同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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011. 九尾

  

長かった戦争もようやく終わりを迎えた。長らく情勢が不安定だった砂隠れの里が、第二次忍界大戦の中期に四代目風影を擁立したことにより、安定の兆しを見せ始めたことが一つの要因だった。

 

その砂からの呼びかけにより、木の葉との間に同盟が結ばれたのだ。またそれに追従する形で岩との間にも平和条約が結ばれることとなった。ただこの岩との条約については木の葉で物議を醸し出す事となった。

 

岩隠れが里の命運を賭け約千名を投入した草の国への侵攻作戦、それを神無毘橋の戦いで“黄色い閃光”が只一人で補給路を断ち、侵攻を食い止める事に成功していたのだ。それにより終盤は木の葉にとって戦況が良くなっていた。

 

それにも関わらず、結ばれた条約の内容は火の国と風の国以外での岩の活動を認めたうえ、賠償請求権の放棄というもので一部からは戦争に負けたも同然だとの声が上がっているそうだ。特にダンゾウは多くの盟友を犬死にさせたのだと猛反対したらしい。

 

一般の忍達も里の決定には従ってはいるものの、色々と思うところはあるようだ。

 

「聞いたか、今度岩隠れと平和条約が締結されるんだってさ」

「さてね、紙切れ一枚にどんだけ効力があるのやら」

 

同年代の奴らと団子屋に来ていると、自然とライドウがその話題を口にした。どうやらゲンマは平和条約そのものを疑問視しているようだ。

 

「んーそれは言えるな」

「お前達も三代目様の苦労を考えろって」

 

意外な事に正義一直線のガイも疑問に思っているようだ。珍獣は頭が良いのか悪いのかよく分からん。

 

「とにかく、長かった戦争もこれで終わりだ」

「ま、長かった戦争に辟易している人は多いでしょ。永遠ならざる平和でもそれを望む人は多いみたいだぜ。ただ婆様達も岩との交渉をもっとするべきだよな、こっちが有利だったんだから」

「でもこれ以上の戦争継続は疲弊しきった木の葉にとっても致命的って思う人が大多数だったので、親父も条約の締結を急いだんだろうよ」

 

素直じゃないファザコン君ことアスマも俺と同じで多少の話は聞いているのだろう、三代目の父親を庇っている。

 

「でも、今回の戦争の責任を取る形で三代目様が火影を辞めるんでしょ?アスマは大丈夫なの?」

 

最近美少女っぷりに磨きがかかってきた紅は、アスマの隣に座り心配していた。何故これだけ親密で結婚まであと十年以上かかるのか分からん。

 

なんにせよ、忍世界は一先ずの平和を得ることになった。

 

 

 

三代目の辞任から一週間後、婆様から四代目火影が決まったと教えられた。四代目に推薦されたのは大蛇丸にミナト先生の二人だったらしい。しかし大蛇丸の人望の無さ故、火の国の大名や相談役、上役筆頭の奈良シカクが推挙したことによりミナト先生の四代目火影への就任が決まったようだ。

 

これについては里からは若過ぎるといった声もあるが、“黄色い閃光”の異名や戦争での功績、三代目の弟子筋にあたるといったことから大した反対もなかった。

 

そんな四代目の就任から間もないある日、カカシが任務で倒れたと聞いて俺は見舞いに来ていた。

 

「お前どんな本読んでんだ?」

「べ、別に何だってかまわないだろ」

 

カカシが本を読んでいたので、何気なしに表紙を見ようとすると枕の下に隠してしまった。

 

「まあ俺らも十五になるんだ、男子同士なんだからエロ本くらい隠すなよ」

「エ、エロッ!違うぞ!そんなもんじゃない、これだよ!」

 

そう言って投げつけられたのは殺伐とした表紙の本だった。タイトルは『忍はいかにして死すべきか』とある。

 

「そんな暗くなるような本読んだって別に構わないけどよ、せめて病院で読むのは止めた方が良いと思うぞ?」

「ま、確かにそうだよな……でも過激な表紙とタイトルだけど、中身はかなりマトモだぞ。俺らより一回り上の“ぬまのナマズ”って医療忍者が第二次、第三次忍界大戦を通して様々な人の死を見てきた上で、人が最後に何を思っていたのか、その人がどう思われていたのかをまとめた本だよ」

