さっそく始めましょーう!」

 

 モノクマがそう言うと、オレ達の学級裁判は幕を開けたようだった。

 手がかりは多い、でも、まず何から話し合えばいいんだ?

 

「始めろって言われても、一体何をどうしたらいいんですかぁ?」

「話し合うんだろ? だったらまず日向! オメーはオレらに説明することがあんじゃねーのか!」

「あ、それ、アタシも気になってた。日向…アンタって何者なのよ!?」

「え!? お、俺か!?」

 

 …日向、あいつには確かに確認しなくちゃいけないことがたくさんある。

 だけど、この話題は最初にやるべきじゃない気がする。

 

 オレがそう思って、口に出そうとした時、先にその会話は待ったを掛けられた。それは、狛枝によってだ。

 

「まぁまぁ、左右田クン、小泉さんも日向クンも、少し落ち着きなよ。その話題よりも最初に話し合うべきことがあるはずだよ? そうだよね、十神クン?」

「…そうだな。みんな、よく聞いてくれ。

 まず、この学級裁判は七海の事件を解決しなければならないんだ。あの希望ヶ峰学園で得た真実だとか、この世界…この修学旅行の真実だとかは、この際二の次にしなくてはならない。何度でもいうが、最優先は七海の事件なんだ」

「そうでなければ、俺達はたちまち全滅することになるからな。その話は後回しにすべきだろう」

 

 田中…あいつ普通に喋れたのか…。

 いや、それよりも、十神と田中の言う通りだ。まず七海の事件を解決しなくちゃいけない。

 だったら、最初に話し合うべきはアレか?

 

「オレもそう思う。日向のことについては一旦後回しにすべきだ」

「じゃ、じゃあ、最初に何を話し合うっていうの?」

 

 花村にそう聞かれる。

 その質問の答えは既に決まっていた。

 

「事件が起こった時の、みんなのアリバイについて話し合うっていうのはどうだ?」

「アリバイ…なんだかそれっぽいワードが出てきたっすね!」

「じゃあまず、事件について簡単に振り返ってみようか」

 

 狛枝が事件の概要について話し出す。

 その間に、オレは自分のアリバイについて思い出していた。

 …オレのアリバイは罪木、それにレストランにいた他のみんなも証言してくれるはずだ。

 だとすると、怪しいのは……。

 

「まず、犠牲者についてだけど、これは当然七海さんだね。その七海さんの死体発見現場はあの最初の砂浜。

 そして、モノクマファイルによると、死亡推定時刻は七時三十分頃らしいから、その七時三十分までにみんな何をしていたか、それぞれ言ってみようか」

「それって、今朝の話でいいんだよな? オレは弐大のおっさんとトレーニングした後、レストランで花村の料理を食ってたかな?」

「うむ、間違っておらんはずじゃあ。このワシも同じ行動をしておったからのぉ」

「うん、ぼくもその二人の証言は正しいと思うよ。あ、ちなみにぼくは今朝から朝食の準備をしてたから、レストランに来た人は大体覚えてるよ」

「なるほど。では、花村さんだけでなく、レストランにいた方のアリバイは互いに証明しあうことができるのではないですか?」

 

 …そうだよな。レストランにいた連中はアリバイがある。遅れてきたオレにも、あいつを除いて全員にあるんだ。

 

「花村、レストランに誰が来たか、順番を覚えてないか?」

 

 日向が花村にそう質問する。

 そういえば、日向は今朝にあの動機を見て、すごく困惑していたっけ。

 ……あの動機も、事件に何か関係があるのか?

 

「うーん、確か来た順番は確か、終里さんと弐大くんの二人が最初に来て、その後にソニアさん、小泉さんと西園寺さん、日向くん、田中くん、澪田さん、澄野くんと罪木さん、十神くんと左右田くん、狛枝くん、九頭龍くんと辺古山さん、だった気がするなぁ」

「ではまずソニアから順に話していけ、そうすればわかることもあるだろう」

「はい! ではまずわたくしから話させてもらいますね。

 今朝は確か、モノクマアナウンスの少し前に起きてあの悪趣味な動機を見てしまった後に、気を少しだけ落としながらレストランまで向かいましたわ。その途中に十神さんに動機について話した程度で、後は何もなかったと思います」

「あんな出鱈目、気にすることありませんって! ていうか、ソニアさんの祖国は永久不滅っすよ!」

「話を逸らすな。次だ」

「…あ、次か。ほら、日寄子ちゃんも話せるよね?」

「……絶対変な目で見てくる奴いるよ」

「変な目って…それってどんな目?」

「お前だよ! お前! 今だっていやらしい目してさぁ!」

「ぼくの目はいやらしくなんてないよ! ちょっと紳士的過ぎるだけさ!」

 

 西園寺が花村に怒鳴りつけている。

 …まぁ、今は真面目な話をしなくちゃな。

 

「小泉、話を聞かせてくれないか?」

「…いいけど、アタシ達、不安だっただけなんだからね!

