同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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010. 三尾

  

俺達は失意の中、渦の国から里に帰り報告を済ませた。壊滅の報を聞いていた三代目と婆様、ホムラの爺様も驚いたらしい。ダンゾウは顔色をまったく変えずに話を聞いていただけなので、どう思ってるのか分からないが、どうせ駒が一つ消えた程度にしか思っていないだろう。

 

そういうダンゾウはともかく、正反対に渦潮隠れを友好的な同盟と感じている三代目も相変わらず、うずまき一族には申し訳ないと口にしながらも犠牲を求め続けていた。そういった行動が不信感を生み出していることに気づかなければ、これから先も火種は生まれ続けるだろう。

 

よく言うが現場に居なければ感じる事が出来ない事は多いのだ。渦潮隠れの生き残った人々は可能な限り木の葉に招くようだが、果たしていくらほどの忍が来ることやら。

 

「ヨフネ!今帰って来たのか?」

 

そんな懸念を抱きながら帰っていると、背後から深刻そうな面持ちのアスマから声をかけられた。しかも喪服を着ている。これは……

 

「どうしたんだ?」

 

察しはついてしまっていたが、俺はそれを出すわけにはいかない。

 

「オビトが……死んだ」

「……そうか」

 

やはりだ。渦隠れの件で忘れることが出来ていたが、現実はそうもいかないらしい。

 

「それで今から葬儀なんだ。渦隠れもかなり激戦だったらしいが、トンボも帰って来たんだよな?」

「ああ、俺たちは無事だ」

「良かった。情報が入って来てから、ずっと心配してたんだ。シズネなんかは見ていられないくらい動揺してたんだぜ。あいつも葬儀に来るから準備して顔出せよ。トンボには俺から伝えとくから」

「ああ、分かったよ」

 

そう言い残すとトンボの家の方にアスマは飛んで行った。正直、どんな顔をして行けば良いか分からないから行きたくはない。

 

俺も喪服へと着替え、足取りを重くしながら葬儀場へと向かった。

 

葬儀には同期だけではなく担当上忍のミナト先生や一期下のシスイ等うちは一族の面々が参列していた。近くに居たリンやカカシは声さえ声こそ出していないが、その涙は止まることを知らなそうだ。

 

そんなカカシに対し、うちは一族から批難の視線が浴びせられていた。

 

「眼を奪う時間があるなら、何故助けられなかったんだ」

「あのサクモの息子ですもの」

「そもそも、あんな年の子供に上忍なんて任すから」

「白い牙の息子に相談役の孫。我ら、うちはとは扱いが違うのさ」

 

そんな憎悪が向けられながらも言い返す事もなく、ただ涙を流すカカシの様子を見て尚更やりきれない気持ちが溢れてくる。

 

オビトはマダラの所に向かって貰わなくちゃならない。俺がそう選択したからこそのこの状況だ。例え教えたところで何が出来たかは分からない。それでも里へと帰ってくる可能性を上げることは出来たが俺はそうはしなかった。

 

卑劣と呼ばれても構わない、俺は小を殺し大をとると決めたのだ。

 

自責の念しか浮かばない葬儀は長かった。

 

 

 

 

 

悪い出来事というのは戦争の続く限り簡単には終わりはしない。オビトの葬儀から半年が経った頃、俺は茶の国で霧隠れに対する防衛線に参加していた。

 

俺とカカシはそれぞれ小隊を率いて偵察に出たのだが、その際に敵の部隊と交戦になった。しかも俺達が敵を倒してカカシと合流した時にはリンは攫われてしまっていた。

 

「俺とヨフネ以外はここに残れ」

「隊長!増援を待ちましょう」

「時間はない、霧隠れはリンを何かの実験体に使おうとして攫ったんだ。血霧の里まで連れて行かれたら、もう助けることは不可能だ」

「しかし二人では無理です」

「二人じゃない……口寄せの術!」

 