「む、そう言われるとちょっと興味あるな」

「タイトルだけで買ったんだけど中々面白くてな……でもリンはどういう死に様だったんだろうって考えるけどな」

 

それって結果的にかなり暗い思考だよな。こいつ将来もイチャイチャパラダイスとか恥ずかしげもなく読むし、遅くなったけど今度上忍祝いにブックカバーでもプレゼントしてやるか。

 

「うわっ」

「ミナト先生!……いや四代目」

 

カーテンがふわっとなびいたかと思うと、四代目が隣に立っていた。忍には階段なんていらないんじゃないかと、最近つくづく感じている。窓は出入口ではありません。

 

「今まで通りの呼び名で良いよ。だいたい俺が相応しい人材なのか、里の中でも反対の立場の者もいるしね」

 

そりゃ四代目だって気にするよな。話によるとダンゾウは露骨に傀儡政権だと批判しているみたいだし。

 

「今日ここに来たのは、君達に火影直属の暗部への配属を命じるためだ」

「は?」

「何故俺なんかを」

「俺の両腕となって支えて欲しい」

「カカシはともかく俺もですか?かなり予想外なんですけど」

「……分かりました」

「そうか、やってくれるか」

「あの、二人とも無視しないで貰えます?」

 

この師弟いい性格してやがる。だが俺は負けるわけにはいかない、やりたい事があるんだ。ちょうど四代目が来たんだ、話をさせて貰おう。

 

「あの!四代目、少し屋上でお話良いですか?」

「……分かった行こうか」

 

この戦争を通して今まで通りの方法だけではダメなんだとはっきりと分かった。俺の考えを伝えるには良い機会だろう。

 

「それで、話ってなんだい?」

 

屋上に着くと四代目はフェンスに寄りかかり、こちらを見ずに聞いてきたが俺は膝をつき畏まって話すことにした。

 

「まず四代目は先ほど支えて欲しいと言われましたが、それは四代目をですか?それともカカシをですか?」

「それは、両方だよ」

「見捨てるわけではありませんが、カカシは自分の力で乗り切るべきです」

 

今までの戦争でカカシが初めてのケースとは思えない。自分の弟子だからと甘やかしすぎだ。

 

「それに自分と一緒に居たところでリンの事を思い出すばかりです」

「君は暗部入りを断りたいのかい?」

「そうです、その上で少し検討して頂きたい事があります」

「話してみなさい」

「俺は固定された中隊を編成し、連携をより深める事で生存率を上げるべきだと考えてます」

 

初めて大戦を経験して思ったのが、小隊で連携が完成しているためか中隊規模となると途端に動きの悪くなる班が多かった。

 

俺は今まで多くの人を自分一人でどうにかしようと動いて来た。仲間がいれば全てを、俺が転生者という事をいずれ話さなければならくなると思っていたからだ。

 

しかし多くの人を守るには、あまりに力が不足している。俺が信頼できてある程度行動の自由が利く部隊が必要なのだが、その事はとてもじゃないが説明出来ない。とりあえず建前の理由を話すしかない。

 

「今までの戦闘ではいくら忍が集まろうと、結局は四代目の様な優秀な忍び一人に打破されてしまう程度の連携しか取れていません。任務ごとに小隊や中隊を頻繁に変える。確かに効率的に忍を派遣することは出来るでしょう。しかしそれでは信頼関係や連携を育む事は出来ません」

「渦潮隠れの件は聞いているよ。連携が取れない仲間が……邪魔なのかい」

 

四代目の眼光が鋭くなった。これは少し癇に障ったかな?しかし、ここで引くわけにはいかない。それに忍は個々の戦闘力が高い割に、というよりも高いが故、連携が不足しがちなのだ。

 

猪鹿蝶のコンビネーションは確かに有効かもしれないが、他の忍にだってもっとやりようはある。彼らが勇名を馳せている事が、他の忍の連携が拙いという証拠でもあると考えている。渦潮隠れの件のようにプライドばかり高い忍が多いのもその一因である。

 