 実はさ、昨日から日寄子ちゃんとは一緒にいたんだ。それで、今朝も一緒に…」

「昨日から一緒にいたとはどういうことだ? 詳しく話してくれ」

「その、昨日はあんな気持ち悪いジオラマ見せられて、アタシも日寄子ちゃんも、ちょっとまいっちゃて、それで、夜もアタシのコテージで一緒に過ごしたんだよ。

 それで、今朝の…モノクマアナウンスの時ぐらいだったかな、またよくわからない、あんな紙を見せられて、それで二人でレストランに行ったかな。あ、十神にはコテージを出るときに会ったよ」

「百合百合な感じっすねー。唯吹もイイと思うっす!」

「えっと、次は俺か。俺はモノクマアナウンスで起きた後、あの動機の紙を見て…その後に十神が来て動機についてどうするかの説明を受けた後にレストランに向かったかな」

「俺様も同様だ。さして変わらん」

「唯吹も同じ感じっすねー! あ、違うのは寝坊しちゃったせいで動機を見ずに白夜ちゃんに起こされたってことくらいっすかねー…」

 

 ……七海とは、会ってない。九頭竜と辺古山も会ってないだろうし…今朝七海と会ったのは、十神とオレと狛枝だけか?

 

「あ、あのう。次って私達ですよねぇ?」

「…え? ああ、そうだな」

 

 考えてばかりじゃダメだ。みんなともちゃんと話し合わないと。

 

「まず罪木から話してくれるか?」

「わ、わかりました。ええと、私は早朝に第二の島に行って、澄野さん用の薬や包帯をドラックストアからいくつか持って行ったんです。それから、自分のコテージに一旦戻った後に…ああと、その時に動機を見ちゃったんですけど、その後に澄野さんのコテージに行って、包帯を取り換えた後、二人でレストランに行きました」

「そうだな。オレは、モノクマアナウンスで起きた後、あの動機を見ちゃった後に七海がオレのコテージに慌てて来て、狛枝のコテージの鍵を七海に貸した後に七海は直ぐにオレのコテージから出て行ったんだ。

 それで、その後に罪木がオレのコテージに来て、その後は罪木が説明した通りだよ」

「……ねぇ、罪木さん。ちょっといいかな?」

「え? な、なんですぁ?」

 

 狛枝がオレ達の話を中断させる。

 なんだ? 別におかしなところはなかったと思うけど。

 

「弐大クンと終里さんにも聞きたいことなんだけど、キミ達が早起きしたときって、それって何時頃の話?」

「ン? 確かあれは六時頃じゃったかのぉ。早起きしたものだから、昨日の気晴らしも込めて、終里を早朝のトレーニングに誘ったんじゃ」

「わ、私もそれくらいだったと思います。第二の島までは距離がありますから」

「…聞きたいんだけどさ。そのキミ達が六時に起きた時には、動機の紙はなかったの?」

「なに聞いてんだ狛枝? そんなあからさまに怪しい紙なんてありゃしなかったぞ」

「…ソニアさん、キミはさっきモノクマアナウンスの少し前に起きたって言ったよね? それって何時?」

「ええと、確かモノクマアナウンスの十五分ほど前だったと思いますけど」

「六時には動機の紙はなかったけど、六時四十五分には動機の紙がみんなのコテージあった。そういうことでいいのかな?」

「それがどうしたって言うんだよ? モノクマのヤローが単にその時間の間に動機の紙を配りやがったってだけの話じゃねーか」

 

 九頭龍の言う通りだ。動機が配られた時間に何か関係があるのか? 

 動機が配られた時間…いや、七海はこの紙を見ていないはずなんだから、この動機は関係ないはず…だよな?

 ……狛枝は…何かまだ言っていないことがあるんじゃないのか?

 

「いや、ゴメンね。口を挟んじゃって。次は十神クンと左右田クンだったかな?」

「構わない。気になったことは言うべきだ。

 俺は今朝、みんなの証言通り、動機について見ないようにみんなのコテージを周っていた。

 その一番最初に七海とは七時頃にコテージの外で出会い、そこで七海にもみんなに言って周るように任せたな。任せたのは、主に鍵で少し手間取る狛枝についてだ。

 そこから、俺はみんなに言って周った後、左右田とコテージ前で出会ったかと思えば、左右田が錯乱した様子になっていたのでな、追いかけっこをする羽目になった。その後、左右田と共にレストランへ向かった。まぁ、こんなところか」

「錯乱してたっつーか、昨日の件も含めて平静でいられなかっただけでよぉ。しょうがなくね?」

「別に誰も責めてないでしょ? 言い訳した風な口の利き方やめときなさよ。男でしょ!」

「うっせーよ! 別に男子女子関係ねーだろ!」

「話を逸らすな。…九頭龍と辺古山は遅れてレストランに来たが、その間何をしていた?」

 

 十神にそう質問されると、九頭龍と辺古山は視線を合わせ、少し迷うようにして九頭龍が口を開いた。

 狛枝の順番が飛ばされた…。十神も気づいてるってことか。

 

「…昨日のジオラマの話だ。正確には、あのふざけた映像の話をペコとしてた」

「そうだ。それで、昨日は夜通しで話し合う羽目になったがな。おかげで少し、お互いがこれからどう接しあうのかも考える機会にもなったが…それは別の話だな」

 

