同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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013. 猟犬

  

「お前は味方を殺したいのか!今更味方を攻撃するようなミスをするんじゃない!弛んでるぞ!」

「ハイ!」

「攻撃する時にいつも声を掛けれると思うな!スイッチする時のハンドシグナルを忘れたのか!?」

「イイエ!」

「忘れてないなら何故出来ない!口答えするな!」

「ハイ!」

「全員!この馬鹿が失敗したせいで最初からやり直すぞ、持ち場につけ!」

「「「「ハイ!」」」」

 

中隊の連携訓練は現実の海兵隊訓練を彷彿とさせる様な厳しさで行っている。忍の世界でここまでやっている所は無いと自分でも思うが、こうでもしないと連携なんて生まれやしないのだ。

 

元々、全員が信頼関係を築けているような組織ではない。他にも方法はあったかもしれないが、中隊長を頂点としたヒエラルキーを形成するのが一番早かった。おかげで中隊の連携は余りにも酷かった当初に比べ、格段にそのクオリティを上げていた。

 

ここまで来るのは、本当に長い道程だった。最初に通常の小隊で連携を確認した時には、普段から小隊を基本に動いていて慣れているからかそれなりにスムーズに動けていた。

 

しかしその後、中隊で連携をしようとすると全く機能しない。おそらく普段から得意な能力毎に特化した小隊を組んでいる為か、不得意な距離でも味方に任せるのではなく、出来る範囲で戦おうとして結局味方の足を引っ張ってしまうのだ。

 

そこで、まずは各小隊の人員を再編成する事にした。第一から第四小隊のメンバーを一名ずつを入れた小隊を編成する事で、小隊規模で中隊を再現し連携の強化を図ったのだ。

 

その目論見はあたり、ある程度その小隊で連携を強化し、再度通常の小隊に戻して中隊の連携練習することで、それなりに見れる様になった。

 

そうやって試行錯誤を繰り返し、今では中々の連携をする事が可能となった。忍が個人主義だっただけで元々の能力は高い為、手ごたえを感じ始めてからは早い。

 

あと自分が最も納得がいっていなかった掛け声を辞めさせるのにも苦労した。攻撃を仕掛ける際に声を発するなんて何のために気配を殺しているのか分からない。何が死につながるか分からないのが忍だ。それを養成するには民主主義なんてクソ食らえという考えで徹底的に扱いて、身体に染み込ませるように躾けた。

 

体罰?この世界にそんなものは無い。

 

それに合わせてハンドシグナルについてもかなり詳細に設定した。今までは停止や突入、警戒、方向などだけだったが、今では作戦行動中の会話はハンドシグナルのみでも行える。

 

無線もあるが楽な事は最後で良いと思っている。細かい指示が必要な時はサンタの心伝身の術を利用している。この心伝身の術は中隊以上の規模で動くとなると必須じゃないかと思わせられるくらい優秀だ。術者の思考や術者が触れた者の思考を仲間にのみ飛ばす事の出来るこの忍術は、最も偉大な術の一つだと思っている。

 

 

 

そう訓練ばかりもやっていられないが、成果を試す実践の機会にも事欠かない。みんなが忍から兵士にクラスチェンジした頃から国境警備の任務を中心に任務を割り当てられているのだ。小隊規模以上の敵がやって来るこの任務は実に効率良く連携を鍛えてくれる。そして今は雷の国方面の警戒任務に来ていた。

 

出動回数は既に十回を超えているが未だに死者は出していない。忍による軍隊というのは非常に強力だと実感したせいか、たまに気が緩んで失敗する奴がいるが許容範囲内だ。もちろん後でみっちり扱くが。

 

最近では他里から猟犬部隊とか言われている。みんなは猟犬部隊という二つ名が付いたことが気に入ったようで、今では自分達からそう名乗っている。そのせいで里内にもこの名前が定着してしまった。どうも犬と聞くと俺は良いイメージがないが、こういった二つ名は敵に対して牽制になると言い聞かせている。

