ああ憧れの情報屋   作:毒島リコリス

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第32話 企み

 翌日は、ミーシア嬢との会話の中で立てた仮説の裏付けをするため昼休みに一人で聞き込みをして、放課後に部室に集まった。

 

「届けを出せない物や、許可を得ずに持ち込んでいる物を紛失したという生徒を複数確認しました」

 

 他の生徒の情報に混ぜて『誰が』という部分はわからなくした上で、魔法の増幅器になる指輪をなくした生徒がいることも伝えた。

 

「犯人は大人しくなったんじゃなくて、標的を切り替えた可能性が高いってことですか」

「そういう物のほうが、強力そう……」

 

 スノウ様の言うことも一理ある。

 実は明るみに出ていないだけで、平行して盗まれていたとしたら、被害はもっと大きいのではないだろうか。

 

「貴族はわがままだし、バレなきゃいいと思っていろいろ持ち込んでる生徒は多いよね」

 

 ウルナ先輩が、ふむ、と考え込む。

 僕が少し調べただけでも、学校の規定をはみ出した強力な魔道具や便利グッズ、ちょっとした呪物まであってぞっとした。

 

「先輩もですか?」

「ボクは持ち歩かないよ」

 

 持ち込んではいるらしい。おそらくこの部室に隠している。僕も有事に備えて着替えくらい持ち込んでおくべきか。

 

「でも、その情報のおかげで事件――もう事件と言っていいだろ。この盗難事件の犯人が()を狙っているのかは、はっきりしてきたねえ」

「え?」

 

 先輩はカップを持って執務机に戻ると、ノートを開いてペンを走らせ始めた。

 

「この時期に起きてるっていうのが重要なんだと思うなあ、ボクは」

「時期?」

 

 それを聞いて、僕も考えを巡らせた。

 犯人は今だからこそ、魔道具と呪物を盗む必要があったということだろうか。この時期ならではの校内の動きといえば何だろう。

 最初の定期テストの結果が出た。そろそろ衣替えが終わり、半袖の夏服に切り替わる。あと数日で体育祭の本番がやってくる――。

 

「まさか、犯人も体育祭の準備をしてるんですか?」

「体育祭の準備……?」

 

 先輩はにやにやと笑っていて、スノウ様とジュリは首を傾げた。僕は二人の方を向いて、慌てて説明する。

 

「体育祭当日に、騒ぎを起こすつもりなんですよ。だって体育祭には、生徒の親――国中の有力な貴族が集まるんですから!」

「あ……」

 

 呪物研から盗まれたうねうねは、捕まると魔法が使えなくなる。誘拐や暴動を起こすにはもってこいだ。

 

「体育祭当日は入場時に持ち物検査が行われるから、護衛でも殺傷力の高い武器は持ち込めないんだよねえ」

「……だから、校内にある物で賄おうとしてる?」

「危険物は部活の備品として持ち込んだってことですか?」

 

 ジュリが怯えを滲ませながら呟いた。そう考えれば、呪物研のコレクションが急に物騒になったことにも説明がつく。

 

「そんなことができるのって、やっぱり学校関係者ですよね?」

 

 身近にそんな恐ろしいことを企てている人物がいるなんて思いたくない。するとウルナ先輩はため息をついた。

 

「一年生たち、犯人を捕まえるのは新聞部の仕事じゃないからね。うちの連中に警戒するように言っておくから、体育祭は普通に参加すること」

 

 そういえば、ウルナ先輩の実家は警察を束ねるキスリング家だった。先輩が緩いせいでつい忘れそうになる。

 

「特に成績上位者はメイン戦力なんだから。手を抜いたら六年生に叱られるよ」

 

 叱られたことがある人間の言い方だった。

 

***

 

「先輩はああ言ってたけど、もし本当に事件が起きたら、ミーシア様の指輪が戻ってくるのが遅くなるんじゃないかな……」

 

 僕と話したことで多少は気が楽になったのか、ミーシア嬢は調子を取り戻しつつあった。

 でも時折首の辺りに手をやっては、あるはずのものがないことを思い出して不安そうな顔をする。

 なくした指輪は心の拠り所だったに違いない。しかし警察の手に渡ってしまったら、証拠品として調べられてしまうのではないだろうか。

 

「よし」

 

 実は、犯人の見当はついている。魔道具や呪物ばかりを集めているということは、きっと計画に必要だからだ。

 つまり使う瞬間を狙って接触できれば、指輪を取り返せる、と思う。

 

『体育祭当日にお会いしましょう』

 

 この事件がどういう形で決着するにしろ、ミーシア嬢の不安を少しでも軽くするには、まめに連絡をした方がいい。

 とはいえ本当に取り返せるかどうかはわからない。新しい情報が手に入るかもわからないので曖昧な書き方に留め、またジュリに取り次ぎを頼んだ。

 

「……ハイドくん、何をするつもりですか?」

「連絡するだけだよ。調べ物を任されてるんだ」

 

 勘のいいジュリは僕が一人で何かしようとしていることに気付いたようだ。

 しかしじっと見つめられても、僕がにこにこと笑って何も白状しないでいると、大げさにため息をついた。

 

「危ないことはしないでくださいね」

「もちろん。痛いのも怖いのも嫌いだからね」

 

 誘拐された時の恐怖は、ずっと心の奥にこびりついている。

 ヤンさんとの鍛錬で刃物に対する恐怖はかなり薄れたが、実は狭くて暗いところに一人でいることと、空腹状態が長く続くことは今でも苦手だ。

 何より、情報屋は表舞台に出るものではない。敵に捕まるなんてもっての他だ。

 

「ジュリはミーシア様のそばにいてあげて」

「はいっ」

 

 そしていよいよ、体育祭の本番がやってくる。

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