 そう言う辺古山の顔は、大分穏やかなものに思えた。

 

「…あれ? 夜通し話し合ったって…辺古山おねえと九頭龍って、昨日から一緒にいたってこと?」

「ああ、そうなるな。昨日は九頭龍のコテージで話し合っていて、私は自分のコテージにいなかったおかげで、その動機の紙を見ることはなかった。それがどうかしたのか?」

「風紀の乱れは、天気の乱れ。マッ! ジャバウォック島はマッサンサンサンっすけどねー!」

「赤飯なら任せてよ! ちなみに…その話し合いって…どっちが提案したのかな!?」

「……? ……な! ちッ違う! 私と九頭龍はそんな関係ではない!」

「テメーら、マジにブッ殺すからな…」

 

 急に会話が高校生っぽくなるな…。ずっと張り詰めるよりもいいか。

 それより、狛枝から話を聞かないと。

 

「次は、サラッと順番を飛ばされたボクのアリバイについてかな?」

「…狛枝は、最後に七海と会ってるんだよな?」

「そうだよ、日向クン。ボクはモノクマアナウンスで起床した後に、他のみんなと同じように動機の紙を見たんだ。その後に七海さんが来て、ボクと少し話をしたんだ。あのジオラマの話をね。その後、七海さんがコテージから出て行った。それが大体七時十五分ぐらいだったはずだよ」

「その後は…どうしたんだ?」

「残念なことに、単独行動ってことになるのかな。ボクの行動を証明できる人はいないよ」

「……狛枝、お前の証言が正しいのなら、犯人は七海を七時十五分から七時三十分の間に殺害したってことになるんだよな」

「そうだね。だから、日向クンの考える通り、この十五分間のアリバイがない人は、相当怪しいことになるね」

「それは…」

「狛枝しか、いないことになるよな」

「澄野…?」

 

 オレは狛枝と日向の議論に割り込む。

 自信がある訳じゃない。狛枝のことを犯人だと思ってる訳でもない。

 でも、ここで事実を無視することにはならない。それに、狛枝からその七海との会話の内容をもっと聞く必要がある。

 

「そうだろ? だって、その十五分までには、オレと罪木、十神と左右田、九頭龍と辺古山、狛枝以外は全員既にレストランにいた。今言ったように、遅れてきたオレ達も、その時間には互いにアリバイを証明できる相手がいる。

 狛枝、アリバイがないのは、お前だけ───」

「それは違うよ!」

 

 狛枝の反論がオレに向かってきた。反論する狛枝の背景には勢いなのか、赤い物を感じた。

 

「澄野クン、キミはわかってそんなことを言ってるんじゃないの?」

「……何のことだ?」

「七海さんを殺せる…アリバイのない人物は他にもいるでしょ?」

「…………」

 

 オレは思わず黙ってしまう。

 察すことはできている。でも、それが真実だとは思えない。もちろん、狛枝が犯人だとも思ってはいない。

 …消去法なんてしても、それはきっと真実じゃない。だとしたら、誰が七海を殺したって言うんだ?

 

「おい! アリバイがない人物って誰だよ? 今、澄野が説明した通りじゃねーか。自分が犯人だって認めたくないからって、フカシこいてんじゃねーぞ!」

「そうだよ! この変態キモ男が犯罪欲を堪え切れずに七海おねぇを殺したんでしょ?」

「……七海のことを…言ってるのか?」

 

 日向がひそかに震わせた声で、その可能性を口に出す。

 …やっぱり、その可能性があるんだよな。

 

「え? どうして七海の名前が出てくんだ? あいつはもう死んじまってるじゃねーか!」

「終里、そうじゃないんだ。俺達は狛枝のアリバイを証明できない。でも、それは七海も同じなんだ。俺達は七海のアリバイも証明できない」

「で、では、七海さんは自殺だとおっしゃるのですか!?」

「否定はできないよね? 七海さんが自分自身を殺したのか…あの死体の様子じゃ、他殺か自殺かなんて判断なんてつきようがないよ。シロウトのボクらじゃなおさらだ」

「でっでも、テメーが怪しいことに変わりはねーじゃねーか! 言い逃れしようとしてんじゃねーぞ!」

 

 みんなは狛枝に視線を集める。ただでさえ前科がある狛枝の擁護をするものはいないのか、この裁判の疑いは狛枝に集まっていた。

 マズいな。…なんとなくだけど、狛枝は犯人のような気はしないし…でも、擁護するって言ったって、オレは罪木と行動してたし、嘘は直ぐにバレるよな。

 ……よし、ここは話の流れを変えよう。何か別の話題にするんだ。

 

「みんな、ちょっといいか!」

「澄野? どうしたんだ?」

「オレは狛枝が犯人だって言うには、少し早すぎると思う」

「どうしてよ? 狛枝にはアリバイだってないし、狛枝の話だって嘘かもしれないじゃん!」

「小泉…それは、確かにそうかもしれない。だけど、オレは狛枝と一緒にレストランで死体発見アナウンスを聞いたんだ。オレはその時の狛枝の様子を覚えてる。とてもじゃないけど、狛枝が七海を殺した犯人だとは思えない様子だったんだ」

「庇ってくれるんだ。澄野クンは、ボクのことを信じてくれるの?」

「…ああ、信じる。オレはお前のことを信じるよ」

「…………」

 

 オレは狛枝が何を考えてるのかはわからない。きっと、これからも理解できる気はしない。

 でも、狛枝は七海を殺した犯人じゃない。これは、間違いなんかじゃないはずだ!

