ああ憧れの情報屋   作:毒島リコリス

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第25話 兆候

 懲りないウルナ先輩が後で呪物研の部員に聞き取りを行ったところ、例のペンダントの効果は確かに装着者に好意を持たせるもの、いわゆる魅了の魔法をかける呪物だったらしい。

 しかし周囲に広く影響を及ぼすのではなく、相手の肌に直接触れている間だけというかなり限定的な効果だそうだ。

 

 それでも、使い方によっては少し危ない気がする。

 

「触れている間に情報を聞き出してしまうこともできますよね」

「これは広めない方がいいかもねえ」

 

 今週の記事を吟味しているウルナ先輩も、キャップをしたままの万年筆でトントンとメモを叩いて唸っていた。

 

「一応そういうの、判断するんですね」

 

 面白ければ秩序やルールは笑顔で踏み倒していくものなのかと思っていたら、先輩なりの基準があるらしい。

 

「情報の公開はボクが責任を取れる範囲でっていうのが、新聞部を続ける条件なんだ。本当はもっと混沌とさせたいんだけどなあ」

 

 その条件を出したのが学校なのかキスリング侯爵家なのかわからないが、この学校の生徒たちの代わりに、彼に首輪を付けてくれた誰かに感謝しておいた。

 

「じゃあ今まで公開した記事は、先輩が責任を取れるってことですか?」

「もちろん。裏付けの調査もしてるよ」

「理事長室の秘密も?」

「あれは『今後も調査を続けていく』って締めておいたから」

「……」

 

 逃げ道もきちんと作っている抜け目のなさ。学ぶところはあるかもしれないが、手本にはしたくないなと思った。

 

「それにしても、なんか妙だなあ。呪物研のコレクションなんて、今まで大したものはなかったのに」

 

 実際に捕まった先輩曰く、あのうねうねに拘束された瞬間、魔法が使えなくなったらしい。道理であっさり捕まったと思った。

 制御できているうちはいいが、もし封印具の筒が壊れたらかなり危険だ。

 

「誰かがわざと、呪物研に危ない呪物を流してるってことですか? さすがに考えすぎじゃあ……」

「最近平和だから、入学したばかりのきみはそう思うかもねえ」

 

 先輩は立ち上がり、戸棚からいくつか資料を抜き出した。

 

「よく狙われるんだよ、この学校」

 

 はい、と笑顔で渡されたファイルには新聞の切り抜きや手紙の写しが挟まっていた。校内で起きた事件に関する調査資料のようだ。

 それによると、ここ五年ほどの間だけでも誘拐、立て籠もり、爆発物騒ぎ、魔獣の侵入と内容は多岐にわたり、犯人も教師から生徒の親や生徒本人、出入り業者まで嫌にバリエーションが豊かだ。

 

「なにしろ人質として優秀な人材が集まりすぎてる。特に今年の一年生は豊作だから、何か起きそうな気がするなあ」

「やめてくださいよ、縁起でもない」

 

 確かにエーレンベルク公爵家もホラント伯爵家も力のある貴族だ。トーティのような珍しい血統魔法持ちも狙われやすいと聞く。

 

「末端の子爵家の子どもだって、ごろつきにとっては金のなる木なんだもん。気をつけておくに越したことはないよ」

 

 それを聞いて、僕は思わずウルナ先輩の顔を見た。にやにやと笑っている。

 

「ご存知だったんですか、僕が攫われたことがあるって」

「ちなみにボクもあるよ。ボクの場合は昔父に捕まった奴の報復だったけど」

 

 先輩はあっはっはと笑い飛ばしているが、無事だったから笑えるだけで、冗談で済ませていいことではない。

 

「公的な記録に残らずに揉み消されるものもある。そういう時が新聞部の出番なわけ」

 

 普段怪しいゴシップばかり記載しているので、ほとんどの人間はそれを真実だと思わない。

 しかし一部は信じてくれるし、少なくともゲリラ新聞を回収する教師の目には入る。噂程度だとしても、誰かの記憶に残るのだ。

 

「意外といろいろ考えてるんですね」

「まあ九割趣味だけど」

「でしょうね……」

 

 嘘をつきすぎて、本当のことを言っても誰にも信じてもらえなくなる少年の童話を思い出した。

 先輩の場合は、嘘の中にさりげなく真実を混ぜて刷り込んでいるわけだが。

 

「話が逸れたけど、諜報員まがいのことをするなら、こういう違和感は大事にした方がいいよ。それで、気になったらとことん調べる」

「なるほど……」

 

 広く浅くいろいろな情報を知っているのが良いのかと思っていたが、時には深く追究してみるのもアリかもしれない。

 

「ま、呪物研と遊ぶのはボクのライフワークみたいなものだから、これからも気をつけておくとして」

 

 危険な遊びもあったものだ。ウルナ先輩は喋りながらお茶菓子のストックが入っている棚に歩み寄り、クッキーの缶から一枚取り出して囓った。

 差し出されたので僕もお礼を言って一枚いただく。いつの間に補充されているのか、昨日とは違うクッキーだ。

 

「諜報活動の練習にちょうどいい案件があるんだけど、どう?」

 

 また上手いことを言って、先輩のいいように使われている気がするものの、それで少しでも安全に過ごせるのなら、技術を磨いておくべきか。

 

「……ひとまず話を聞きましょう」

「さっすがー。努力家なんだねえ」

 

 まだやるとは言っていないのに、先輩は缶を机に起き、引き出しから書類を取り出した。

 

「最近、校内で失くし物が増えてるんだって。原因を調べてきてくれない?」

「失くし物? 盗難ですか?」

「それもまだ不明。これ、遺失物届を出した人のリストね。よろしく」

「まだ引き受けてませんってば……」

 

 言いながら目を通したリストの中に、トーティとエリカ先生の名前を見つけてしまい、

 

「……」

「やるでしょ?」

「はい……」

 

 僕は渋々頷くしかなかった。

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