「そうです。任務の達成率を上げるには、ただ反発心だけで動くような忍は他の小隊にとって必要ありません」

「でも敵意ある者は受け入れないというのでは、成長は難しいよ」

「それは……そうかもしれませんが、それによって仲間が犠牲になるのは耐えられません」

「まずは反対する者に認めさせる努力をするべきだと俺は思うよ」

「では……その機会すら無く去って行く者にはどうすれば良いんですか」

 

あいつら相手にそんな時間は無かった。それに見捨てたいんじゃない、あんな奴らでも殺されて良いとは思っていない。

 

「けど、まあ色々厳しい事は言ったけど、中隊規模での連携強化というアイディア自体は悪くないと思うよ」

「え?」

「でもね、やっぱり君にとっても里にとってもまだ時期が早いかな。君はこれから様々な人と組んで、もっと多くの経験を積むべきだ。それに里としてもまだ中隊を固定させれるほど人員再編は進んでいないしね。里として準備が出来て、尚且つその時に君が相応しい人材なら僕は反対しないよ。とりあえず暗部の話は無かった事にするよ」

「申し訳ありませんでした。そして四代目、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

そうして俺はただの上忍として任務を遂行する毎日を一年近くすごした。多くの忍と接してきたが、共に戦うほどに認めてくれる忍の数は増えていっている。

 

確かにあの時の俺は焦りすぎていたのかもしれない。年下の上司と分かっても、まだ成人もしていない子供に自分の命は預けられないという忍は、性格に関わらず予想以上に多かったのだ。

 

俺がより多くの忍と組めるように、四代目は極力違う忍とは組めるよう編成を考えてくれ、チャンスをくれた。そして俺もその期待に応えようと頑張っているつもりだ。

 

そんなある日、任務を終えて里へ帰ると目の前に広がっていたのは中心部が無惨にも破壊された里だった。開けた場所には死体が袋に入れられて、丁寧に並べられている様子も見える。

 

とうとう危惧していた九尾事件が起きてしまったらしい。

 

俺は初めて自分の意思で大きく原作を変えようと行動したにも関わらず、事件は起きてしまった。この事件は大勢が殺されてしまう一つ目の事件だ。そしてこの事件はオビトの今後の行動に影響を及ぼす物ではない為、阻止しようと動いたのだ。

 

といってもできる対策は限られていて、とりあえずはカカシに墓の前での独り言は辞めるように忠告し、墓参りにも出来るだけ同行した。しかしカカシが喋る喋らないは関係無かったようだ。クシナさんのお腹が大きくなっている姿は俺でも見かけたのだ。ゼツの調査能力を持ってすれば、その程度の情報は簡単に手に入ったのだろう。

 

その他にも手は打ったつもりだった。結局うずまき一族が木の葉の里には来なかった為に廃棄された、里の外れにある能面堂で残っている文献を漁り封印について調べたのだ。

 

四代目にもその内容を伝え、妊娠により封印が弱まるという名目で警告はしたが、三代目直属の暗部が出産の際には全力で警護すると言われてしまえば、それ以上に警戒を促すことは難しかった。

 

だいたいの出産予定日については四代目から聞いていたが、現代日本でだって出産日が前後する事はよくある話だ。俺個人が任務に就きながら警戒するのには限界があったのだ。

 

滅亡の経緯が分からないながらも、ただ守る為に戦い変えることの出来なかった、うずまき一族の滅亡。何も手を打たなかったが故、死んでいったオビト。積極的では無いにしろ原作に関わったが変わらなかった、リンの死。そして、明確に原作を変えようと動いたが変わらず起きてしまった、九尾事件。

 

思っている以上に俺が原作に与えられる影響というのは大きく無いのかもしれない。だが逆に考えれば、俺が主要人物達を殺すなど決定的な動きをしない限りは原作を変える心配はしなくて良いのかもしれない。

 

この世界に住む人は主要なキャラだけではない。多くの人が生きているのだ。今回の事件では数多くの死者が出てしまった。俺は原作を改善し主要キャラに限らず最も犠牲の少ない方法を選んでみせる。

 

壊滅した里を見下ろしながら俺は誓った。

  

 


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