 

「な、なぁ澄野。お前マジに言ってんのかよ? 一応確認すっけどよ、こいつ頭イカれてんだぜ? オメーが一番わかってるんじゃねーのかよ?」

「でも、狛枝がちょっと変なのと、七海を殺した犯人なのかは別の話だろ?」

「凪斗ちゃんの物言いをちょっと変で済ますことができるなんて…。拓海ちゃんってモンスターハンターか何かなんすか?」

「何? 貴様…やはり、血の悪魔使いだったのか?」

「え? いや、違うけど」

「隠すことはあるまい。貴様の持つその力…まがうことなき悪魔の力だ。その力の根源、俺様に隠し通せると思うなよ! さしずめ、過去に狛枝のような悪しき道化との親睦があったのだろう?」

「いや、その、狛枝よりも幾分も酷いヤツとは関わったことがあるけど…比べられるよなヤツじゃないよ」

 

 蒼月に比べたら誰だってマシになる。それはそうだ。

 待て、オレは……田中の言葉を…理解できたのか? 多分、前にも悪くて変な奴と関わったんだろう? って意味だよな? なんとなく、うれしいような、うれしくないような…。

 

「話を戻そうか。それで? 澄野クンはボクがシロだって証明できる根拠はそれだけなのかな?」

 

 狛枝は何を考えているかわからない。今だって、なぜかオレに挑発するような口調で自分を追い詰めるかもしれない質問をしている。

 狛枝がシロだって証明できる根拠か…。

 

「…単純に、準備とかはできなかったはずだ。仮に七海が毒で死んでしまったのなら、狛枝に犯行は不可能のはずだ。十五分じゃ、第二の島を往復するのには時間だってかかるし」

「ボクが突発的に殺してしまった可能性もあるんじゃないの?」

「それは…ないと思う。それなら何らかの証拠が残るはずだ。傷跡だったり、血痕だったり。でも、現場にそんなものは残ってなかった。死因だって、罪木の証言じゃほぼ不明と言ってもいい。だったら、犯人はそれだけ特殊な殺し方をしたってことじゃないのか?」

「それは…計画的に行わなければできない殺し方だと、澄野クンは言いたいんだね?」

「そう…だと思う。そう考えると、ずっと拘束されて、モノミの監視もあったはずの狛枝に犯行は難しいと思うんだ」

 

 別に、間違ったことは言っていないはずだ。でも、そうなるとおのずと可能性が絞られるな…。

 

「はい! 断言しまちゅけど、狛枝くんは事件が起きるまでに、第二の島には行ってまちぇんよ!」

「コラコラ、モノミちゃん。何も聞かれてないのに、勝手に証言しちゃダメでしょ? オマエ、学級裁判何回目なの?」

「うるさーい! あんたなんかに何か言われる筋合いはありまちぇーん!」

「モノミ、今の話は本当なのか? 狛枝が事件が起きるまで第二の島には行ってないって」

「はい! そうでちゅよ。日向クン!」

 

 よし。これで、狛枝が毒殺をすることは無理ってことになるはずだ。…そもそも、毒殺かどうかわからないけど。

 いい感じに話題を変えよう。

 

「…みんな、一回、どうやって、誰が七海を殺したのか? というところから、少し離れて考えてみないか?」

「澄野さん、それはどういう意味ですか?」

「七海が自殺したにしても他殺されたしても、そこにはなんらかの動機があったはずだ。それについて話し合ってみるのはどうだろう?」

「動機というと、あの紙と昨日のジオラマのことか? でも、あれが本当に動機になるんかぁ?」

「なると、ボクは思うよ」

 

 弐大の疑問に狛枝がそうハッキリと言い切る。

 確かに、あれはオレ達を不快にさせるには、絶望させるには最適なものだったかもしれない。でも弐大の言う通り、あれで誰かが誰かを殺す動機になりえるのか?