ーーーボフンッ

 

音とともに現れたのはパックンを始めとする忍犬たちだった。それよりも何でお前ら勝手に俺を頭数に入れちゃってんだよ。

 

「リンの匂いは?」

「覚えておる、任せろ」

 

もう決定事項なのか?俺の意見は何も言ってねーぞ。しかし匂いを覚えてるって変態くさいな。

 

「増援が来たら伝えろ。俺たちはリンを追って先行したと」

「分かりました」

「ヨフネ隊長もこっちの心配はしないで行ってきて下さい」

 

おお、心優しい俺の班員たち……お前らもか。俺はカカシやオビトにトラウマを作りたく無いんだけどな。

 

「カカシお前変わったな。前までは掟やルールに縛られていたじゃないか」

「そうだ、忍の世界において掟やルールを守れない奴はクズ扱いされる。でもな、オビトが教えてくれたんだ、仲間を守れない奴はそれ以上のクズだってな!」

 

はあ、人間こうも変わるのかね。この世界の忍は周りの意見に流され易すぎる。

 

「まったく……それにオビトのように人の話を聞かなくなったよな」

「そうか?」

「自覚ないのが一番タチ悪いわ!」

 

ここでオビトにマダラの元に戻ってもらい、マダラには自殺してもらわないといけないのに、どうするかな……

 

そもそもオビトはもう少しはマダラを疑えよな。いくら霧隠れが非人道的な実験を繰り返しているとはいえ、その実験体がリンである必要が何処にあるんだ。

 

それに今回の実験の目的は三尾を人の体に封印するというものだ。人柱力を作り出す為の実験の成功率はどこの里でも限りなく低いが、代々封印に成功している木の葉に持ち帰らせて、支配下に置かれたらどうするつもりだよ。新しい人柱力が誕生する可能性という馬鹿でかいリスクがあるんだ。作戦の穴に気付けよ。

 

……あっ!まさかそのための渦潮隠れの里の襲撃なのか!?九尾は生命力が高く、封印術に長けたうずまき一族が必要だ。その為に次世代の芽を摘む為かと思っていたが、まさか三尾まで絡んでいるのか?

 

それは置いておくとしても、白ゼツが偶然にも顔も知らないカカシを見つけて、偶然駆けつけたタイミングでリンの死亡を目撃する。さらに偶然にも出て行く前にマダラが自分の意思で戻って来ると宣言しているんだ。そんな偶然あるかよ。計画だけ利用すれば良かったものを……

 

カブトさえ余計な事をしなければ、マダラが生き返る事は無いのか?オビトがどうするつもりだったのかは分からないが、今回の俺の役割はカカシの生存率を少しでも上げてやるのが先決だな。

 

と別の事を考えていてが、カカシにハンドシグナルで止まるように促されると、条件反射で止まることができた。習慣ってのは凄いね。

 

「あの、洞窟の中じゃ」

 

パックンの言う通り、確かに荒野の中に洞窟があった。そしてその周囲を霧隠れの追忍たちが警戒している。あそこにリンが居ると見て間違いないだろう。

 

「しかし、思ったよりも敵が多いな」

「そうだな、忍犬達だけじゃ囮は難しいだろう。俺も一緒に敵を引き付けておいてやるから、お前は土遁で横穴でも掘って救出しろ」

「すまない」

「この位置から電磁砲を連射すれば、多少は数も誤魔化せるだろ。お前は早く行け」

「分かった」

 

カカシが俺から離れたのを確認して印を結び準備し、残された忍犬四匹にも指示を出す。

 

「お前達はカカシとは反対方向への逃走ルートの確認と罠の設置を頼む。一匹は俺と一緒いてくれ」

「「「「分かった」」」」

 

忍犬達が逃走ルートの確保に向かう間、俺は見張りの位置を確認する。

 

「よし、見張りの八人を確認した……行くぞ、雷遁・電磁砲四連!」

 