 

ここ数日、通常小隊で四方面を警備していたのだが、北東方面を警戒しているゲンマ率いる第三小隊からムタの蟲が飛んで来た。どうやら一個中隊の敵を補足したらしい。

 

「第三小隊から敵発見の連絡だ。サンタ、第三小隊付近の集合地点に全隊集合するように伝えろ」

「ハイ!」

 

指示を出してから実行までのスピードも実践をこなす事で早くなっている。これも意思統一が出来ている証拠だと思いたい。一足先に到着した俺たち第四小隊がゲンマから敵の情報を聞き終えた頃には、全員が到着したので作戦を伝える事が出来た。

 

「……以上の作戦で行う。と言ってもいつも通りだ。お前達なら問題ないが気を引き締めろ。それと今回は外から来る敵だ。分かっていると思うが無理に全滅させる必要はない。無理に殲滅しようとすれば敵は犠牲を覚悟で戦う事になるかもしれない。良いか、俺達の任務は敵の殲滅ではなく排除だ。その事を忘れるな!」

「「「「ハイ!」」」

 

木の葉に所属している以上、防衛の為に死人を出す事はもちろん割り切っている。しかし俺は双方に無駄な死人を出す気もなかった。深追いして余計な被害を出す気もなければ、一人二人逃しても俺達の名前を広めてくれればそれで良いと思っている。

 

要は敵に厄介な相手がいると思わせる事も重要な防衛方法なのだ。いずれ戦わずして勝つ事が出来る様になればそれに越した事はない。四代目の“黄色い閃光”なんかはその典型だろう。

 

味方が作戦開始位置についてから間もなく、敵が超電磁砲による狙撃の射程距離に入って来た。この狙撃が俺達の作戦開始の合図だ。

 

「目標確認、無風、遮蔽物多数、距離1.6km」

「風遁を使用する、弾数は三発まで許可」

「了解、カウントダウンを開始……5.4.3.2.1.ファイア!」

 

背の高い木の枝に立ったホヘトは、俺が浮かした銃身となる雷刀を持ってカウントダウンの後に狙撃を開始した。そして三発はすぐに撃ち終わった。渦潮隠れの一件以来、俺は極力この術の多用を避けている為、弾数は少ないかもしれないが三発が通常となっている。そもそもホヘトの狙撃率が向上している今となっては、三発だけでも充分に敵を混乱させる事が出来る。

 

「着弾を確認、敵三名を射殺」

「分かった、第一小隊は予定地点で待機。サンタは五分後にシスイに繋げろ」

「「ハイ」」

 

狙撃で敵が倒れたのを見て、先行していたシスイ隊はすぐに混乱する敵に奇襲を仕掛けた。そして心伝身の術をもって常に戦況は俺の元に伝えられる。

 

『敵は一個中隊、狙撃で三名の死亡を確認。我々の奇襲と合わせ計六名の死亡を確認、一名は捕虜としました』

『了解した。そろそろ敵が引き始めるだろう、タイミングを見計らってホヘト隊とスイッチしろ。本隊へ合流した後で情報を聞き出せ』

『了解しました!』

 

そして敵はヒットアンドアウェイを繰り返していた、シスイ率いる第二小隊を相手に徐々に後退し始める。しかしそこで待ち受けているのは第三小隊による火遁などの遠距離攻撃だ。彼らは小隊を二つに分け、第二小隊を避ける様に両サイドから回り込んでいたのだ。そうとは知らない敵は、まんまとクロスファイアポイントに誘い込まれる。

 

そして次に考えうる可能性はシスイ隊方面の突破だ。一撃離脱を繰り返している事から防御が苦手と推測するだろう。それは間違っていないのだが既にそこにいるのは近距離専門のホヘト隊である。

 