 

「例えばね。あのジオラマの内容を本気にして、クロに殺される前に殺そう…とか、考えられる話じゃない?」

「だが、あのジオラマは誰が誰を殺したのかは明言していなかったはずだ。だというのに、その言い分は苦しいのではないか?」

「そうかもね? でもさ、辺古山さん。あの内容にキミ達はひどく動揺したはずだよ。だから、二人っきりで話し合いをしてたんでしょ? それだけの絶望が、あのジオラマにはあったはずだけど、それでも何らかの動機にならないって言い切れるの?」

「うっせーぞ。七海は知らねーけど、テメーは訳のわからねぇ理由でモノクマの動機に関係なく事件を起こしたじゃねーか。テメーが動機についてとやかく言えるとでも思ってんのか?」

「え? 言っちゃダメなの?」

 

 …狛枝は希望のために事件を起こしたんだよな。でも、それは今…多分関係ないはずだ。

 狛枝だって、七海の事件について完璧にわかっている訳じゃないはず。その真実にたどり着くまで、その希望だとかは、さすがに推理に入り込ませることはしないはずだ。

 

「いや、オレは狛枝の言ってることも間違いじゃないと思う。あの紙が動機になったのだとしたら、犯人はたった数十分で犯行を企てて実行したことになる。それは考えにくいし、内容的にも動機になり得るとしたら、昨日のジオラマかおしおきムービーなんじゃないか?」

「まぁ、そうだとしてもボクが怪しいのは変わらないけど。おしおきムービーがなかった死体の人物…つまりシロの人物は、澄野クン、十神クン、小泉さん、澪田さん、西園寺さん、弐大クン、ボク…だからね」

 

 オレは確か、見せしめとして殺されたんだよな。モノクマの作った設定だけど、なんでオレだけ見せしめなんだろう? 誰かと殺し合ったっていう方が動機になり得るんじゃないのか?

 そういえば、モノクマはジオラマとおしおきムービーは動機じゃなくて絶望させるためのものって言ってたな。なら、モノクマが意図しない形で動機になってしまったのか?

 

「なぁなぁ、一応確認したいんだけどよ。あの鉄の残骸が弐大のおっさんってことでいいのかよ? なーんか変じゃね?」

「それに関しては、俺も気になっていた。仮にロボットを殺害しても、それは殺人なのかどうか…」 

「いやいやいや! そこじゃねーだろ! 人間がロボットになってんだぞ!? どう考えてもオカシイじゃねーか!」

「確かに、言われてみればそうじゃのう」

「確かにってほどでもねーよ! 一目瞭然だっただろーが!」

 

 …ツッコミは左右田に任せよう。十神も言うことが少しズレてる…いや、ロボットは殺すってより壊すって言葉の方が正しい気がするけど、問題はそこじゃないよな。

 それよりも、捜査時間の口ぶり的に、狛枝はシロとクロの関係について、ある程度予想がついているはずだ。

 …追求してみるか。

 

「狛枝、お前はシロとクロの関係について、ある程度の予想はついてるんじゃないのか?」

「……まぁ、ある程度の目星はついているよ。でも、あくまでボクの主観だし、その答えがあっていたとしても大したこと意味はないんじゃないかな?」

「どういう意味だ?」

「あのジオラマやおしおきムービーのことを考察してもそれは今のボク達にとっては憶測の域を出ないってことだよ。仮に何か新しい真実が出るとしたら、それはコロシアイをしたんだろうボク達のことよりも、そうでない見せしめ役の澄野クンの方がボクは気になるね」

「予想がついてるなら、あんたにはあのキモイ模型モドキが動機になったってことでしょ? そうやって、気づいたことに煙を巻こうとしてるだけじゃん! 澄野おにぃがあんなのになってたのは、ただモノクマがゲロカスゴミ並みに悪趣味なだけなんだしさ!」

「でっでも、私達に何かしらの疑念を持たせたいなら、澄野さんも見せしめなんて役じゃなくて、誰かとコロシアイをしたっていう設定の方が自然な気がしますけど…」

 

 西園寺の言うことも、罪木の言うこともわかるんだよな。

 オレがどうして見せしめ役だったのか。でも、それも狛枝の言う通り、憶測の域を出ないだろう話になるしな…。

 

「…わかったよ、西園寺さん。ボクの主観で良ければ、それぞれのコロシアイのシロとクロを言うよ」

「待てよ、狛枝」

「日向クン、どうしたの? 汗なんてかいて? キミはあのジオラマではシロでもクロでもなかったでしょ? そんなに怖がることはないと思うけどなぁ」

「怖がってなんてない! そうじゃなくて、翌朝、お前は七海とあのジオラマの話をしたって言ってたよな? 七海が自分を殺したクロかもしれないからって」

「…そうだけど、それがどうしたの?」

「……おかしくないか?」

 

 …オカシイ? 日向は何の話をしてるんだ?

 

「七海を自分を殺したかもしれないクロって思ったってことは、自分をあんな残酷に殺した犯人だって思ったってことだろ? そいつと二人きりになって、普通に会話して、それで…何もしなかったって言うのか?」

「会話はしたけど…まぁ、キミの言いたいことはそういう意味じゃないよね」

「答えろよ。あのとき言った、『思った以上に話すことがあった』って何だ?」

「まぁまぁ、ちょっと落ち着きなよ。物事は順番通り言った方が分かりやすいでしょ?」

 

 そうして、狛枝は一拍おいてから、話し出した。

 

「日向クンからの質問を答える前に、シロとクロの内訳を言うね。まず、最初のシロが十神クン、最初のクロが花村クンなんだと思うよ。これは順番的にも間違いないと思う。多分だけど、あのパーティーで起こってしまった事件なんじゃないかな?」

「それって…ぼくが十神くんを殺してたかもしれないってこと!? どうして!?」

「ボクが幸運だったせいかもね。例えば、ボクがナイフを取ろうとして、それが暗視スコープを装着した十神クンに見つかる。それで十神クンにボクが突き飛ばされて、そこから十神クンはナイフを手に取ろうとしてしまった…とかが考えられる話かな。予想しても大した意味はないけど」

「まぁ、それはそうだな。おそらく、俺達のまだしらない場所で起こった事件もあるようだし、この事件以外は予想のしようもないだろう」

 

 花村と十神の事件…か。それってオレがあの夜に目覚めなかったってことだよな? 