術の発動と同時に入り口から離れた所にいる四人を正確に撃ち抜く。

 

「木の葉だ!木の葉の忍だ!」

「四人が一瞬でやられたぞ!どうなってやがる!」

「敵は最低でも小隊規模だろう気をつけろ!」

「いたぞ!あっちだ、追え!」

 

よし、食い付いた。俺もさっさと移動するかな。洞窟から続々と敵が出て来ているしな。

 

「よし、このまま敵を引き付けるぞ」

 

忍犬の誘導に従って逃走を始めるが、流石に霧隠れのエリート、追忍部隊だ。そう簡単には罠にかかってはくれない。しかし、進行速度を落とすことは出来た。

 

「相手の人数は確認できたか?」

「ああ、少なくとも一個中隊が追って来ている」

 

忍犬に数を確認すると、想像以上に食い付いてしまったらしい。これはマズい。

 

「拙者ら忍犬は戦闘タイプではないからの」

「分かってるさ、陽動と足止めをメインでやってもらうつもりだ。ヤバくなったら逃げろよ」

「追い詰められたら退散するまでよ。お主こそ気をつけろよ」

 

口寄せ獣は羨ましいな、まったく。なら遠慮なく陽動してもらうとするか。

 

「俺は隠遁を使って待機して、背後から奇襲をかける」

「大丈夫なんだろうな?」

「俺の術を食らえば、生きてはいられないだろうし、避けられるものでもないさ。作戦を説明するぞ、先ずはお前らで逃げてくれ。だがあまり洞窟から離れるなよ。離れ始めたら大きく左回りに迂回して洞窟に戻るように逃げてくれ。逃げる途中で敵の気配が消えたら一旦足を止めて、再度進むんだ。余裕が有れば罠の設置を頼む。分かったか?」

「おう!」

「それじゃ、散!」

 

忍犬達が行くのと同時に俺は隠遁で隠れることにする。

 

「木の葉の奴ら速いぞ」

「だが我ら追忍部隊から逃げれると思うなよ。犬を連れているのか、ゲロ以下の匂いがプンプンするぜ!」

 

先導している追忍は犬嫌いなのか迷言を残して追って行ってくれる。後続の奴らから順に倒すか。隠遁を解除し印を結ぶ。

 

「雷遁・電磁砲四連!」

 

手元で眩い光を一瞬輝かせた時には、後続の連中は悲鳴をあげる事もなく倒れた。後ろでの光に気付いたとは思わないが、再度隠遁を使い身を潜める。

 

「糞っ!まただ、いきなり後続の奴らがやられたぞ!敵はどんな術を使ってやがる」

「だが、連中の足も止まったようだ。どうやら術を使用する際には足を止めねばならぬようだ。三小隊に分かれて追うぞ。お前らは左右から追うんだ」

「はっ!」

 

よし、うまい具合に分散してくれた。戦術の基本は各個撃破、戦力の分散は邪道だぞ。せっかく背後から奇襲できるんだ遠慮なく新しい術を試させてもらう。

 

俺は胸のポケットから拳大の球体を四個出して身の回りに浮かべた。新しく作ってもらったカラクリだ。渦潮隠れの一件で自分が対多数戦闘に有効な手段を持っていない事を痛感して考えた結果、傀儡の術に興味を持ったのだ。

 

木の葉に傀儡使いはいないが砂隠れの下忍向けの教本を入手することが出来たのだ。チャクラ糸自体は大して難しいものではなかった。ただチャクラ糸で傀儡を宙に浮かすにはチャクラが必要とされるし、操作する本人は慣れるまでは満足に動く事すらできないらしい。俺にとっては死活問題である。

 

そんな俺には念力という力がある。この力で身の回りに傀儡玉を浮かべるようにしたのだ。こうすれば仕込みを発動させる糸一本で済むため、最大で十個まで同時に扱うことができるのだ。といっても今はまだ四個が限界なのだが。