『ゲンマ隊、戦果の報告を』

『新たに敵五名の死亡を確認、残り四名。こちらに死傷者は無し』

『了解した。敵は前進し間もなくホヘト隊と戦闘となる。射線から味方を外して攻撃しつつ、ホヘト隊と合流し、更に援護せよ』

『了解』

 

ここまでは被害無く状況を有利に進める事が出来ている。しかし思った以上に相手を削る事は出来なかった。忍というのは厄介な事に小隊以下の人数にならないと、任務の失敗を認めない傾向にある。

 

それまでは死に物狂いで攻撃ないしは反撃のチャンスを窺っているのだ。いくら第三小隊からの援護が有るとはいえ、相手と同数ではホヘトの第一小隊にも被害が出るかもしれない。

 

「サンタ、心伝身の術はあと何回いける?」

「すみません、あと二回が限界です」

「謝るな、成長すれば使用回数も増える。とりあえず今は問題は無いだろう。全員に繋げ」

 

そう言うと俺は胡座をかいて集中しているサンタの前に膝をつき、サンタは俺の頭に手をあてた。

 

『これより俺の第四小隊も第三小隊と合流する。第一小隊は負傷者が出たらすぐに後退させろ。こちらから交代要員を出す。第二小隊は現在の本隊の位置に到着次第、捕虜から情報を聞き出し、その後に合流せよ』

『『『了解』』』

 

第三小隊は俺からすれば大技が必然的に多くなる為、そう長時間の戦闘は行えない。今は牽制程度の攻撃をしつつ、第一小隊の方へと向かっているだろう。

 

こちらの数的優位は変わらないのだが、相手の指揮官が生き残っているのか小隊規模では統率がとれており、中々決めきれずにいる。そんな時、感知タイプのサンタから負傷の連絡が入る。

 

「ヨフネ隊長!シトウが負傷した様です!」

「分かった。タシ、お前は俺と一緒に前線まで行ってシトウを回収し治療にあたれ。俺はシトウの穴を埋める」

「かしこまりました」

 

タシはビワコ様の弟子だっただけあって、かなり優秀な医療忍者だ。スクイも彼女に実戦の中で教わる事でメキメキと実力をつけてきている。そんなタシを引き連れすぐに第一小隊の後方に到着する。

 

「ヨフネ隊長、すみません。動けない程ではありませんが、戦闘は難しいかと」

「分かった。無理はしなくていいから、タシと一緒に下がっていろ。俺が代わりに前線に出る」

「「ハイ」」

 

二人が後退していくのと同時に俺は前線に踊り出た。ホヘトは現在、白眼の広い視野を生かして二人を同時に相手していたが、流石に押され初めていた。

 

「ホヘト下がれ!」

 

俺の声で飛び下がった瞬間に電磁砲で一人を仕留める。敵は何が起きたか分からず、分かりやすく狼狽していた。それもそうだろう、風を感じたと思ったら隣の仲間が倒れているのだから。

 

「クソっ“死神”まで前線に出てきやがった!」

 

(オイぃ!なんだその二つ名は。俺の知らない間に物騒な名前をつけるなよ……そういえば前線で電磁砲使ったのは初めてかも)

 

俺からすると不名誉な二つ名に嘆いているとサンタから心伝身の術で連絡が来た。

 

『ヨフネさん、シスイです』

『どうした?心伝身の術はこれが最後なんだぞ』

『すみません。しかし捕虜を幻術にかけて自白させた内容なんですが、こいつらは読み通り偵察部隊でした。しかし木の葉の何かを狙っていたようで、増援部隊もいるようです。それで今そちらに凄い速度で敵が二人向かって来ています』

『分かった、よく知らせてくれた。全員、撤退するぞ!』

「ヨフネ隊長、間に合いません!白眼で視認しました。すぐにこちらに来ます!」

「なんだと?!全員警戒態勢をと……」

 

ーーードゥゴォォン!