 ……七海の日記の内容的には、オレはみんなと一緒のスタートのはずだったんだよな? だったら、オレは最初の数日寝ていて正解だったってことか?

 

「次だけど、ここからは簡単な内訳だけ言っていくね。小泉さんの事件は辺古山さんがクロ。おそらくだけど、澪田さんと西園寺さんの事件は罪木さんがクロ。弐大クンの事件は田中クンがクロ。ボクの事件は七海さんがクロ。これが、ボクの考える事件の内訳だよ」

「随分正確にわかっているのですね? ちょっと不思議です」

「うーん、これでも自信はない方だよ。特に罪木さんと田中クンに関してはね」

「俺様があの鋼鉄の肉体をああも破壊したと考えるとは…貴様は意外にも見る目があるようだな?」

「あ、あのう。狛枝さんの考察があっているとしたら、私は二人も殺しちゃったってことですかぁ!?」

「いや、殺した方法も知らないし、罪木さんが二人も誰かを殺してしまうような人間だとは思ってないよ。ただの消去法だからさ」

 

 …狛枝は自分を殺したクロが七海だって思ってたって、それは自分には動機がありましたって言ってるようなものじゃないのか? 狛枝は一体何を考えているんだ?

 

「その二人以外は消去法ではないのだな? それはつまり、何か根拠があったということか?」

「そうだね、辺古山さん。でも、別に難しい話じゃないよ。モノクマの言ってた死因から考えたらそうなるかもってだけの話だからね」

「後ろからの殴殺がペコには簡単だったって話だろ? くだらねぇ話はここで終わりだ。それよりも、テメーが自分を殺したクロが七海だっつー根拠を言いやがれ!」

 

 ……これ、マズイ気がする。その根拠が納得できるものだとしたら、狛枝だけに七海を殺す動機があったってことになるんじゃないのか?

 

 そんなオレの心配をよそに、狛枝の口は動く。

 

「七海さんがボクを殺したクロだって言う根拠は、七海さんの正体が裏切り者だからだよ」

 

 みんながみんな、気づいていたが誰も言い出せずにいた。暗黙の事実。

 それは、ニセモノの殺人の動機として語られることになった。しかも、それは現状最も疑わしい人物から口火が切らたのだ。

 七海の正体…裏切り者が殺人の動機? どうしてそうなるんだ?

 

「それは、つまり…未来機関を敵だと考えたってことか?」

「そうではないと…思うよ、澄野クン。ボクとしては、何を考えて、何をしようとしたのか。それは…大体察しがついているんだ。予想が正しければ、ボクの死体だけあれだけ残酷な状態なのも納得ができる」

「…七海がたとえお前が相手だったとしても、あんなことを本気でやるって思ってるのか!? モノクマの作った出鱈目でしかないだろ!?」

「だから、そうじゃないんだよ。日向クン、前提が違うんだ」

「……前提?」

「いいかい? 死因は毒殺だったんだ。そして、すべての死体は他殺。自殺は混じっていないんだ」

「それがどうしたというのだ? 貴様の死体は明らかに他殺だった。その事実は変わらないだろう」

 

 日向と田中がみんなの意見を代弁してくれる。

 そうだ。いくら狛枝の死因が毒殺だからって、それが七海をクロだと思う理由にはならないはずだ。

 第一、裏切り者は未来機関の存在、オレ達の仲間のはずだ。そんな存在がオレ達を殺すはずがない。全部、モノクマの嘘だ。それを…狛枝はわかってるんじゃないのか?

 

「いや、変わるよ。他殺から、自殺という真実にね」

 

 ……自殺?

 

「どういうことだ? 今、自分が言ったことを覚えていないのか? あの死体には自殺は混じっていない。すべて他殺だと言ったばかりじゃないか」

「十神クン…ゴメン、少しわかりにくい言い方をしちゃったね。正確には、ほぼ自殺だよ」

「…ほぼ、自殺?」

 

 どういうことだ? 狛枝は何を言い出してるんだ? あんな状態の死体が、ほぼ自殺だって…?