 

傀儡玉には毒千本が仕込んである。糸を引くことでそれが勢いよく飛び出すという簡単な仕組みである。これで中距離の手数を増やす事が出来る。まずは右方向の敵からだな。

 

 

 

「お前で最後だ」

「うわァっ何なんだよ。俺に何をしたんだよ!」

「ま、言った所で理解はできないでしょ」

 

パニックになっている最後の敵の背後に立ち、喉を掻っ切ってやる。電磁砲で一人殺してから仕込み千本で体を麻痺させてから背後から一撃を与える。あまりに上手くいきすぎて単純作業と化してしまった。

 

しかし、この戦闘でかなり時間を取られてしまった。少し色んなパターンを試しすぎたかな?でも単独行動する時には非常に有効だと実感できた。

 

「お主、本当にやりきったのか」

「まったく、仲間のことは信じとけよな。でも怪我はないけどチャクラがギリギリだ」

 

敵の気配が無くなり忍犬達が引き返してきた。

 

「走れるようならカカシの所へ急ごう。匂いはかなり遠くなっているが、まだ感知できる」

「頼んだ」

 

これでカカシを死なせてしまえば、将来オビトに勝つのは不可能になってしまう。急ぐ他ないだろう。

 

「こ、これは……?」

「どうした?カカシに何かあったのか?」

 

まっすぐにカカシの匂いを辿って進んでいると、いきなり忍犬達が足を止めた。

 

「いや、分からないが血の匂いが急速に広がっている。マズいかもしれんぞ」

「でもお前らがいるってことは、まだカカシは生きてるよな?」

「そ、そうじゃな。じゃが急ごう!」

 

 

 

そのまま血の匂いを辿って行くと、この世の物とは思えない光景が広がっていた。忍の体からは冬虫夏草の如く木が生え、それらがさらに他の忍を貫きながら捩れるようにして聳え立っていたのだ。しかも木の根元は滴り落ちてくる血や肉で池が出来ていた。

 

俺はその木を抜けて、池の中央に倒れているカカシとリンの元へと駆け寄った。

 

「許してくれ、リン」

 

リンの遺体の胸には大きな風穴が開き、顔は苦痛に歪んでいた。やはりカカシの千鳥によって胸を貫かれたのだろう。自分から覚悟を決めて飛び込んだなら、せめて最後くらい笑顔でいてやって欲しかった。

 

続いて血の池のせいで重症に見えるカカシの頬を叩き目を覚まさせる。

 

「おい、起きろ!」

「…………ん、ヨフネ……リンは!?……いや、そうだ俺が……俺が殺したんだ」

「落ち着けよ、一体何があったんだ?」

 

流石に酷く動揺している。それもしょうがないけど少しは俺の無事を確かめろよな。とりあえず忍犬達もいるし事情を聴くか。

 

「もう一度聞くぞ、一体何があったんだ?」

「ああ、上手くリンを奴らから取り戻したんだけど、奴らはリンに何かを封印したみたいなんだ。リンはいきなり里には帰れない、殺してと言い出し初めて……それでも必死に敵から逃げたんだが、逃げきれずに俺が敵と交戦になった最中に、リンが俺の千鳥に突っ込んできて死んだ……殺したんだ」

「そうか、なら敵は全部お前が?」

「はっ!そうだ敵はどうしたんだ!?」

「周りを見てみろよ」

 

そう言ってカカシを抱き起こして周りに広がる地獄を見せてやる。

 

「誰が、誰が敵を!」

「俺らが着いた時には既にこうなっていたんだ。お前が分からないなら俺も分からない」

 

話終えるとカカシはリンの元へ這いずり寄り、抱きしめたまま泣き崩れてしまった。今こいつは何を思っているのだろう。援軍が到着するまでカカシが泣き止むことはなかった。

 

 

 

歴史は今のところ原作通りに歩みを進めていた。

  


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