ああ憧れの情報屋   作:毒島リコリス

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第4話 入学準備

 それから僕は、おじさんのことを一切口にしないことにした。

 父は、僕が今度こそおじさん探しを諦めたように見えたことと、基礎魔法を使いこなしているのを見て、二冊目の教本『魔法の応用』をプレゼントしてくれた。

 

「注意することはわかっているね?」

「火の魔法は大人がいる場所で練習する!」

「他にも危ない魔法が増えるから、注意書きをよく読んで、自分で判断できるようにならないといけないよ」

「はい!」

 

 読んでみると、バリエーションが豊かで覚え甲斐がありそうだった。

 父の言ったとおり、注意書きをしてあるような、危険度の高い魔法が増えた。

 

「基礎魔法の威力が高くなった魔法はわかるけど、どんな時に使うのかわからない魔法がいっぱいあるなあ……」

 

 例えば光を操って物を見えなくする魔法とか、隣の部屋の様子を見る魔法とか。

 それでも魔法は魔法だ。覚えられるものは何でも覚えておこう。

 

 

 

 新しい魔法を覚える一方で、僕は情報屋活動に必要なことを考えた。

 

「とにかく、人が知らないこととか、誰かの役に立つことをたくさん知っていないといけないってことだよね」

 

 家の中にある本は種類を気にせず何でも読み尽くし、読むものがなくなると毎日のように図書館に通った。

 家族には一人で出歩くことを渋られたが、僕が無事に家に戻った翌朝、例の誘拐犯たちが警察署の前に縛って転がされていたことを調べて伝えると、なんとか許してくれた。

 きっとおじさんが、僕がされたことの仕返しをしてくれたのだ。ますますかっこいい。

 

 外出を許された理由はもう一つある。

 

「お前もよくやるなあ、ハイド。その歳で、そんなに基礎をきっちりやる奴は初めて見たよ」

 

 本格的に武術を教えてくれる人が見つかったのだ。

 母の弟で、今は騎士としてお城に勤めているヤンさんが、定期的に指導してくれることになった。

 僕の叔父にあたるわけだが、『叔父さん』と呼ぶと微妙な顔をする。かっこいい響きなのに。

 

「何でも基礎が大事だって、学んだんです!」

「いい心掛けだ。続ければ騎士になれるかもしれないぞ」

 

 僕がなりたいのは情報屋だが、おじさんが情報屋だということを隠しておくためには言わない方がいいと思って、黙っておいた。

 

「でもハイドは魔法も得意なんだっけ。魔法士のほうが楽できるかもな」

「そう、なんですか?」

 

 体力をつけていたおかげで、ひたすら型をこなす訓練にもなんとか耐えられている。

 木剣で素振りをしながら聞き返す僕を眺めながら、ヤンさんは肩をすくめた。

 

「鎧が重いし暑いし、立ちっぱなしの仕事も多いし、騎士って大変なんだよ。民衆の前に出る機会が多いおかげでモテるけどな。よし、次は槍を持て」

 

 ヤンさんは剣術や弓術、槍術といった騎士に必要な武術だけでなく、ナイフのような小さな武器や素手での立ち回りを特に丁寧に教えてくれた。

 たぶん両親から、僕が自分の身を守る方法を教えるように頼まれたのだと思う。

 

 いっぱい汗を流した後、水を飲みながら休憩している時に、僕は父が内緒話をする時の仕草を真似して、ヤンさんの耳元に口を寄せた。

 

「大通りに新しくできたケーキのお店、美味しかったですよ。カフェスペースもありました」

「ほう、詳しく」

 

 わざわざ僕の身長に合わせて身体を傾けてくれるノリがいいヤンさんは、女性の友達が多い。

 母曰く『女たらし』だそうだ。

 

 図書館までの道や、ヤンさんの家に通う途中には、美味しいお菓子や見た目が綺麗な料理がある店がたくさんある。メニューを調べて教えると、とても喜んだ。

 大人の男性が一人でそういう店に入るとじろじろ見られるらしい。

 鍛錬の帰りに付き合わされることもあるが、おやつを奢ってもらえるのでやぶさかではない。

 

「ギブアンドテイクってやつさ」

「なるほど」

 

 僕がヤンさんの騎士という立場を利用して武術を教えてもらう代わりに、ヤンさんも子どもという僕の立場を利用するわけだ。

 僕とヤンさんは二十歳くらい離れているはずだが、対等に扱ってもらえているようで嬉しかった。

 

「どうしてこういうお店を調べてるんですか?」

「相手の好みに合った店をスムーズに案内できると、かっこいいだろ?」

「確かに」

 

 相手が求めている情報をすぐに出せるのはかっこいい。ヤンさんから学べることはたくさんあった。

 

「ハイドも学校に入ったら、出会いがいっぱいあるはずだ。女の子が喜ぶセリフを教えてやろうか」

「詳しく」

 

 人が喜ぶことを教えると言われたら聞かないわけにはいかない。

 ちなみにものは試しと姉に言ってみたら、珍しい魔獣を見るような目で僕を見た後逃げ出した。

 すぐに母に伝わって、『ハイドに変なこと教えないで』とヤンさんが叱られていた。

 僕は女性の情報網がとても素早いことを知った。

 

 

 

 学校に通うための勉強が増えて更に忙しくなってからも、僕は相変わらずおじさんの教えをしっかりと守った。

 

 三冊目の魔導書『魔法の発展』に書いてある魔法を全て使えるようになった頃、僕は十二歳になった。

 

「大きくなって……」

 

 礼服に似た制服に袖を通した僕を見て、母はまた泣いていた。

 

「大げさだよ」

 

 動きにくいのに、どうしてこんなかっちりとした服が制服なのだろう。

 気になって調べたところ、この制服を着て過ごすことで礼服での所作を覚えられ、貴族に必要な振る舞いに繋がるらしい。そういう理由があるのなら仕方ない。

 

「入学試験の成績、総合七位だったんだって? すごいじゃないか」

 

 今日までずっと武術の鍛錬に付き合ってくれたヤンさんも誇らしげだ。

 長兄が去年卒業し、今は次兄と姉が通っている全寮制の学校は、両親やヤンさんの母校でもある。

 今思えばおじさんもすごく気品がある動きをしていたから、同じ学校に通っていた貴族の可能性が高い。

 

「うん、さすがに一位は無理だったよ」

「じゅうぶんだって。平凡を体現するミスティコ家としては快挙さ」

 

 ちょうど中間あたりの順位を維持し続けていたという長兄は笑っていた。

 

 入試には実技試験と筆記試験があった。

 加減がわからずに頑張ってしまったところ、最初の魔法の実技試験でうっかり一位を取ってしまったので、その後の試験では少しだけ手を抜いたことは秘密だ。

 

 情報屋の仕事について調べを進めていたら、他人に覚えられるような特徴がなく、あらゆる場所に目立たずに紛れ込むという技術が必要らしい。

 警戒されずに情報を集める手段だそうなので、ちょっと失敗してしまった。

 

 ──まあ、あの場にいたのは試験官の先生と、同じグループに振り分けられた数人の受験生だけだったし、大丈夫だろう、たぶん。

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