 

「おそらく、ボクを死に至らしめるトドメだけが、七海さんが行った唯一の犯行だった。あの死体はね、きっと毒による即死が死因なんだと思う。そうすれば、七海さんという裏切り者に殺人をさせることができる。トドメ以外に、ボクは死体に偽装ができる。死体に偽装すれば、自殺ではなく、誰かが殺意を持って行った他殺だと見せかけることができる。あれは、他殺に見せかけた自殺に見せかけた他殺なんだよ。これが、ボクの推理。ほとんど憶測ではあるけど、ボクが納得できる答えだよ」

「…………」

 

 みんな、狛枝の言ってることが理解できなかった。

 それを行う必要性も、裏切り者だという事実がその推理に直結するのも、あの死体は自身が行った偽装であることも、すべて常識から外れた…推理として受け入れがたいものだったからだ。

 

「オメー、ついに何もかも狂っちまったのかよ…」

「今朝は確信があったわけじゃないよ。ついさっき、この結論が出たばかりなんだ」

「そういうことを聞いてるんじゃないんだって! あんなことを自分がやったって思ってる訳!? そもそもどう考えても、自分でできるワケないじゃない!?」

「そうかな? 腹の槍はわからないけど、他の傷は一目見ただけでも被害者自身が実行可能だと思ったけどなぁ。というか、あからさまに拷問でもしましたっていうのが本当の殺意を持って行った犯行だと考えづらいんだよ。何かしら目的があったにしろ、長々拷問して挙句に殺した。それがこのコロシアイ修学旅行のルールに置いて行われるには不自然すぎる。証拠を残すだけだからね。死因が毒殺による即死だと考えるなら、なおさらだよ」

「ちょっと気になるんじゃが。お前さん、さっき、七海に殺人をさせることができるとか言っておったが、それはどういう意味なんじゃ? そんなことをして何になる?」

「簡単なことだよ。そうすれば、七海さんをクロにできるでしょ?」

 

 七海を…クロにする? 裏切り者をクロにして、何になるって言うんだ?

 

「七海さんをクロにする。いいかえれば、他の全員を犠牲にすれば卒業できる人物に仕立て上げることができるってことだよ」

「でっでは、七海さんと狛枝さんは共謀したということですか!? この修学旅行から卒業するために!?」

「はぁ!? そんなの、それこそただの妄想じゃん!? もうこんなアブノーマルクズの言い分なんて聞かなくていいよ!」

「ソニアさん、西園寺さん、落ち着いてよ。ボクは共謀したなんて一言も言ってないんだからさ」

「でも、共謀した訳じゃないなら、どうして七海…裏切り者がピンポイントで狛枝を殺害できるんだ? 他の奴にも殺すきっかけがあったかもしれないだろ?」

「澄野クン、それはボクも考えたんだ。どうして七海さんは毒殺をすることになったのか? 多分、現場に捜査ができない以上はそれに答えは出せないよ。でも、理由は考えることができる」

「それが…裏切り者だからっていうことっすか? でもでも、それだとなんだかおかしくないっすか? なーんで凪斗ちゃんは千秋ちゃんが裏切り者だからって卒業させようとしたんすか?」

「……七海さんが、裏切り者が、あのボクにとっての希望だったからじゃないかな? だから、裏切り者を生かそうとした」

「希望…だって?」

「おそらく、ボクは絶望したんだよ。…だから、あんな死体ができた」

 

 狛枝が絶望して、裏切り者が希望になった? 一体何に絶望したって言うんだ?

 

「絶望…絶望だったろうね。…ああ、今のボクは間違ってもキミ達を殺そうなんて考えてないから、安心してよ」

「……今のボクは…って、信じられると思ってるのか?」

「信じてほしいのは本心だよ、日向クン。実際、なぜか信じてくれてる澄野クンはいるわけだし」

「…なぜかって思ってるのなら、その思わせぶりな態度はやめてくれ」

「思わせぶり? ああ、そういえば日向クンの質問に答えてなかったね。確か、今朝にボクと七海さんがした会話についてだったかな? まぁ、大まかにしか話してなかったしね。今、話そうか」

 

 …ついに聞けるか。やっぱり何か伏せていることがあるんだ。

 ジオラマの話を七海としたとして、それはつまり、裏切り者の正体を狛枝は暴いたってことなのか? だから、遺跡のパスワードも教えてもらっていたのか?

 

「ボクは今朝、七海さんにキミが裏切り者なんじゃないかって聞いたんだ。あんまり自信はなかったけど、幸運なことにその予想は大正解だった。それで…ボクは彼女の目的を聞いたんだ」

「目的? それって、未来機関の目的なのか?」

「いや、そうじゃないと思うよ。七海さん個人の目的だと思う」

 

 未来機関の目的じゃなくて、七海個人の目的? それは…なんだ? あのアルターエゴからの命令でもないってことか?

 

「七海さんの目的はね。この修学旅行を終わらせることらしいんだ」

「修学旅行を終わらせることが、俺達のやらなくちゃいけないこと?」

「それってーと、つまりモノクマをぶっ倒すってことか? それとも、この島から帰るってことか?」

「多分…そうではないよ、終里さん。おそらく、ボクらが立ち向かわなくちゃいけないのは、絶望でも希望でもない虚無…するべきは現状の打開だよ」

「絶望じゃない…だって?」

 

 日向が低い声で、狛枝の発言を繰り返す。

 日向もオレと同じことを思ったのだろう。七海が死んでいるのに、それが絶望でないと狛枝が言ったも同然なのだから、怒りを覚えるのも無理はなかった。

 狛枝は、ジオラマの狛枝の考えが理解できたのなら、同じように七海が希望だって思ったんじゃないのか? その希望が失われた現状が、絶望でない…虚無? 虚無って何だ? 