 

指示を出すや否や地面が爆ぜる様な音がして、土埃が舞い視界を遮ってしまった。しかしすぐに攻撃して来ないところを見ると、何か目的があるようだ。

 

土煙から現れたのは、雷の国特有の浅黒い肌に白髪をたずさえた二つの巨体だった。一人は法被のようなものを着て、手には小手をつけている。もう一人はサングラスをして小太刀を多く背中にさしていた。

 

(まぢか、こいつらはひょっとして……)

 

「新しく雷影になったエーだ。一体これはどういう事か説明して貰おうか、木の葉の忍」

「答えろう、馬鹿野郎、この野郎♪」

 

想像通り不遜な態度を崩さず突っかかって来たのが雷影、ウザいラップをしているのがビーのようだ。この二人の様子にイラっとさせられるが、ここはキレた方が負けである。部隊を手で制して俺が答える。

 

「そちらこそ無断で国境を越えるとは、ご説明頂けますか?」

「無断ではないわ!会談の席を設けるため木の葉には書状を送っておる!」

「そうですか、では我が里からは何と?」

「そんな事、一忍のお主には関係なかろう!」

 

……この無意味に挑発的な反応は、おそらく前任の雷影、もしくは雲隠れでは上役にあたる忍頭が何かの目的を持ち、今の雷影の与り知らぬ所で行動を起こしたのだろう。おそらく書状は送っているがまだ返答は届いていないと見た。それにこちらは半日毎に定期報告をしているのだ、一日も経たずに会談が設定されるはずもない。

 

何よりこちらは捕虜を捕らえ、何らかの作戦があった事は掴んでいるのだ。そう簡単にカマにはかかるはずもない。ここは捕虜と一緒にお帰り願おう。

 

何処からか見ているであろうシスイに捕虜を連れて来させ、後手に縛った忍の首すじを掴み立ち上がらせる。

 

「そうですか。しかし雷影様おかしいですね、こちらが掴んだ情報とはどうも異なるようです」

「貴様!人質とは卑劣な!」

「何か勘違いなされているようですね?私どもはこの方を“保護”しただけですよ」

「…………どうやらお互いに情報伝達に不備があったようだな」

「我々は分かりませんが、そちらで行き違いがあった事は確かなようですね」

「クっ、とりあえず保護して貰っていた忍は連れて帰るぞ」

「ええ、勿論そうなさって下さい」

 

そう言って捕虜の縄を解き、雷影の方へ軽く押してやった。そんなに強く押したつもりはないが、捕虜はよろめきながら雷影の元へと小走りで逃げて行った。シスイはどんな幻術にかけたんだよ。

 

しかし、とりあえずはこれでお引き取り願えるだろう。外交の都合上、弱味は見せれないとはいえイライラはしてしまう。冷静に、冷静に……

 

「ではワシらは一旦、里に帰る。後日また使者を送らせてもらうぞ!」

「猛犬、俺らもう帰るけん♪」

「誰が猛犬だ!というか、なんでいきなり訛った!」

 

条件反射で、ついツッコんでしまった。

 

 

 

 

 

あの後、俺は一旦里へと戻って三代目に確認を取ったところ、どうやら本当に雲隠れは同盟を結ぶつもりらしく、二週間後には正式な使者が到着する事になっていた。

 

報告を受けた三代目からは、使者を護衛と称して監視するようにとの命令を受けた為、このタイミングで起こるヒナタ誘拐事件の防止に動く機会を貰えた。

 

目的を知っている俺が隊長となった事で重要拠点の周辺、特に日向一族の土地と念の為にうちは一族の土地を警備させた。すると原作通りに日向一族の土地に近づいた忍頭に声を掛ける事であっけなく誘拐事件そのものを防ぐ事が出来た。

 

全体で見れば小さな出来事かもしれないが、初めて原作を変える事が出来たのだった。

   





うたたねヨフネ 18歳

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