ああ憧れの情報屋   作:毒島リコリス

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第30話 連絡手段

 マーガレット部長を見送ったウルナ先輩は上機嫌だった。

 

「さあ、どんどん被害が拡大していくね。面白くなってきた」

「面白くって、相変わらず他人事ですね……」

「だって他人事だもん」

 

 けろりと言ってのける先輩を見てため息をついた僕も、何だかんだ言いながらこの時はまだ、他人事だと思っていた。

 

***

 

 遺失物の増加が窃盗なのではという噂がまことしやかに囁かれ始め、校内に不穏な空気が漂う一方で、体育祭の準備は着々と進んでいた。

 

 年間三大行事に数えられる体育祭は、企画から運営までを生徒主体で行うのだそうだ。

 一年から六年までが組ごとにグループになり、学年の垣根を超えた競技や出し物も多い。

 就職や進学のために動き始める六年生にとっては学生最後のイベントとなり、学んだ成果を家族に見せる場でもある。

 

「座学が減るのは楽しいけど、午後は毎日全体練習っていうのは、さすがに大変だなあ」

 

 特に全体パフォーマンスは、六年生が魔法と武術を組み合わせた演出や振り付けを考えて全員に指導し、統率力で勝負するという大がかりな競技らしい。

 

 もちろん一年には重要な役目は与えられず、賑やかし程度の魔法を駆使しながらバックダンサーとして踊る程度だ。

 しかし一組は他の組に負けるわけにはいかないというプライドがあり、他の組は打倒一組を目指すため、どの組もかなり熱が入っている。

 

「こう?」

「そこはこうですね」

「ハイドくん、もう一回見せてください」

 

 演出の一部として指示された火花を打ち上げる魔法は、授業で習ったことの応用なのでさほど難しくないが、ダンスのステップが少々複雑だ。

 武術の心得はあっても音楽に合わせて踊るのはまた別らしく、スノウ様もジュリも混乱していた。

 

「ハイドは相変わらず器用だね……」

「ダンスの練習相手を三人分させられていたもので」

 

 三年生になると、基礎教科の中にダンスレッスンが始まるらしい。

 もっと前から社交の場に出ている生徒もいるというのに、ミスティコ家は『どうせ呼ばれないから』と油断しすぎて練習をおろそかにし、授業で苦労するのが伝統だった。

 なお練習したところで本番では壁の飾りと化しているため、披露する機会はほとんどないところまでがワンセットだ。

 

「三人分?」

「昨年卒業した長兄と今六年の次兄、それから姉です」

 

 兄姉が長期休暇で帰ってきた際、姉の練習に付き合わされることはもちろん、兄二人には女性役をやらされていた。

 そのおかげで男女どちらのポジションでも踊れるという、今後あまり役に立ちそうにない特技がある。

 

「ハイドくんたち。ちょっといい?」

「ミーシア様。どうなさいましたか?」

 

 取り巻きに囲まれながら練習していたミーシア嬢が、休憩の隙をついて僕たちの元にやってきた。

 まさか彼女が振り付けでわからない部分があるわけもなしと首を傾げていると、躊躇いがちに目を伏せて左右に動かした後、耳を寄せるように手で指示した。

 

「三人って、新聞部のお手伝いをしてるのよね」

「はい」

 

 あちこちで聞き込みをしていても、正式に部員になっていることはまだ伏せられているらしい。ウルナ先輩はこういう根回しが上手い。

 

「私が藍色の髪の男子を探してるのは知ってるでしょう?」

 

 スノウ様がちらりと僕を見て、すぐに視線を戻した。天然物のポーカーフェイスが過去最高にありがたい。

 

「はい……」

 

 まさかとうとう新聞部に捜索依頼だろうか。ウルナ先輩が満面の笑顔で面白がりそうなのでやめてほしい。

 と思ったら、意外な相談だった。

 

「……どこかで彼を見かけたら、私に会いに来るように言ってくれない? それか、連絡先を教えろと伝えて」

「……探さなくていいのですか?」

 

 ジュリが尤もな問いを返した。

 するとミーシア嬢は少しだけ眉をひそめ、苦々しげに口を尖らせた。完璧な淑女がこういう仕草をするのは、僕たちの前だけだと思う。

 

「探すと出てこないんだもの」

 

 そんな、家の中にいるのに見当たらない飼い猫みたいな言い方をしなくても。

 

「でも私の知り合いの誰かと繋がっているみたいだから。ジュリはあいつの顔を見たことがあるし、一番会う確率が高いのはあなたたちじゃないかと思って」

 

 このお嬢様、勘が良いのか鈍いのか。

 

「わかりました。気をつけて探してみます」

 

 そしてジュリは役者だった。

 正体を知っていることはおくびにも出さず、普段どおりの笑顔で頷く姿に、内心で拍手を送った。

 

「あの、どんな用事なのか、聞いてもいいですか? もし連絡が取れたら、先に用件を伝えた方が相手も警戒せずに会ってくれるんじゃないでしょうか」

 

 贔屓にしてくれと言ったのは僕なので、呼ばれれば姿を見せないわけにはいかない。

 でもせっかくなので事前調査だ。

 ――どうしてあんなに格好つけてしまったのかと、今更恥ずかしくなった。

 

「……ずいぶん隠れるのが上手いみたいだから、それを活かして任せたいことがあるの。詳細は聞かないでちょうだい」

 

 そういうミーシア嬢も、先日より落ち込んでいる姿の隠し方が上手くなっているようだ。

 

***

 

 また愚痴を聞いてほしいのだろうか。ノートの切れ端に軽い気持ちで短いメモを書いた。

 

『放課後、例のベンチで』

 

 中が見えないように折り畳んで、ミーシア嬢がすぐに見つけてくれそうな場所に置いてもらうように、ジュリに託した。

 

 放課後と指定はしたものの、人望が厚いご令嬢はきっとこの時期忙しいだろう。今日の今日には来ないかもしれないとは思いながらも、念のためベンチに向かった。

 すると、

 

「……いるなあ」

 

 場所と時間を指定したからにはミーシア嬢よりも早く着くつもりでいたのに、彼女は既にベンチに座っていた。

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