 

「…そんな怖い声出さないでよ。ボクだって、七海さんを度外視してる訳じゃない。ただ、七海さんの死は、ボクらが今、この裁判上にいるのには、意味がある。七海さんを失ってしまったことは悲しいよ。絶望的だ。

 でも、前に進まなきゃ未来は創れない。だから、ボクは前に進むんだ」

 

 それは、昨日までとは違う光景だった。ある意味同じなのかもしれないが、オレ達の中で狛枝は一番真っすぐな目をしているような気がした。

 その目は、希望か、絶望か。でも、そのどちらでもない狛枝自身の自信が、その目の奥にはあったような気がした。

 オレ達にできたそんな妙な間を、十神が一つ咳ばらいをして議論を再開させる。

 

「…話を進行させるぞ。狛枝の証言はこうだ。七海はこの修学旅行を終わらせることが目的だった。その方法は不明。それであっているか?」

「そうだね。七海さん自身がどうやってこの修学旅行を終わらせようとしたのかはわからないよ」

「狛枝、お前は自分に動機がないとは主張しないのか?」

「ボクの考えはさっきも言った通りだよ。あの死体に対する残忍な行いは、僕自身によるもの。七海さんを恨む筋合いはないよ」

「そうか…そうだったな。では、これ以上にあのジオラマについて話し合うことはないか?」

 

 これ以上にあのジオラマについて話し合うことか。でも、あれが動機になったとしても、今の狛枝みたいに何とでも言えてしまうよな。…狛枝は本心で言っているんだろうけど。

 

「あるよ。澄野クンの死体についてボクは知りたい」

「オレがどうして…見せしめ役だったのかってことか?」

「それもあるけど、ボクが知りたいのはあの澄野クンの死因の方だよ。確か、出血多量だったよね。アレに、何か心当たりはある?」

 

 死因…出血多量、確かに変かもしれない。…血がないと、異血の力は使えない。まさか、それを狙ったのか?

 

「ああ、あります! す、澄野さんは特殊な血液をしてらっしゃいますから、きっとそれをモノクマさんに狙われたんですよぉ!」

「いや、逆じゃねーのか? 澄野が出血多量で死ぬわけがねぇだろ」

「…九頭龍、それってどういう意味だ? オレも罪木と同意見なんだけど」

「テメーのことじゃねーかよ。もっと自覚っつーもんしとけや。簡単な話だ。もし澄野が出血多量で死ぬことが出来るのなら、とっくにテメーはあの刀を使った時点で死んじまうだろうが」

「そっそれは…そうかもしれないけど」

 

 異血の話を持ち出されても何も答えられない。答えられるわけがない。あんな超能力はおろか、時間遡行までできてしまうのだから、オレにその実態が答えられる訳がない。

 

「あのさ、悪いんだけど説明してくれないかな? 特殊な血液ってどういうことなの?」

「凪斗ちゃん。説明するとアレっす。拓海ちゃんは血がドヴァーってなっても死なないびっくり人間なんすよ。おまけに、マントをはためかせながら刀を構える戦士だったりするっす!」

「…えっと、ごめんね。もう少しわかりやすく説明をお願いしてもいいかな?」

「ええと、狛枝さんにもわかりやすく説明しますと、澄野さんはあの刀を使い、おびただしい血をその身にまとい、変身することが出来るのです!」

「……そう、なんだ。左右田クン、どういうことなのか説明してくれる?」

「ソニアさんのありがたい説明を聞き逃してんじゃねーよ! 別に間違ってねーからな!? アイツ、マジに変身するんだって!」

 

 狛枝だけがあの場にいなかったせいか、認識をややこしくさせている気がする。現に考え込む仕草するよりも先に、オレに狛枝から疑いの眼がかけられている。そう長くは続かなかったが、居心地はよくない。

 

「……質問だけど、その力って言うのは澄野クンが戦場にいる頃から使っているの?」

「ああ、そうだよ」

「その記憶は確かなの?」

「…信じたくはないけど、確かだよ。オレは戦場にいる頃から、戦場に立たされた傍からオレはあの力を使わされたんだ」

「こうセリフだけ聞いてると完全に田中の同類だよねー。でも、口だけじゃないし、これがホンモノじゃなくて本物ってやつだよねー」

「貴様…今、この俺様を愚弄したか? 確かに澄野の悪魔の力は本物だ。だが、それによりこの俺様の力を偽りだとするか…いいだろう、その挑戦を受けてやる! とくと見ていろ!」

「田中クンまで…本当なの?」

「何でソニアさんより、田中の言葉に説得力覚えてんだよ! おかしいだろ!」

 

 まだ具体的に議論できたのは動機の話だけなんだよな? 本当に決着がつけられるのか?

 この……学級裁判に…。

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